シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)平田オリザの世界に挑む/想田和弘監督の「演劇1」「演劇2」

2012/11/24

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 11月22日朝、西フランスの古都ナントで開かれている3大陸映画祭(11月21-27日)にやってきた。18度目の訪問になる。

 映画祭はアジア、アフリカ、中南米の3大陸に絞った作品だけを提供し続けるユニークなもので、今年で34回目を迎える。今年はコンペティション部門11作品(フィクション8作品、ドキュメンタリー3作品)、招待作9作品のほか、盛岡出身で故人の相米慎二監督(1948-2001年)の全14作品上映、返還後の新しいタイプの香港映画を目指したミルキーウェイ製作の16作品、「都市に暮らす」をテーマにした18作品などの特集が組まれ、盛りだくさんの内容だ。会期中、中心街の3つの映画館(6スクリーン)と郊外の5会場(5スクリーン)で87本が上映される。

 仙台から乗り継ぎ時間も加えると、ほぼ1日がかりの旅。22日早朝のパリは思っていたより寒くて6度だった。新幹線(TGV)のナント行き始発で午前9時前に到着。10時から映画を見始めた。初日はコンペ部門の日本、イラン、アフリカ・アラブ首長国連邦の3作品を見た。

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 最初に見たのは想田和弘監督の「演劇1」「演劇2」(2012年)は、劇作家で演出家の平田オリザ(50)の世界を描いたドキュメンタリー。2部作合計で5時間42分の大作だ。
 「演劇」2部作は、平田率いる青年団の練習ぶり、平田のワークショップでの演劇理論、海外公演などを通して、平田演劇の哲学や方法論を「演劇1」で、芸術と社会との関係を「演劇2」で描いたもの。おおざっぱに言うと、1部は「平田オリザの世界」、2部は「平田オリザと世界」と言い換えてもいいかもしれない。

 ニューヨーク在住の想田監督(42)と平田演劇との最初の接点は、2000年10月の青年団ニューヨーク公演「東京ノート」(岸田戯曲賞受賞作)。即興かと思われるほどのリアルなセリフと自然体の会話・動作に従来の演劇臭さを排した骨太さ、平田の演劇に対する強い意志を感じて衝撃を受けたという。2006年、再びニューヨーク公演を見て、ち密な計算とたゆまぬ練習の上に成立した演劇だと確信、観たままの世界を切り取る自らの観察映画にも通ずることから、2008年に平田に連絡を取り、8月から翌年3月まで、断続的に延べ60日、300時間を超えて撮影した。

 撮影は基本的に想田監督が1人で行い、編集には2年かかった。その過程で1本にはまとめきれないことが分かり、最終的に2部作になったという。
 1時間の休憩を挟んで約6時間の上映は、正直、1日がかりで日本からやってきた人間の到着直後の選択としては辛いものがあると思って臨んだのだが、そうではなかった。
 平田オリザの世界にほれた想田監督の熱意にこちらものみ込まれたと言ったらいいのだろうか。6時間はあっという間に過ぎていた。
 演劇の世界とは無縁ではない。東京勤務時代の3年間は毎月、クラシック音楽と並行して演劇を観ていた。初めて観たときの、生の声の響き、やや大仰な演技に戸惑ったものの、結構楽しんだ記憶がある。あらためて「演劇」を見て、その世界の深さ、というか平田演劇の世界の深さと広がりに圧倒された。
 日常会話と同じように静かに、しかも重層的に展開される演技を実現するために繰り返し繰り返し行われる練習、状況に合わせて台本を瞬時に直していく平田。中学生相手のワークショップで「演劇の基礎はイメージの共有」「演劇ではウソは許される」として、既存の台本を子どもたちに発想で直させながら"芝居"を完成させる。そこでは人間がどこまでも"演じる存在"であることを前提としながら、どう演じることが、この世界を描くことに通じるか、現代社会を描き出せるかを追求している。

 また、彼の演劇を生かすための専属劇団、小ホールでの公演を経済的にどう支えているのか、演劇を現代社会の憩いの場にしたいとして政界・行政、教育界とも積極的にかかわっている側面なども余さず伝えている。また彼の指導と経営の面では"鬼のよう"でいて憎めない素顔に接すると、誰もが彼の演劇を見てみたくなるのではないだろうか。
 当初、4回も5回も繰り返される練習風景の描写に、ちょっとうんざりしたが、見ていくうちに、これこそが平田演劇を支えるものだ、想田監督がそこにこだわれば2部作6時間は必然だった、と思わされた。

 想田監督は2007年、ドキュメンタリー第1作の「選挙」が、3大陸映画祭のコンペティション部門にノミネートされていて、その時見ている。大学の同級生が市議選に挑戦するさまを詳細に追って、日本の選挙のいびつさをつぶさに伝え、監督自身の言葉通り「日本の政治はこっけいな試練」をあぶり出した作品だったが、残念ながら受賞は逃した。
 監督は、夫人の母親がかかわっている精神科外来を舞台にした「精神」(2008年)も製作していて、今回の「演劇」は、監督が目指す「台本のない」観察映画の第3弾、第4弾に当たる。

 イランの「IT's A DREAM」はローンを組ませた見返りやネズミ講を主催することで、若い女性が破綻していくさまを描いたもの。マフマド・ガファリ監督(36)は、かつて日本で大きな問題となった事象(未だに解消されていない)を、イランの今日的問題として取り上げている。やや淡泊な表現の中に、人間の欲望に差異のないことを、あらためて知らされてひやりとした。

 アフリカE.A.U.の「THE LAST FRIDAY」は負債を負ったままタクシー運転手を続けるヨセフの生活の浮き沈みが描かれる。10代の学業はかばかしくない息子ともども、生活は下り坂を転がるように壊れかけていた。ところが、彼は離婚することで才気ある女性たちと出会い、商才のある隣人たちの力もあって、生活は一変していく...。
 ヤヒャ・アル・アブダラフ監督(34)は、この処女作で現代の男性らしさとは何なのかを描こうとしたのだろうか? 

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 今年のポスターは香港ノワールの特集にあやかって、香港のワンシーンが使われている。信号待ちをする少年の向こう側に香港を代表する2階建てトラムと2階建てバスを配した構図になっている。自転車の後ろの荷物は映画フィルムのようだ。少年は頼まれて、上映館まで届けようというのだろうか?「早く信号が変わらないかな」と思っている少年の表情が想像できて、ニヤリとさせられた。

 上映開始時の映像は、昨年同様、これまでの受賞作のうち、ツァイ・ミンリャン、サタジット・レイ、ウォン・カーウィらの代表作の場面をつないだものだが、昨年は最後に波の音とともに砂が洗われて字が浮かび、受賞者一覧に変わるという凝った趣向だったのに比べると、波の音だけの簡単な(手抜き?)仕上りとなっていた。



(桂 直之)