シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)都市の不安 底流に格差の歴史/ブラジル「近隣の音」

2012/11/26

 23日はブラジルの「近隣の音」、アルゼンチンの「BEAUTY」、中国の「三姉妹」というコンペ作品ばかり3本を見た。

 「近隣の音」(2012年)は、ブラジル北西部の都市レシーフェの中間層が暮らすエリアが舞台。一日中、番犬の吠え声が響き、路上駐車の車がいたずらされるなど、住民は漠然とした治安不足に神経をとがらせ、近隣の音にどこかイラついていた。そんな中、警備会社が夜の見張りに乗り出し、さらにはマンション所有者からボディガードの依頼が飛び出す。治安に対する偏執症的な雰囲気は地域にまん延していく。

neighbors.jpg【写真】子どもに体をほぐされて一瞬、都市生活のストレスを忘れる(「近隣の音」より)

 クレバー・メンドウーサ・フィリオ監督(44)は、この地域の状況を3つの側面、「番犬」「夜の見張り」「ボディガード」に分けて、絡み合わせながら描く。「番犬」の中では、エリアの中では普通の家庭の妻が隣の番犬の吠え声に苛立ち、睡眠薬入りの肉を投げ与えたり、高周波で撃退したりする。「夜の見張り」では、警備での新たな出費を嫌がる一方で、富裕層は導入に積極的な姿勢を見せる。警備スタッフと地域住民との間には、目に見えない溝があるようだ。

 富裕層は高級マンションに住み、働いているとは思えない。若者は恋の行方だけに気を取られている。だが、富裕層の人たちは、コーヒープランテーションでの酷使で使用人たちが反抗したシーンを回想することがあり、そこから言葉にならない不安が生まれてきている。

 番犬を毛嫌いする妻は、それ以外では2人の子供を構い、子供も母親の疲れをほぐしてやろうとする。その一方で、富裕層のガードマンに雇われることになった警備スタッフだったが、そこには酷使の歴史が黒く忍び寄っていた...。

 都市生活の小さなあつれきに、歴史の重みを伴った格差が重なるとき、悲劇が生まれることを、監督はワイド画面とフレーミングを駆使して描き切ったといえる。

 「BEAUTY」(2012年)は、アルゼンチンのエスニックグループ出身ながら、グループから遠く離れた白人家庭で生活する若い娘ヨーラを通して、何が「美しいもの」なのかを問う。

 ヨーラは母親から独りで生活できる術を学んでいて、メイド役を務めるとともに、白人家庭の娘アントの"姉妹"的な役割も担う。アントの15歳の誕生パーティーが伝統通りに行われる中で、ヨーラの長い髪に嫉妬したアントの意向もあって、白人社会で流行しているショートカットにさせられてしまう。母から伸ばし続けるよう言われていたヨーラは一時気落ちするものの、パーティーの準備を黙々と果たしていく。

 ヨーラにとっては、目の前の美しさや楽しさより、月、樹木など自然界との接点を大事にした先住民の生き方、考えが自分を支えるものだったのだ。

 ダニエラ・セギアロ監督(33)は、幼いヨーラと母親の回想シーン挿入、月や樹木に言い伝えの言葉を重ね合わせるなどの穏やかな表現で、自らの主張を伝えている。
 

 「三姉妹~雲南の子」(2012年、仏・香港合作)は、中国最西南部、雲南省の寒村が舞台。母はなく、父は出稼ぎの幼い三姉妹(6~2歳)の生活にワン・ビン(王兵)監督(45)が執ように迫ったドキュメンタリーだ。

sisters.jpg【写真】幼子だけのぎりぎりの生活でも哀れみはない(「三姉妹~雲南の子」より)

 近くに祖父、伯母の家族がいて、牛や羊の飼育などを手伝う代わりに食事は一緒にとるのだが、それ以外は3人だけで暮らしている。服は着たなり、長靴には穴があいている。一見、男の子みたいで、愛らしさとは無縁だが、だからといって哀れみも感じさせない。自らができる範囲で働いているからだ。「近隣の音」でのブラジル富裕層の生活振りとは全く異質の世界なのだ。
 出稼ぎに出ていた父が戻り、子どもたちに笑顔が戻る。父は子どもたちを近くの町へ連れていこうと考えるが、経済的問題から難しい。長女だけが残ることに...。

 2010年の映画祭では、監督初の長編フィクション「無言歌」(原題は「溝」)と、陰陽の写し絵の関係にあるドキュメンタリー「名前のない男」が同時上映され、「生きる」ことへの問い掛けのすさまじさで反響を呼んだ。

 今回は直接的な政治的メッセージはないが、経済発展を続ける中国内での地域格差、経済格差の大きさにあらためて直面させられる。舞台となった寒村は標高3,200メートルで、監督は撮影中に高山病にかかって入院、後遺症にも悩まされているという。

 過酷な条件の中でも、村の人たちは、それぞれの立場で働き、助け合う。ここには贅沢はないが、生きることのたくましさと生きることの喜びがあふれている。父が帰ってきての親族全体の食事での和みと温かみ、それがあれば、1人残る長女もやっていけるだろう。153分の長編だったが、エンドマークが出る前に観客から大きな拍手が湧いた。

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 今年の上映開始映像が昨年の焼き直しだと書いたが、今年、刷新されたものがある。商店街に飾られる映画祭のフラグだ。これまでは赤くて細長いものに「3大陸映画祭」のロゴが入ったものが33年間、ずっと使われ続けた。今年からは幅広い紺地に、ナント出身のジュール・ベルヌにちなみ、熱気球と映写カメラ組み合わせた図案と「3大陸映画祭」ロゴを白抜きにした。見た目もスッキリ、クリスマス商戦の商店街を盛り上げる格好になっている。

flag02.jpg
【写真】一新された映画祭フラグ。クリスマス商戦の商店街を応援するかのよう


 「三姉妹」が3時間近い長編だったこともあり、この日は3本だけにして、ナント在住の日本人の友人たちと113年の歴史があるレストラン「シィガル」=写真=で食事をした。前菜に近海で採れるカキ、ハマグリ、エビなどの盛り合わせを頼んだら、宮城県産カキの津波被害に話が及んだ。2年目の今年は出荷できているものの、異常天候もあって小さなものにしか育っていないことを伝えた。ナントでは在住日本人の呼び掛けで寄付、千羽鶴づくり、支援メッセージ集めなどが行われた。


restaurant.jpg【写真】近海のカキなどを盛り合わせた前菜。室内装飾も一見の価値あり(「スィガル」で)



(桂 直之)