シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)反米、心のルーツ/メキシコ「リオ・デ・オロ」

2012/11/27

 

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アメリカ人を追って、山を駆け巡る先住民(「リオ・デ・オロ」より)

 24日はコンペ作品のメキシコ「リオ・デ・オロ」、中国「記憶が私を見る」の2本と相米慎二監督特集から「台風クラブ」を見た。

 「リオ・デ・オロ」(2012年、メキシコ・米合作)は、メキシコ北西部のアメリカと接するソノラ州を舞台に、先住民、アパッチ、アメリカ人たちが欲望と憎悪の中で争い、傷ついていくさまを、砂漠と山岳地帯の広大な景観を写し込みながら描く。

 メキシコは1936年、アングロサクソン系入植者の反乱でテキサスが独立、45年には米国に併合されるが、テキサスの領有を巡ってアメリカ・メキシコ戦争が起こり、その敗戦で48年にはテキサスだけでなくカリフォルニアも失った。この作品は、その後の1853年の姿を描く。

 平穏な入植者集団を問答無用に銃撃するアメリカ人、黄金を求めて孤独な旅を続ける男、先住民の集団も追い詰められ、一部はアメリカ人に反撃をする。社会的、民族的格差は大きい傷口となって、今も根強く続いている。言い換えると、それが今のメキシコ人の"闘争心"を支えているとも言えるかもしれない。

 パブロ・アンドレテ監督(40)は、それだけを主張しないで、砂漠に生き続けるサボテン、その花に集う虫たち、広大な山岳地帯を自由に飛び回る鳥たちのシーンを挟み込むことで、人間の欲望と憎悪の世界の小ささをあざ笑ってでもいるかのようだ。

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本当の家族の中から紡ぎ出される会話が心地よい(「記憶が私を見る」より)

 「記憶が私を見る」(2012年)はソン・ファン監督自身が主人公となって、南京に住む両親を訪ね、両親や親族らとの会話を通して1つの家族の姿を描き出したユニークな作品。まさにドキュメンタリーとフィクションの境界に立つ作品だ。家族間ならではの会話は、リズム良く展開されて心地いい。話題はありふれたものだが、健康や老いなどでは世代間の違いもあぶり出され、家族と自分の過去がどうで、現在にどうつながるかが、見る側にもすんなりと伝わってくる。

 監督と主人公という2つの立場を、微妙な距離感を保ちながら描き切ったところは長編第1作とは思えないほど。彼女は20歳までの家族との同居では接点が少なかったが、2年間の海外生活後に親密さを取り戻したこと、父親は消極的だったが、母親が撮影に同意してくれたことが、この作品を生むきっかけになったという。今年のロカルノ映画祭で最優秀新人監督賞を受賞、開幕中の東京フィルメックスではコンペ部門にノミネートされている。

 相米慎二監督特集は、ドキュメンタリーの「月山」とフィクション全13作品が集められた。版権の問題でDVD化されてない「雪の断章 情熱」(1985年)は貴重な出合いになるはずだったが、コンペ作品との関係で見ることができず、残念だった。

 「台風クラブ」(1985年)は、東京近郊の中学校を舞台に、台風の接近とともに自分でも説明のつかない感情に突き動かされて騒乱状態に陥る中学生たちの姿を通して、思春期の揺れ動くさまをクールに描いた青春映画。ヤクザの対立に巻き込まれて誘拐されたガキ大将を救出しようと、大人の論理に振り回されながらも奮闘する少年少女たちを描いた「ションベン・ライダー」(1983年)とともに、相米監督の思春期映画の代表作だ。

 冒頭の夜の学校プールのシーンから"過激"だ。泳ぎに来た女子生徒5人(工藤静香、大西結花ら)は、先に来ていた男子生徒を見つけてイタズラをし、おぼれ死に寸前にさせてしまう。台風が近づいていて、生徒たちは徐々におかしくなっていく。

 台風襲来当日に学校に残って閉じ込められた生徒たちは、暴風雨のなか全員裸になって踊り狂うのだが、相米監督のカメラを引いた長回しが、この世代の訳の分からず、しかも危うい感情の発露を見事にとらえていたと思う。

 中学校時代の世間・大人への反発や感情のストレートなぶつかり合いなど、もう遠い過去のものとなっていたものが、見ているうちに、当時の感覚のまま呼びさまされた気がした。映画館を出てみると、一転外は強風が吹き荒れていた。映画祭フラグがバタバタとはためき、引きちぎれて落ちてくるのでは、と心配したほどだった。そういえば中学生までは台風の襲来に訳もなく心が騒いだことも思い出した。

 上映前に、この作品の助監督だった榎戸耕史さんが、「撮影時は雨も風もなく、台風シーンをつくり出すのにスタッフが必死だった。ほとんど素人のような子どもたちだったが、みんな頑張った。そんなことを知って見てもらえるとうれしい」とあいさつ、盛んな拍手を浴びた。ただ、上映では、フィルムが古いこともあって10回近く上映が中断、そのたびに相米ワールドから現実に引き戻されたのは残念だった。

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クリスマス商戦で賑わうマルシェ(パレ・ロワイヤル)

 週末になって、クリスマス商戦の装いも整った街には、プレゼント下見の人たちがどっと繰り出した。この日も小雨が降り、夕方からは強い風が吹き荒れたが、夜遅くまで人々の姿が町中にあふれた。クリスマス用品の小物から装身具、チョコレートやワインとさまざまなものを扱う、この時期特有の"マルシェ(出店)"も店開きした。ナントの中心ロータリー、パレ・ロワイヤルには60近くが開店、日中からホットワインの甘い香りが周囲に漂った。

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週末になり、映画祭上映館前にも長い列ができた(カトロザ前)

(桂 直之)