シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)日本映画の質を高める補助制度を/市山尚三ディレクターに聞く

2012/11/27

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-今年はカンヌもヴェネチアも中国映画がコンペにない年でしたが。

市山 有名監督の大作でヴェネチア映画祭のコンペに入りそうなものもありましたが、結局入りませんでした。一方、フィルメックスには中国映画がコンペに3本あります。若手の方が面白い。エミリー・タンの「愛の身替わり」はサン・セバスチャンのコンペ、ハオ・ジェの「ティエダンのラブソング」はサン・セバスチャンの若手の部門、「記憶が私を見る」はロカルノの若手のコンペ部門に出ていた作品です。ロカルノのコンペ部門は今、1、2本目の若手監督と、メインと2つあるんで。

-昔は新人に特化した映画祭でしたよね?

市山 マルコ・ミュラーがディレクターをやめた後に、国際映連のAカテゴリーにしたんです。なぜかというと、話がずれますけど、ラテン・アメリカやアジアの国だと、国際映連のAカテゴリーの映画祭だと監督の渡航費が出る。ところが、ロカルノのように特殊なコンペティションの映画祭だと渡航費が出ない。それで、ロカルノのコンペに選ばれたと最初は喜んでいても、ヴェネチアのサブのセクションに入ってしまうと、渡航費が出るのはそっちの方なので、それを理由に断られることが続いたらしい。それで、バカバカしいとは思うがAカテゴリーの映画祭にした、ということです。フィルメックスで、チョンジュ・プロジェクトとして上映するイン・リャンの映画は、単独でロカルノのメインのコンペに出て監督賞を獲りました。イン・リャンはもう4本か5本撮っていますから。さらに、1、2本目の若手監督の作品が入るサブのコンペの方でソン・ファンの「記憶が私を見る」が最優秀新人監督賞を獲っています。ソン・ファンは侯孝賢の「レッド・バルーン」に出ていた女性で、本来監督志望で、カンヌのシネフォンダシオンにも作品が選ばれたりしている人で、彼女の長編デビュー作です。

-マルコ・ミュラーがローマのディレクターになったせいか、ローマは中国映画が多かったし、フィルメックスにも3本ある、ということは中国映画の世代代わりでしょうか?

市山 それもありますね。あと、重要な作品はカンヌのある視点に出ていたロウ・イエの「ミステリー」という映画ですね。

-フィルメックス的な流れで言えば、今年やるべき作品ですが。

市山 日本の配給会社の都合で出来なかったんです。あの映画は実は検閲を通っているんだけど、いろいろとヤバイところがある。最初の金持ちの息子がひき逃げする事件などは今中国で頻繁に起こっていて、中国のお客さんが見たら、"ああ、あの事件か"と腑に落ちるらしいです。

-男に妻と愛人がいて、みたいなメインのストーリーは?

市山 ロウ・イエは野村芳太郎を研究していると言っていました。「0の焦点」など、夫に別の女がいたという話でしたからね。ロウ・イエの1つ前の映画は神代辰巳を研究したそうです。ラブストーリーで、室内のセックスシーンが多いんで、日本の日活ロマンポルノを研究しようとしたら、"1人、格の違う、すごい監督がいたんだ、名前が思い出せない"というんで、僕が"神代辰巳"と書いたら"これだ!"と(笑)。

-今年はイスラエルが大クローズアップされていますが。

市山 コンペにたまたま2本入りましたが、これはイスラエル特集があるからではなく、シャロン・バルズィヴの「514号室」は結構早めに決めたんです。これは低予算でも撮れるという映画で、1つの部屋の中でほとんどすべてのドラマが起こる。ものすごい緊張感を持っているし、デビュー作でここまでやるのは大したものだという映画です。もう1本のアミール・マノールの「エピローグ」はヴェネチアのベニス・デイズに出ていた映画で、かなりスタイリッシュで、イスラエルの建国のときに理想に燃えてイスラエルにやってきたのに、今はもう全然だめだと絶望した老夫婦の話なんです。

-コンペの2本の他に特集がありますね。

市山 今年はイスラエルと日本の外交関係が始まって60周年の記念の年で、2年前に僕と林さんでエルサレム映画祭に行ったんです。それで新作を見るのと同時にアーカイブで旧作を見たら、面白いものが沢山あったので、新作の特集をするよりも今までやったことがない旧作の特集をやろうということで、この4本になりました。「エルドラド」と「サラー・シャバティ氏」は完全な娯楽映画で、「子どもとの3日間」はカンヌのコンペに出ていたアート系の作品、「アバンチ・ポポロ」は戦争映画で、日活が80年代の終わりぐらいに公開していますが、見ている人がほとんどいない。僕も実は見てなかったんです。すごい低予算映画で、2人のエジプト兵がシナイ半島を敗走するうちにイスラエル兵と遭遇し、という話で、イスラエル映画として画期的なのは、アラブ人の側から戦争を描いていること。もちろん反戦映画ですが、そういうところが当時は画期的だった。他の3本は完全に日本初上映で、特にメナヘム・ゴーランの「エルドラド」がめちゃくちゃ面白いです。

-ゴーランはプロデューサーになってからしか知りません。

市山 この人は監督としてかなり優秀です。ミュージカルから何から、いろんなものを撮っていて、ゴーラン特集をやってもいいくらい。彼がロンドンに留学している頃、ロジャー・コーマンがロンドンで撮ってた映画に助監督でついているので、実はロジャー・コーマンの弟子なんです。

-コンペに戻って、イラク映画の「111人の少女」は?

市山 監督はバフマン・ゴバディのお姉さんなんですが、ゴバディの活動拠点が今はイラクというか、イランとイラクにまたがったクルディスタンで、イラク側にお金を出してくれた人がいるらしい。なので、この映画もゴバディの映画も国籍はイラク映画になっています。どこで撮っているかは定かではなく、イラン側かイラク側かわからないクルディスタンのどこかですが、話としてはイランです。

-イランの大統領に手紙を書くという話だから、間違いなくイラン映画ですよね。

市山 "大統領に手紙を書こうキャンペーン"て、知ってます? チェコの監督が撮ったそのドキュメンタリーをベルリンで見たんですが、地方の人達に向けた"大統領に手紙を書こう"というキャンペーンがあって、たぶん大統領本人は読んでないだろうけど、係の人が読んで、ときどき返事が来るらしいんです。どこかの女の子がメッカに巡礼に行きたいんだけど、お金がなくて行けませんとかいう手紙を書くと、その女の子のところに交通費が支給されたりする。そのドキュメンタリーでは、その後、実際に陳情に行く人がいて、たらい回しにされて、みたいな様子を追っています。

-今年は、韓国映画は1本だけですね。

市山 今年はあんまりなかったですね。もちろん特別招待にホン・サンス、キム・ギドクという二大巨頭の映画がありますが。候補の作品は沢山見ましたけど、新しいものがなかった。キム・ヒジョンの「グレープ・キャンディ」は特に新しいものではなかったけど、非常にかっちりとよく出来ているんで。それこそ、野村芳太郎じゃないけど、サスペンス・タッチなんです。

-野村芳太郎特集をやらなきゃいけないですね。

市山 いつかやろうとは思ってるんです。ユー・リクウァイも"すごく面白い"と言ってました。なぜかというと、戦後すぐの日本の混乱した状況、社会不安な部分が今の中国にすごく似ているからでしょうね。

-それで、日本映画2本ですが。

市山 これは2人ともPFFのOBです。インディペンデントの映画ですが、2本ともなかなかすごい作品です。興行とかそういうことは考えずに作りましたという映画で、本当はこういうのがちゃんと当たってくれればいいんですが。

-市山さんは最近の日本映画をどう見ていますか。

市山 最近の日本映画は面白いです。国際映画祭で活躍しないからどうこう、と言われているようですが、見ていくと結構レベルは高いです。ただ、三大映画祭のコンペクラスの映画がないというのは正直なところです。

-製作規模が小さく、大きいものが撮れないから、アイデアが小さくなっているところがあるように思います。

市山 それはありますね。ただ大きく作ろうと思ってもお金が集まらない。内田伸輝の「おだやかな日常」は、おそらく1千万円くらいの規模で作ったんだと思います。高橋泉の「あたしは世界なんかじゃないから」はもっと低予算のように思いますが、そこは極まっていて、すごいものがあるんで。本当はこういう作品に助成金を出すべきなのに、文化庁の助成金制度では製作費5千万というのが申請できる最低のレベルなんです。

-今はデジタル化して、フィルム代と現像代がかからないから、製作費が圧縮されて、1千万でも映画が出来てしまいますよね。

市山 東京単館、全国20館くらいで上映という規模を逆算していくと、1千万以上かけるとリスクが大きくなる。単館で観客が1万人で製作費1千万だと赤字、2万人なら、ようやく何とかという感じです。

-単館で2万人は相当大変ですね。今、劇場自体があまりないし、長くかけてくれません。

市山 ロングランというのがない。観客2万人でも、DVDが売れてプラスマイナス0、テレビセールスで一生懸命がんばって売って、ようやく回収できました、くらいな感じなんです。

-儲けがない?

市山 ないです。本当はそういう映画が5百万補助金をもらったら、すごく大きいわけですが。僕がプロデュースした映画の場合、仕方がないんでプサン映画祭に申請して、プサンのファンドをもらって、ソウルで仕上げをやったことがあります。

-それも恥ずかしい話ですね。

市山 インディペンデントは大変です。DVDが売れそうなバイオレンスものとか、エロチックものだったら、製作費5千万はありえますが、今一番必要なのは、5千万以下の映画に対する助成です。フィルメックスでやるような映画こそ、助成金を必要としている。なのに申請できない。審査すらしてもらえないんです。

-上限を5千万にすればいいのに。

市山 あるいは5千万以下の枠を作ればいい。助成金の総額は今と同じでも、大きな映画に沢山渡しているものを少し削って-

-5千万以下の映画に小分けする。

市山 助成金のシステムはたぶん10年前くらいに出来ているんだと思います。10年前には1千万の映画など自主映画に限られていて、それでは商売にならないし、助成を出す意味がない、ということだった。今や1千万がプロの映画になっている時代ですから。

-この10年で激変した?

市山 格差社会ですね。製作費をかけられる映画はどんどんかけられ、シネコンの大きなチェーンで上映できる。以前はDVDがその辺を調整していたのに、一気に売れなくなったので、劇場で大当たりする映画と単館で終わる映画の差がすごく出て来ました。

-せっかく作った映画が、単館でもなんでも劇場にかけられて、製作費が回収できる形にならないと、映画界はよくならないのでは?

市山 そうなんです。

(11月14日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)