シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5完)逆境に生きる/グランプリ、観客賞に「三姉妹~雲南の子」

2012/11/30

 閉会式は26日午後7時半から、昨年と同じロワール川中州にある国際会議場「シティ・コングレ」で開かれ、コロンビア映画「LA PLAYADC」(2012年、ブラジル・コロンビア・仏合作、ファン・アンドレス・アランゴ監督)を上映後、受賞作が次々と発表された。

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祝福を受けるグランプリのワン・ビン監督 

コンペ部門だが、中国のドキュメンタリー「三姉妹~雲南の子」(ワン・ビン監督=香港・仏合作、2012年)がナント出身のジュール・ベルヌにちなんだ金の熱気球賞(グランプリ)と観客賞(観賞後の観客投票で決定)をダブル受賞、アルゼンチンの「BEAUTY」(ダニエラ・セギアロ監督=2012年)が銀の熱気球賞(準グランプリ)を獲得した。
 
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 銀の熱気球トロフィーを手にほほえむダニエラ・セギアロ監督

 ワン・ビン監督は3部作、9時間に及ぶドキュメンタリー「鉄西区」で2003年、山形国際ドキュメンタリー映画祭と、ここ3大陸映画祭でともにグランプリに輝いている。日本の約6時間に及ぶドキュメンタリー「演劇1・2」(想田和弘監督=2012年)が若い審査員賞、韓国の「眠れない夜」(チャン・ゴンジェ監督=2012年)が審査員特別賞を受賞した。

 地元紙「ウエスト・フランス」は翌朝、「ワン・ビン監督、2度目のグランプリ」の見出しで閉会式の様子を報じた。

 「三姉妹~雲南の子」は、中国市西南部、雲南州の標高3,200メートルにある寒村を舞台に、父親が出稼ぎに出て、残された幼い姉妹3人(6~2歳)が厳しい環境にも負けず自活するさまを描いたドキュメンタリー。3人は、近くに住む祖父や伯母の放牧や農作業を手伝い、食事は一緒にするものの、それ以外は3人だけで生活する。着の身着のまま、靴には穴があいていても、泣き言も言わない。子どもの愛らしさはなく、下の2人は女の子にも見えない。

 特に前半のシーンでは3人の子どもたちに厳しい状況ばかりが続き、ワン・ビン監督は「何を撮りたくてカメラを回しているのだろう」と疑問に感じたほどだった。ただ、そこには哀れみはなく、自らが生き、助け合う3人の姿勢への強い共感がうかがえたことから、約2時間半、最後まで見続けたのだった。

 終盤、父親が帰ってきて、祖父たちも交えての久しぶりの団らん。ファミリーの温もりがジワッと伝わってきた。新しい服と靴を素直に喜ぶ3人。父親は子どもたちを働いている町に連れて行こうと考えるが、経済的な理由から長女だけは置いていかなければならなくなる...。

 生きることのたくましさとは、肩肘を張ったものではなく、自らやらなければならないことを、他人に頼らずにやっていくことだ、という当たり前のことを教えられる。この当たり前が今や当たり前でなくなっている。経済格差、地域格差をあえて突いているわけではなく、都市部では忘れかけているものを、山間の寒村で、しかも幼い子どもの中に見いだしたことに多くの観客は共感したのだろう。観客賞受賞に監督は「驚いた」と話したが、もっともな評価だったと思う。

 準グランプリの「BEAUTY」は、アルゼンチンの先住民出身ながら、親元を離れて白人家庭で生活する若い娘を通して、何が「美しいもの」「伝えていくもの」なのかを問う作品。ダニエラ・セギアロ監督は、長編第1作となるこの作品で、母親との回想や月、樹木などのシーンに母国語を重ねるという穏やかな演出で、土着の起源を伝えたところが評価されたようだ。

 審査員特別賞の「眠れぬ夜」は、30代半ばのカップルを通して、「自分の人生を楽しみたい」のに鬱屈を感じている韓国の現代世相を切り取っている。核家族化、少子化のジワジワとした進行は、韓国でなくとも身近な問題。チャン・ゴンジェ監督は、同年代の主演カップルと共有できるエピソードを積み上げることで、若者の「確固たる不満はないが、大きな希望もない」という現状をさりげなく、でも具体的に提示したところが出色だった。
 
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審査員特別賞のチャン・ゴンジェ監督

 若い審査員賞の「演劇1・2」は劇作家で演出家の平田オリザ(50)の世界を描いたドキュメンタリー2部作。「演劇1」では、平田演劇の哲学や方法論を「平田オリザの世界」として、「演劇2」では芸術と社会との関係を「平田オリザと世界」として描いたものといえる。

 ニューヨーク在住の想田監督は2000年、2006年、平田オリザのニューヨーク公演に出合い、ち密な計算とたゆまぬ練習の上に成立した演劇は、観たままの世界を切り取る自らの観察映画にも通じると感じ、2008年から平田に密着、断続的に延べ60日、300時間を超えて撮影した。編集段階で1本にはまとめきれないと分かり、2部作になったという。

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若い審査員賞の想田和弘監督 

 若い審査員たちは、「ワークショップでの演劇理論、海外公演などの場面に魅了された」と評価した。

 僕にとっても、ワークショップで平田が明快な説明で演劇の世界へと生徒たちを導くシーンは印象的だった。さらに、目指す演劇にどん欲に迫ろうとする平田の気迫を、つかの間の仮眠をいびき付きで挿入するセンス、平田演劇の全体像を切り取ろうと格闘した監督パワーにも圧倒された。カトロザでの上映では、約6時間という上映時間に恐れをなしたのか観客は半分ほどの入りだったが、見終わった人たちは一斉に拍手をしていた。

 授賞式後に想田監督に会った。

 -若い人たちの評価をどう感じましたか。
 「若い人が理解してくれたことは、私も望んでいたことなので大変うれしい」
 
 -十分グランプリに値する内容だったと思うが。
 「長いということで敬遠された面はあったかもしれないが、見てもらえれば、伝えたいことは分かると思っていた。若い人たちに評価されたことで満足だ」

 -平田演劇を描くために苦労した点は。
 「映画の中で平田さん自身が映画と演劇は違うと説明している。そこを乗り越えて平田演劇の全体像を伝えられるか、という点では悩み、2部作になってしまった」

 閉会式後のパーティーでは相米慎二監督特集でナントを訪れていた榎戸耕史監督とも話をする機会があった。相米監督とは「ションベン・ライダー」「台風クラブ」「ラブホテル」の3作で助監督としてコンビを組んだ。映画祭の印象を尋ねたところ「映画が長い歴史として街に息づいていることを感じた。ナントにほれ込んでしまった。相米監督が生きているうちにぜひ来たかった」と感慨深げに話してくれた。

 前日見た「セーラー服と機関銃」を話題にしたら、完成後に角川春樹オーナーと相米監督と3人だけの試写会でのエピソードを披露してくれた。見終わった後、角川オーナーから「角川映画らしくないけど上出来」と言ってもらったという。「角川さんはつくる映画を自分の型に入れようとすると見られていたが、ちゃんと評価できる人だった」

 閉会式前の時間を利用して、コンペ作品のインド映画「ID」(20012年)と「都市に生きる」特集の1つ「お早よう」(小津安二郎監督=1959年)を見た。

 「ID」はムンバイでマーケティングの仕事に就く若い女性が、壁を塗り替えにきた作業員の病死に遭い、理不尽ながらも携帯電話で撮影した彼の写真を手掛かりに身元探しに奔走する。カマル・K・M監督は、大都市の人と人との関係のあいまいさを、見知らぬ男の死に立ち会うという設定で浮き立たせ、"現代の最新武器"すらも、結局は役に立たないということを痛烈に指摘している。

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受賞者・審査員らが勢揃い。右端には榎戸耕史監督の姿も
            
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閉会式の様子を伝える「ウエスト・フランス」

 今回はプログラム構成が変わり、閉会式当日もコンペ作品の上映が行われた。このため上映2日目に訪れると、コンペ作品何本かを見逃すことになるのだが、今回は11本すべてを見ることができた。とはいえ、一方で特集映画を楽しむことができなかった。殊に今回は相米慎二、香港ノワールを中心としたミルキーウェイ作品、「都市に暮らす」がテーマの3つの魅力的な特集がラインアップされていた。コンペ作品が「演劇1・2」の6時間、「三姉妹~雲南の子」の2時間半という長編があったことも、数多くの作品を見る機会を失わせた。招待作の黒沢清監督「贖罪」もコンペ優先で見ることができなかった。何とも悩ましい。ただ、ラインナップが充実していたことは成果だったと思う。来年はどういう構成になるのか楽しみだ。
(桂 直之)