シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)経済の壁が世界を支配する

2013/02/13

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 コンペ出品されたガス・ヴァン・サントの『約束の土地』は、主演のマット・デイモンが共演のジョン・クラシンスキーと脚本を書き、自分で監督する予定だったのを、準備に割く時間が足りず、急遽ガス・ヴァン・サントに監督を依頼したもので、『グッドウィル・ハンティング』と同じ方式で作られた新作です。

 物語は、天然ガス会社に雇われ、土地を買い上げる仕事を引き受けたスティーヴ(マット・デイモン)が、掘削作業で注入される化学薬品の危険性を隠して村人の合意を得ようとするが、彼の前に環境保護活動家の男(ジョン・クラシンスキー)が現れて反対キャンペーンを展開し、農場育ちのスティーヴのモラルを揺さぶる、というもの。熱血漢のデイモンらしい社会派映画ですが、主人公の男と環境保護活動家が小学校の女性教師を挟んで恋のライバルになるというエピソードなどは、さすがにハリウッドで経験を積んだデイモンらしいと思いました。

 一方、ロシアからコンペにエントリーしたボリス・フレブニコフの『長く幸せな人生』は、土地を売って借金を返済し、実りの少ない農業に見切りをつけて町で新たな生活を始めようとする集団農場のリーダーの青年が、仲間の反対に遭ってジレンマに陥る姿を描いた作品でした。

 東西の壁が消え、政治的な対立がなくなった今、世界を支配している壁は、政治ではなく経済にある。それが持てるものと持たざるものの間にある壁であり、その壁はどんどん高くなっている。『約束の土地』も『長く幸せな人生』も、アメリカとロシアという国の違いこそあれ、本来なら最も大切にされるべき人間の生命の根幹を握る農場に従事している人たちが、実は階級格差の一番の犠牲になっていることを示しているように思いました。

 写真は「約束の土地」の1シーンです。
(齋藤敦子)