シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(7)小津論豊かに/「秋刀魚の味」デジタル版を披露

2013/05/25

cannes_p13_07_01.jpg 23日の午後、カンヌ・クラシック部門で小津安二郎監督の名作『秋刀魚の味』のデジタル・リマスター版ワールドプレミア上映がありました。『秋刀魚の味』は小津監督の遺作で、数少ないカラー作品ですが、これまでは褪色したフィルムしか存在していなかったのを、小津安二郎生誕110周年記念行事の一環として、松竹とフィルムセンターが共同でデジタル・リマスター版を制作、今回のカンヌでのお披露目となりました。

cannes_p13_07_02.jpg 上映の前には映画祭ディレクター、ティエリー・フレモー氏の挨拶があり、コンペに作品をエントリーしているジャ・ジャンクー監督、是枝裕和監督が登壇し、短い時間ながら、それぞれの小津体験を話してくれました。それによると、ジャ監督は、北京電影学院で学んでいた頃に小津映画を知り、文革以降、家族が描かれることの少なくなった中国映画と違って、家族が描かれていること、小津が描く戦後の日本と現在の急激に進化する中国社会に共通のものを感じたことの2点で小津映画に惹かれたそうです。

 また、個人的には、是枝監督の「小津は映画の外側に立って、神様の視点ではなく戦争を生き残れなかった者の視線で、その後を生きた人たちを観察して描いている」という発言に、まったく同感でした。戦後の小津作品を見るとき、私は決まって小津と兄弟のように交流のあった山中貞雄との別れを連想するのです。招集されて、それぞれ中国戦線へ向かった小津と山中は、1938年1月に南京郊外で再会するのですが、その年の9月に山中が戦病死してしまうので、それが最後の別れとなってしまいます。その時に二人が何を語ったかは想像するしかありませんが、山中の訃報を聞いた後、小津は、最後に見た山中の顔を何度も何度も思い出したでしょう。私は戦後の日本を見る小津のシニカルな視線の背後に、そのときの山中の目を感じるのです。

 小津安二郎監督の生誕110年、没後50年に当たる今年は、これから国内外で小津関係のイベントが数多く予定されているようです。日本でも間もなく、美しく復元されたカラーの小津作品が見られることと思います。

 写真上は、上映に先立って行われたプレス取材のときのもので、是枝裕和監督(左)、ジャ・ジャンクー監督。写真下は上映前の模様で、左から是枝監督、ジャ監督、松竹の映像ライツ部の森口和則部長、映画祭ディレクターのティエリー・フレモー氏です。

(齋藤敦子)