シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(8)ある視点賞にリティー・パニュ監督の「失われた映像」

2013/05/26

cannes_p13_08_01.jpg 授賞式を前にして、23日には会期が一番短い批評家週間の賞が発表になり、24日夜に監督週間の授賞式、25日午後にエキュメニック賞と国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)、同夜、ある視点部門の授賞式が行われ、エキュメニック賞の次点に、是枝裕和監督の『そして父になる』が選ばれました。

 今年の映画祭で私が最も感銘を受けた作品が、ある視点賞を受賞したリティー・パニュ監督の『失われた映像』だったので、審査員長のトマス・ヴィンターベアから祝福されるパニュ監督を見ていて、とても感激しました。

 リティー・パニュ監督は1964年にカンボジアのプノンペンで生まれ、クメール・ルージュの政権下、迫害を受けて両親を亡くし、79年にタイに逃れて、パリの高等映画学院で映画を学んだドキュメンタリー作家です。
 
 『失われた映像』というのは、クメール・ルージュがすべての文化を破壊しつくしたため、映像といえばプロパガンダとして撮られたものしか残っていない当時の状況を、粘土で作った人形を使って再現したもの。クメール・ルージュによってプノンペンに住んでいた人々が家を追い出され、粗末な収容所に入れられて、強制労働や栄養失調、拷問や密告で人が死んでいく残酷で過酷で悲惨な毎日が、"人形劇のように"再現されていくのです。そこに、失われたものなら作ればいい、絶対に忘れるものかというパニュ監督のすさまじい執念を感じて胸が痛くなりました。

cannes_p13_08_02.jpg 『失われた映像』は一種のドキュメンタリーですが、フィクションとして私が一番好きだった映画が、やはりある視点部門で上映され、監督賞を受賞したアラン・ギロディ監督の『湖の見知らぬ他人』でした。

 ギロディ監督の作品は2009年に『キング・オブ・エスケープ』が東京国際映画祭のワールドシネマ部門で上映されているので、彼の特異な世界を既に知っている方もいるでしょう。『キング・オブ・エスケープ』は同性愛者の中年男と若い娘の逃避行でしたが、今回はそのものずばり、湖畔のヌーディストビーチが舞台。主人公は恋の相手を探しに来た若くてハンサムなフランク。やっと理想の男性ミシェルに巡り合ったものの、ミシェルの元の恋人が溺死体で見つかり、刑事が捜査を始めたことで、フランクの心に疑惑が兆して...、というもの。前半は、ヌーディストビーチに紛れ込んだ普通の太った中年男とフランクとのユーモラスな関係がコメディのように描かれ、浜辺で相手を探し、森の中でセックスする同性愛者たちの生態がハードコアで描かれ、中盤から溺死事件をめぐってサスペンスになっていくという展開。とはいえ、同性愛という要素を除けば、まるでエリック・ロメールの映画のような、フランス映画らしい、とても面白いラブストーリーだと思いました。

 写真(上)は、審査員長のトマス・ヴィンターベアと握手するリティー・パニュ監督、写真(下)は監督賞のアラン・ギロディ監督です。


◎ある視点部門受賞結果

ある視点賞:『失われた映像』リティー・パニュ(カンボジア)

審査員賞:『オマール』ハニ・アブ=アサド(パレスチナ)

監督賞:アラン・ギロディ『湖の見知らぬ他人』(フランス)

ある才能賞:『金の檻』ディエゴ・ケマダ=ディエス(スペイン)

未来賞:『フルートヴァル駅』ライアン・クーグラー(アメリカ)

国際映画批評家連盟賞

コンペティション部門:『アデルの人生』アブデラティフ・ケシシュ(フランス)

ある視点部門:『原稿は燃えない』モハマッド・ラスロフ(イラン)

監督&批評家週間部門:『青い廃墟』ジェレミー・ソーニア(アメリカ)

エキュメニック賞

『過去』アスガー・ファルハディ(イラン)

次点『そして父になる』是枝裕和(日本)

『ミエレ』ヴァレリア・ゴリーノ(イタリア)

(齋藤敦子)