シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)秋の新作をいち早く上映/矢田部プログラミング・ディレクターに聞く

2013/10/20

tokyo13_p_01_01.jpg 10月17日の夜、ポール・グリーングラス監督の『キャプテン・フィリップス』の上映から第26回東京国際映画祭が開幕しました。

 昨年まで5年トップを務めて任期満了で退任した依田巽チェアマンに替わって、今年4月に角川書店取締役相談役の椎名保氏がディレクター・ジェネラルに就任。トップの名称がチェアマンからディレクター・ジェネラルに変わっただけでなく、映画祭の中身についても様々な変化がありました。まずは映画祭の価値を決める作品選定について、矢田部吉彦プログラミング・ディレクターにうかがいました。

Q:今年の東京国際映画祭(以下、TIFF)は劇的な変化がありました。その一番の理由は、おそらく予算の削減だろうとは皆が思っていることですが、この変化は、これからTIFFをどういう方向に変えていこうという考えがあってのことなのか、今までの延長上なのか?

矢田部:それについては、私は話せないし、話す立場にないですね。

Q:<natural TIFF>がなくなり、<アジアの風>が<ワールド・シネマ>と合体した<ワールド・フォーカス>という形に集約されました。そういう変化に矢田部さんはどの程度、意見を言えたんですか?

矢田部:ゼロです。闘いましたが。なので、出来るところをやっていくしかなかったです。変わった一番の理由は予算ではなく、ヘッドが変わったことです。なので、そこの変化は私が話すべきことではないです。ただ、<natural TIFF>は、なくなったのが非常に悲しかった。ああいう主旨の部門は1回やり始めたらやめちゃいけないと思いますし、役割を終えたなんてことはないですから、個人的には忸怩たる思いでしかなかったです。

Q:結局、ナチュラルのコンセプトで残ったのはグリーン・カーペットだけというか。

矢田部:まあ、映画祭は山あり谷ありで、続けていくことが重要だと思いますので、また出来るかぎり本数も増やしていきたいですし、部門も増やしていきたいと思います。

tokyo13_p_01_02.jpgQ:ユニジャパンは映画祭を続けていこうという気はあると思いますが、日本の映画業界はどうなんでしょう?

矢田部:おそらく、映画会社の社長であり、相談役であった椎名さんが映画祭の外にいたときの空気を知っているからこそ、今、危機感を持って、映画祭のディレクター・ジェネラルとして積極的に国内の映画会社の人たちとの交流を深めています。積極的に東宝、東映、松竹の社長さんたちと会合を持ったり、映画業界内の盛り上げ外交を非常に積極的に行っていらっしゃいます。

Q:コンペティション部門はこれからもこの規模で続けられるわけですよね?
矢田部:そうです。今年あるものは確実に来年あります。今年以上に減るということはなくて、来年は何を復活させるか、あるいは何を新しく作るかというところに向かっていくと思います。

Q:最大の部門はアジアで、コンペにしたのはいいけど、あの本数では寂しいなという気がして。

矢田部:<ワールド・フォーカス>を2倍か3倍くらいにしたいですね。今年は石坂さんが8本、僕が8本みたいな感じでアジアと欧米を混ぜてるんですけど、これを最低2倍にはしたい。30とか40本くらいを目指したいですね。

Q:コンペの作品選定について、去年と比べて矢田部色が変わったということは?
矢田部:なるべく自分が変わらないことを目指しました。コンペティション部門も日本映画スプラッシュ部門もそうなんですが、基本的に作品選定のやり方を変えたとか、選ぶにあたって考え方を変えたとかいうことはないんです。けれども、実はちょっと突っ込んで、今までカンヌの作品が1、2本入っていたんですが、もう少し夏・秋の作品で固めていきたいな、と。

Q:いつもは、どこかの映画祭でやっていたというのが入っていましたが、今年は見当たらなかった。それは意識的に?
矢田部:かなり意識的に。ただ、細かく見ると、例えば、トロントに出ているのはありますし、サンセバスチャンからも1、2本入っています。

Q:では本当に秋の新作という感じですね。

矢田部:秋の映画祭サーキットに入っているものをいち早く日本の観客に見せようと。

Q:あと、変わった部門といえば、<日本映画・ある視点>が<日本映画スプラッシュ>に発展的に変化?

矢田部:コンセプトは一緒で、表紙だけ変わりました。より強く海外展開をプッシュしていきたいというのが椎名ディレクター・ジェネラルの意向でもあり、我々もそれを意識して選んだんですけれども、基本的な選び方は去年とそれほど変えてないです。

Q:コンペに日本映画が2本入っていますが、<日本映画スプラッシュ>と重なりませんか?

矢田部:インディーズ色が見えるというところでは近くなっているかもしれないですね。ただ、深田晃司監督の『ほとりの朔子』は日本映画ある視点の次のステップということで上がってきたわけで、去年の松江哲明監督の『フラッシュバック・メモリーズ』と同じ道をたどっているんです。榊英雄監督の『捨てがたき人々』の場合は、大森南朋さんが体を張ってて、インディーもメジャーもあまり関係ない、格を持った作品であるということで選びました。日本映画が1本だと、日本の映画祭なのに、なぜコンペに1本しかないの、ということも昔よく言われて、なるべく2本は入れたいよな、というところは意識しているんですけれども。

Q:世界基準と日本基準が違っていて、コンペティションみたいなところで並べるとその差が見えてしまい、お互いにあまり得をしない感じがする。去年の松江哲明さんの『フラッシュバック・メモリーズ』は、とっても面白かったんですが、観客賞はとったけど、本賞の方は、きちんと撮られたイスラエルの『もうひとりの息子』の方に行ってしまいましたね。それは審査員にもよるでしょうけど。ただ、『もうひとりの息子』も公開されることですし、受賞作を公開につなげるという路線で言えば、順当なセレクションであったとは思います。

矢田部:続いて欲しいなとは思うんですが、本当に難しいところですよね。だったら公開されそうだな、というのを選んでいけばいい。

Q:コンペティション部門の作品は日本公開を睨んで選んでいる?

矢田部:昔ほどは無視してないですね。

Q:昔は無視してた?

矢田部:完全に無視してました(笑)。6、7年前のラインナップを見ると、今だったら選ばないだろうというのが入ってますね。

Q:それは日本の映画状況が変わってきたから?

矢田部:それもありますし、もうちょっと粒の大きさというのを意識しますね。ちっちゃいのもありますけど、あんまりインディー、インディーで固めてはいけないという意識はあります。

Q:去年、西村さんにインタビューしたときに、日本映画はなぜ外国に行けないのかという質問をしたら、日本映画は国内のマーケットで完結するから海外に持っていくことなんて全然考えていない、プサン映画祭や韓国映画があれだけ外に向いているのは国内にマーケットがないからだ、と言われて、なるほどと目から鱗だったんです。私たちプレス関係者は、TIFFはなぜもっとメジャーな映画祭にならないのかと思うけど、日本の映画業界はそんなこと求めてなかった。その目でコンペティションのラインナップを見ると、納得するところがある。つまり、業界の人たちは、コンペの作品にある程度粒を求めるわけじゃないですか。それを矢田部さんが配慮している感じが見えるときがある。

矢田部:配慮しているというより、このくらいの粒は必要だろうなと思ってきているということはあります。『最強のふたり』問題というのがあって、あれを成功だったと言う人もいれば、逆だという人もいますよね。僕は両方の言い分がものすごくよくわかる。たとえば国内の映画関係者に、コンペティションで『最強のふたり』が賞を獲って、その後、日本でヒットしたんですよ、というと、ほとんどの映画会社の人は、TIFFのコンペ、すばらしいじゃないですか、と言うんですよね。でも海外に対してTIFFのコンペで『最強のふたり』が賞をとったというのは、あんまり言わない。このジレンマに引き裂かれながら過ごしてますね。僕はラリュー兄弟のフランス映画みたいな変化球、フランス映画祭ではしょっちゅうやるけど日本公開はまだない、でも新作が出ればカンヌのコンペに入る、みたいな人が、ちゃんと公開されてヒットすれば、これは結構自慢できると思うんですけれども。

Q:業界の人たちは日本公開できそうな、でも売れてない映画がTIFFで見たい。2番目の『最強のふたり』みたいな映画をラインナップで探したい?

矢田部:それはありますね。そこで、それを探している人の期待に応えるのか、いや、あれをもう1回探されても困るよ、なのか、どうしていいかわからない。

Q:TIFFが日本映画を外に出して行こうという気持ちを分からないではないけど、日本映画自体に外に出ようという気持ちで作っている映画って、そんなにない。

矢田部:ないです。だから、そこを焚きつけるしかないなと。その焚きつける薪になればなと思っています。審査員に海外の映画祭のディレクターなどに入ってもらいますけど、外に出て行くのはそう簡単ではないと思います。

Q:それをTIFFがやってくださればいいんですが、単に英語の字幕をつけて上映するだけでは、そこで終わってしまう。

矢田部:そうなんですよね。たとえば、作家性を持った作家が意識的に精一杯作っても、やっぱり海外の土俵に出ると、まだ力不足で負けちゃう。本当にいつまでも園子温、三池崇史、是枝裕和じゃないだろう、というか。それはすばらしいんですけど、日本映画からまだ10年くらい新しいスターが出てきてないので、その下の世代を見つけて、ちょっと盛り上げていきたい、あるいはそういう人を無理矢理作っていきたいぐらいの思いはありますね。今、『サウダーヂ』の富田克也監督と『Playback』の三宅唱監督、あの二人に続いて欲しいし、次の作品がカンヌやベルリンのパノラマとかに入って展開していくと、いいなあと思いますし、こういう人を育てていきたいですね。

Q:PFFの監督は少し若いですが、TIFFのスプラッシュとフィルメックスで上映される日本映画って、相当重なっていますよね。

矢田部:たぶん応募してる人は両方に応募してると思います。<日本映画・ある視点>時代に特別招待作品とどこが違うの?みたいな日本映画が入ってたんで、わかりにくいと思ってインディー寄りにしたら、TIFF内ではわかりやすくなったんですけど、今度はフィルメックスとの違いがわかりにくくなった(笑)。本当はPFF、TIFF、フィルメックスという、ほぼ同時期にやっている映画祭が提携して日本映画を盛り上げていくみたいな仕組みがそろそろあってもいいんじゃないかなとは思っています。

Q:どうしても重なるのは仕方がないですし、若手を応援しないと映画祭の意味がない。そうすると、何かの連動があってもいいですね。

矢田部:それについては、椎名ディレクター・ジェネラルから皆、意識は一緒だと思います。

(齋藤敦子)