シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)「蟻族」の青春描く/アジアの未来・作品賞「今日から明日へ」

2013/10/26

tokyo13_p_04_01.jpg 昨年まで<アジアの風>といった部門が<アジアの未来>という長編2作目までの若いアジアの監督を対象としたコンペティション部門になりました。この部門では出品作8本のうち7本を見ましたが、仕事が重なって、やむなくキャンセルした日本映画『祖谷(いや)物語-おくのひと-』を見逃したことがとても心残りです。

 石坂健治プログラミング・ディレクターとのインタビューにも出てくるように、新人でもインディーズと限らないのがアジアの特徴。インドの『祈りの雨』は、1984年にインドのボパール市にあるアメリカ企業ユニオン・カーバイト社の農薬工場から猛毒ガスが流出し、周辺に住む住人1万人が死亡したと言われる事件の映画化。社会問題を扱いながらマーティン・シーンやミーシャ・バートンといった有名俳優やアメリカで活躍するインド系アメリカ人のカル・ペンといったスターを配して娯楽映画に仕立てたところがインドらしいと思います。ラヴィ・クマール監督はボパール出身で、これが長編デビュー作です。

 韓国の『起爆』は、爆弾を製造・爆破させて少年院に入った過去を持つ大学の研究員が、反抗的な学生と出会って深みにはまっていくサスペンス映画。キム・ジョンフン監督は31歳の新鋭で、長編デビュー作ながら、手慣れた演出で面白く見せてくれます。ただ、これは今年のカンヌで短編パルムを獲得した韓国映画『金庫』を見たときにも感じたことですが、全面的な国のバックアップを得て、映画業界と教育機関が一体化して新人を育成する韓国映画からは技術的にも優れた立派な作品が次々に生まれてくるものの、この作品をどうしても作らねばならなかった監督の思いのようなものが希薄な気がするのです。イ・チャンドン、キム・ギドク、ヤン・イクチュンに次ぐ新しい才能を早く見たいと思うのですが。

 トルコの『空っぽの家』は家族の絆をテーマにした作品で、父に家を出ていかれてバラバラになった家族を必死につなぎとめようとする長女の姿を中心に描いたもの。デニズ・アクチャイ監督はニューヨークで映画を学び、脚本家としてキャリアをスタートさせた女性で、これが長編監督デビュー作。トルコでは近年ニューウェーブといってもいい潮流が生まれており、2010年に『蜂蜜』でベルリン映画祭金熊賞を受賞したセミフ・カプランオール監督、今年のTIFFのコンペ部門に『歌う女』を出品したレハ・エルデム監督など、優秀な才能が生まれています。

 イランの『流れ犬パアト』は、主人が殺されて野良犬になったパアトという犬の目を通してイランの社会問題を浮き彫りにするもの。アミル・トゥーデルスタ監督は多くのCMを制作してきた31歳の新鋭で、これが長編デビュー。CM制作で培った垢抜けた映像で面白く見せてくれます。

 完成度の高い、新人らしからぬ作品が多かった中で、作品賞を受賞したのは中国の『今日から明日へ』でした。再開発の進む唐家嶺という北京郊外の町を舞台に、生活費を節約するため家賃の安い集合住宅に固まって暮らす蟻族と呼ばれる若者たちの姿を描いた青春映画で、ヤン・フイロン監督の自伝的な作品。技術的には前述の韓国、トルコ、イラン映画などには及ばないものの、監督がこの作品を撮りたいと思った、思いの強さがより高く評価されたように思いました。

 審査員の一人を務めた青山真治監督の講評によると審査は2対1に別れたそうで、1票差で破れた蔦哲一朗監督の『祖谷物語-おくのひと-』にはスペシャル・メンションが与え
られました。

 蔦監督は1984年生まれ。独自の方法で現像から焼き付けまでのすべての作業を自分で行うという文字通りインディペンデントの映像作家。『祖谷物語』も、デジタル全盛の時代に逆らい、35ミリフィルムを使って四季折々の自然を徳島の山奥で1年間に渡って撮影したものだそうです。

  写真はクロージングイベントから。(c)2013 TIFF

(齋藤敦子)