シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5・完)ビジョンに欠ける東京/現場の熱意生かす必要

2013/10/27

tokyo13_p_05_01.jpg 25日夜、授賞式が行われ、受賞結果が発表になりました。今年の審査員は映画監督のチェン・カイコーを長に、オーストラリアのプロデューサー、クリス・ブラウン、イギリスの映画監督クリス・ワイツ、韓国の女優ムン・ソリ、日本の寺島しのぶの各氏です。

 大賞の東京サクラ・グランプリに選ばれたのは、楽器もないのに、やみくもにパンク・バンドを始めてしまう3人の少女たちの奮闘を描いたスウェーデン映画『ウィ・アー・ザ・ベスト』。ルーカス・ムーディソン監督が、妻であるココ・ムーディソンの自伝を映画化したもので、完全にノー・マークの作品でした。

 受賞後の記者会見でクリス・ワイツ監督が漏らした話によれば、賞は『ウィ・アー・ザ・ベスト』、『馬々と人間たち』、『ルールを曲げろ』、『エンプティ・アワーズ』の間で争われ、最終的に以下のような結果になったとのこと。つまりは男女優賞は政治的な配慮の結果なのだと思います。『レッド・ファミリー』が外れたのは予想外でしたが、ああいうB級テイストを面白がる審査員がいなかったのは残念でした。

 バブル期に"日本にも世界的な映画祭を"と目標を高く掲げて出発した東京国際映画祭ですが、その後バブルがはじけ、当初は潤沢だった予算が次第に縮小されるにつれ、マイナーチェンジを繰り返しながらも、ここまで続いてこられたのは、ひとえに現場の熱意があったからだと思います。今年、国際感覚に優れたカリスマ経営者で映画好きだった依田巽チェアマンが退任した結果、TIFFの抱えていた問題が一気に表に出たように感じました。

 その一番の原因は、国際映画祭とは何か、どうあるべきかというビジョンが日本の映画業界に欠けていることだと思います。業界がTIFFに求めるのは、スペシャル・スクリーニングに公開間近の作品を並べ、ゲストにグリーン(レッド)カーペットを歩かせて宣伝に利用することだけ。矢田部プログラミング・ディレクターのインタビューにもあるように、彼らがコンペティション部門に求めるのは、劇場公開してヒットする『最強のふたり』のような作品、という意識の低さです。これは業界だけでなく、映画を扱うのが経産省と文化庁(文科省)に別れ、一貫した政策のない行政の側にも言えることで、今では官民一体となって映画産業を盛り上げている韓国のプサン国際映画祭に追い抜かれ、山形ドキュメンタリー映画祭にさえ質と量で敵わない状態になっています。

 これからTIFFがどういう道をたどるかは、日本の映画業界がどこまで国際映画祭を必要としているのかにかかっており、業界の意識改革なくしてTIFFの未来はない、ということを改めて強く感じた今年の映画祭でした。

 写真は大賞の東京サクラ・グランプリを受けた「ウィ・アー・ザ・ベスト」の1シーンです。

【受賞結果】
<コンペティション>部門
東京サクラ グランプリ、東京都知事賞
『ウィ・アー・ザ・ベスト』監督ルーカス・ムーディソン(スウェーデン)

審査員特別賞
『ルールを曲げろ』監督ベーナム・ベーザディ(イラン)

最優秀監督賞
ベネディクト・エルリングソン監督『馬々と人間たち』(アイスランド)

最優秀女優賞
ユージン・ドミンゴ『ある理髪師の物語』監督ジュン・ロブレス・ラナ(フィリピン)

最優秀男優賞
ワン・ジンチュン『オルドス警察日記』監督ニン・イン(中国)

最優秀芸術貢献賞
『エンプティ・アワーズ』監督アーロン・フェルナンデス(メキシコ)

観客賞
『レッド・ファミリー』監督イ・ジュヒョン(韓国)

<アジアの未来>部門
作品賞
『今日から明日へ』監督ヤン・フイロン(中国)

スペシャル・メンション
『祖谷物語-おくのひと-』監督 蔦哲一朗(日本)

<日本映画スプラッシュ>部門
『FORMA』監督 坂本あゆみ

(齋藤敦子)