シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)精神病棟にカメラ/ワン・ビン監督の「収容病棟」

2013/11/26

2013nantes_p_03_01.jpg 23日はコンペ作品、中国のワン・ビン監督の「収容病棟」(2013年、中国・仏・香港・日本合作)だけを見た。

 ワン・ビン監督といえば、デビュー作が3部作で計9時間の「鉄西区」(2003年の山形ドキュメンタリー映画祭、直後のナントでもグランプリ受賞)、昨年のグランプリと観客賞だった「三姉妹~雲南の子」も153分の長尺ものだった。

 今回は中国雲南省の公立の精神病院に隔離収容された患者たちの生活ぶりを執よう追いかけて記録した、227分のドキュメンタリー。初の日本との共同製作。「三姉妹」が、悲惨な状況ながら、生きる力強さを感じさせてくれたのに比べると、今回はテーマ自体が重く、見る前から少し怖じ気づいてしまい、この日は、この1本だけに絞って見ることにした。

 4時間近い上映時間、観客は少ないのではと勝手に思い込んでいたら、何とほぼ満席状態。ナント市民の監督への思いが伝わってきた。

 スチール写真を見てもらうと分かるが、病院はロの字の形のビルで、廊下が中庭に面して回遊なっていて、廊下は鉄柵と金網に覆われている。男性患者たちは2階の各部屋に6人ずつ、入れられている。

2013nantes_p_03_02.jpg ふとんを頭からかぶった患者を無理矢理起こそうという患者がいる。それが始まりだった。患者の中には、名前と収容期間が表示される者もいる。まだ20日の患者もいれば、20年という患者もいる。飲み物、食事が配られる以外、「ドクター!」と呼ばれる声はするのだが、ちゃんとした医師が治療行為を行っている様子は全く見られない。

 ただ、収容しているだけなのか? 

 何かを、労働を強制されるようなことはなく、各人が自由(?)に振る舞っている。日本での精神病院からイメージされる情景とは違うようだ。

 夜、寝られなくて裸のまま水をかぶる者、廊下を全速力で駆ける者、祈りを捧げる者、とさまざま。自分の主張を譲らない者がいるが、それで争いごとになることはない。わざわざ、他人の狭いベッドに潜り込む者も、ベッドを交換する者も...。

 家族が衣類や食べ物を持って訪れる。「すぐに帰りたい」と声高に繰り返すのだが、それを最後まで主張しない。家族のことも気遣うのか、最後は黙ってしまう。

 
2013nantes_p_03_03.jpg 治って、ここから出て行く者はいるのか、と思っていたら、11年間収容されていた男性が"退院"となった。カメラは、その男性の家まで追いかけ、家族の様子や、一夜明けた男性の表情も伝える。家族は淡々と接している風に見えたが、元患者の病院とは違う爽やかな表情が印象的だった。

 退院する際、病院側から「政府は、ちゃんと治療している(だから、退院できるんだ)」との声が漏れ聞こえてくるのだが、ここは監督が"譲歩"したのだろうか。

 病棟は決して明るくはないが、じゃあ、どうしようもなく暗いのか? 意外に明るいのだ。患者同士の微妙な助け合い、食べ物を分け合ったり、苛立ちをなだめたり、1階の女性患者との声の掛け合いの中に、ほのかに伝わる男女の機微...。そんな視点に、人間の救いを感じた。

 2日前に見た、ブラジルの厳しい高地の自然と生活ぶりを追ったドキュメンタリー「SOPRO」での生き様を思い浮かべた。そこでの、受け入れなければ生きていけないギリギリの生活は、収容者たちには無理なのかもしれない。患者たちは社会や家族に、どこか疎外感を抱いていて、それを他人より敏感に感じているだけ、なのだろう。1人1人が立ち向かっているわけではないのだ。病院内の微妙な助け合いは、その現れではないのだろうか、と思った。

 人間には根元的に救いがあるのでは、との意味では、作品を評価する拍手をしたかったが、できなかった。もちろん観客からは盛大な拍手が鳴りやまなかったのだが。

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 週末になって、クリスマス商戦の装いも整った街には、プレゼント下見の人たちがどっと繰り出した。この日も小雨が降り、夕方からは強い風が吹き荒れたが、夜遅くまで人々の姿が町中にあふれた。クリスマス用品の小物から装身具、チョコレートやワインとさまざまなものを扱う、この時期特有の"マルシェ(出店)"も店開きした。ナントの中心ロータリー、パレ・ロワイヤルには60近くが開店、日中からホットワインの甘い香りが周囲に漂った。

写真(上)金網張りの廊下で、それぞれの思いに浸る患者たち(「収容病棟」より)
写真(中)ワン・ビン監督の作品を見ようとカトロザ前に列をつくる観客たち
写真(下)上映前にあいさつするワン・ビン監督(右)

(桂 直之)