シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)人種、宗教を超えた普遍性/シサコ監督の「ティンブクトゥ」

2014/05/19

 cannes_2014_p03_01.jpg "闘い"をテーマにした作品を2本見ました。コンペ部門のトップで上映されたモーリタニアのアブデラマン・シサコ監督の『ティンブクトゥ』と、コンペ外特別招待作品のオサマ・モハンメッド、ウィアム・シマフ・ベディルクサン共同監督の『銀色の水 シリアの自画像』で、それぞれが対称的なやり方で"闘い"にアプローチをしています。

 『ティンブクトゥ』とはマリにある古都の名前。2012年にマリで起きた、正式に結婚していなかった若いカップルがイスラム過激派に処刑された事件にインスパイアされて出来た映画で、イスラム原理主義者に占拠され、サッカーも音楽も喫煙も禁止された宗教的不寛容の下で生きる村人たちの姿とその中で起こった悲劇を描いています。シサコ監督の話によれば、実際にティンブクトゥで撮影しようとしていたところ、準備期間中に現地で殺人事件が起きたため、監督の母国であるモーリタニアに移り、マリとの国境に近い村で撮影したとのことです。

 映画に登場するのは、砂漠で暮らす牛飼いの一家、法を超越した村の狂女、禁止された歌を歌って笞撃ちの刑を受ける娘、ボールを使わないエアサッカーを楽しむ子供たちなど。"ジハーディスト(聖戦義勇兵)も、できるだけ人間的に描こうとした"という監督の言葉通り、イスラム原理主義者も冷酷な圧制者というだけでなく、一人一人に顔があり、弱さも備えた人間として描かれています。そのことが現実を美化しているとして映画の評価を分けているようですが、作品として完成していくうえで、憎しみ、恨みといった感情を消化していったことが、人種や宗教の違いを超えた普遍性を映画に与えたように思えました。

 写真は記者会見の模様で、左からトゥルー・キキさん、シサコ監督、イブラヒム・アフメッドさん。キキさんもアフメッドさんも映画に出演するのは初めてで、本業はミュージシャンのアフメッドさんは初出演の感想を聞かれて、"映画がこんなに楽しいなら、続けてもいいかな"と答えていました。

 『銀色の水 シリアの自画像』は2011年から始まったシリアの内戦を扱った作品で、パリに住むシリア人のオサマ・モハンメッド監督と、シリアに住むクルド人女性のウィアム・シマフ・ベディルクサン監督の間に交わされた往復書簡の形をとりつつ、YouTubeにアップされた実際の映像をコラージュしたドキュメンタリーです。"銀色の水"とは光に反射する水面を表す言葉で、クルド語で"シマフ"といい、ベディルクサン監督の名前でもあります。

 体制派・反体制派を問わず、内乱の場に居合わせた当事者がデジカメやスマートフォンで記録した映像には、数えきれない死体、拷問される人間、おびただしい血が、投げだされた"物"のように映っています。その生々しい映像が、私たちに過酷な現実を突きつけ、映像の意味を消化せよと迫ってくるのです。

 なかで、ベティルクサン監督とおぼしき女性が、お腹の傷を縫合されているところを自分撮りしている映像が出て来るのですが、昨今のオバマ大統領をめぐる自分撮り騒動を思いだし、映像をめぐる環境が大きく変化している今という時代を考えさせられました。

(齋藤敦子)