シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)評価高い「ミスター・ターナー」「冬の眠り」

2014/05/20

2014cannes_p04_01.jpg 映画祭が最初の週末を迎えて前半が終わりました。今年は会期が1日少ないので、例年に増してあわただしいように感じます。ここまででプレスの評価が最も高いコンペ作品は、マイク・リー監督の『ミスター・ターナー』とヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『冬の眠り』です。

 『ミスター・ターナー』とは、19世紀イギリスで活躍した風景画家J・M・W・ターナー(1775-1851)のこと。理髪師の息子として生まれ、20代でロイヤル・アカデミー会員に選ばれ、ロマン派を代表する巨匠ターナーの人生を後半の50年に焦点をあて、"まるでターナーの画のように"撮られた美しい風景をまじえて描いています。

 私がターナーの名を知ったのは、夏目漱石の<坊ちゃん>の赤シャツと野だいこの会話が最初で、のちに美術館で本物を見ましたが、実際にどのような人だったのかはまったく知りませんでした。マイク・リーは以前『トプシー・ターヴィー』でもオペレッタ<ミカド>で有名な作家W・S・ギルバートと作曲家A・サリヴァンのコンビを扱っていて、伝記映画としては2作目ですが、<ミカド>の創作秘話が中心だった『トプシー・ターヴィー』とは違って、ターナー個人の人間性に迫る今回は、印象派に先んじて光を追求し、時代と相容れなくなっていく芸術家の宿命にマイク・リーが強く共感しているように思われ、ずっと親密な作品になっていました。

2014cannes_p04_02.jpg コンペにはもう1本、モードの帝王といわれたイヴ・サンローラン(1936-2008)を描くベルトラン・ボネロ監督の『サンローラン』という伝記映画があります。実はサンローランの伝記映画には他に2010年に作られたドキュメンタリー『イヴ・サンローラン』と、今年のベルリン映画祭で上映されたジャリル・レスペール監督の『イヴ・サンローラン』の2本の競作があり、特にレスペール監督の『イヴ・サンローラン』とは製作時期も重なる文字通りの競作で、サンローランのパートナーだったピエール・ベルジェ氏の協力を得て作られた"公認"のレスペール版に対し、"非公認"のボネロ版に注目が集まっていました。

 レスペール版が、クリスチャン・ディオールの下で頭角を現し、彼の後継者となり、アルジェリア戦争に徴兵され、精神療養施設に収容され、ピエール・ベルジェと出会って独立し、薬物やアルコールに依存し、というサンローランの人生を総花的に追う、とてもわかりやすい伝記映画なのに対し、ボネロ版は60年代から80年代に絞って、ファッションの魔物に取り憑かれた芸術家の人間性?に迫ろうとする作品で、その意味ではマイク・リー監督の『ミスター・ターナー』とも通底する"異色"の伝記映画だと思います。

 サンローラン役は、『ハンニバル・ライジング』でレクター博士の青年時代を演じたガスパール・ウリエル(英語読みではギャスパー)で、レスペール版で同役に抜擢されたコメディー・フランセーズ所属のピエール・ニネのそっくりぶりが評判だったのですが、ウリエルのサンローランも負けず劣らず素晴らしく、特に美しさと妖艶さでは勝っているように思いました。

 写真(上は)パレの屋上から見たレッドカーペットの模様。

 写真(下)は映画祭の会場

(齋藤敦子)