シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5)炭鉱事故の犠牲者を悼む/トルコ映画生誕百年の祝賀を延期

2014/05/22

2014cannes_p05_01.jpg マイク・リー監督の『ミスター・ターナー』と並んで評価の高いトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『冬の眠り』は、世界遺産に登録された奇岩で有名なカッパドキアを舞台に、俳優を引退し、ホテルに移り住んだ初老の男が過ごす一冬を描いた作品。富裕な男はその一帯の土地を買い、差配人を使って彼らを治めているのですが、寛大な領主のように振る舞う彼は、実は無慈悲なやり方で皆に嫌われており、若く美しい妻もそんな夫と別れようとしていることがわかってきます。ジェイランは、映画の大部分を室内の会話劇に構成し、濃密な緊張感の中、見事な演出力で男のモラルの危機を描いていました。

 今年はトルコの映画生誕百年にあたり、『冬の眠り』の公式上映が行われた16日の夜にレセプションが開催されることになっていたのですが、映画祭開催直前の13日にトルコ西部で起きた炭坑爆発事故の犠牲者を追悼し、3日間の服喪を行うため、19日に延期されることになりましたし、正式上映にはジェイラン監督や俳優たちも喪章をつけて登場しました。

 映画祭が後半に入ってすぐの19日に上映されたベネット・ミラー監督の『フォックスキャッチャー』も『冬の眠り』に負けず劣らず濃密な緊張感が漂う、賞レースに残るだろう素晴らしい作品でした。

 ミラー監督は、これまで『カポーティ』で作家のトルーマン・カポーティを、『マネーボール』でプロ野球オークランド・アスレチックスのジェネラル・マネージャー、ビリー・ビーンというように実在の人物を描いてきた方ですが、今回も兄弟でオリンピック金メダリストになったレスリングのシュルツ兄弟を描いています。

 映画はロサンゼルス・オリンピックで米国初の兄弟金メダリストになったところから始まります。人当たりがよく面倒見のいい兄デイヴに対してコンプレックスを持っていた内気な弟マークは、米国きっての名家で億万長者のジョン・E・デュポンの申し出を受け入れ、彼をコーチとして"チーム・フォックスキャッチャー"を結成、彼の敷地内に引っ越し、トレーニングを始めます。しかし、素人同然のデュポンでうまくいくはずがなく、結局は兄デイヴがコーチに加わり、やがてはアメリカのナショナルチーム全体がデュポンの庇護を受けるようになります。こうしてマーク、デイヴ、デュポンの間に愛憎とコンプレックスの混じった緊張感が高まり、悲劇に突入していく、というストーリーです。

 兄デイヴにマーク・ラファロ、弟マークにチャニング・テイタムが扮し、完璧に体を作ってレスリング選手を演じているのも凄いのですが、コメディアンのスティーヴ・カレルが今までの彼とはまったく正反対の、精神に問題のある富豪役を見事に演じているのに感心しました。

 さて、前述の通り、今年は伝記映画が多いのですが、監督週間で上映されたジョン・ブアマン監督の『クイーン・アンド・カントリー』も、自分自身の青春時代をテーマにした、ある意味での伝記映画で、『戦場の小さな天使たち』の主人公ビルが成長し、18歳のときに徴兵されて朝鮮戦争に送られる兵士の教育係をしていた2年間をユーモアたっぷりに描いています。

 写真は上映前に舞台挨拶するブアマン監督。『殺しの分け前/ポイント・ブランク』や『脱出』の名匠は今年81歳。上映後には満場の観客から大きな拍手が送られました。

(齋藤敦子)