シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)さらなる実りに期待/「アジアの未来」部門PD石坂健治氏に聞く

2014/10/22

tokyo_cinema_photo01.jpg-去年初めて<アジアの未来>というコンペ部門を作ってみて、その感想は?

石坂:反省点としては、監督作の1本目とか2本目が対象なので、当然、まだ広く知れ渡ってない人達で、それをどうPRするかということです。

-作品的にはバラエティに富んでいて、インドの映画などは新人とは思えない、商業的な作品でしたが、賞はインディーズ系の青春映画みたいな方に行きました。

石坂:やっぱり青春ものは多いです。作品的には幅広く集めていて、青春ものであっても社会問題が見えてきたり、環境問題や近代化によるひずみとか、今年も結果としてはそういうものが集まっています。賞は審査員が何を選ぶかですから。

-今年は対象作品の数が増えましたね。

石坂:今年は2本増えて全部で10本、東アジアから東南アジア、中東まで10カ国各1本ずつです。

-タイトルと内容をざっと見た感じですが、今年の方が<アジアの未来>の色が見えてきたような気がします。

石坂:そう言っていただけると(笑)。去年1回やったことで、ああ、こういうものが始まったんだ、じゃあ出してみようかなという反応は確実に増えています。それから、去年の作品賞の中国映画『今日から明日へ』、スペシャル・メンションの日本映画『祖谷物語―おくのひと―』が、あの後かなり世界を回っていて、それはよかったなと。結果として今年10本のうち9本がワールドプレミアで、TIFFでお披露目をして欲しいという作品が集まりました。

-<アジアの未来>自体の知名度も上がってきたということですか?

石坂:2年前までの<アジアの風>はプレミア関係なく、直前にプサンで上映してもウェルカムで、何でもアリ、ということでやってましたけど、<アジアの未来>が認知されて、来年再来年になって、みのりがいろいろ出て来るんじゃないかなと思います。

●国際交流基金のサポートで作品増

-仮想敵であるプサンが視野に入ってくる?

石坂:プサンの<ニュー・カランツ(新しい潮流)>は12本ですが、今年はワールドプレミアの数でプサンに勝ったんです。

-もう射程に入ったわけですね(笑)

石坂:ワールドプレミアと言っても映画がつまんなきゃしょうがないんで、それは勝ち負けじゃないんですけど。もちろん、ノンコンペのパノラマの数はプサンの方が凄いですよ、40~50本あるんで。そこは予算次第ですけど、TIFFも去年からするとアジア映画全体で10本増えていて、これは国際交流基金のサポートが大きいんです。

-どんなサポートを?

 今年、国際交流基金がアジアセンターというのを作って、そこと共催になったんです。これが2020年まで7年一緒にやるという長期的な見通しが立ったので、作品の増加とゲストの増加が可能になりました。

-具体的には?

石坂:東京映画祭で上映するアジア映画に関して包括的にサポートしてもらい、それに加えて、タイの特集<クロスカットアジア>は冠スポンサーにということです。

 日本はアジア映画ファンが多いんで、本数が減って、いろいろとご意見もいただいていたんで、やっと一昨年並に戻ったというところです。

-去年は台湾の特集でしたが、今年はタイですね?

石坂:台湾の前がインドネシアで、その前がフィリピン・シネマラヤというのをやって、気づいたらタイは非常にご無沙汰で、TIFFでも、暉峻くんの時代にもやってないんじゃいかな。私が交流基金にいた時代に2回くらい映画祭をやりましたが、それからでも、もう10年くらい経つんで、まずはタイの現状報告をと。

●インディーズ、メジャーともに面白いタイ

-タイの映画産業は、今はどんな感じですか?

石坂:今年はクーデタがありましたね。それから、アピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』から4年経って、アピチャッポンにあこがれて、インディーズ的に作り始めたという世代が出てきています。アピチャッポン自身はアートの方へ行っていて、長編映画はちょっとご無沙汰ですが。ポスト・アピチャッポンのインディーズ勢と、今度『愛しのゴースト』が公開になりますが、相変わらずホラーを中心としたメジャー作品と、両方面白いです。

-日本にはタイの商業映画はなかなか入ってきませんが。

石坂:10年前には『アタック・ナンバーハーフ』とか『ナンナーク』とか、結構入っていたんです。『マッハ:』や『チョコレート・ファイター』とか。あの頃、タイ映画ルネッサンスという言い方をしましたが、あの時代を引っ張ったルネッサンスの人達のその後が、今回の特集でわかるんじゃないかと思います。

-アピチャッポン系インディーズ映画と、ルネッサンスその後系の2本立て?

石坂:8本あるんで、ちょうど半々くらい。これも、かなりバラエティに富んでいます。

-では、今年の<アジアの未来>の見どころを。

石坂:韓国の『メイド・イン・チャイナ』とイランの『ゼロ地帯の子供達』は、巨匠がサポートしている作品。韓国の『メイド・イン・チャイナ』は去年の『レッド・ファミリー』と同じキム・ギドク・フィルムの製作。キム・ギドク脚本で、新人が監督しています。中国の養殖うなぎが韓国の検査にひっかかり、中国人の養殖業者が密入国して、韓国で一旗あげる。韓国映画では脱北は多いけど、中国からっていうのは、なかなか新しい視点で、しかもそこに食の安全というタイムリーな話題が入ってくるという、キム・ギドクの脚本が冴えている。

 イランの『ゼロ地帯の子供達』はアボルファズル・ジャリリがアドバイザーで、師匠が控えているので、やっぱりしっかりしてます。でも新人ならではの個性も入ってくるので、どっかで見たような感じもするかもしれないけど、新しい動きも見てもらえると思います。子供が主人公なんですが、ほのぼの系じゃなく、『少年と砂漠のカフェ』のあの感じというか、まさにジャリリ的な、見事にひとりで生きてる子供という映画です。

●ホラー復活のカンボジア

-中国はどうですか?

石坂:『北北東』って、ヒッチコックみたいなタイトルですが、これも新しい動きで、警察ものなんです。文革終わった直後の警察の冴えない署長さんと漢方医のおばあちゃんが組んで事件を解決するという、よく出来たエンタメです。『シャーロック・ホームズ』とは言わないけど、『相棒』みたいな映画かな。

-カンボジアの『遺されたフィルム』は女性監督ですね。

石坂:彼女はかなり歳がいっていて、もう40歳に近いです。リティ・パニュの映画とか、ドキュメンタリーでポルポト時代を描くのはありましたが、これは劇映画で、自分の父母、祖父母がどういう時代を生きたかを孫娘が調べるという、その過程で、残っていたフィルムに映っているのが元女優だった母親だったことがわかり、なくなってしまったラストシーンを今の若者たちでシナリオをみながら再現する。そういう意味では、リティ・パニュあたりの問題意識と重なっていて、これは映画祭でやるべきだなと思った。

-カンボジアの映画産業はどんな感じですか?

石坂:産業というにはまだあれですけど、リティさんなどが非常に尽力して、いろんな施設を作っています。ビデオなんかだと、早くもホラー映画が復活し始めているから、昔みたいになっていくんじゃないですか。タイ以前のホラー王国はカンボジアだったんで。

-『怪奇ヘビ男』とか。

石坂:『ヘビ男』の断片もちらっと出てきますよ。『ヘビ男』のヒロインを演じた当時の大女優ディ・サヴェットが、お母さん役をやっています。

-インドネシアの『太陽を失って』は?

石坂:ラッキー・スクワンディはインドネシアでは珍しく、同性愛とか、ジェンダー的なテーマを撮っている人で、これは2本目なんだけど、ニューヨーク帰りの女性がジャカルタの変貌ぶりに驚いて、アイデンティティの危機に陥るのと、かつての恋人の女性が戻ってきて、よりを戻すか戻さないかみたいな話で、インドネシア映画では一番新しいなと思いました。

●景色が美しい「ツバメの喉が渇くとき」

-今年はトルコ映画がカンヌでも受賞しましたね。

石坂:トルコはいいですね。この『ツバメの喉が渇くとき』という映画も本当に景色がきれいな映画で、小川プロみたいな映画ですけど、途中からダム建設反対運動が入ってくる。

-まるで小川プロですね。

石坂:だから好きだったのかな(笑)

-日本は杉野希妃さんが監督した『マンガ肉と僕』が入っていますが。

石坂:この作品は京都が舞台で、杉野さんの自作自演ですが、編集にタイのアピチャッポンの編集者だったリー・チャータメーティクンさんが入っていたりするんです。リーさんはタイの特集に監督作の『コンクリートの雲』が入っていますし、コンペのエドモンド・ヨウの『破裂するドリアンの河の記憶』も編集していて、アジア全域に貢献しています。

-撮影監督のユー・リクウァイとか、あんな感じですね。アジアはだんだん面白くなってきましたね、いい意味でスクランブルがあって。

石坂:国境を越える人達。杉野さんもそういう意味では国境関係ない人なので。

-審査員は?

石坂:トロント映画祭のディレクターのキャメロン・ベイリー、香港のジェイコブ・ウォン、それとヤン・イクチュンです。

-ジェイコブ・ウォンは去年もやりましたよね?

石坂:実はこの部門の1つの目的というのが、ここがゴールじゃなく、ここから世界へ行ってもらいたいということなので、欧米への窓としてトロントのキャメロン・ベイリーに見てもらい、ちょうど半年後が香港映画祭なので、ジェイコブ・ウォンに見てもらい、それから同世代のヤン・イクチュンに忌憚のない意見を言ってもらう。

-去年の青山真治監督のポジションですね。この3人が何を選ぶか楽しみですね。

石坂:全然わかりません。特にトロントのキャメロン・ベイリーが何を選ぶかは。

-去年のインタビューは寂しい話ばかりで、東京映画祭ってこれからどうなるんだろうとすごく思ったけど、今年こうやって、ちょっとよくなったように見えると、かえってよくないんじゃないかという気はしますね。この先、東京映画祭がどうなっていくのか、映画産業とどうつながっていくのかみたいな問題が放り投げられたままになっている。石坂さんや矢田部さんが一所懸命、頭を使ってプログラミングしても、結局何だったんだみたいな結果になる。そこが外から見ていてイラつくところです。

石坂:日本の産業構造というか、どの産業も同じなんじゃないかと、ときどき思うんですけど。

-根本のところは手つかずで、見栄えだけよくするというか。そういうところが韓国みたいに官民一体になって映画産業を建て直したところに負けるんだよなって思うんです。
(10月1日、東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)