シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)「東京」への注目度を高めたい/「コンペティション」部門PD矢田部吉彦氏に聞く

2014/10/24

2014tokyo_cinema_02.jpg-去年は予算減でタイトな映画祭でしたが、今年は本数も増えたし、楽しそうな感じが戻ってきた気がします。今年の抱負は?

矢田部:映画祭は映画を上映してなんぼ、なんで、本数を増やすことができたのはとてもよかったと思っています。<コンペティション>の15本は変わりませんが、タイ特集ができたり、<ワールド・フォーカス>もアジアと合わせてですが、今年は23本と去年より増えていますし、<アジアの未来>も8本から10本に増えている。このくらい整わないと、映画祭の体裁にならない部分もありますので、それが達成できてよかったと思います。

-<ワールド・フォーカス>に他の映画祭で賞をとった映画がたくさん入ってますね。ヴェネチアの受賞作はもちろんその前に 選定したわけでしょうが、どういう風に決めていったんですか。

矢田部:ヴェネチアには行けないので、ラインアップを見て、間に合う限り取り寄せて見ました。コンチャロフスキーの『白夜 と配達人』がそうで、ボクダノヴィッチの『シーズ・ザット・ファニー』は、ちょっと前から話があったんですが、ヴェネチアで特別上映が決まったと聞いて、あわてて取り寄せたり、『ハングリー・ハーツ』という男女優賞をW受賞した作品は、もともと監督が好きだったので、結構早い段階でローマで見せてもらったり。ロイ・アンダーソンの『実存を省みる枝の上の鳩』もフランスの製作会社から早めに見せてもらって、<ワールド・フォーカス>にと決めていました。金獅子賞をとるとは思わなかったですが。

-カルロヴィ・ヴァリ映画祭のグランプリ『コーン・アイランド』も入ってますね。

矢田部:あれは賞をとったものを取り寄せて見てみたら、これはさすがにグランプリだなと思って、もう文句なく。

-目玉である<コンペティション>のセレクションは?

矢田部:今年も有名監督のワールドプレミアを少しずつ増やしたいなという抱負は持ちつつやっているんですが、まだまだ道途上だと思います。カンヌ後くらいから本格的に、こっちから追っかけているのと応募してもらっているのと合わせて見ていって、最終的には、やはり面白いと思えたものというところに落ち着いちゃうんです。たとえば今年は南米で3本くらい面白い映画が重なってしまい、3本同時に入れるわけにもいかないし、とか。そういったところを1つ1つクリアしながら決めていくって感じでしょうか。

●<アジアの未来>と棲み分け?

-去年<アジアの未来>という新人発掘の部門が出来たので、コンペは有名監督の作品という棲み分けで、という風にシフトしてきたんでしょうか。

矢田部:実はそうでもないんです。そう言った方がわかりやすいんですけれど。現に新人監督が入ってますし、こちらの部門もアジア限定だったら必然的にそういうことになるでしょうが、もうちょっと規模の大きいという言い方は語弊がありますが、もう1ステップ上のレベルの作品という漠としたイメージです。『紙の月』をコンペに入れたというのも、少しずつそういう方向に行きたい意志の現れではありますね。

-今年は歌舞伎座スペシャルナイトがあったり、庵野秀明の特集があってアニメの方に寄ってみたり、派手めな企画があります。私は映画祭の核は2つのコンペ部門だと思うんですが、派手な方がどうしても目をひいてしまい、注意が削がれるというか、映画祭がぼやけるんじゃないかとも感じたんですが。

矢田部:もうそういう風に思っている時期では僕はないです。日本でコンペやアジアをやって行くには、こちらがどんなに頑張っても限界がある。こちらの努力不足もあるでしょうが、日本のアート系映画のパイが一定の量しかなく、ほっとくとどんどん小さくなってしまう。そこを僕と石坂さんが何とか引き留めようとしている。どんなに頑張っても東京映画祭が注目してもらえる範囲って限界があると思うんです。それをアニメなどが注目されることによって、東京映画祭を知ってくれる人が増えるとしたら、それは長い目で見て映画全体のためになると思うし、我々が頑張ってもできないところにリーチしていくかもしれない。裾野を広げるという意味では必要なことだと思います。

-矢田部さんは、アート系で、しかも配給可能な、ちょっと微妙な作品を選んできているわけですが、日本公開につながる、つながらないというところでは、以前と比べて変化を感じますか?

矢田部:一番どん底だったのが4、5年前だと思うんです。僕がプログラミングをやり始めて今年で8年目なんですが、スタートした頃からどんどん悪くなっていって、それが3年くらい前からあれっていう感じになって、去年今年と凄く売れているようです。コンペの作品に関して言えば、時間はかかりますが、たとえば1年くらいのタイムラグが出てしまいましたが、去年の『レッド・ファミリー』が明日公開(10月4日)とか、『馬々と人間たち』がもうすぐ公開とか、2年前の『NO』が最近公開されたり、そういった動きが前より多いような気がします。それは心強いですが、では本当にパイが広がっているかというと、そんなに広がっている実感はないですね。配給会社の方々とかが必死で頑張っているというのが現状だと思います。

●これは新しいお客だ!

-観客に変化は?

矢田部:去年の映画祭では変化をとても感じましたね。学生500円というのが功を奏したのかもしれない。変な話ですけど、Q&Aの司会で壇上に立っていて、質問のレベルがすごく下がったんです。こんな質問、前は出なかったよなと。映画祭馴れしている人には、"こんな当たり前なこと聞くなよ"みたいなことを聞く人がいて、最初は戸惑ったんですけど、"これは新しいお客だ!"と思って、すごく嬉しくなったんです。それは去年すごく思ったことでした。

-阻んでいるのはチケット代でしょうか?

矢田部:それはあるかな。大学にレクチャーに行って、映画は高いって言われることは正直あります。

-観客数的には?去年は作品数が少なかったから比較にはならないかもしれないですが。

矢田部:1作品あたりの動員数は上がっていると思いますし、壇上にいても、お客さんが沢山いるなと思うことが多いですね。

-映画祭というのは映画のお客さんを広げる先兵というか、映画のショーケースとして接点になって欲しいので、学生500円は嬉しい試みでした。今年もやるんですか?

矢田部:当日券限りですが、今年もやります。問題はそこかもしれない。配給がつくかもしれないアート映画の牙城を守りたいという思いと、でもお客さんを増やしたいという思い。コア層にそっぽを向かれると映画祭として成り立たないし、コア層だけを相手にしていると閉じてしまう、

-映画祭が痩せちゃいますね。

矢田部:その中間を狙うと中途半端だと言われる(笑)これは答えの出ない悩みです。

-今年の見どころは?えこひいきするわけにいかないので言いにくいとは思いますが、コア層と、一般の人が見て楽しめる映画を選んでいただくと。

●客層広げる?「1001グラム」

矢田部:一般層というか、観客を広げる意味でいいなと思っているのは、まず『1001グラム』ですね。ベント・ハーメルは名前もあるし、一定量のクオリティを維持する監督です。今回、とてもシンプルで暖かい物語になったので。この作品はつい先日、日本配給が決まりました。フランスの『マルセイユ・コネクション』は、『最強のふたり』的なポジションというか、見たら面白かったんで、困ったなと。でも、もう面白いから入れようと思いました。

-こういう映画が入ってくるのが東京映画祭ですね。

矢田部:プレミア度も高いんです。フランス公開は12月で、トロントの次がうちくらいかな。他の映画祭にはコンペ部門にアウト・オブ・コンペという、配給のついてない、プレミア度の高い作品があるじゃないですか。それがうちにない。映画祭を知ってる人ならアウト・オブ・コンペと言えば"ああ"となりますけど、アウト・オブ・コンペとはなんぞやということを日本のプレスとお客さんに一から説明するのもどうかなと思って、そういう映画もコンペに入れてしまおうと。で、一気にマニアックになるんですけど、フランス映画がもう1本入ってまして、このロマン・グーピルの『来るべき日々』は、かなりコアなファン向けですね。彼の『ハンズアップ』という作品が5年くらい前に、当時の<ワールド・シネマ>で上映されて、一部に熱狂的に支持されて、でも配給は決まらなかったんですけど。『来るべき日々』は絶品のセルフ・ドキュメンタリーです。
 個人的に薦めているのはイランの『メルボルン』ですね。室内劇なんですけど、若い夫婦が留学に出かける日に起きてしまっ た事件に振り回されるという映画で、すごくシンプルな設定ですが、脚本がうまくて、シンプルでもここまで映画は面白くなれるという。日本の若い監督に見てもらいたいですね。ブルガリアの『ザ・レッスン/授業の代償』もそうです。新人監督なんですが、ドラマの構築の仕方が非常に巧みで、後半ちょっとハラハラする。『メルボルン』と『ザ・レッスン』は、お金も特殊効果もなく、面白い映画が作れるという見本になると思います。

●秋の勝負作をまず東京で

-日本映画は『紙の月』1本ですが、ホスト国なので、2本くらいあってもいいんじゃないかと。

矢田部:その意見はとてもわかります。ただ、松竹さんの秋の勝負作がコンペに入ることが実はかなり画期的で、そうあって欲しいなと思っていることの1つでした。東宝、東映、松竹の秋の勝負作は普通に東京映画祭に出すんだと映画業界の人達にも意識してもらいたい、と。モントリオール出します、バンクーバー出します、大変結構なんですけど、まず東京のコンペ考えてみてよ、ということを常々思ってまして。受賞を逃すとみっともないということもあり、かつ、コンペに出したらどんなメリットがあるのか、ということに映画祭が応えきれてなかった。『紙の月』は、まず監督の吉田大八さんをずっと追いかけていたことと、こういう作品がちゃんとコンペに入るようにしていかなきゃいけないと思ったので、トップに動いてもらったりしたんです。それに、おしなべて今年の日本映画は絶不調だと思いますね。なので『紙の月』以外に入れたいと思う作品がなかった。

-私も日本の映画業界にもっと東京映画祭をサポートして欲しいなとは思っているんです。モントリオールに出せば賞を貰えるかもしれないけど。

矢田部:映画祭の知名度が業界ではどうであれ、海外で賞をとったとなれば一般の方には非常に大きなアピールになるというのは、よく理解できます。

-マスコミのせいもあると思いますね。海外の映画祭のことをよく知らないから。『紙の月』がコンペに入ったことはちょっと驚きで、大手映画会社の映画がちゃんとコンペに出てきたということは努力の成果だなと思います。来年はこういう作品が2本くらい入ってくるといいですね。

矢田部:こういう作品が2本か、『紙の月』と『フラッシュバック・メモリーズ3D』のようなインディーズの画期的な作品が並ぶのもいいかなと思いますよね。

-去年の最低限の映画祭から今年の映画祭へ線を引くとすると、来年はその延長上にあると考えていいんでしょうか。

矢田部:作品選定に関しては、僕と石坂さんが続けている限り、線上にあると思います。1年1年でいろんなことがあるけれども、プログラマーがまっすぐやっていくことが僕は重要だと思います。
(10月3日、東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)