シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)混乱の時代のアンチ・ヒーロー描く/ロッセーリ監督の「マウロ(MAURO)」

2014/12/02

nantes2014_p03_mauro.jpg 29日はコンペ作品、アルゼンチンのヘルマン・ロッセーリ監督の「マウロ(MAURO)」(2014年)とユー・リクウァイ特集の彼の監督作、メロドラマ特集のインド作品、コロンビア特集の短編2作を見た。

 21世紀に入りアルゼンチンの財政危機は深刻で、人身売買、麻薬密売、インフレで額面だけ高くなった紙幣の偽札づくりが横行する。監督が「マウロ」で描きたかったのは、混乱の時代だからこそヒーロー、いやアンチ・ヒーローを登場させたかったのだろう。

 マウロもバス運転手としての平凡な生活に隠れて、裏家業に手を染めていく。母親の言いなりから飛び出し、親しい友人のカップルと新しい「ビジネス」を始め、パプロという相手も見つける。手刷りから輪転機を使った本格的な偽札づくりへと乗り出し、それは見ようによっては工芸品をつくり出すようなものだった。

 監督は偽札づくりの工程を、手刷りから輪転機まで、札の出来栄えとともに作業の様子について細部にこだわって描き出している。そのことで、逆説的に「悪」である存在もヒーローとなりえることを示した。

【写真】パウロが現れ、「仕事」にも励むマウロ(「マウロ」より)

 ユー・リクウァイ特集は、彼の長編デビュー作で脚本も手掛けた「天上の恋歌」(2000年)を見た。
 香港を舞台に、アダルトビデオ店を経営するヒモ男と事故でダンサーをあきらめて男のパトロンになった中年女、中国本土からやってきて娼婦となった若い女、エレベーター整備士の若い男、この不器用な男女4人の出会いとすれ違いが描かれる。


 彼は撮影助手を務めるかたわら、映画製作も始め、1996年、田舎から北京に出てきた女性3人の生活をとらえた中編ドキュメンタリー「ネオンの女神たち」を撮り上げ、翌年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でシネマ・ダイスキ賞を受賞している。この撮影で出会った女性たちのエピソードや考え方が、「天上の恋歌」の下敷きになっているという。決して、このままでいいとは思っていないのだが、突き破ることができないでいる。だからこそ不器用になってしまうさまが、伝わってくる。


 彼はジャ・ジャンクー監督の「一瞬の夢」(1997年=3大陸映画祭でグランプリ)に撮影監督として参加して以降、「プラットホーム」(2000年=ベネチア映画祭最優秀アジア映画賞)「青い稲妻」(2002年)「長江哀歌」(06年=ベネチア映画祭グランプリ)「四川のうた」(08年)と、ジャ・ジャンクー作品にはなくてはならない存在となっている。今回の特集では、「プラットホーム」以降のジャ・ジャンクー4作品、彼の長編第2作「オール・トゥモローズ・パーティーズ」(03年)などが上映された。

 メロドラマ特集はインドのグル・ダット監督の「渇き」(1957年)。売れない詩人(グル・ダット)は兄弟や周囲からも相手にされないが、若い娼婦(ワヒーダ・ラフマーン)だけは良さを理解する。列車事故に巻き込まれ、彼は自殺したと思われ、娼婦が出版社に頼み込んで出版された遺稿集は大ベストセラーになる。彼が生きていたと分かると、出版社の社長らは彼を精神病院に閉じ込めてしまう。何とか脱走したら、彼の1周忌が盛大に行われる日だった。彼はその会場を訪れるが...。 

 本来の詩の良さなど理解せずに、金もうけとしての詩集にむらがる人たち。詩人は、そんな人たちが求めるのは名前であって自分ではないと否定、会場は大混乱になる。

 テーマは重苦しいのだが、詩人の翻弄される人生、彼の支える娼婦のけなげさなど、メロドラマの要素はちゃんと盛り込まれている。殊に、インド映画特有の歌が、詩を歌い上げる形で登場するのだが、歌詞が詩のレベルにまで近づいていて、ただ耳に優しいのではなく、力強く主張し、魂にまで迫ってくる。随所に見られるコメディ的場面も楽しく、芸術性と大衆娯楽性を両立させた作品となっていて、今見ても決して古くない。

 2005年の米タイム誌「永遠の名作100選」に選出されている。ただグル・ダット自身は映画製作のすべてに自分が関わろうとし、納得いくまで撮り直したことなどもあって、自分を追い詰め、1964年、自宅で自ら命を絶っている。39歳だった。

 コロンビア特集は草創期の2本を見た。ともにモノクロで、サイレント。「黄金の爪」(1926年、P・P・ジャンバリーナ監督)は、パナマ運河開通の1914年に設定され、北米の人たちが、合衆国の国家事業に対して国益を守ろうと、コロンビアと組んで右往左往するさまを描いたもの。映画史上で最初に反帝国主義を扱った作品と見られている。

 もう1本の「青いロブスター」(1954年、アルバロ・セペダ・サムディオら4人が監督)は、秘密機関員グリンゴがカリブ海で捕れたロブスターに放射線汚染の疑いが起こって調査するのだが、このロブスターを猫が盗んでしまう。彼は猫を追って道という道を歩き回る。サイレントのため字幕が出るのだが、迷い犬、子どもや凧など、視覚的に目を引くように工夫されているのも珍しい。

         <<<    >>>

nantes2014_p03_nigiwai.jpg 今年のナントは温かく、平日でも人通りが多いのだが、やはり週末となると、歩道全部が人で埋まるほどになってしまう。クリスマス用品の小物から装身具、チョコレートやワインとさまざまなものを扱う、この時期特有の"マルシェ(出店)"も店開きして、こちらも大にぎわい。ただ気になったのが、ヴァイオリンなどを演奏するのでもなく、ただ座り込んで寄付を求める人の数が、昨年より目立つことだ。それだけ厳しさが続いているということなのだろう。

【写真】映画祭の旗が連なる商店街通も、歩道は人でいっぱい

nantes2014_p03_tohyo.jpg

【写真】コンペ作品を見終わった後で投票する観客たち(KATORZAで)

(桂 直之)