シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)最後のラバ牧童の世界/アロンソ監督の「山の中」

2014/12/04

nates2014_p04_yamanonaka.jpg 30日はコンペ作品からアルゼンチンのニコラス・マカリオ=アロンソ監督の「山の中」と韓国のホン・サンス監督の「自由が丘で」、メロドラマ特集からメキシコ「Enamorada(愛)」を見た。

 「山の中」(アルゼンチン・コロンビア合作、2014年)は、コンペ作品で唯一のドキュメンタリー。監督自身はアルゼンチンのブエノスアイレス生まれだが、コロンビアで育った縁があり、同国リサラルダ県の山中に暮らす最後のラバ牧童たちの世界を追った。

 母親の介護などで町に向かう者いるが、残った者は共同で昔ながらのラバの牧童として暮らす。農作業でも、町から生活に必要な家具や雑器を運ぶ際もラバを使う。車はもちろん入れない、人でさえも歩きにくい山道を、ラバに隊列を組ませ、最後まで運び上げてしまう。ほぼ自給自足、靴だって自分で直す。生活の何もかもを、かたくなに昔ながらのやり方で続けているのだ。

 彼らは、ラバの気性はもちろん山道の勾配やカーブも熟知し、ラバの隊列がリズム良く登れるように掛け声をかけ、急勾配では最少のムチをふるう。それでも駄目な場面では、自らが代わって運びさえもする。

 監督は、彼らの寡黙で無駄のない暮らしぶりを、自然に立ち向かうのではなく、寄り添って生きる者として、静かな視点で捉えている。またギターを主体とした音楽が、祖父や父と同じように家族を守ろうと決めている彼らと自然を、一体的に包み込むように響いて、心に染みた。

 エンドロールでは、彼らが築いた木造住居が絵模様で現れ、完成するまでの過程を教えてくれるという、監督の遊び心も心憎かった。

【写真】寡黙な男たちはラバの隊列を見事に導いて目的地を目指す(「山の中」より)

 

nates2014_p04_jiyugaoka.jpg 「自由が丘で」は、片思いの韓国人女性を追ってソウルにやってきた日本人モリ(加瀬亮)が、迷路のような街を歩き回りながら彼女に宛てた日記のような手紙を書く。その一方で、迷い犬を見つけたことが縁で、カフェ「自由が丘」(何と日本語表記)の女主人(ムン・ソリ)と急接近することに。モリが泊まるゲストハウスには米国帰りの韓国男性もいて、韓国語でなく英語が飛び交い、微妙なズレのまま「時間の迷路」に迷い込む...。

 ホン・サンス監督は、「アバンチュールはパリで」(2003年)や仏女優のイザベル・ユベールを主演にした「3人のアンヌ」(12年)など、欧米的エスプリがきいた恋愛模様を描き、ヨーロッパでも大人気だ。昨年のコンペ部門でも、つかみどころのない憎めないヒロインに3人の男が振り回される「ソニはご機嫌ななめ」が選ばれていていた。

 今回の「自由が丘で」は、監督が加瀬亮とやりたくて実現した作品だという。お互いが母国語でない言葉を仲介することで、日常の中で見えてくるものがある-、加瀬の自然体の演技が、それを上手く引き出せたようだ。脚本も監督で、多国語都市ソウルならではの設定。東京ではどうか? 日本の監督には、この発想は湧かないだろうと思い、「やられた」という気持ちにさせられた。

【写真】モリはカフェ「自由が丘」の店主に急接近していく...(「自由が丘で」より)

 メロドラマ特集の「愛」(エミリオ・フェルナンデス監督、1946年)は、混乱期のメキシコで、町を管理下においた将軍と、町の有力者の娘との恋の駆け引きを描いたもの。父親を拘束した将軍に、平手で返したり、花火で撃退したりした彼女だが、あきらめない将軍の純情に、心は次第に揺らいでくる。彼女の窓辺の下でギタートリオが奏でる甘いメロディーが、何とも切ない。彼女はアメリカ人婚約者と挙式寸前にまでなるが、将軍が町のために立ち上がり出陣するのを知り、決然と将軍の馬の傍らに立って行進を始める。戦闘などはアップテンポに、恋愛模様はスローテンポにと描き分け、光と影もうまく取り込みながら、恋の案内役がコミカルに登場もして、飽きさせない。これぞメロドラマという作品を、大いに楽しんだ。

 メロドラマ特集では日本からは、溝口健二監督の「楊貴妃」(1955年)、成瀬巳喜男監督の「浮雲」(1955年)が選ばれていた。「浮雲」は林芙美子原作で、高峰秀子、森雅之が演ずる男女が、腐れ縁のまま墜ちていく姿を、冷静に緊張感を持ちながら描き切った作品。墜ちていきながら離れられない、これも「ひとつの愛の形」。ナントの観客が、どう見たのか関心があったが、時間の関係で足を運ぶことはできなかった。 
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nates2014_p04_graslin.jpg 日曜日の夜は、100年を超すビストロ「シガール」で、映画祭の通訳ボランティアとして知り合った日本人女性の2家族と食事をともにした。食事が終わり、デザートになった時、店のスタッフたちが「Happy Birthday」を歌いながら、ケーキを運んできて、ビックリ。ケーキには僕の名前と20周年というプレートが乗っていた。

 「今年で映画祭訪問20回目」と知った友人の1人が、この日参加できなかった友人たちにも声を掛けて、計画してくれたものだった。周囲のお客もちょっとビックリした表情だった。いつも甘すぎ

nates2014_p04_cigarl.jpgるケーキなのだが、それ以上に、友人たちの思いに浸って、さらに甘く感じられた。今年のナントは想像していた以上に温かく、昨年の寒さにこりて、重装備の冬支度をしてきたのだが、逆に重荷になった。これも温暖化の影響なのだろうか。

【写真・上】整備されたグラスリン劇場前のロータリー。正面のひと際明るい照明が「シガール」。この日は月がきれいだった。
【写真・下】100年を超すビストロ「シガール」の異国趣味にあふれた店内

(桂 直之)