シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4)デジタル上映された「正義の記憶」/オフュルス監督にカメラ賞

2015/02/14

2015berlin_p_04_01.jpg 今年のベルリンで絶対に外せないと思ったのは、マルセル・オフュルス監督の『正義の記憶』というドキュメンタリーでした。ニュルンベルク裁判から30年後の1976年に製作されたこの作品は、裁判の被告となった戦争犯罪人、強制収容所に入れられた被害者、歴史学者、ジャーナリストなどに監督自らがインタビューし、さまざまな角度からの証言を集めて構成した276分に及ぶ大作です。1976年といえばベトナム戦争終結直後で、長くアメリカを苦しめたこの戦争についての証言も含まれており、ヒトラーとナチが起こした犯罪だけでなく、もっと広い意味での戦争犯罪をテーマにした作品と言えるでしょう。

 監督のマルセル・オフュルスは1927年生まれの現在88歳。父はドイツからフランスを経てハリウッドに亡命し、数々のメロドラマの名作を撮った名匠マックス・オフュルスです。マルセルは父と同じ劇映画には向かわず、ドキュメンタリーに才能を発揮。ヴィシー政権下のフランスで様々な理由からナチに協力した人々にインタビューした1969年の『悲しみと哀れみ』で有名になりました。

 私が初めて彼の作品を見たのは"リヨンの畜殺人"と呼ばれ、レジスタンスに関わった1000人以上のフランス人を強制収容所に送った責任者クラウス・バルビーを描いた『ホテル・テルミニュス』からで、知的でユーモアにあふれた彼の語り口にすっかり魅了されました。彼ほど知性と人間性と語学力を兼ね備えたドキュメンタリー作家は滅多にいないでしょう。2年前の2013年にはカンヌの監督週間で自身の自伝的ドキュメンタリー『ある旅人』が上映されており、それが今のところの最新作です。

 写真はデジタル修復された『正義の記憶』上映前に、映画祭ディレクターのディーター・コスリックからベルリナーレ・カメラ賞を受けるマルセル・オフュルス監督です。

(齋藤敦子)