シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6)「家族の絆」さまざまに/「私の母」「海街diary」「岸辺の旅」・・

2015/05/22

2015cannus_p_06_01.jpg 前のレポートで今年の本命はトッド・ヘインズの『キャロル』だろうという私の予想を書きましたが、終盤までで平均して評判のいい作品はナンニ・モレッティの『私の母』でしょう。

 『私の母』の主人公は映画監督のマルゲリータ。彼女は工場のストを題材にした映画を撮っているのですが、社長役にアメリカの有名な俳優を招いたおかげで現場は大混乱。しかも母親が倒れて入院してしまう、という物語。

 モレッティには自分自身を主人公にした身辺雑記風の『親愛なる日記』という作品がありますが、この作品も"母親の死"という個人的体験を映画にしたもの。違いは何かといえば、『親愛なる日記』は自作自演でしたが、『私の母』は自分の役をマルゲリータ・ブイに演じさせ、自分は兄のジョヴァンニ役として傍観者の位置に退いたことでしょう。その隙間がうまく作用して、自分をカリカチュアするモレッティの余裕と円熟を感じました。また、『夫婦の危機』や『ローマ法王の休日』などのモレッティ作品で知られるマルゲリータ・ブイが、すべてを心得て"女モレッティ"を演じているのが好もしく、我が儘なアメリカ人俳優役のジョン・タトゥーロが喜劇味を添えていました。

2015cannus_p_06_02.jpg 『私の母は』は母親ですが、是枝裕和の『海街diary』は失踪した父親の訃報が届くところから始まりますし、ノルウェーのジョアキム・トリアーがアメリカで撮った『ラウダー・ザン・ボム』も、戦争カメラマンだった母親が亡くなった後の家族の亀裂を描いた作品でした。また、フランスのギヨーム・ニクルーの『ヴァレ―・オブ・ラヴ』は、自殺した息子の願いを聞き入れて、アメリカのデス・ヴァレーへ旅する別れた夫婦を描いた作品、というように、今年は身近な人の死や、家族の絆を描いた作品が多いように思います。

 ある視点部門で上映された3本目の日本映画、黒沢清の『岸辺の旅』もまた、親しい人の死をモチーフにした作品で、何と死んだ夫が妻の前に現れ、思い出に残る場所や人に会いに行く旅を描いています。

 黒沢監督は『回路』や『叫』といったホラー映画を多く手掛けていますが、今回は亡霊は登場するものの、恐怖とは無縁。むしろ、意志の疎通を欠いたまま別れた夫婦が、死を超えて再会し、再び絆を結び合うまでの姿を描いたラブストーリーと言えるでしょう。

 私は夜10時からの公式上映で見たのですが、映画が終わると監督と夫婦を演じた浅野忠信さん、深津絵里さんに温かい大きな拍手が送られました。驚いたのは、深夜0時を過ぎているのに大勢の観客が残って三人の写真を撮ったり、サインを求めたりしていたことです。黒沢監督は、作品がカンヌで再三上映されていますし、映画誌で特集が組まれたり、作品の回顧上映が行われたりで、映画ファンの間では知る人ぞ知る存在だったのですが、そのファン層がぐっと広がったことを実感しました。

 写真(上)は「岸辺の旅」公式上映の前に挨拶する黒沢清監督と深津絵里さん、浅野忠信さん。監督の左は、ナント三大陸映画祭でお馴染みの日本語通訳レア・ル・ディムナさん。

 写真(下)は「岸辺の旅」上映後のロビー。ちょっとした撮影大会に。

(齋藤敦子)