シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)オープニングは女性監督の「胸を張って」/判事役にドヌーブ

2015/05/14

2015cannus_p_01_01.jpg 5月13日の夜、68回目のカンヌ国際映画祭が開幕しました。今年のオープニングは、女性監督としては30年ぶり2人目となるエマニュエル・ベルコの『胸を張って』。前々から噂されていた『マッドマックス、怒りのデスロード』ではなかったので、一時びっくりがっかりな雰囲気が流れましたが、実際に作品を見てみたら、映画祭がなぜ今年この映画を開幕作品に選んだかが少し分かったように思いました。

 『胸を張って』は、一人の非行少年と、彼を担当した少年裁判所の判事と教育官の闘いを描いた作品で、判事をカトリーヌ・ドヌーヴ、教育官をブノワ・マジメル、主人公の少年をロッド・パラドという新人が演じています。主人公のマロニーは、シングルマザーで麻薬中毒の母親が保護者の資格なしと見なされ、早くから少年裁判所の監督下に置かれます。少年の頃から車の窃盗と無免許運転を繰り返し、感情をコントロールすることができない彼は、少年の保護施設へ送られ、それでも素行が改まらず、ついには刑務所に入れられてしまう。そんな彼を判事や教育官たちが親身になって見守っている、という内容。記者会見でベルコは、この物語は完全にフィクションだが、こういった判事や教育官のような影の人々の努力をできるだけリアルに描きたかったと語っていました。

 ちょっとびっくりしたのは、ドヌーヴが、マロニーには彼を保護し、見守る人がいたが、"1月初めの事件"の少年にはいなかった、と発言したこと。1月初めの事件というのは、日本でも大きく報道されたシャルリー・エプドの襲撃事件のことで、日本ではテロという一言で、まるで他人事のように片付けられていますが、フランスでは貧富の差がもたらす不平等が原因であるとし、国内問題として真剣に考えられていることに目から鱗が落ちる思いでした。会場にいた記者から、そのシャルリー・エプドの最新号の表紙に自分が使われていると聞いたドヌーヴは、「意地悪な描き方でしょうけど、少なくとも笑えるカリカチュアだといいわ」と、さすがの大人の対応でした。


2015cannus_p_01_02.jpg 今年の審査員長はジョエル&イーサン・コーエンで、カンヌ史上初のダブル審査員長。その他は女優のロッシ・デ・パルマ(スペイン)、ソフィー・マルソー(フランス)、シエンナ・ミラー(イギリス)、男優のジェイク・ギレンホール(アメリカ)、ミュージシャンで作家のロキア・トラオレ(マリ)、監督のグザヴィエ・ドラン(カナダ)、ギリェルモ・デル・トロ(メキシコ)の7人で、アジア人が一人もいないのが寂しいところ。通常、審査員団は9人で構成されるので、つまり審査員長は2人で1票でなく、2票持っているという計算になり、例年以上に審査員長の発言がものを言う映画祭になるかもしれません。

 記者会見場の背景に掲げられているのは今年の映画祭の顔イングリッド・バーグマン。バーグマンとロベルト・ロッセリーニの間の娘イザベラ・ロッセリーニが今年のある視点部門の審査員長です。

 写真(上)は「胸を張って」の記者会見。左からブノワ・マジメル、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベルコ、ロッド・パラド。

写真(下)は審査員記者会見。左から、ロッシ・デ・パルマ、グザヴィエ・ドラン、シエンナ・ミラー、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン、ソフィー・マルソー、ジェイク・ギレンホール、ロキア・トラオレ、ギリェルモ・デル・トロ。

(齋藤敦子)