シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)卓越した表情表現/強制収容所の極限に迫る「サウルの息子」

2015/05/18

2015cannus_p_03_01.jpg 映画祭3日目にコンペ部門で上映された『サウルの息子』は、必ずや賞に絡んでくるであろう衝撃作でした。

 舞台は1944年10月のアウシュビッツ強制収容所。サウルはユダヤ人ながら"ゾンダーコマンド"という下働き役に抜擢され、かろうじて命をながらえています。あるとき、息子に似た少年の死体を発見したサウルは、"お前に息子はいない"という仲間の言葉も聞かず、何とかラビ(ユダヤ教の宗教指導者)を捜し出し、教義にのっとって埋葬してやろうとする、という物語です。

 収容所に着いたユダヤ人が貨車から降ろされ、小屋へ連れていかれ、服を脱がされ、ガス室へ入れられて殺される。そんな"強制収容所の日常"の描写も衝撃的ですが、この映画が凄いのは、それをサウルの視点で見せるのでなく、サウルの顔に焦点を当て、彼のほとんど変わらない表情を見せながら、その表情の背景に何が起こっているのかを見せるところ。それによって、見せたくないものを意図的に見せないように配慮しつつ、サウルの体験する地獄のような状況をそのまま観客に体験させる効果をあげています。こうした卓越した演出と撮影がまずは注目を集めていますが、極限状態での人間の尊厳というテーマも深く、考えさせられました。

 監督のネメス・ラズロ(ハンガリーは日本と同様姓を先に、名を後にします)は1977年生まれの38歳。『サタン・タンゴ』や『ニーチェの馬』で知られる名匠タル・ベーラの助監督をしていたと聞いて、長い1シーン1カットも師匠ゆずりと納得でしたが、これが長編デビュー作という恐るべき新人です。

 写真は「サウルの息子」記者会見。左から監督のネメス・ラズロ、サウル役のローリグ・ゲザ

(齋藤敦子)