シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(8)「ある視点部門」、翻弄される人間浮き彫りに/黒沢監督の「岸辺の旅」に監督賞

2015/05/24

2015cannus_p_08_01.jpg 24日夕のコンペ部門の授賞式を前に、各部門の受賞作が次々に発表になりました。23日夜に、ある視点部門の授賞式が行われ、『岸辺の旅』の黒沢清監督がみごと監督賞を受賞されました。今年の審査員長は、今年の映画祭のシンボルに選ばれたイングリッド・バーグマンの娘イザベラ・ロッセリーニ。映画祭のあちこちに掲げられたバーグマンの顔を見て、"いつも母親に見守られている気がした"と映画祭に感謝していました。

 河瀨直美監督の『あん』から上映が開始された今年のある視点部門の上映作品は19本。1席にあたるある視点賞を受賞したアイスランドの『羊』は、隣同士に住んで長年いがみあってきた兄弟が、羊にスクレイピーが発生し、すべての羊を処分しなければならなくなったことで仲直りのきっかけが生まれるという物語。アイスランドの厳しい自然がモチーフになった素朴な映画でした。

2015cannus_p_08_02.jpg 審査員賞を受賞したクロアチアの『鉛の太陽』は、ボスニア紛争が引き起こした憎しみをテーマに紛争前と後の3つのエピソードで描いたもの。ある才能賞のルーマニア『宝』は、アパートの隣人から祖父の代に埋められた宝を掘り起して山分けしようと誘われた男の葛藤を描き、未来賞を受賞したインドの『マサーン』は、ガンジス川の岸で遺体を焼く仕事をする家の子として生まれた青年が身分の高い娘を好きになってしまう話と、婚前交渉中に警察に踏み込まれて相手の青年が自殺したうえ、警察から高額の口止め料を請求された娘と父親の話を絡ませて描いたもの。同じく未来賞を受賞したイランの『ナヒッド』は、子供の養育権を得るために再婚を諦めた若い母親に好きな相手が出来てしまうという作品でした。

 私が最も好きだったアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『セメタリー・オブ・スプレンダー』が賞に漏れたのは残念でしたが、ウィーラセタクン監督はすでにパルム・ドールを受賞している方なので、いわば別格でしょう。社会や環境に翻弄される人間の姿と真摯に向き合った作品が多く賞に選ばれたように思います。

 また、ある視点部門の授賞式の前にはエキュメニック賞と国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)の授賞式が行われ、エキュメニック賞はナンニ・モレッティの『私の母』に、国際映画批評家連盟賞は、コンペ部門から『サウルの息子』、ある視点部門から『マサーン』、監督週間と批評家週間から『パウリナ』が選ばれ、それぞれに賞状が贈られました。

 写真(上)は、ある視点部門の授賞式、審査員のギリシャのパノス・H・クートラス監督から賞状を受ける黒沢清監督、右奥にイザベラ・ロッセリーニ。

 写真(下)は、観客から拍手を受ける受賞者たち。右から審査員長のイザベラ・ロッセリーニ、グリマー・ハコナルソン、ダリボル・マタニッチ、黒沢清。

【受賞結果】
●ある視点部門
ある視点賞:『羊』監督グリマー・ハコナルソン(アイスランド)
審査員賞:『鉛の太陽』監督ダリボル・マタニッチ(クロアチア)
監督賞:黒沢清『岸辺の旅』(日本)
ある才能賞:『宝』監督コルネリウ・ポルンボイウ(ルーマニア)
未来賞:『マサーン』監督ネーラジ・ガイワン(インド)
    『ナヒッド』監督イダ・パナハンデー(イラン)

●国際映画批評家協会賞
コンペ部門:『サウルの息子』監督ネメシュ・ラズロ(ハンガリー)
ある視点部門:『マサーン』監督ネーラジ・ガイワン(インド)
監督週間&批評家週間(監督2作目までが対象):『パウリナ』監督サンチャゴ・ミトレ(アルゼンチン)

●エキュメニック賞
『私の母』監督ナンニ・モレッティ(イタリア)
次点『マーケットの法則』監督ステファヌ・ブリゼ(フランス)
  『タクラブ』監督ブリヤンテ・メンドーサ(フィリピン)

(齋藤敦子)