シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)印象的な今を生き抜く視点/コンペティション部門ディレクター矢田部吉彦氏に聞く

2015/10/26

tokyo2015_p_01.jpg -まず、今年の映画祭は去年とどのように違っているかを。
 矢田部:1つは会期が1日増え、今まで9日だったのが10日になり、会場が六本木を中心に新宿のシネコン3館も2スクリーンずつ使うことになって、横に広がっていっているということ。それに加えて日本映画をよりアピールするという意味での部門が増えています。会場も本数も日程も増えているというのが1つ大きな去年との違いだと思います。

 -随分予算が戻ってきているようですが、現場での感触は?
 矢田部:新しい経済産業省のスキームの中でお金がつく部分があるので、そこが新しい部門などを作るのが可能な理由です。たとえばジャパン・ナウといった部門は日本映画を海外に持っていくというコンセプトで経産省の新しいスキームが利用できるので、とても重宝しているんですけれども、いつまで続くかわからないので、サステナビリティ(持続可能性)については、ちょっと不安です。

 -東京映画祭の悪いところですね。1年1年落ち着きがない。見に行く側としても、これを続けてくれるのかなという不安があります。

 矢田部:日本で大きな映画祭をやろうとしたら、国の支援を受けなければできず、国の支援というのは単年度決算なので、どうしても長い目での絵が描きずらいでしょうね。

●コンペ部門、より多彩に
 -今年のコンペの特徴は?
 矢田部:今年は未来の巨匠を狙う直前くらいの、中堅の実力どころが揃ったな、と。あとは、監督の才能はもちろん重視するんですが、例年以上にジャンルがバラエティに富んでいる。国のバランスもうまくとれ、今、中南米がとても注目されていて、ヴェネツィア映画祭で賞をとり、カンヌでコロンビア映画が注目され、という流れの中で、ブラジル映画とメキシコ映画がコンペに入ったというのも、よかったなと思います。

 -コンペの本数も増えたんですか?
 矢田部:1本増えて、15本から16本になりました。それは(会期が)増えたことで可能になったことでもあり、日本映画を3本入れたので、15本中日本映画が3本だとちょっと多いと思ったので、16本に増やしたということもあります。

 -以前、日本映画の選択が難しい、映画会社がなかなか出してくれないという話をうかがっていたので、今年いきなり3本というのはどういう変化があったんでしょう?
 矢田部:去年は「紙の月」1作品で、ああいったメジャーな作品とコンペがお付き合いできるという機会があまりなかったので、その1本で勝負しようということだったんですが、その反動でもないですが、今年は2本以上やりたいと思っていている中で、小栗康平さんという巨匠と、中村義洋さんというヒットメーカーと、深田晃司さんという若手のホープの3タイプの作品がコンペの可能性として残ってきて、この3人だったらコンペの組み合わせとしてありだなあと思って交渉を進めたところ、うまくまとまったということです。最初から3本やろうと決めていたわけじゃないですが、この3人を並べてみたいと思ったというのが経緯です。

 -去年、宮沢りえさんが女優賞を穫って授賞式に出たり、あれはすごく日本映画界へのPRにもなったのでは?
 矢田部:なりましたね、おかげさまで。日本映画3本とも素晴らしい作品だと思ってますので、今年この3本が入ったことは満足してます。僕が満足してもしようがないですが。

●ワールド・プレミアどう揃える?
 -コンペ部門のプレミアに限るという縛りは?
 矢田部:相変わらず、そのジレンマがあります。最低アジアン・プレミアということなんですけど、結局ワールド・プレミアをとらないと海外プレスからの注目度が落ちてしまいますよね。つまらないワールド・プレミアを揃えてもしょうがないんで、面白いワールド・プレミアを揃える、あるいは有名監督のワールド・プレミアを揃えるというのはやはり、まだまだがんばらなければいけないなと毎年思っています。

 アジア映画に関しては少なくともワールド・プレミアにしないと恥ずかしいので、それは何とか叶えてはいるんですけど、やっぱり欧米作品を東京までとっておいてもらうというのは至難の業ですね。ヴェネツィア我慢して、トロント我慢して、東京にというのは。その分、彼らに何を与えられるのかっていうことを、これは本当に映画業界全体で考えないと。

●物足りない日本の若手
 -コンペの他に矢田部さんが手掛けているのは?
 矢田部:日本映画スプラッシュとワールド・フォーカスの欧米部分です。

 -私はいつも日本の新人監督が海外の映画祭に出てこないことに忸怩たる思いがあるんです。スプラッシュの作品を選んでいる矢田部さんも感じることでしょうけど、それは日本の映画作家の問題なのか、海外の映画祭が日本の新人に目を向けてくれないのか、どっちでしょう?
 矢田部:両方だとは思いますね。皆、海外の人に売り込む努力をしてるんでしょうけれども、もっとやりようがあるのではという部分と、僕は外国映画と日本映画と同時に見てるので、海外の映画祭で実力のある若手に比べて、日本の若手の作品が見劣りしてしまうということはあります。若い人があまり外国映画を見ないということもあるのかもしれない。国内の一定の身内にある程度受けて、なんとなく公開も限定的ながら出来てしまい、というようなところで留まっていて、もう少し外国映画の水準みたいなものに気づいた方がいいんじゃないかなとは思います。国内のある層には受けるだろうなという作品は沢山あるんですが、たとえばロッテルダムに行って、この映画がこの部門に入るだろうかと考えると、いや、入らないなっていう作品が多いです。

●海外からの注目度を高めたい
 -群青いろとか空族とか、ユニークな映画作りをしている人がいるので、期待はしているんですが。
 矢田部:海外のプログラマーに聞くと、日本映画に対して少し諦めているところがあって、日本をあまり注目してくれてないような、全部の映画祭ではないですが、ちらりとそんな本音が聞こえてきたことがあって、これはまずいなと。河瀨直美、黒沢清で終わっていて、次が全然出て来ないというところで、海外のプログラマーが探す努力をやめてしまっているとしたら、これは危機感なので。

 -映画祭で沢山映画を見てほしいけれど、なかなか日本の若い監督は他の監督の映画を見ないですね。
 矢田部:そうなんです。中には30本見ました、なんてことを言ってくれた監督もいたんですが、見ない人は全然見ないです。

●不穏な空気を打ち破る
 -今年のコンペティションのお薦めは?
 矢田部:今年は"今を生きのびるために必要なものは何か"を求める作品というか。やはり現代を描いていて、不穏な現代の空気を作品に盛り込んだもの、今を生き抜くためにはどうすればいいのかを最終的には描いている作品が多い気がします。たとえば、ブラジルの「ニーゼ」という作品は、40年代を舞台にした、実在した精神科医の話です。今年は実話の映画化というのが多く、これはその中の1本ですが、なぜ今40年代のお医者さんの話を映画化するのかということなんですが、見終わると、なるほどなと思うわけです。彼女は男性社会と保守的な治療法という2つの壁を打ち破ろうと闘った人で、精神医療に革命をもたらし、そのタフネスに感動するんですが、これは今求められているメンタリティだなとすごく思います。

●移民の視点で描いた「スリー・オブ・アス」
 コンペの敷居が高いと思っている人にお薦めしたいのは「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」です。これは映画を年に1、2本しか見ない人にも薦めやすい作品で、チェット・ベイカーのどん底時代をイーサン・ホークが演じるという、音楽に痺れて、イーサン・ホークのカッコよさに痺れるという作品です。

 フランスの「スリー・オブ・アス」は、スタンダップ・コメディアンのケイロンがお父さんの話を自分で映画化し、自分で主演もしたという映画で、ストレートなコメディです。イラン人のお父さんがイランで投獄され、革命後にパリに亡命し、パリで力強く生き抜いていくという物語で、現在を生き抜く不屈の闘志という話でもあり、移民問題で揺れる現在のヨーロッパで、移民の物語を移民側の視点から描くということでは、シャルリー・エブド事件があった年にこの映画が作られたという意味で、エポックメイキングな作品になりうるのではないかと。

 注目のトルコ映画の「カランダールの雪」は、しかもワールド・プレミアなので、今年はこれもとても押したいですね。


 -セレクションした側の意志が審査する側に伝わるかというと、それはまた別の問題ですね。
 矢田部:全然別です。あまり伝わらないですね。ここ数年、伝わったためしがないです。

 -今年の審査委員長は?
 矢田部:ブライアン・シンガーです。彼も「ユージュアル・サスペクツ」から「Xメン」まで、いろいろありますが、周りがベント・ハメルとか、スサンネ・ビアなど曲者達がいますので。

 -映画監督が多いときは、ろくな結果にならないですよ(笑)。
 矢田部:揉めますね。だから、本当はヘッドはプロデューサーがいいと思ってるんですけど、なかなか難しいです。(10月18日、六本木ヒルズの映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)