シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4・完)作品賞に「孤島の葬列」/アジアの未来部門

2015/11/04

tokyo2015_p_04.jpg 今年3回目となるアジアの未来は、新しい才能を東京発で、という映画祭本来の意義が感じられる部門に育ってきたように思います。

 作品賞の『孤島の葬列』は、ライラーと彼女の弟、その友人の3人の若者が、タイ南部のイスラム圏に住む伯母に会いに行く旅を描いたもの。不思議な人々に導かれながら、伯母の住む孤島にたどり着くと、島は自由を求める様々な人々のユートピアのようになっているが、そこにも危機が迫っています。政情不安、宗教、自由といったテーマが織り込まれた、最も知的で幻想的な作品でした。

 特別賞の『告別』は、監督のテグナーが、癌で亡くなった父親との日々を自らが主演して映画化したもの。テグナーは内モンゴル出身で、父親は撮影所長、母親も映画監督で、自身はロンドンでメディアアートを、北京電影学院の監督学部で演出を学んだという映画エリート。卒業制作とは思えない演出力と現代的な感覚に、彼女の確かな才能を感じましたが、自身が出演せず、演出に徹した方が作品の視点が定まったように思いました。

 石坂建治氏とのインタビューにもあるように、今年はノミネート10作品のうちの半分が女性監督で、受賞した2作も女性監督の作品という、アジアの女性監督の優秀さが再確認された年になりました。

 残り3作のうち、日本の横浜聡子の『俳優 亀岡拓次』は未見ですが、台湾のサニー・ユイ『The Kids』は、上級生を好きになった中学生の少年が、彼女が妊娠したため学校をやめて食堂で働き始めるが、母親がギャンブルで作った借金を返すために窮地に立たされるというもので、ストーリーが古めかしいところが気になったものの、シンプルな演出に好感を持ちました。香港のジョディ・ロック『レイジー・ヘイジー・クレイジー』は、援助交際で生活費を稼ぐ一方、バスケットの上手いハンサムな男子に熱をあげる女子高生3人組の青春を赤裸々に描いた、面白い作品でした。

 審査員は香港国際映画祭のジェイコブ・ウォンに加えて、元ロカルノ映画祭アーティスティック・ディレクターで、現アルテ・フランス・シネマのオリヴィエ・ペール、日本から映画監督の大森立嗣の3名で、さすが映画をよく見ている人の選ぶ受賞結果になったと思います。

 東京国際映画祭は1985年に誕生しました。第1回目の会場は渋谷文化村で、コンペ部門はヤングシネマと呼ばれ、審査員長はベルナルド・ベルトルッチ、受賞作は相米慎二の『台風クラブ』でした。それから30年。紆余曲折を経て、形を変えながら現在まで続いてきました。

 "世界の有名映画祭と肩を並べる、アジアを代表する国際映画祭に"というかけ声だけは勇ましいけれど、それにはほど遠い現実が象徴的に現れているのがコンペ部門で、映画祭のステータスのためにプレミア作品に固執した結果、物足りない作品が並ぶことになる、という状況は今年も変わりませんでした。

 数年前に最低まで落ち込んだ予算は、去年あたりから戻ってきていて、日本映画を中心に部門も増え、イベントも増えているし、会場も六本木のメイン会場、お台場のマーケット会場に、昨年は日本橋1館、今年は新宿3館が加わりました。けれども、増えた予算が現場まで下りてきているのかといえば、それはまた別の問題。新国立競技場問題で露呈された、公的な資金で運営される日本の公共事業すべてに見られる構造的な欠陥をここでも見る思いがします。東京国際映画祭をよりよい映画祭にするには、政権・官僚・業界が一体になって税金を浪費し、誰も責任をとらない日本の公共事業のあり方を考え直すことから始めなければならないのかもしれません。

【アジアの未来部門受賞結果】

作品賞:『孤島の葬列』監督ピンパカー・トーウィラ(タイ)
国際交流基金アジアセンター特別賞:テグナー監督『告別』(中国・内モンゴル)

日本映画スプラッシュ部門
作品賞:『ケンとカズ』監督 小路紘史

WOWOW賞:『カランダールの雪』監督ムスタファ・カラ

(齋藤敦子)