シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(1)フリーハンドを大切に/市山尚三プログラム・ディレクターに聞く(前)

2015/11/25

tokyofil2015_p01.jpg 第16回東京フィルメックスが有楽町朝日ホールを主会場に始まりました。まずは市山尚三プログラム・ディレクターから興味深いお話をいろいろうかがいましたので、そこから始めたいと思います。

 -東京フィルメックスは今年で16回目になりました。去年、朝日新聞に古賀太さんが"フィルメックスの使命は終わった"というような説を載せましたね。

 市山:あの記事は、なるほどと思うところがたくさんありました。東京フィルメックスは東京国際映画祭(TIFF)と対抗する、というわけじゃないですが、TIFFでやらないことをやる、という感じで始まったが、TIFFもその後プログラム・ディレクターもちゃんと決めて、と言うと失礼ですが、それまでに比べて映画祭らしい体裁を整えた。日本を代表する映画祭がTIFFだとしたら、本来、そこがカバーしてなきゃいけない著名監督の作品や優れた新人の作品が明らかなにフィルメックスの方に来ている。むしろフィルメックスをTIFFの傘の中でやるようにすれば、TIFFが名実ともに日本を代表する映画祭になるんではないか、というような論旨だったんです。でも、逆に言うと、こっちとしては一緒にやる意味がない。TIFFの方から一緒にやりましょうという誘いがあったら考えられない話ではないんです。でも、こっちはフリーハンドでやらしてもらわないと意味がないですから、いろんな問題が起きる。

 -TIFFが、お金だけ与えて何かを自由にやらせるということはありえないと思いますね。

 市山:そうなんです。前に経産省から言われたときも同じ答えをしたんです。

 -経産省からアプローチがあったんですか?

 市山:経産省の現場の人から一緒に出来ないですか、というような話がありました。現場の人達がフィルメックスを見に来て、なぜこれがTIFFと一緒に出来ないんだろうということで。それで、例えば一緒にやるとこれぐらいのお金がポンと出ていきます、しかもラインアップなどはこっちの自由にやらせてもらいます、ということなら考えないわけではないということを話した覚えがあります。かなり前ですけど。たぶん、それを彼らが上にあげたところで潰れたんだと思います。その後の経過はわからないですけど。

 -それはもう、聞いただけで無理な話だと私は思いますね。

 ●TIFFとの一体化には抵抗感

 市山:こちらの懸念としては、フィルメックスをやっているということでいろいろ記事が出ていますよね、朝日だけでなく、日経や、読売にも出たりすることがあるし、それがTIFFと一緒になったときにマスコミがどういう風に扱ってくれるか。ただ今はウェブ媒体が強くなっていることを考えると懸念することではないかもしれないですが。

 -ウェブ媒体のことはわかりませんが、新聞記者の人達はTIFFに対してかなり抵抗感を持っていると私は思います。もっと新聞が積極的にTIFFについて大きな批判記事を書いてほしいと思うけれど、もう諦めているようなところがあるし、書いても変わるかというと、今の形態では無理な気がするし、それもあって、フィルメックスを応援したい気持ちが強くなるんじゃないでしょうか。TIFFは予算は戻ってきているようですけど、現場には入ってないみたいですし。上の方で何でも決めて、縛りだけはキツイというような状態の中に入って、いいことは1つもないし、石坂建治さんのアジアの未来とフィルメックスと、2つコンペがあっていいと思うんです。年に10本程度がアジアの才能ではないし、石坂さんのテイストとフィルメックスのテイストは同じではないし。

 市山:たまたま同じ映画を気に入っているということはありますけど、こっちで落ちたものが向こうに入り、向こうで落ちたものがこっちに入るということはあります。

 以前、フィルメックスの期間中に僕と石坂さんと矢田部さんが登壇して映画祭を考えるというシンポジウムをやったことがあるんです。あのとき、古賀さんが客席の方からいろいろ質問してきて、古賀さんとしては、TIFFはプサン映画祭に明らかに水をあけられてる、どういうふうにしたら海外に顔向けができる映画祭になるのかを日本全体で考えるべきだという理論なんですね。

 -無理ですね。プサンと比べてどうする、とも思うし。

 市山:プサンはオーガナイザーにちゃんと映画をわかっている人達がいて、いろんな圧力があっても跳ね返せる。去年なんか例のセオル号事件で大圧力があった。こんなものをやるんだったら助成金を出さないとか。でも結局抵抗して、ディレクターも辞めなくてそのまま残って、今回は予算が削減されましたが、それなりの規模で乗りきってるんで、ああいうのを見ると、成立の仕方からして違うと思います。

 -国自体も違うし、映画界自体のスタンスも全然違う。

 市山:あのとき、"ディレクターがクビになるんだったら、俺達はもう作品を出さない"と映画監督たちが一斉に声明を出した。あの辺は、プサンがこれまで韓国映画の若手を育ててきた歴史があるからだと思うんですけど、それはもう全然違うと思います。

-日本はそういう自体になった場合、一体になって抵抗するんじゃなく、政権寄りの人は政権寄り、反体制の人は反体制で、バラバラになっちゃいますね。

 というわけで、今年のフィルメックスですが、いつものように中国から始めたいと思います。今年は蔡明亮と侯孝賢の特集もありますし。

 市山:今年は中国圏がすごく多いんです。コンペに中国2本と台湾、蔡明亮と侯孝賢が特集で、シルヴィア・チャン、ジョニー・トー、ピーター・チャンの香港映画があって、クロージングがジャ・ジャンクーの『山河行人』。

 ●総シネコン状態の中国

 -確かに多いですね。今年はTIFFも中国映画が多い感じがしたんですが、現状はどうでしょう?

 市山:映画産業はとにかく発展し続けている。毎年毎年シネコンの数が増えるんで、それに従って観客動員数が増えるという、ちょっと世界にも例がない増え方をしていて、それが数年前に終わるかと思われたら、終わらないで、いまだに増え続けているんです。飽和状態になかなかならないで、すごく巨大なマーケットになっています。その反面、資本主義が行きついているような感じなんで、商業的に当たる映画と当たらない映画の格差がひどい。日本だと単館ロードショー館というか、テアトル新宿とかユーロスペースとか、そういうところでインディペンデント映画を上映する場があるんですけど、中国の場合は総シネコン状態なので、当たらないと1週間で消えてしまう。それどころか、ブッキングできない。要するに検閲を一生懸命クリアして中国政府の許可をとったとしても、今度は劇場がかけてくれないという経済面での検閲がある。

 -お金を集めてきて作っても、利益があがらなかったらお金を返せないですよね。
 
 市山:インターネット配信が今、爆発的なビジネスになっているんで、そいういう映画は劇場を諦めてインターネット配信に。

 -それで儲かるんですか?

 市山:見る人が多いんで。アート系の映画をインターネット配信で見る人は少ないと思うんで、どこまでかはわからないけど、ある程度は返ってくる。

 -ペイ・パー・ビュー?

 市山:そうです。ただ、1回出始めると皆が海賊版を回し始めるんで、最初にセキュリティをかけてペイ・パー・ビューで出すとちゃんと課金はされてくるらしいです。今、中国でインターネットの業者が雨後の竹の子のように出来ていて、彼らがラインアップを揃えるために作品を欲しがっているというところなんで、結構MG(最低保証金)が貰える。

 -前に聞いた、北京の郊外でやっていたインディペンデントの映画祭というのは結局どうなったんですか?

 市山:去年中止に追い込まれたんですが、今年やったかどうかは確認してません。面白いのは地方でどんどんやってることです。今年、僕は西寧(シーニン)というチベットに近い青海省というところでやってる映画祭でタレント・キャンパスのようなことをやっていて講師として招かれたんですけど、そこに行って驚いたのは、明らかに検閲を通ってない映画をやっているんです。ドキュメンタリーも、ちょっと社会派的なものをやっている。映画祭はアンダーグラウンドでなく、ちゃんと市の許可をとっていて、西寧市の大きな文化センターのようなところで派手なセレモニーをやったりして、上映はシネコンですが、明らかに検閲をまだ通ってなかったり、通すつもりもない映画をやっているんで、ちょっと驚いて聞いたところ、西寧でやっている限りは何も言ってこない、と。その映画祭も元々北京でやろうとしてたんだけど、あまりにも制約が強すぎるので、そこに逃げてきたらしいです。逃げてきたというと変ですけど。

 ●締め付けにも地域差

 -北京はお膝元なので制約が強いということ?

 市山:やっぱり北京映画祭が始まった頃から強くなったんじゃないですかね。それまでインディペンデント映画祭をやっていたのに、北京映画祭が5年くらい前に始まって、その頃から締め付けが強くなったみたいです。日本映画の上映会も北京ではすごくうるさいらしい。上海映画祭では今年も高倉健さんの特集をやったり、日本映画を山のようにやってお客さんが入っているんですが、北京映画祭は第1回目のときに日本から大勢行ったのに、2回目のときに反日デモが起こって、それからずっと日本映画をやってなくて、去年マルコ・ミュラーが就任して、ひさびさに園子温監督の『ラブ&ピース』を上映した。

 -でも、内容的な制約がかなり厳しくて、『ラブ&ピース』だったからできたと聞きました。あまりに介入がひどいからマルコが辞めるかもしれないと。

 市山:その噂は聞きました。そういうわけで上海映画祭はある程度自由で、さらに地方に行くと、今のところ無許可の映画をやっても問題がない。インディペンデントの人が発表する場というのは地方にいくと一応ある。あと、杭州にもインディペンデント映画祭があるし、南京もやってるはずで、地方のインディペンデント映画祭はそのまま開催されているはずです。

 -地方ならおめこぼし、みたいな?

 市山:地方でやってる分には誰も騒がなければそこで問題は起きないということだと思います。(つづく)

 写真は市山尚三プログラム・ディレクター​(11月11日、赤坂のオフィス北野にて)

(齋藤敦子)