シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)「商業」の意味するもの/市山尚三プログラム・ディレクターに聞く(中)

2015/11/26

tokyofil2015_p02.jpg -今年、TIFFのコンペに出たハオジエの『ぼくの桃色の夢』の中でジャ・ジャンクーが憧れの監督のように描かれていて、世代交代だなと思ったんですが、今の中国の若手はちゃんと商業的に映画を撮れるようになってきたんですね。

 市山:なってきたというより、ならざるをえない。皆ジャ・ジャンクーみたいな映画を撮りたいというか、そういう社会問題をやりたいのは山々なんだけど、仕方がなくて撮っている。ハオジエも商業映画を撮りたくて撮ったというより、今撮るにはこの道しかない。撮らないと言ってしまうとインディーズ映画で一生過ごさなきゃいけない。そうすると見る人も限られるし、中国全土の観客に見てもらうことはありえなくなる。今、商業映画を作ると言うとお金が集まるんで、その中に何とか自分達の個性を忍び込ませようというのが実態だと思うんです。

 -でも、うまくかわして撮ってましたね。

 市山:ただ、いろいろ問題になってて、公開は(編集が)違うんじゃないかと思います。

 -お父さんのこととか、SARSのことも出て来て、大丈夫かなと思った。

 市山:日本では例えば塚本晋也さんみたいに自主で撮って配給しても何万人も観客が入りうるんですが、中国だとそれはもう全然ありえない。

 -インターネット配信でも無理?

 市山:インターネット配信も許可が必要なんです。ただ、配信の許可は部署が違うんで多少ゆるくて通るかもしれないんですけど、それにしても、まったくのアンダーグラウンドで撮るわけにはいかない。アンダーグラウンドで撮ったとしても見る人がいない。買ってくれない。そうすると、ある程度の有名スターを何人か使って、商業映画の体裁を整えたものにしないと一切収入がありえないのが今の中国の状況なんで、それは日本以上に深刻だと思います。

 -TIFFのワールド・フォーカスに出ていたチベット映画の『河』の監督は、フィルメックスで賞を獲ったペマツェテンの『オールド・ドッグ』の撮影監督だった人でしたが、ペマツェテンの新作がコンペティションに入ってましたね。

 市山:『タルロ』です。『河』はペマツェテンがプロデューサーのはずです。どちらかというと『河』の監督のソンタルジャの映画の方がナラティヴというか、一般のお客さんが見れるようなものを作っていて、ペマツェテンはどちらかというと突っ走っている感じというか。その辺は同じ仲間ですが、方向が弱冠違う。ただ、『河』も僕らの気がつかないところにいろんなことがあるんだと思います。

 -中国の中のチベットということで二重の難しさがあるかと思いますが、ペマツェテンは撮れてるんですか?
 
 市山:撮れてるようです。エンド・クレジットを見ると、いろんなところが協賛で入っているし、明らかに許可とってますし、ストーリー上、文句を言うところが何もない。裏を考えると、いろいろありそうな気がするんだけど。本人も言っていいことと悪い事をわかっていて、『オールド・ドッグ』のQ&Aのときにちょっとヒヤヒヤしたんですが、うまくかわしながら答えてました。

●期待できる『酔生夢死』

 -今年は台湾のチャン・ツォーチの新作がありますね。
 
 市山:『酔生夢死』は彼の映画の中でもかなりいい方で、代表作になるくらいです。今年の金馬奨でも侯孝賢に次ぐくらいのノミネートをされています。

 -チャン・ツォーチをアジアの未来に入れるわけにはいかないし。

 市山:フィルメックスでも今さらコンペでどうかという意見もあるんだけど、本人を勇気づける意味とか、いろいろ考えたら、コンペでやった方がいいかなと。

 -そのフレキシビリティがフィルメックスのいいところですね。アジアの未来も今年から監督3作目までよくなった。

 市山:少し広がったんですね。新人監督ばっかりがいいとは言わないんですけど、並びを見てみると、インディペンデントのものは浮く感じがちょっとあるかもしれない。中国のインディペンデント映画で面白いのは何本かあったんですけど。

 -コンペティションの選択基準て、並びですか?

 市山:並びは考えないようにしてるんですが、ある程度のものが決まった段階で、この中にこれを入れると見劣りがするとか、あるじゃないですか。中国がペマツェテンの『タルロ』とチャオ・リャンの『ベヒモス』なんで、もう1本入れるのもどうかということもあるし、中国のインディペンデント映画の面白いものは結構あったんですが、そのほとんどが、その後、ポレポレ東中野の中国インディペンデント映画祭で上映される。僕がいいと思って残念ながら落としたのは、みな向こうに入ってたんで、よかったです。

●新しい世代が物足りない韓国

 -そこで拾えるわけですね。それはいい話ですね。続いて韓国ですが、去年も今年もTIFFの韓国映画は私は全然ダメだったんです。

 市山:今年はそんなにすごく良くはなかったですね。今回は『コインロッカーの女』1本ですが、もう1本、韓国映画アカデミーの卒業作品の映画でかなり面白いのがあったんですが、10本には入らなくて。

 -カンヌで見た韓国映画も技術的には上手だったけど。
 
 市山:カンヌのある視点に入った2本は、僕はちょっとダメでした。1本は『無頼漢』というタイトルで、これがある視点に入るんだったら、日本映画でもっといいのがあるのに、と。韓国に気を使いすぎじゃないかと思った。

 -私は韓国映画をフォローしてるわけじゃないけど、どうも最近物足りない。

 市山:物足りないというか、新しい人でこれはという人は少ないですね。結局、昔デビューしたパク・チャヌク、ポン・ジュノ、ホン・サンスの世代で固まってて、30代以下の人達に今ひとつな映画が多い。

 -日本はどうですか。

 市山:日本は韓国よりはいます。カンヌのある視点に、あの程度の韓国映画が入るのでイラっとくるのは、応募して落ちた日本映画の方がいいと思うからで。

 -韓国に気を使ってる?

 市山:使ってないかもしれないですよ。毎年ある視点の韓国映画って見るとがっかりすることが多いんで。バランス上、日本映画は是枝、黒沢、河瀨があるからいいってことになってるのかもしれない。

 -でも、その下をなかなか出してくれない。

 市山:あの世代が強すぎるんですよ。

 -韓国もポン・ジュノやパク・チャヌクが強くてその下が出て来ない。

 市山:似てますね。ただ、今年の韓国はあの世代ではホン・サンスとキム・ギドクしか撮ってないんで、カンヌ映画祭的には、あの程度の韓国映画でもやったのかなという気がしました。

 -今年はアジア各国の作品が満遍なく出てますね。

 市山:今年は中国が2本あるだけで、あとはバラバラです。中国も1本はチベット、もう1本は内モンゴルで、辺境の映画が多い。それにネパールがあり、カザフスタンがあり、スリランカがあり。ちょっと外れたところの映画が多いです。(つづく)

 写真は『タルロ』上映後、Q&Aのペマツェテン監督(11月25日、朝日ホールにて)

(齋藤敦子)