シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)厳しいクラシックの上映環境。客の意識も変化/市山尚三プログラム・ディレクターに聞く(後)

2015/11/27

tokyofil2015_p03.jpg -今年の邦画は、オープニングが園子温監督の『ひそひそ星』、コンペに奥田庸介監督の『クズとブスとゲス』、特別招待に塩田明彦監督の『約束』と『昼も夜も』がありますが、クラシックは?

 市山:今までやってきたクラシックの特集は、松竹の創立120周年の特集と提携しているだけで、こちら主導でやっている去年の松竹ヌーヴェル・ヴァーグ特集みたいなものは出来なかったことが残念です。

 -なぜ?

 市山:一番大きな理由は予算の問題です。前は出ていた助成金が去年から出なくなったんです。去年はフィルメックスの予算で何とかデジタル化した。<1960-破壊と創造のとき>特集の3本のうち、1本は松竹が作った『青春残酷物語』で、あとの『彼女だけが知っている』と『武士道無残』はフィルメックスの予算で作ったんですが、その分が持ち出しになったのと、今年は上映の枠が少ないことで、初日に朝日ホールが使えないし、2日目の朝の2枠まるまる空いている。これで邦画の特集をやると、コンペや特別招待作品を減らさなきゃいけない。侯孝賢特集も今年だから英語字幕のプリントが借りられるとか、いろんな制約もあって、今年は見送ろうということになったんです。

 ●人気作に偏るデジタル化

 -この分で助成金がないと来年も苦しい?

 市山:いろんな助成金に応募したりしているんですが、今のところ、来年やるかどうかもわからない。


 -残念ですね。松竹は自分のところの映画のデジタル化を進めていくつもりでしょうか。

 市山:進めていくでしょう。今年は『晩春』と『残菊物語』の2本を初めてデジタル化していますし。ただ、やっぱり売れるものしかできないというところがある。だから去年は『青春残酷物語』はやっても、他の2本に関してはできないと言う。

 -向こうは商売でやってるんだから仕方がないですが。

 市山:本当は商売抜きで、ドンとお金が出るところがないと、なかなか難しいです。テレビの方も"放映します"という保証があればいいんだけど、向こうも視聴率とか考えると、小津とか黒澤だったらやるけど、他の知らない監督のものだったらできませんということになるだろうと思います。

 -日本の弱いところですね。本当は公のお金で支えていかなければいけないのに。

 市山:フランスだとARTEとかカナル・プリュスとかがそういうことを度外視してやる、みたいなところがあるんだけど、日本の場合、特に今のNHKにはない。

 -ないですね。なんだかどんどん嫌な方へ行っている。

 市山:このまま進んでいくと、例えば今年のTIFFで復元した大映時代の市川崑を特集したじゃないですか。ああいう名作はできると思うんです。各社が復元してくれるから。名作はできるけど、知られざる映画を復元するのが難しくなる。それは今言った助成金の問題があるのと同時に、海外の映画祭に行ってプログラマーの話を聞くと、有名作品には人が入るけど知られざる映画には人が入らないと言う。それは日本映画だけじゃなくて。

●人気作中心は世界的な傾向

 -何でも見るというような人が少なくなったんですね。

 市山:僕らもベルリンのフォーラムで誰も知らない監督の映画を見て、これはすごいと思っても、確かにお客さんは入ってない。そういう傾向が世界的になってくると、たとえばフィルメックスで復元したとしてもそれが世界に回らない可能性もある。映画祭としても、あまりアテンションが少なければやらないだろうし、そうなってくると著名な作品ばかりをクラシック部門でかけるということになっていく。

 -ランキング症候群じゃないけれど、ベストテンとかランキングに入らない作品は忘れ去られちゃう傾向がありますね。今は自分の目で見て自分なりのよい映画を発掘するみたいな、そういう視点が欠けているのかもしれない。
 それで、ピエール・エテックスの特集ですが。

 市山:これは5、6年前にカンヌ・クラシックでエテックスの『ヨーヨー』をやっていて、そのときから言ってはきたんですけど、なかなか機会がなくて。今年まだ外国映画の特集が決まってない頃にアンスティテュ・フランセに声をかけたら、アンスティテュにDCPがあるということで実現した。理想を言えば、本人が来てくれればよかったんですが、さすがにドクター・ストップで。

 -今、お幾つですか?

 市山:87歳です。本人は来るつもりになっていて、経費をどうするかという話をしていたところで、やっぱり医者から長旅は無理だと言われたと。

 -昔、ナントでブラジルの音楽映画の特集があったときに、コメディアンのグランデ・オテロさんを招待したら、パリの空港に着いたところで亡くなったことがあったんで、絶対にやめた方がいいです。

 市山:数年前にキューバ映画祭には行ったらしいですよ。でもメッセージをビデオで作ったのが送られてきます。

 -エテックスは日本でやってますか?

 市山:あまりやってないんです。『女はコワいです』という映画が東和配給で公開されているくらい。だから、昔見ていて記事を書いてくれる人がほとんどいないんで、どの程度、お客さんが来てくれるか不安な点はあります。ただ、前売りはそれなりに売れています。

 -川喜多和子さんが生前エテックスをやりたがっていました、30年以上前ですが。

●権利関係の処理も難題

 市山:エテックスは権利関係が難しくて、カンヌで『ヨーヨー』をやったときに、やっと権利をクリアして、できるようになったと聞いています。今、フランスでDVDボックスが出ていますけど、それまではフランス人でさえ見ていないらしい。侯孝賢も『悲情城市』と『戯夢人生』の権利のクリアが大変だったらしいです。『悲情城市』は、日本はぴあが出資しているからいいんですが、台湾で侯孝賢のDVDを買おうと思ったら、この2本だけない。日本は例外的に見られるんですけど。今、侯孝賢特集を全世界でオーガナイズしているリチャード・スチェンスキというアメリカの大学教授が侯孝賢特集で記念講演をするんですけど、彼から最初に来たメールに『悲情城市』と『戯夢人生』の権利のクリアが非常に複雑だったが何とかクリアしたとありました。

 -この辺から市山さんがプロデュースしていたのかと思いました。

 市山:この後の『好男好女』からです。『悲情城市』は日本に権利があるからDVDも出ているし、プリントもある。

 -懐かしいですね。『風櫃の少年』は傑作ですしね。

 市山:『風櫃の少年』はたぶんデジタル・リマスター版になると思います。これはヴェネツィアでプレミア上映されたものです。

-最近デジタルで見るとがっかりすることが多いんですけど。

 市山:侯孝賢の指示ですし、ネガからちゃんと復元したものです。

 -4Kで?

 市山:4Kです。

 -蔡明亮の特集は?

 市山:侯孝賢特集は1年ほど前からフィルメックスでお披露目をという話がリチャードさんから来ていたんですが、蔡明亮特集は今年になってからで、台北文化センターが今年の6月に虎ノ門でオープンし、そこで秋の企画として蔡明亮特集をやる予算があるんだけど、彼らがやっても規模が小さくなるし、広報活動ができないんで、フィルメックスと一緒にやってくれないかという話が来たんです。なので、偶然この台湾の二大巨匠特集が実現しました。

 -これで邦画クラシックの寂しいところを補って、豪華な感じが出ましたね。

 写真は、チャン・ツォーチ監督『酔生夢死』上映後のQ&Aで、来日が叶わなかった監督に代わって質問に答える主演のリー・ホンチーさん(右)。リーさんは先週台北で開催された台湾金馬賞で最優秀新人俳優賞を獲得。

(齋藤敦子)