シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4・完)羊飼いと身分証の物語/ペマツェテン監督の「タルロ」に最優秀作品賞

2015/11/29

tokyofil2015_p04.jpg 11月25日に授賞式が行われ、以下のような結果が発表されました。

 最優秀作品賞の『タルロ』は、身分証を作るために町に出かけた羊飼いのタルロが、証明写真を撮るため、身なりを整えようと入った美容院で、美容師の女に羊の値段の話をしたのが運のつき、ついにはすべてを失ってしまうという寓話のような物語。ペマツェテン監督の話によれば、数年前に全員が身分証を持つよう法律が改正され、これまで身分証などとは無縁に生きてきたチベットの山奥の人々も身分証を作ることになったのだそうです。身分証と羊飼いの関係に託して、監督が何を描こうとしたのかは明らかでしょう。タルロが毛沢東語録の一節を中国語のまま、まるでお経のように暗唱する場面は圧巻でした。タルロを演じたシデニマはチベットでは有名なコメディアンで、本当に毛沢東語録を丸暗記させられた世代なのだそうです。

 審査員特別賞の『ベヒモス』は内モンゴルの巨大な露天掘りの炭鉱をテーマにしたドキュメンタリー。ベヒモス(怪物)とは人間の欲望を邪悪なエネルギー=怪物として捉えた題名で、ダンテの神曲をモチーフに、炭鉱を地獄、そこで働く人間の苦しみを煉獄、住宅政策の失敗でゴーストタウンと化した高層住宅群を天国(幽霊の町)として描いていました。監督のチャオ・リャンは2007年に2作目の『罪与罰』でナント三大陸映画祭の金の気球賞を受賞、3作目の『北京陳情村の人々』がフィルメックスや山形ドキュメンタリー映画祭でも上映された注目のドキュメンタリスト兼アーティストです。

 賞とは無縁でしたが、私が好きだったのはチャン・ツォーチ監督の『酔生夢死』。市場で野菜を売って小銭を稼ぎながら生きる不良青年ラットを主人公に、アメリカから返ってきたゲイの兄、ラットが好きになる口のきけない娼婦、兄貴分として慕うホストなど、台北の裏社会に生きる人々の姿を描いた群像劇です。今年の台湾金馬奨で、侯孝賢の『黒衣の刺客』に次ぐノミネートを獲得、ラットを演じたリー・ホンチーが新人俳優賞を受賞しました。市山プログラム・ディレクターのインタビューにもあるように、チャン・ツォーチの代表作となるべき1本だと思います。

 写真はクロージング作品『山河故人』上映後のQ&Aの模様で、左からプログラム・ディレクターの市山尚三さん、監督のジャ・ジャンクーさん、通訳の小坂史子さん、主演のチャオ・タオさん。『山河故人』は『山河ノスタルジア』という邦題で、来春、渋谷文化村ル・シネマで公開されます。

【受賞結果】

●コンペティション部門
最優秀作品賞:『タルロ』監督ペマツェテン(中国)
審査員特別賞:『ベヒモス』監督チャオ・リャン(中国)
スペシャル・メンション:
『白い光の闇』監督ヴィムクティ・ジャヤスンダラ(スリランカ)
奥田庸介監督(『クズとブスとゲス』/日本)

●観客賞:『最愛の子』監督ピーター・チャン(中国、香港)

●学生審査員賞:『タルロ』監督ペマツェテン(中国)

●タレンツ・トーキョー・アワード2015
『A Love to Boluomi』(タウ・ケクフアット/マレーシア)

(齋藤敦子)