シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3)国家への怒り激しく/ケン・ローチの「俺、ダニエル・ブレイク」

2016/05/16

2016_03_01cannes_photo.jpg コンペ部門のトップを切って登場したのは、ルーマニアのクリスティ・プイウの『シエラネバダ』。主人公は40代の医師ラリー、父親の死後40日目の喪開けの儀式が行われる日を舞台に、家族や患者が入れ替わり現れては様々な問題を持ち込むというもの。ほとんどがラリーの家の中にカメラが限定され、1シーン1カットに近い長回しで登場人物たちの動きを追っていく、その演出力と俳優たちの演技が見事で、とても見応えのある作品でした。3日目を終わった時点でジャーナリストの評価が最も高い1本です。

 3日目に公式上映されたケン・ローチの『俺、ダニエル・ブレイク』の主人公は、ニューカッスルに住む59歳の大工ダニエル。心臓発作を起こして仕事が出来なくなり、生まれて初めて国からの援助を受けることになるのですが、医者から働くことを禁じられているのに、失業手当を受けるためには求職活動をしなければならず、その矛盾を正そうとすると、今度は複雑な行政手続きの罠にとらわれてしまうというもの。

 『リフラフ』や『レイニング・ストーンズ』など過去の作品を見ればわかるように、もともとケン・ローチは失業者や社会の底辺で苦しんでいる人々に暖かい視線を向けてきた映画作家でした。今回の『俺、ダニエル・ブレイク』の特徴は、登場するのは善人ばかりで、いつも悪役を振られる理不尽な上司や、やくざまがいの高利貸などは一切登場しないということ。にもかかわらず、主人公のダニエルは、これまでのローチの主人公以上に過酷な扱いを受けるのです。もはや敵は個人ではなく、国家という巨大な組織なのだ、ということなのでしょう。この作品には、ローチらしい、ユーモラスな笑える場面が一切なく、それだけローチの怒りが深いことを思わせました。

 写真は記者会見の模様で、左がダニエルを演じたコメディアンのデイヴ・ジョーンズ、右がケン・ローチ監督。英国のEU離脱問題を聞かれた監督は、「EUを出れば英国は一気に極右に向かうだろう。EUにとどまって、ヨーロッパの中で一緒に闘う方がいい」と答えていました。

(齋藤敦子)