シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2) 安易なモノクロ依存。デジタル化が助長/<アジアの未来>部門プログラミング・ディレクター、石坂健治さんに聞く

2016/10/31

tokyocinema2016_p_02.jpg -今年の<アジアの未来>部門の特徴は何ですか? 矢田部さんからは移民ものが多くて選択が難しかったというような話を伺ったんですが、こういうテーマが多かったというようなことはありましたか?

 石坂:女性の台頭というテーマは多いです。去年は監督自体が半分女性、今年は2人だけど、インドネシアの特集まで入れると相当多いし、このインドの『ブルカの中の口紅』が象徴的ですが、抑圧とそれをどう突破するか、みたいな映画が多いですね。それから、これはテーマじゃなく、デジタル時代の特徴かもしれないけど、最近モノクロがやたら多い。フィルム時代のモノクロって高いじゃないですか。それがデジタルだとスイッチ1つでモノクロ映像ができてしまう。デジタル時代になって、ちょっと安易にモノクロに走る傾向が目立ってきてます。もちろんラヴ・ディアスとか、今回選んだ『八月』とか、いいものはいいんですが、セピア感に頼りきっているようなものもかなりあって、善し悪しになってる感じです。

 -モノクロにするとアートっぽい感じが出てくるから、あまり考えないで安易に走りすぎる?
 石坂:考えてない作品は、わかっちゃいますね。私は写真もモノクロが好きだけど、モノクロである必然性が逆に問われてくる。

●フィリピンが頭ひとつ抜け出す
 -今年イスラエル映画もありますが、ざっくりアジアを東、南、西と分けると、どうでしょう。東はやっぱりフィリピンですか?
 石坂:フィリピンが頭ひとつ抜け出してますね。もちろんその1つには三大映画祭ですべて受賞しているということもありますが、そういうトップがいるんで裾野も広がってきて、若い人のモチベーションもすごく高い。

 -トップのラヴ・ディアスとメンドーサは別格として、あとの若い世代もどんどん出てきている?
 石坂:コンペのジョン・ロペス・ラナとか、その辺の人たちがどのくらい伸びていくかですが。

 -フィリピンは2本あるんですね?
 石坂:ミカイル・レッドの『バードショット』とアイバン・アンドリュー・バヤワルの『I America』です。シネマラヤ映画祭が去年不祥事があって、いったん新作を作るのをやめたんですが、それがまた復活し、この『I America』がそうだし、東京フィルメックスに来る『普通の家族』というのもシネマラヤで、また元気になってきたんで、黄金時代はしばらく続くんじゃないかな。

 -中国は2本、台湾1本で、中華系が3本ですね。
 石坂:さっきのモノクロの話で言うと、コンペの中国と<アジアの未来>の中国はモノクロです。

●「中間層」が面白くなってきた中国
 -中国は今、モノクロが流行?
 石坂:そうです。それに、ハリウッド化している極大な、マクロの部分と、反体制インディーズの山形やフィルメックスに来るようなものとの二極分裂みたいなイメージがあったのが、だいぶ中間層がふくれてきたという感じです。去年の『告別』というのが内モンゴルだったけど、この『八月』も内モンゴルなんです。

 -プロデューサーがペマ・ツェテンなんですね。
 石坂:そうです。内モンゴルのチャン・ダーレイという新人監督にペマ・ツェテンがエグゼクティブ・プロデューサーで入った。地方というか、少数民族というか、その辺のニューウェーヴみたいな感じがする映画です。12歳の少年が8月の夏休みをどう過ごすかというシンプルな話なんですけど、お父さんが映画撮影所に勤めてて、それが衰退している内モンゴル撮影所で、映画史的な記憶も入ってくるという。

 -去年の『告別』もそんな感じの映画でしたよ。
 石坂:『告別』の監督の推薦です。どうも仲良しみたい。で、そこにチベット派もついていて、この動きは面白追いなと思ってます。今、1990年代をノスタルジー的に作っちゃうじゃないですか、中華圏は。ちょっと豊かになったから昔にいく余裕が出た。だけど、これは違うんですよ。もっとドライで冷めていて、中央中華圏のノスタルジック青春映画ではないところが、やっぱり面白くて。モノクロっていうのもあるし。

●ノスタルジーを追う台湾
 -台湾は?
 石坂:台湾はやっぱりドキュメンタリーがいいんです。『四十年』は音楽ドキュメンタリーで、去年もインドの音楽ドキュメンタリーを入れたけど、ベテランのロックやフォークのおじさんたちがもう1回集まってコンサートをやるという映画です。

 -台湾は結構ノスタルジーの方に行ってますよね。
 石坂:『あの頃、君を追いかけた』以来、そういうのがすごく多い。その中にあって、これはちょっと異色だし、同窓会的なコンサートの裏側を密着取材するドキュメンタリーなんだけど、それこそ少数民族の歌手が出てきて歌ったり、癌で余命があまりない人が出てきたり。アメリカの、それこそボブ・ディランの影響とかがわかる。日本とほぼ同じ、同時代性のようなものを感じます。

 -歌は似ていると思いますね。歌謡曲は美空ひばりとテレサ・テンで括れるようなところがある。
 石坂:私はポップスの同時代性にびっくりしました。
  ついでに言うと、去年の『告別』は北京電影学院の卒業制作だったんだけど、今年のコンペの『ミスター・ノー・プロブレム』はメイ・フォンという北京電影学院の先生で、ロウ・イエの脚本家だった人が初めて監督した作品です。北京電影学院は大学の中に撮影所があって、そういうある種、解放区のようなところで作っているんです。辺境の若い監督たちとか、学校の中で作ってる人たちとか、その辺がすごく新しい動きで面白いなと。

 -その動きは持続しますか?
 石坂:持続してほしいですね。

 -そこがちょっと心配なとこですけど。
 石坂:今年、ヨーロッパの映画祭には軒並み中国映画がなかったでしょ。でも、子細に見てくと面白いのはあるんです。

 -続いて韓国ですけど、プサン映画祭には行きました?
 石坂:行きました。

●アジア全体を学べるプサン
 -どうでした?
 石坂:普通でしたよ、上映そのものに関しては。相変わらず韓国映画が非常にたくさん出るんで、この時期、韓国映画のプレミアを持ってくるのはなかなか難しいという実感があります。今年は幾つかの職能組合が参加しなかったので、やたらインディーズ映画が多かった。それで大スターの華やかな挨拶というのは減ってたと思うけど、インディーズは面白いのと面白くないのとがはっきりしてました。私が見た中では、あんまり当たりがなかった。ただ、全体でアジア映画をすごい数まとまって見られるという意味では相変わらず勉強になりますけど。

 -その難しい中で『ケチュンばあちゃん』を選んだのは?
 石坂:設定は「あまちゃん」みたいな話なんです。おばあちゃんが海女さんで、失踪していた孫が帰ってきて、でもちょっと謎がある、みたいな。で、泣けるんです。映像の実験という意味で選んだ映画もあるけど、これは感情移入ができたという意味で。

 -とすると、<アジアの未来>で何を目指しているかというのがわかりにくいですね。目的は新しい才能の発見であって、傾向はなくてもいいということ?
 石坂:傾向は、私は案外幅広いというか、

 -面白ければいい?
 石坂:2時間なら2時間、納得して、満足できればいいと思って。どっちかというと社会的なテーマが明確な作品が好みかもしれないですが。

 -フィリピンの2本については、どういう視点で選ばれたわけですか?
 石坂:メンドーサ、ディアスに続く才能の発見みたいなことはしてるんです。『バードショット』はミカエル・レッドの2本目で、1本目の『レコーダー 目撃者』というのをやっぱりTIFFでワールドプレミアでやり、今回も取りに行ったんですが、国立公園みたいなところで展開するミステリーです。東南アジアに特有の"森のミステリー"と名付けましたが、なかなかシャープな作品です。『I America』はうってかわって、フィリピンて、すごく尊敬している理由の1つは、アメリカの基地を撤廃したんですよね。アキノ革命のあと、憲法を変えて。しかし、そのアメリカ軍がいた時代にフィリピン女性との間にいっぱい子供が生まれ落ちて、その子たちが成人して、主人公くらいの女の子になっているわけですが、お父さんは帰っちゃえば音沙汰なしということで、蝶々夫人みたいな話に近いですけど。子供の側がアメリカにいる父親を探しに行きたいみたいなことで展開していく話で、実によくフィリピンの現状がわかるという。

 -『I America』はシネマラヤで賞をとっているんですね。<アジアの未来>は他の映画祭で賞をとってもOKなんですか?
 石坂:ワールドプレミアまたはインターナショナルプレミアであればいい。たとえば、中国映画の『底辺から走り出せ』は上海で賞をとっているんだけど、国内の映画祭なので、東京ではインターナショナルプレミアになるのでOKなんです。

●若手主導で活気取り戻したインド
 -インドの映画は?
 石坂:『ブルカの中の口紅』のシュリーワースタウも女性監督で、女性4人の話なので、これも本当に女性映画です。それぞれ学生だったり主婦だったりが、抑圧された現状からどうやってそれを突破していくかっていのを平行して描くという。なかなか達者な映画です。
 インドネシアの『サラワク』も女性の新人監督で。非常にトロピカルな、きれいな映画だけど、少年がお姉さんを探すという旅の話ですが、これも結婚しないで子供を作ったと言うことで女性たちが共同体から排除されて、そこから逃げざるをえないというテーマで、女性監督的な視点があります。

 -インドネシアはガリン・ヌグロホのあと、なかなか目立った人が出てこないですが。
 石坂:2000年がどん底で、年間製作6本まで落ち込んだんですが、旧勢力がみんな引退して、そこから若手が出てきて、今100本くらいに盛り返しています。完全に若手主導ですね。たしかにフィリピンみたいな巨匠はいないけれど、その前段階で、ここから誰が出てくるかというのが今年のクロスカット・アジアの<カラフル!インドネシア>のテーマなんです。

●音楽家が監督に。完成度高い「雨にゆれる女」
 -今年の日本映画は?
 石坂:このところ毎年女性監督だったんです。去年は横浜聡子、その前が杉野希妃で、それはアジアの元気なヤングシネマ・コンペの中に日本映画を入れて、ちゃんと競い合うには、なかなか難しいところがある。今年は半野喜弘さんの『雨にゆれる女』で、半野さんはジャ・ジャンクー作品などに音楽をつけてた人で、音楽家が監督になったということの面白さと、新人らしくない、相当完成度が高い作品で フィルムノワールですけど、これは十分競い合っていけるんじゃないかと。むしろ、アジアは完成度というよりは勢いのある作品が多いから、こういう日本映画を入れていいんじゃないかと。

 -日本映画の立ち位置というのが難しいですね。コンペと、<アジアの未来>と、<日本映画スプラッシュ>とあって、どの日本映画をどこにはめたらいいのか、というのも変だけれども、セレクターの腕の見せ所というか、趣味が現れるところでもあるわけですね。
  今年の審査員は?去年はアルテ・フランスのオリヴィエ・ペールでしたが。
 石坂:韓国のプチョン・ファンタスティック映画祭のトップで、『グエムル』などの映画を作ったプロデューサーのチョ・ヨンベさんと、カナダのトロント映画祭のプログラマーのジョヴァンナ・フルヴィさんと、橋口亮輔監督。

 -今年から何年かチェさんが審査員を続けるんですか?
 石坂:いや、複数年ではないです。ジェイコブみたいに何年もやってもらった人はいますけど。

●日本とアジアの監督のオムニバス「アジア三面鏡」
 -今年、大きく変わった点は何でしょう?
 石坂:『アジア三面鏡』が入ったということと、結果としてだけど、ワールド・フォーカスに長い映画が何本か入ったということで、本数を減らさざるを得なかったということです。ラヴ・ディアスが8時間で4本分、『クー嶺街少年殺人事件』が4時間で2本分なので。やりたい映画はいっぱいあったけど、こういう映画をやるのも映画祭ならではですから。ラヴ・ディアスは、今ハーバード大学のフェローでアメリカにいるんで、とんぼ帰りで来てくれるんだけど、着いたその日の夜中にQ&Aをやって、翌日帰るようです。

 -ハーバードのフェローってすごいですね。そして、今年の目玉、日本とアジアの監督3人のオムニバス映画『アジア三面鏡』ですけど、製作はいかがでした?順調でしたか?
 石坂:いろいろ大変なことはありました。けれども、あがってよかったな、と。

 -次回もやるんでしょう?
 石坂:やります。2年後に。まだ何にも決まってなくて、人選からこれからです。

 -今年、監督を選んで、2年後までに作るということですか?
 石坂:そうです。TIFFが終わってからの作業になりますけど、日本1、アジア2で、今年は東南アジアだったけど、そこにこだわらずに。TIFFとのこれまでのつながりも考えたいし、今回カンボジアのソト・クォーリカーはTIFFで賞をとって抜擢されたという流れがあるので、その辺もTIFFに作品を出すと何かいいことがあるかもね、みたいな雰囲気作りも含めてやっていきたいと。

 -『アジア三面鏡』は東京映画祭的には売りになる?
 石坂:明らかにそうだと思う。メンドーサのエピソードの雪の中のフィリピン人のスチル写真がカンヌで大きく取り上げられたのはよかったなと思ってます。

●興味深いメンドーサ組
 -さすがでしたね、メンドーサは。
 石坂:クルーはすごく少人数なんです。照明なんか全部自然光だし、それからポスプロ(ポスト・プロダクション、撮影後の編集や音響などの作業)。完成版を見て一番びっくりしたのは音で、こんなに強調されるんだと。音は全部後で加工してるんです。決してリアリズムというか、録ったまんまじゃない。それから、その場にいるものは全員スタッフもキャストで使ったり。

 -石坂さんもプロデューサーも出てましたね。
 石坂:インディーズのお手本みたいな作り方でしたね。メンドーサ組に接してみてわかったんだけど、師匠のところにほぼ住み込みで"メンドーサ・ボーイズ"が働いているわけ。レストランも経営してるから、そこで働きながら、師匠に稽古をつけてもらうという、ほとんど落語の師匠と弟子の世界。弟子のレイモンドなんて、もうカンヌの短編のコンペにこの間入って、これがまた、堕胎された嬰児の死体を扱う闇のビジネスの話で、師匠真っ青なのを撮って、審査員長が河瀬直美さんだったから賞は獲らなかったけど、ちゃんとそういうのが育ってきてる。

 -そういう世界は日本にはないね。
 石坂:日本では逆に伝統芸能にはあるんだけど。

 -映画が伝統芸能になってるんだね、フィリピンて。
 石坂:これはメンドーサ組に接して、すごいなと思った。

 -メイキング・オブが最後にちょっとついてるじゃないですか?あれで一番楽しそうなのがメンドーサ組だった。
 石坂:そうそう。雪が楽しくてしょうがない。行定チームのマレーシアのスタッフも本当に楽しそうだった。今回は2カ所はロケまでついていったんだけど。

 -帯広以外にも?
 石坂:帯広とペナン島。カンボジアは行かなかったんで、わからないけど、2つについて言えば、本当にアジアの映画人て楽しそうに映画を作るなっていう。私は映画大だし(日本映画大学教授)、日本の現場もいっぱい知ってるけど、本当にピリピリしてる。それは善し悪しだろうけど、映画ってこんなに楽しく撮るんだな、昔の日本映画の現場も、こんなだったんだろうかとか、ちょっと思っちゃった。

 -『三面鏡』でスタッフの交流もしてみたらいいかもしれない。監督は子飼いのスタッフを使いたがるかもしれないけど、インターンみたいな形でスクランブルしたら、勉強になるんじゃないかな。せっかく合作するんだったら、そういう形の交流があってもいいかも。ポスプロだけじゃなくて。
 石坂:現場はだいぶ多国籍な状況が見られたけど、もう少し技術パートとか、明確な目的を持って、入りまじってみるのはありかもしれない。

 -で、『アジア三面鏡』は、映画祭で華々しくお披露目と。上映はオープニングで?
 石坂:2日目です。その後は制作国で上映することと、あとは海外展開で、今いろんな国際映画祭にアプローチを始めているところです。

 写真は<アジアの未来>部門のプログラミング・ディレクター、石坂健治さん(10月17日、東銀座の東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)