シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)若い世代の掘り起こし目指すU-25割/林加奈子ディレクターに聞く

2016/11/21

2016tokyo_filmex_p_02_01.jpg●巨大化したプサン

 -個々の映画については市山さんにうかがったので、 林さんには、映画祭の運営や動向、映画祭というものについての考え方をうかがいたいと思っています。今年プサンには行かれました?
 林:ちょっとだけ。

 -どうでした?
 林:がんばってるなと。規模は大きいままだし、にぎやかだし、全然しょぼくれてなかった。そういう意味ではすごいなと思いました。ただ、フィルメックスと全然違うのは、とにかく大きいこと。1つのパーティでも1000人とかいて、同じパーティにいるのに会えない。ボランティアもそうで、1000人超えていると思うんで、何かを聞いたら誰からも同じ答えが返ってくるというのじゃなく、"ちょっと待ってください"と言われて、誰かに聞きに行ってと、返事に時間がかかる。組織化が大変な規模になっちゃってる。たとえば空港にカウンターがあって、ちゃんと人がいて、トランスポーテーションのチケットを渡してくれるけど、私は何度も行ってるからいいけど、初めての外国のゲストで韓国語も漢字も分からなかったら、同じゲートでもいろんな路線バスが5台くらいとっかえひっかえ来るので、プサンの映画祭のホテルに停まるバスはどれか、バスの運転手さんは英語がペラペラなわけじゃないので、カウンターに3人いるなら、バス乗り場に1人ついていればいい、というようなことが、あんなに巨大化してしまったら無理なんです。

  -細かいケアができてない?
 林:ただ、カンヌとかは、あれだけ大きな映画祭だけれども裏の手というのがある。ある人には、あそこに行けばすべてが解決する場所とか窓口がある。カンヌの運営は実はものすごく行き届いている。ほったらかしで、知らん顔しているように見せかけているけど、実は全部分かってコントロールしてるってことが、すごいなと思う。

●迎えの車にゲストキット
 -プサンはまだそこまで行ってない?
 林:急に大きくなっちゃったから。ゲスト以外でヨーロッパなどから、かなりな人がプサンに来ています。ゲストが泊まっているホテルの前の大きなホテルに個人で自費で来ている人たちが泊まっているんです。 それくらい大きくなっちゃった。
 逆転の発想で、うちの小ささというもの、小回りがきくことをどこまで最大限に生かせるかを、ものすごく意識しています。たとえばプサンはホテルに着いて、映画の殿堂というフェスティバル・オフィスに行かないとパスとカタログが手に入らない。私たちは規模が小さいから、迎えの車にゲスト・キットを乗せてしまうとか、それぞれのホテルにキットを置いておく。着いた日の夜に薬を飲む人がいるかもしれないので、ミネラルウォーター1本とウェルカム・レターとスケジュールを一緒にして、到着のときにホテルで見られるようにしたい。それって、そんなに難しいことじゃないと思うんだけど、わりとされてないんです。

 -フィルメックスは、この17年間でスペースや予算の増減があったと思いますが、比較すると今年は小さい方それとも大きい方?
 林:作品本数的には小さい方ですね。というのは去年はスバル座で蔡明亮の特集がやれたし、松竹がやってる日本映画のクラシックをコラボ企画にインクルードさせてもらって東劇でやったこともありました。今年の22本は少ない方だと思うんですけど、イベント企画としてはタレンツ・トーキョーはもう7回目だし、学生審査員も6回目で続いているし、イスラエルのトークイベントをやったり、初日に国際シンポジウムとかもやろうとしてるので、大きな年ではないけれど、中身の濃い年だと思います。

 -予算は比較的少ない?
 林:どん底じゃないです。去年よりはまし。去年はもっとひどかったです。

 -フィルメックスの予算は主にどこから?
 林: いろいろです。文化庁とか、政府の予算ももちろんあるし、タレンツ・トーキョーなら東京都とアーツ・カウンシル東京とか。

 -チラシに出ている企業の援助も。
 林:そうです。あとオフィス北野の森社長が北野武さんのコマーシャルの話が来たときにフィルメックスに協賛してやってくださいという話をつないでくださるんです。なので、チラシなどの広告が北野さんだらけになってます。あとは個人のサポーターの寄付とか、エールフランスなど私たちからお願いする企業もあるし、いろいろです。

●学生の評価を喜ぶ監督たち
 -安定してます?
 林:1回やってくださると、継続的にやってくださる。それはとてもありがたいことで、ある企業の偉い人は、お礼に行って継続のお願いをすると、私の目の黒いうちは、うちの会社が続けられるだけ続けるから、林さんは映画を見ててください、と言ってくださる。そういう風に理解してくださる方は継続してくれる。ただ、野球なら東京ドームで1試合5万人とか、サッカーなら味の素スタジアムで1試合で6万人とか、すごい数でしょ。そういうものに比べて映画は映画が好きな人が映画を見るだけで、いきなり購買意欲が高まるわけじゃないから、なかなか厳しい。新しいところを増やしていくのはすごく大変です。


 運営的に今年一番の違いは、若い人向けのU-25割(平成3年1月1日以降生まれ対象)を始めたこと。それは絶滅危惧種として心配な若いお客さんを増やそうとしてのことで、どんなにいい映画をやっても、それを見るお客さんがいないと困ってしまうからです。今年6年目になりますが、学生審査員をやってて思ったのは、監督たちが学生に選ばれたことをすごく喜ぶこと。これからの若いお客さんが自分の映画を評価してくれ、好きだと言ってくれることを毎年毎年喜んでくれる。逆に、学生さんて自分で映画を見ることはあっても他人と映画の話をあまりしないけど、学生審査員になると、映画の話をとことんする、しかも会議のような形で。学生審査員の人たちも、大変だったし、悩んだし、苦しかったけど、すごくいい経験だったと言ってくれる。審査員にとっても刺激になり、監督にとっても喜ばしいことであれば、これはとことん続けなければと。

 -学生審査員のその後はトレースしてます?
 林:してます。山戸結希は監督として活躍しているし、映画を作り続けている人もいれば、映画の業界に就職した人もいて、わりとそれぞれなんだけど、すごくがんばって活躍しています。まあ、審査員をやろうという人たちは本当に真面目な人たちなんだけど。
 今年新しいのはFilmarks賞で、Filmarksという映画レビューサービスのサイトで投票できることです。フィルメックスの観客賞は授賞式のときに発表しています。なぜなら監督がまだいらっしゃるときに賞をあげたいから。そうすると、授賞式の前の作品までしか対象にならない。昔ベルナール・エイゼンシッツさんが審査員長で来てくださったときに、クラシックが観客賞をとったことがあって、昔の映画も今の映画も平等に扱うなんてフィルメックスって何て素敵な映画祭だろうと言ってくれて、本当はクラシックも新作も全部を対象にしたいんだけどなかなか出来なくて、忸怩たる思いがあった。それが、私たちとは違うところがサイトを作ってくれて、映画を見た後にスマホで評価を投票すればいい、と。難点は見てなくても投票できるところなんだけど、性善説に基づいて、やってみようということになりました。

 -お友達の多い監督が勝つかもしれない?
 林:かもしれない。ただ、フィルメックスのお客さんは真面目なので。

 -すべての作品が対象になるわけですか?
 林:そうです。『侠女』も『ざ・鬼太鼓座』も。

●ネット活用も若者対策
 -得点はこのサイトで見られる?
 林:もう出てるはずです。前に見たことのある『侠女』を評価してる人がいるので。最終日で締め切るので、授賞式では発表できないけど、終わった後で発表します。お祭りの要素としてはちょっと面白いかなと。フィルメックスの公式サイトも若い人が見やすいようにスマホ対応のレイアウトに変えてみたり、今年インスタグラムも始めたんです。思ったより大変なんだけど、ボランティアスタッフがやってみたいと手をあげてくれて。

 -インスタグラムでハッシュタグを付けて?
 林:まだまだ始めたばっかりなんだけど、若い人を増やすために何ができるだろう、と考えて。

 -フィルメックス的規模の映画祭って、世界的に増えている感じ?
 林:映画祭の宿命ってどんどん大きくなってしまうことです。残念ながら。そうすると、たとえば作品選定にしても妥協しなければいけなくなってくる。この規模って珍しいかもしれません。。そういえばニューヨーク映画祭が、ずーっと同じ規模なので似てるかもしれません。あそこも30本くらいに絞って、内部で変化はあるけれど、ずっと同じ感じでやっている。あとはアジアンとかレズビアン・ゲイ、キンダーとか、何かに特化している映画祭はあると思う。日本でも広島国際映画祭が出来たり、動きはあるけれど。

 -この規模のという言い方は変だけど、この規模の映画祭が増えるということは、この種の映画がなかなか配給されないということで、映画的には不幸なことじゃないかと思うんですが。
 林:フィルメックスで上映されている映画って、普通に公開されておかしくないんです。私が学生の頃にはシネ・ヴィヴァンでもシネマライズでも普通に見られた映画です。マニアに向けた映画でも何でもなく、作り手が本当に伝えたいものを、商売のためじゃなく、命をかけて作ってる映画なんです。それが普通に公開されておかしくないのに、今や配給が決まっているものが極端に少ない。去年、蔡明亮の特集で『青春神話』を初めてごらんになる人?と聞いたら、ほとんどの手が挙がった。私にとっては当然知ってる映画でも、デジタルリマスター版という新しく見るチャンスが出来て、初めて見る人がどれだけ多いか。

●コンペは新人発掘を重視
 -去年はエテックスの特集がありましたが、今年は?
 林:コンペは10本なんだけど、6本はデビュー作なんです。特別招待でアミール・ナデリやキム・ギドク、モフセン・マフマルバフとか、おなじみの人たちが。

 -ゲストが固定化されてきましたね。
 林:でもコンペが6本新人で、フレッシュで、初めましての人たちが多い。巨匠クラスの特別招待作品に入れるには若手だけど、コンペには入れない枠で、ナイスと思う映画は結構あるんです。アイスランドの若手の映画とか、たまたま見たらすごいと思う。よっぽどすごければ、『ハンモック』みたいにやってしまうんだけど。特集でもルーマニアをとことん調べて、ムンギウの1作目からどうやって見せたらお客さんに喜んでもらえるかとか考えたり。去年の蔡明亮で分かったのは、何かの興味でつないでいくこと。『タイペイ・ストーリー』なら侯さんが出ているエドワードの作品という風に、何かで引っ張れないかなと。

 -去年、蔡明亮の特集で『楽日』を見た人は絶対にキン・フーの『竜門の宿』を見なくちゃいけない、とか。
 林:そういうつながりが出来ないものかなと思ってるんです。映画ってクラシックでも今の映画でも幾つか見ていると考えざるをえないことが出てくる。それが映画のお祭りなんだよね、と。

 -今年のフィルメックス・クラシックという特集は?
 林:たまたまです。春ぐらいにモフセンにタレンツ・トーキョーの講師をお願いして、そしたら6月くらいに実はこういう作品があると送ってきてくれて、それが『ザーヤンデルードの夜』でヴェネチアで上映されることがわかり、やらしてもらう話になったり、『タイペイ・ストーリー』の話が来たり、松竹さんから『侠女』と『竜門の宿』が両方できるという話が来たり、どんどん増えていって。それもある意味、若い人に対して昔の映画をみんなで一緒に見るチャンスになると。

 -クラシックは来年あるかどうか分からない?
 林:分かりません。映画がなければやらない。

 -今回はたまたま特集としてやれる映画が揃った?
 林:映画至上主義なので。枠から決めるのは嫌なんです。フィルメックスのビジョンはやりたいものがあったら作る。

 -ルーマニアも来年何かがあったらやるかもしれない?
 林:そうです。ルーマニアだけじゃなく、リサーチしている国が幾つかあって、うまくタイミングがあえば。前にブラジルをやったときも、何年もリサーチしてやっと遺族まで連絡がとれたら、今ちょっとスポンサーがついたんで、再来年になったらオール字幕入りのきれいな素材を作るんでって言われたら2年待つでしょう?そういうタイミングは常に待ってます。

 -映画祭という枠中心じゃなく、映画中心に映画祭を作っていくというポリシー?
 林:理想、ビジョンはね。

 -それを来年も続ける、と。
 林:いつまで続けるかというのがまた問題なんですが。

 -当面、来年はやるでしょ?
 林:開催決定って、カタログに入っちゃってるんで(笑)

 写真は林加奈子ディレクター(11月15日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)