シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(2)権力の側に立つ司法の恐怖/クーロフ監督の「トライアル」

2017/02/13

2017berlin_p_02_01.jpg ポリティカルな年と呼ばれる今年をよく表した映画を2本見ました。両方ともベルリナーレ・スペシャル部門で上映された作品で、1本はアスコルド・クーロフの『トライアル:ロシア国家対オレグ・センツォフ』というドキュメンタリー、もう1本はラウール・ペックの『若きカー

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ル・マルクス』です。

 『トライアル』は、ウクライナのドキュメンタリー作家オレグ・センツォフの裁判を追ったドキュメンタリーです。センツォフはロシア寄りの政権に反対して起こった住民運動マイダンの活動家でしたが、クリミア半島がロシアに併合された後、テロリストの疑いでロシア警察に逮捕されてしまいます。が、最初に家宅捜索されたときには何の証拠も発見されなかったのに、2度目の家宅捜索で彼の映画の記事の載った新聞に包まれた武器が発見されてしまいます。明らかにでっちあげの罪なのですが、裁判の目的は反ロシア活動への見せしめなので、弁護側の主張が認められるはずもなく、センツォフは20年の禁固刑でシベリアの刑務所へ送られてしまうのです。今回の上映は、30周年を迎えたヨーロッパ映画アカデミーが、彼の問題を再びクローズアップして釈放運動に繋げるためのものだそうです。

 つい先日もトランプ新大統領によるイスラム系7カ国の国民の入国差し止めの大統領令にアメリカの司法が効力の停止を命じたことがありましたが、もし三権分立が失われ、司法が権力の手先に堕してしまったらどうなるか。『トライアル』が描いている恐怖は、実はもうすぐそこに迫っているのかもしれません。

 『若きカール・マルクス』は、若きジャーナリスト、カール・マルクスが、裕福な紡績工場主の息子フリードリッヒ・エンゲルスに出会い、共産党宣言を発表するまでの青春時代を描いたもの。マルクスというと白い顎髭を生やした晩年の姿を連想しますが、こちらはまだ髪も髭も黒々とした20代の青年で、演じるアウグスト・ディールは若い頃のマルクスに意外によく似ています。脚本はパスカル・ボニゼールとペックの共同で、青年マルクスらの社会改革運動に、60年代の学生運動を投影しつつ、現代に繋げる目的を持って作られた映画のように感じました。

 はたして、この映画が若い世代に共感を持って受け入れられるかどうか。社会の不正に躊躇なく声をあげるアメリカやヨーロッパはともかく、学生運動も左翼も消滅してしまった今の日本の若者たちは、いったいどんな反応をするのだろう。果たしてマルクスという人を知っているのだろうか、などなど、いろんなことを考えさせられる映画でした。

 写真(上)はベルリナーレの記者会見場
 写真(下)上映会場シネスターのあるソニーセンター入口

(齋藤敦子)