シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3完)グランプリに「ブルーム・オブ・イエスタデイ」/ホロコーストの記憶がテーマのロマンチック・コメディ

2016/11/06

tokyoimage01.jpg 11月3日に六本木のEXシアターで授賞式が行われ、以下のような賞が発表になりました。今年の審査員長はフランスのジャン=ジャック・ベネックス監督、以下、メイベル・チャン(プロデューサー)、ヴァレリオ・マスタンドレア(俳優)、ニコール・ロックシン(プロデューサー)、日本の平山秀幸監督の5人。グランプリは、「4分間のピアニスト」が日本公開されているクリス・クラウス監督が、今に残るホロコーストの記憶をテーマに、ドイツ人のホロコースト研究家とユダヤ系フランス人女性とのロマンチック・コメディ風に描いたもの。特別賞の「サーミ・ブラッド」は、スウェーデンの少数民族サーミ族の少女を主人公に、1930年代に行われた同化政策の暗部を描いたものだそうですが、残念ながら、今年は例年以上に仕事が重なって、コンペ部門の作品はほとんど見られませんでした。

tokyoimage02.jpg アジアの未来部門は、石坂健治プログラム・ディレクターのインタビューにある通り、プチョン・ファンタスティック映画祭のディレクターのチョ・ヨンベ、トロント映画祭プログラマーのジョヴァンナ・フルヴィ、橋口亮輔監督の3名が審査し、ミカイル・レッド監督の「バードショット」に作品賞を授与しました。

 ミカイル・レッドは91年生まれの25歳で、これが2作目。デビュー作の「レコーダー 目撃者」も3年前の東京映画祭で上映されています。「バードショット」は、絶滅危惧種のワシを誤って撃ち殺した娘を主人公に、過去に何かありそうな娘の父親、バスの乗客が全員行方不明になった事件を捜査する若い警官などを絡めて描いたミステリー。一見、西部劇風ですが、警察の腐敗などフィリピンの社会問題が盛り込まれていて、今年のアジアの未来の中で唯一見応えのある作品でした。
2016tokyo_cinema_p_03_03.jpg 「ブルカの中の口紅」は女性の自立をテーマに、インドの小都市に住むざまざまな年齢の女性たちの葛藤を描いたもの。女性監督のシュリーワースタウはインドの映画産業の中心地ムンバイ生まれだけあって、達者にまとめたという印象。
 石坂ディレクター推薦の内モンゴルのチャン・ダーレイ監督の「八月」は、父親が映画撮影所に勤める12歳の少年の夏休みを描いたモノクロの作品。見ていると、侯孝賢の「冬冬の夏休み」やエドワード・ヤンの「ヤンヤン 夏の想い出」といった"子供の夏休みもの"の秀作を次々連想してしまい、となると、登場人物を見つめる視線の浅さが気になってくるし、モノクロの映像もただ美しいだけに終わっていたのが残念です。

写真(上)は東京グランプリのクリス・クラウス監督。後列右端が審査員長のジャン=ジャック・ベネックス。(c)TIFFANY2016
写真(中)は今年の審査員と受賞者。(c)TIFFANY2016
写真(下)は今年の会場風景。TOHOシネマズ六本木の入口。


【受賞作品】
東京グランプリ/東京都知事賞
「ブルーム・オブ・イエスタデイ」監督クリス・クラウス
審査員特別賞:「サーミ・ブラッド」監督アマンダ・ケンネル
監督賞:ハナ・ユシッチ「私に構わないで」
女優賞:レーネ=セシリア・スパルロク「サーミ・ブラッド」
男優賞:パオロ・バレステロス「ダイ・ビューティフル」監督ジュン・ロブレス・ラナ
芸術貢献賞:「ミスター・ノー・プロブレム」監督メイ・フォン
観客賞:「ダイ・ビューティフル」

アジアの未来部門
作品賞:「バードショット」監督ミカイル・レッド
国際交流基金アジアセンター特別賞:
アランクリター・シュリーワースタウ「ブルカの中の口紅」

日本映画スプラッシュ賞:「プールサイドマン」監督 渡辺紘文

WOWOW賞:「ブルーム・オブ・イエスタデイ」

(齋藤敦子)

(2) 安易なモノクロ依存。デジタル化が助長/<アジアの未来>部門プログラミング・ディレクター、石坂健治さんに聞く

2016/10/31

tokyocinema2016_p_02.jpg -今年の<アジアの未来>部門の特徴は何ですか? 矢田部さんからは移民ものが多くて選択が難しかったというような話を伺ったんですが、こういうテーマが多かったというようなことはありましたか?

 石坂:女性の台頭というテーマは多いです。去年は監督自体が半分女性、今年は2人だけど、インドネシアの特集まで入れると相当多いし、このインドの『ブルカの中の口紅』が象徴的ですが、抑圧とそれをどう突破するか、みたいな映画が多いですね。それから、これはテーマじゃなく、デジタル時代の特徴かもしれないけど、最近モノクロがやたら多い。フィルム時代のモノクロって高いじゃないですか。それがデジタルだとスイッチ1つでモノクロ映像ができてしまう。デジタル時代になって、ちょっと安易にモノクロに走る傾向が目立ってきてます。もちろんラヴ・ディアスとか、今回選んだ『八月』とか、いいものはいいんですが、セピア感に頼りきっているようなものもかなりあって、善し悪しになってる感じです。

 -モノクロにするとアートっぽい感じが出てくるから、あまり考えないで安易に走りすぎる?
 石坂:考えてない作品は、わかっちゃいますね。私は写真もモノクロが好きだけど、モノクロである必然性が逆に問われてくる。

●フィリピンが頭ひとつ抜け出す
 -今年イスラエル映画もありますが、ざっくりアジアを東、南、西と分けると、どうでしょう。東はやっぱりフィリピンですか?
 石坂:フィリピンが頭ひとつ抜け出してますね。もちろんその1つには三大映画祭ですべて受賞しているということもありますが、そういうトップがいるんで裾野も広がってきて、若い人のモチベーションもすごく高い。

 -トップのラヴ・ディアスとメンドーサは別格として、あとの若い世代もどんどん出てきている?
 石坂:コンペのジョン・ロペス・ラナとか、その辺の人たちがどのくらい伸びていくかですが。

 -フィリピンは2本あるんですね?
 石坂:ミカイル・レッドの『バードショット』とアイバン・アンドリュー・バヤワルの『I America』です。シネマラヤ映画祭が去年不祥事があって、いったん新作を作るのをやめたんですが、それがまた復活し、この『I America』がそうだし、東京フィルメックスに来る『普通の家族』というのもシネマラヤで、また元気になってきたんで、黄金時代はしばらく続くんじゃないかな。

 -中国は2本、台湾1本で、中華系が3本ですね。
 石坂:さっきのモノクロの話で言うと、コンペの中国と<アジアの未来>の中国はモノクロです。

●「中間層」が面白くなってきた中国
 -中国は今、モノクロが流行?
 石坂:そうです。それに、ハリウッド化している極大な、マクロの部分と、反体制インディーズの山形やフィルメックスに来るようなものとの二極分裂みたいなイメージがあったのが、だいぶ中間層がふくれてきたという感じです。去年の『告別』というのが内モンゴルだったけど、この『八月』も内モンゴルなんです。

 -プロデューサーがペマ・ツェテンなんですね。
 石坂:そうです。内モンゴルのチャン・ダーレイという新人監督にペマ・ツェテンがエグゼクティブ・プロデューサーで入った。地方というか、少数民族というか、その辺のニューウェーヴみたいな感じがする映画です。12歳の少年が8月の夏休みをどう過ごすかというシンプルな話なんですけど、お父さんが映画撮影所に勤めてて、それが衰退している内モンゴル撮影所で、映画史的な記憶も入ってくるという。

 -去年の『告別』もそんな感じの映画でしたよ。
 石坂:『告別』の監督の推薦です。どうも仲良しみたい。で、そこにチベット派もついていて、この動きは面白追いなと思ってます。今、1990年代をノスタルジー的に作っちゃうじゃないですか、中華圏は。ちょっと豊かになったから昔にいく余裕が出た。だけど、これは違うんですよ。もっとドライで冷めていて、中央中華圏のノスタルジック青春映画ではないところが、やっぱり面白くて。モノクロっていうのもあるし。

●ノスタルジーを追う台湾
 -台湾は?
 石坂:台湾はやっぱりドキュメンタリーがいいんです。『四十年』は音楽ドキュメンタリーで、去年もインドの音楽ドキュメンタリーを入れたけど、ベテランのロックやフォークのおじさんたちがもう1回集まってコンサートをやるという映画です。

 -台湾は結構ノスタルジーの方に行ってますよね。
 石坂:『あの頃、君を追いかけた』以来、そういうのがすごく多い。その中にあって、これはちょっと異色だし、同窓会的なコンサートの裏側を密着取材するドキュメンタリーなんだけど、それこそ少数民族の歌手が出てきて歌ったり、癌で余命があまりない人が出てきたり。アメリカの、それこそボブ・ディランの影響とかがわかる。日本とほぼ同じ、同時代性のようなものを感じます。

 -歌は似ていると思いますね。歌謡曲は美空ひばりとテレサ・テンで括れるようなところがある。
 石坂:私はポップスの同時代性にびっくりしました。
  ついでに言うと、去年の『告別』は北京電影学院の卒業制作だったんだけど、今年のコンペの『ミスター・ノー・プロブレム』はメイ・フォンという北京電影学院の先生で、ロウ・イエの脚本家だった人が初めて監督した作品です。北京電影学院は大学の中に撮影所があって、そういうある種、解放区のようなところで作っているんです。辺境の若い監督たちとか、学校の中で作ってる人たちとか、その辺がすごく新しい動きで面白いなと。

 -その動きは持続しますか?
 石坂:持続してほしいですね。

 -そこがちょっと心配なとこですけど。
 石坂:今年、ヨーロッパの映画祭には軒並み中国映画がなかったでしょ。でも、子細に見てくと面白いのはあるんです。

 -続いて韓国ですけど、プサン映画祭には行きました?
 石坂:行きました。

●アジア全体を学べるプサン
 -どうでした?
 石坂:普通でしたよ、上映そのものに関しては。相変わらず韓国映画が非常にたくさん出るんで、この時期、韓国映画のプレミアを持ってくるのはなかなか難しいという実感があります。今年は幾つかの職能組合が参加しなかったので、やたらインディーズ映画が多かった。それで大スターの華やかな挨拶というのは減ってたと思うけど、インディーズは面白いのと面白くないのとがはっきりしてました。私が見た中では、あんまり当たりがなかった。ただ、全体でアジア映画をすごい数まとまって見られるという意味では相変わらず勉強になりますけど。

 -その難しい中で『ケチュンばあちゃん』を選んだのは?
 石坂:設定は「あまちゃん」みたいな話なんです。おばあちゃんが海女さんで、失踪していた孫が帰ってきて、でもちょっと謎がある、みたいな。で、泣けるんです。映像の実験という意味で選んだ映画もあるけど、これは感情移入ができたという意味で。

 -とすると、<アジアの未来>で何を目指しているかというのがわかりにくいですね。目的は新しい才能の発見であって、傾向はなくてもいいということ?
 石坂:傾向は、私は案外幅広いというか、

 -面白ければいい?
 石坂:2時間なら2時間、納得して、満足できればいいと思って。どっちかというと社会的なテーマが明確な作品が好みかもしれないですが。

 -フィリピンの2本については、どういう視点で選ばれたわけですか?
 石坂:メンドーサ、ディアスに続く才能の発見みたいなことはしてるんです。『バードショット』はミカエル・レッドの2本目で、1本目の『レコーダー 目撃者』というのをやっぱりTIFFでワールドプレミアでやり、今回も取りに行ったんですが、国立公園みたいなところで展開するミステリーです。東南アジアに特有の"森のミステリー"と名付けましたが、なかなかシャープな作品です。『I America』はうってかわって、フィリピンて、すごく尊敬している理由の1つは、アメリカの基地を撤廃したんですよね。アキノ革命のあと、憲法を変えて。しかし、そのアメリカ軍がいた時代にフィリピン女性との間にいっぱい子供が生まれ落ちて、その子たちが成人して、主人公くらいの女の子になっているわけですが、お父さんは帰っちゃえば音沙汰なしということで、蝶々夫人みたいな話に近いですけど。子供の側がアメリカにいる父親を探しに行きたいみたいなことで展開していく話で、実によくフィリピンの現状がわかるという。

 -『I America』はシネマラヤで賞をとっているんですね。<アジアの未来>は他の映画祭で賞をとってもOKなんですか?
 石坂:ワールドプレミアまたはインターナショナルプレミアであればいい。たとえば、中国映画の『底辺から走り出せ』は上海で賞をとっているんだけど、国内の映画祭なので、東京ではインターナショナルプレミアになるのでOKなんです。

●若手主導で活気取り戻したインド
 -インドの映画は?
 石坂:『ブルカの中の口紅』のシュリーワースタウも女性監督で、女性4人の話なので、これも本当に女性映画です。それぞれ学生だったり主婦だったりが、抑圧された現状からどうやってそれを突破していくかっていのを平行して描くという。なかなか達者な映画です。
 インドネシアの『サラワク』も女性の新人監督で。非常にトロピカルな、きれいな映画だけど、少年がお姉さんを探すという旅の話ですが、これも結婚しないで子供を作ったと言うことで女性たちが共同体から排除されて、そこから逃げざるをえないというテーマで、女性監督的な視点があります。

 -インドネシアはガリン・ヌグロホのあと、なかなか目立った人が出てこないですが。
 石坂:2000年がどん底で、年間製作6本まで落ち込んだんですが、旧勢力がみんな引退して、そこから若手が出てきて、今100本くらいに盛り返しています。完全に若手主導ですね。たしかにフィリピンみたいな巨匠はいないけれど、その前段階で、ここから誰が出てくるかというのが今年のクロスカット・アジアの<カラフル!インドネシア>のテーマなんです。

●音楽家が監督に。完成度高い「雨にゆれる女」
 -今年の日本映画は?
 石坂:このところ毎年女性監督だったんです。去年は横浜聡子、その前が杉野希妃で、それはアジアの元気なヤングシネマ・コンペの中に日本映画を入れて、ちゃんと競い合うには、なかなか難しいところがある。今年は半野喜弘さんの『雨にゆれる女』で、半野さんはジャ・ジャンクー作品などに音楽をつけてた人で、音楽家が監督になったということの面白さと、新人らしくない、相当完成度が高い作品で フィルムノワールですけど、これは十分競い合っていけるんじゃないかと。むしろ、アジアは完成度というよりは勢いのある作品が多いから、こういう日本映画を入れていいんじゃないかと。

 -日本映画の立ち位置というのが難しいですね。コンペと、<アジアの未来>と、<日本映画スプラッシュ>とあって、どの日本映画をどこにはめたらいいのか、というのも変だけれども、セレクターの腕の見せ所というか、趣味が現れるところでもあるわけですね。
  今年の審査員は?去年はアルテ・フランスのオリヴィエ・ペールでしたが。
 石坂:韓国のプチョン・ファンタスティック映画祭のトップで、『グエムル』などの映画を作ったプロデューサーのチョ・ヨンベさんと、カナダのトロント映画祭のプログラマーのジョヴァンナ・フルヴィさんと、橋口亮輔監督。

 -今年から何年かチェさんが審査員を続けるんですか?
 石坂:いや、複数年ではないです。ジェイコブみたいに何年もやってもらった人はいますけど。

●日本とアジアの監督のオムニバス「アジア三面鏡」
 -今年、大きく変わった点は何でしょう?
 石坂:『アジア三面鏡』が入ったということと、結果としてだけど、ワールド・フォーカスに長い映画が何本か入ったということで、本数を減らさざるを得なかったということです。ラヴ・ディアスが8時間で4本分、『クー嶺街少年殺人事件』が4時間で2本分なので。やりたい映画はいっぱいあったけど、こういう映画をやるのも映画祭ならではですから。ラヴ・ディアスは、今ハーバード大学のフェローでアメリカにいるんで、とんぼ帰りで来てくれるんだけど、着いたその日の夜中にQ&Aをやって、翌日帰るようです。

 -ハーバードのフェローってすごいですね。そして、今年の目玉、日本とアジアの監督3人のオムニバス映画『アジア三面鏡』ですけど、製作はいかがでした?順調でしたか?
 石坂:いろいろ大変なことはありました。けれども、あがってよかったな、と。

 -次回もやるんでしょう?
 石坂:やります。2年後に。まだ何にも決まってなくて、人選からこれからです。

 -今年、監督を選んで、2年後までに作るということですか?
 石坂:そうです。TIFFが終わってからの作業になりますけど、日本1、アジア2で、今年は東南アジアだったけど、そこにこだわらずに。TIFFとのこれまでのつながりも考えたいし、今回カンボジアのソト・クォーリカーはTIFFで賞をとって抜擢されたという流れがあるので、その辺もTIFFに作品を出すと何かいいことがあるかもね、みたいな雰囲気作りも含めてやっていきたいと。

 -『アジア三面鏡』は東京映画祭的には売りになる?
 石坂:明らかにそうだと思う。メンドーサのエピソードの雪の中のフィリピン人のスチル写真がカンヌで大きく取り上げられたのはよかったなと思ってます。

●興味深いメンドーサ組
 -さすがでしたね、メンドーサは。
 石坂:クルーはすごく少人数なんです。照明なんか全部自然光だし、それからポスプロ(ポスト・プロダクション、撮影後の編集や音響などの作業)。完成版を見て一番びっくりしたのは音で、こんなに強調されるんだと。音は全部後で加工してるんです。決してリアリズムというか、録ったまんまじゃない。それから、その場にいるものは全員スタッフもキャストで使ったり。

 -石坂さんもプロデューサーも出てましたね。
 石坂:インディーズのお手本みたいな作り方でしたね。メンドーサ組に接してみてわかったんだけど、師匠のところにほぼ住み込みで"メンドーサ・ボーイズ"が働いているわけ。レストランも経営してるから、そこで働きながら、師匠に稽古をつけてもらうという、ほとんど落語の師匠と弟子の世界。弟子のレイモンドなんて、もうカンヌの短編のコンペにこの間入って、これがまた、堕胎された嬰児の死体を扱う闇のビジネスの話で、師匠真っ青なのを撮って、審査員長が河瀬直美さんだったから賞は獲らなかったけど、ちゃんとそういうのが育ってきてる。

 -そういう世界は日本にはないね。
 石坂:日本では逆に伝統芸能にはあるんだけど。

 -映画が伝統芸能になってるんだね、フィリピンて。
 石坂:これはメンドーサ組に接して、すごいなと思った。

 -メイキング・オブが最後にちょっとついてるじゃないですか?あれで一番楽しそうなのがメンドーサ組だった。
 石坂:そうそう。雪が楽しくてしょうがない。行定チームのマレーシアのスタッフも本当に楽しそうだった。今回は2カ所はロケまでついていったんだけど。

 -帯広以外にも?
 石坂:帯広とペナン島。カンボジアは行かなかったんで、わからないけど、2つについて言えば、本当にアジアの映画人て楽しそうに映画を作るなっていう。私は映画大だし(日本映画大学教授)、日本の現場もいっぱい知ってるけど、本当にピリピリしてる。それは善し悪しだろうけど、映画ってこんなに楽しく撮るんだな、昔の日本映画の現場も、こんなだったんだろうかとか、ちょっと思っちゃった。

 -『三面鏡』でスタッフの交流もしてみたらいいかもしれない。監督は子飼いのスタッフを使いたがるかもしれないけど、インターンみたいな形でスクランブルしたら、勉強になるんじゃないかな。せっかく合作するんだったら、そういう形の交流があってもいいかも。ポスプロだけじゃなくて。
 石坂:現場はだいぶ多国籍な状況が見られたけど、もう少し技術パートとか、明確な目的を持って、入りまじってみるのはありかもしれない。

 -で、『アジア三面鏡』は、映画祭で華々しくお披露目と。上映はオープニングで?
 石坂:2日目です。その後は制作国で上映することと、あとは海外展開で、今いろんな国際映画祭にアプローチを始めているところです。

 写真は<アジアの未来>部門のプログラミング・ディレクター、石坂健治さん(10月17日、東銀座の東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)コンペ部門、特異な新人の作品も/矢田部吉彦プログラミング・ディレクターに聞く

2016/10/31

tokyocinema2016_p_01.jpg 第29回東京国際映画祭が今年も六本木のTOHOシネマズを中心に、10月25日から11月3日まで開催されます。一時はどうなることかと思った予算も少しずつ戻ってきて、今年は日本映画の特集が、従来の<日本映画スプラッシュ>の他に、<ジャパン・ナウ>、<日本映画クラシックス>と3つに増え、<ユース>という青少年向きの映画を集めたセクションができたり、六本木ヒルズアリーナでの屋外上映があったりと企画は増えているようです。とはいえ、映画祭の柱はコンペティション部門にあります。今年も東京国際映画祭の2つの柱、コンペティション部門とアジアの未来部門のプログラミング・ディレクターにお話を伺いました。

 -去年は『ニーゼ』が東京グランプリを獲って、配給も決まりましたが、 矢田部さんは受賞結果に満足ですか?
 矢田部:ほぼ思った通りではありました。ただ、『ニーゼ』がグランプリを撮るとは思わなかったですね。女優賞は十分ありえると思ったんですが。予想は外れましたが、納得の結果でした。

 -今年のコンペのラインアップは?
 矢田部:基本的に一昨年くらいから、やり方が固まってきていて、もちろんプレミア度を意識した秋の新作というところから、世界を極力網羅することと、監督の個性を重視するのはもちろんなんですが、若手から中堅、ベテランに行く前の中堅の監督を意識しているんですが、今年はそういった実力派の監督に加えて、ちょっと不思議な、特異なバックグッラウンドを持っている新人の監督作品というのが幾つか入って、バラエティに富んだラインアップができたんじゃないかなと思います。

 -本数は去年と同じですね。
 矢田部:去年から16本になりました。というのは去年から映画祭が1日増えたんで。やっぱり西欧、東欧、北欧、ちょっとユーラシアがあって、ロシア、北米、南米で、西アジア、東アジア、日本という地域ごとに選んでいくということを、特に去年くらいから意識して、その中でプレミア度の高いもの、監督の個性が目立っているもの、というような選び方になってきました。

 -そういう風に全世界を網羅しようとすると、地域によって作品の出来に差が出てきませんか?
 矢田部:今のところは出てきてないですが、今後、出てくる可能性はもちろんあります。ただ、網羅と言っても16作品しかないので、それぞれの地域で作られている作品の多さを考えると、そんなにレベルがバラついてくるということはないです。北欧といっても北欧から1本ですから。

●ワールドプレミア、寂しすぎても困る客席
 -東京映画祭は秋の終わりの方でハンデがある。それと、たぶん上の方からも一般受けのする粒度の大きなものをという期待もあるだろうし、映画ジャーナリズム的にはアーティスティックな面を考えなければいけない。難しい選択を迫られているな、というようなことを去年の受賞作品を見ながら考えていて、この辺が東京映画祭の落としどころかなと、納得と寂しさと両方感じたんですけれども。
 矢田部:おっしゃることはとてもよくわかります。納得の部分を信じて評価していくのが方向性かなというところが思うところではありますね。

 -観客が来る来ないで選び方に手ごころが加わることがあるんですか。上からの集客的なプレッシャーもあるでしょうし。
 矢田部:上の方からの興行的なプレッシャーは、びっくりするほどないです。ただ、今年は大きなEXシアターという会場を使うんですよ。800キャパくらいのところを。ゲストを連れていくので、ワールドプレミアの作品で客席が埋まってないことはとても恐ろしいことなので、ある程度、入る作品をやりたいなあと自分でも思ったりしますし、ある程度商業性といったら変ですが、見た目感のある作品も入っていた方がバランスがよくなるなと。これは本気で思うんですね。

 -映画祭だからスターを見たいと思う人が多いのは当たり前ですが、映画祭らしい華やかな面をコンペティションで出すとなると、どうしてもそういう風になる?
 矢田部:例えば、レハ・エルデムの『ビッグ・ビッグ・ワールド』なんて非常に美しいですけれども、まあ、チケットが数百枚も売れるかと言ったら、そういう作品ではないけれども、それは関係ない、というように選びますし、逆に香港の『シェッド・スキン・パパ』は香港コメディーだけど、ルイス・クーとフランスス・ンが出てて日本の佃典彦の戯曲が原作でワールドプレミアで、これはコンペいいじゃない、というような考え方のときも当然あります。

●充実の東アジア勢

―そういう面でもバランスがとれている?
 矢田部:バランスは見てますね。

―<アジアの未来>という部門があるので、アジア映画を選ぶのは大変かもしれませんが、アジア的にはどうでした?
 矢田部:かなり満足です。<アジアの未来>があっても、石坂さんとは常に連携して選んでいるので、そこのやりにくさはまったくないです。まずフィリピンのジュン・ロブレス・ラナの『ダイ・ビューティフル』は、数年前に『ある理髪店の物語』でユージン・ドミンゴさんが主演女優賞をとり、その前の『ブワカウ』という作品は当時の<アジアの風>に出てて、その年のアカデミー賞のフィリピン代表になった作品だったりとか、この監督自体が今フィリピンで最も期待される若手監督なので、2年くらい前から新作の話をしてたんです。「出来たら見せてね」と言ったら、彼の方から8月の終わりに「出来た!」と言って持ってきてくれて、ちょっとびっくりするくらい面白い作品だったんで、とても嬉しいなと。中国の『ミスター・ノー・プロブレム』はロウ・イエの脚本家で、『スプリング・フィーバー』で脚本賞をとってるメイ・フォンの初監督作品だというんで、これをよく東京のコンペに持ってきてくれたなと。新人作品なので、もちろん<アジアの未来>の資格もあるんですが、ロウ・イエと4本くらい一緒に撮っている人なんで、これはコンペでやりたいな、と。すごく風格のある作品です。中国のこういった良質のアート作品は本当に減ってきたので、数少ないアート作品を複数の映画祭で取り合うという状況がここ数年顕著になってきたんで、そのなかで、これがよく東京に来てくれたな、と、これは本音で思っています。香港の『シェッド・スキン・パパ』は、まったく違うタイプの商業映画なので、今年の東アジアのコンペの布陣は誇れると思います。

●映画祭前に公開決まる話題作
 -日本は2本ですが。
 矢田部:日本は毎年いろいろありまして、ここはとっても難しいですね。正直、今年の多くの話題作が映画祭前に公開が決まってしまって、これは企画が立ち上がった段階で、2年後の公開が秋だったら映画祭でやってねというような営業をかけていかないと。例えば西川美和の『永い言い訳』が10月上旬に公開とか、李相日の『怒り』が9月中旬に公開とか、やっぱりその辺は2、3年前から唾つけておかないとコンペにタイミング合わせて来てくれないですね。ただ結果的にですけれども、それぞれ次のステージに行こうとしている監督が男女でコンペに入ったので、これはこれで有意義なことだと思います。特に深田晃司監督がああいう形のステップで日本映画の部門に出て、コンペに出て、カンヌに行ったみたいな、パターンがあったので、松野大悟、杉野希妃の2監督にそのあとを追ってもらいたいです。

 -日本映画は2年くらい前から根回しが必要ということですが、可能でしょうか? 矢田部さんを含めてスタッフの契約が年単位で、映画祭が終わるとバラけるじゃないですか。2年後を見据えてお願いするときに、そこまで責任持てますか、みたいなことになりませんか?
 矢田部:それは本当にありますね。ただ、例えば東宝の作品で、製作委員会システムで、2年後の秋公開と最初から組まれていて、そこを見据えながらやっているわけですが、その2年前には映画祭の日程すら出ていないので、公開時期をTIFFに合わせてくださいというのは本当に不可能かもしれないんですけど、映画祭のコンペというのもあるよ、というのを念頭に置いてもらわないと。

 -例えば、椎名さん(ディレクター・ジェネラル)が動くということはできないんですか。そこまで責任をとるようなことはしにくい感じですか。
 矢田部:さすがに公開日をずらさせることはちょっと。

 -「考えてください」くらいは?
 矢田部:それは出来ますし、今でもお願いしてるんですが、スペシフィックに、この映画の公開は再来年ですよね、映画祭を念頭に置いといてください、みたいなところまではやってないです。それは、これからちょっとやっていこうかと思っています。

●移民・難民問題が反映
 -で、フランス映画ですが。
 矢田部:今年はフランス映画祭かというくらいワールド・フォーカスを含めてフランス映画がたくさんあるんですが、来日が多くて、この『パリ、ピガール広場』は監督が新人なんですが、黒人のラッパーなんです。大勢のラップ・グループの中の2人のラッパーが監督してるんですが、これも社会派で、アルジェリアの移民2世のピガール広場でのサバイバルというか、いかに生き延びるかをもがく社会派ドラマで、新人とは思えない演出力がびっくり、あっぱれという作品で、楽しみです。今年は嫌になるくらい移民、難民ものが多くて。

 -去年も多かったですよね。
 矢田部:去年も多かったですけど、今年さらに多くて、日本以外の外国は移民がいかに切迫した問題かという状況が映画に反映されていることがひしひしと伝わってくる予備選考期間でした。ほっとくと全部移民難民ものになっちゃうんで、あえて外したケースもありました。ブルガリアとギリシャに結構面白い難民ものがあったんですけど、それを入れていくと難民映画祭になっちゃうんで、

●お薦めはミケーレ・プラチド監督の「7分間」
 -他に 矢田部さんのお薦めは?
 矢田部:『7分間』というイタリア映画がいいですね。

 -監督はミケーレ・プラチドですね。
 矢田部:しかもマフィアものじゃない。とてもガチの社会派で、オッタヴィア・ピッコロさんがすばらしい演技を見せている、イタリア女性労働者版『十二人の怒れる男』みたいな話で、とても見事な90分のドラマですね。たくさんあるお薦めの1本がこれです。あと、ロシア映画の『天才バレエダンサーの皮肉な運命』というのが、ロシア映画のイメージが変わるんじゃないかというような、ロシアではおそらく商業公開される規模の作品だと思うんですけど、ひねくれたバレエダンサーの話なんですが、ゲルギエフが本人役で出てきたり、マリーンスキー劇場とかボリショイ劇場とかがとても壮観な形で出てくる。

 -日本映画スプラッシュは、どうですか?
 矢田部:今年はいい年でした。毎年出来不出来がありますけど、今年はいい年でした。結構絞るのに苦労しました。

 -海外のジャーナリストが見た反応は 矢田部さんのところに入ってくるんですか?
 矢田部:来たり来なかったりですね。海外広報の担当者が海外の記者が書いた記事を全部チェックしてて、それは全部もらいます。個人的な感想をパーティなどで聞いたりはします。

 -英語の字幕が付くわけですが、この後、外の映画祭に回ったりはするんですか?
 矢田部:まとまりとしては回らないですね。個別に、来日した海外のプログラマーたちがピックアップしていくという。

 -日本映画スプラッシュをそのままどこかの映画祭でやってくれるといいですね。
 矢田部:それはすごく考えていて、今、澤田マサさんと企んだりしているんです。まずはパリですよね、みたいな話を。

●今年のカンヌには不満
 -なるほど。あと、 矢田部さんが関わっているのはワールド・フォーカスの半分でしたね。
 矢田部:今年は面白いですよ。もうカンヌでご覧になっているかと思いますが、『アクエリアス』とか。これはソニア・ブラガに主演女優賞をとらせたかったです。

 -私もそう思います。今年のカンヌの審査員はちょっと意地悪でしたね。
 矢田部:今年のカンヌほど賞に納得いかなかった年はないですね。『トニ・エルドマン』の無冠というのが何なんだろう、という。幸い、配給がついているのでワールド・フォーカスからは漏れていますけど。『淵に立つ』と、ある視点賞を競った『オリ・マキの人生で最も幸せな日』とか、ヴェネチアの主演男優賞の『名誉市民』、ブノワ・ジャコの新作『ネヴァー・エヴァー』。ブノワ・ジャコは来るみたいなんです、主演女優を従えて。

 -去年と変わったところはありますか。アジアの方は交流基金からお金が入るようになって少し潤沢になった感じがしますが。
 矢田部:国の特集が安定してできているというのは嬉しいですね。僕が担当している部門はそれほどお金が増えたり減ったりしないので。

 -安定している?
 矢田部:低位安定ですけど(笑)、既存の部門にはお金の増減があんまりなくて、予算が増えても新しいところに使われるので、厳しいところは厳しいです。

 -経産省っぽいところを増やしたいみないな、そんな感じがするんですが。コンテンツ系というか。本当は映画祭の柱である2部門に予算をもっとつけてくれて、華やかさの演出みたいなところが出来るといいんですが。
 矢田部:それを僕にとっては天に唾吐く行為で、じゃあ、お前もっと自分でコンペを魅力的にしろよ、ということにも返ってくるんで。

●10年も続くとは・・。
 - 矢田部さんは今年で何年目ですか?
 矢田部:なんと、人に指摘されて自分でもアッと思ったんですが今年で10年目になりました。

 -おめでとうございます。
 矢田部:めでたいのかどうか、なんですよね。

 -思ったように出来てきました?
 矢田部:10年続くと思ってなかったんで、自分が一番びっくりしてるんですが、僕なりに少しずつよくなっている...、よくなっていると思いたいです。ただ、初期が悪かったとも思っていないんです。今までやってきたことが間違っているとは思っていないんですが、次のステージに行くためには、やっぱり誰もが知っている監督の新作のワールドプレミアを何本か入れていくということをしないと、というか、次のステージに上がろうとするんだったら、それをやるしかないんです。その努力をしていく、今までもしてるんですが、本格的にしなきゃいけない時期に来たのではないかなと。

 -契約が1年ごとだとと、あまり長期的なことができないですよね。たとえばヴェネチアは4年だから、1年目にこういう監督にあって、次の映画はぜひお願いしますみたいなフォローができる。1年ごとだとフォローアップができないのでは?
 矢田部:そうは言っても10年たてば知り合いの監督やプロデューサーが増えてきているので、常に新しい企画の話は聞いていますし、出来たら教えてね、とか、今年も何本も昔出してくれた監督の作品が応募されてきましたし、長期契約がないから出来ないということでも必ずしもないと思います。今年で契約が切れたら引き継げばいいだけの話だし。

●コンペ部門のブランド力
 -引き継げないですよ、これだけの経験は。口で言えることと違うから。東京の弱さはそこにあるかもしれないですね。映画祭もスタッフも次の展望がなかなかできにくいところが。ただ、矢田部さんがプログラミングを担当するようになってから安定していると思いますよ。
 矢田部:超有名監督でなければ情報量がとても少ないので、何見ていいかわからない、ということになると、1本1本はわからないけど、コンペ部門ならそこそこ面白いよ、というコンペ部門のブランド力を上げてくしかないな、という思いはあって、それはごく一部かもしれませんが、少しずつできてきていて、観客者数も10年前よりは飛躍的に増えていますし、コンペを楽しみにしているという人の数は確実に増えたという実感はありますが、それって、せいぜい1000人くらいの話かもしれなくて、それを1万人十万の人にワーっと思ってもらるものにするには、次のケン・ローチは、次のダルデンヌは東京ですよ、というようなところに行くべきだろうなと。

 -1000人いたら立派ですよ。1000人同じ映画を見にきてくれたら満杯で入れないじゃないですか。
 矢田部:今年、実はEXシアターが800人くらいで、第2上映が200人くらいで、合わせると1000人キャパくらいなんです。今もうすごくビビッてるんですね。TOHOシネマズ・スクリーン7だと定員500人くらいで、500人は埋まるようになってきたんです。でも800人となると。

 - 矢田部ブランド力が試されますね。
 矢田部:それはやっぱりきついと思いますよ。今年はちょっとあせってます。

 -レッドカーペットだの何だので盛り上げるのはいいんだけど、コンペティションの映画を見に行くところまで繋がらないと。でも1000人立派ですよ、ファーストラン2000人行かない映画だってたくさんあるんだから。

●映画祭は何のためにある?
 -じゃあ、『君の名は。』を見た人が何人東京国際映画祭を知ってるか、とか。知ったとして見にくるかな、とか。でも今、あれだけ映画館に行く人がいる、そのポテンシャル度が改めて見えたときに、何をするべきなんだろうかな、と。

 -『シン・ゴジラ』にワーっと行って、『君の名は。』にワーっと行って、でも他の映画はあんまり入ってない。ウェブ情報でみんなが行くという映画にみんなが行くという動き方になると、1本1本アート系の映画を選んで見に来てくださいというのは難しいかもしれないですね。
 矢田部:そうですね。『君の名は。』が売れれば売れるほど、『レッド・タートル』の存在感がどんどん薄れ、ましてや外国映画の実写とかは、はるかかなたに置かれてしまって。

 -『君の名は。』を見る人は、『君の名は。』も『レッド・タートル』も見る、という人じゃないんですよね。
 矢田部:僕は両方見る人を増やすために映画祭があると思うんですね。そこが繋げられてない。

 -それは難しいですよ。
 矢田部:難しいです。でもそこを目指さないと、本当にじり貧ですよね。

 -アート系の配給会社はどこでもそれをやろうとして、成功したりしなかったりしているわけで、映画祭はそれを束でやろうとしているわけだから、もっとハードルが高い。またも日本の映画状況に暗澹とした気持ちになったところで(笑)、終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

 写真は矢田部吉彦プログラミング・ディレクター(10月13日、東銀座の東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)

(4・完)作品賞に「孤島の葬列」/アジアの未来部門

2015/11/04

tokyo2015_p_04.jpg 今年3回目となるアジアの未来は、新しい才能を東京発で、という映画祭本来の意義が感じられる部門に育ってきたように思います。

 作品賞の『孤島の葬列』は、ライラーと彼女の弟、その友人の3人の若者が、タイ南部のイスラム圏に住む伯母に会いに行く旅を描いたもの。不思議な人々に導かれながら、伯母の住む孤島にたどり着くと、島は自由を求める様々な人々のユートピアのようになっているが、そこにも危機が迫っています。政情不安、宗教、自由といったテーマが織り込まれた、最も知的で幻想的な作品でした。

 特別賞の『告別』は、監督のテグナーが、癌で亡くなった父親との日々を自らが主演して映画化したもの。テグナーは内モンゴル出身で、父親は撮影所長、母親も映画監督で、自身はロンドンでメディアアートを、北京電影学院の監督学部で演出を学んだという映画エリート。卒業制作とは思えない演出力と現代的な感覚に、彼女の確かな才能を感じましたが、自身が出演せず、演出に徹した方が作品の視点が定まったように思いました。

 石坂建治氏とのインタビューにもあるように、今年はノミネート10作品のうちの半分が女性監督で、受賞した2作も女性監督の作品という、アジアの女性監督の優秀さが再確認された年になりました。

 残り3作のうち、日本の横浜聡子の『俳優 亀岡拓次』は未見ですが、台湾のサニー・ユイ『The Kids』は、上級生を好きになった中学生の少年が、彼女が妊娠したため学校をやめて食堂で働き始めるが、母親がギャンブルで作った借金を返すために窮地に立たされるというもので、ストーリーが古めかしいところが気になったものの、シンプルな演出に好感を持ちました。香港のジョディ・ロック『レイジー・ヘイジー・クレイジー』は、援助交際で生活費を稼ぐ一方、バスケットの上手いハンサムな男子に熱をあげる女子高生3人組の青春を赤裸々に描いた、面白い作品でした。

 審査員は香港国際映画祭のジェイコブ・ウォンに加えて、元ロカルノ映画祭アーティスティック・ディレクターで、現アルテ・フランス・シネマのオリヴィエ・ペール、日本から映画監督の大森立嗣の3名で、さすが映画をよく見ている人の選ぶ受賞結果になったと思います。

 東京国際映画祭は1985年に誕生しました。第1回目の会場は渋谷文化村で、コンペ部門はヤングシネマと呼ばれ、審査員長はベルナルド・ベルトルッチ、受賞作は相米慎二の『台風クラブ』でした。それから30年。紆余曲折を経て、形を変えながら現在まで続いてきました。

 "世界の有名映画祭と肩を並べる、アジアを代表する国際映画祭に"というかけ声だけは勇ましいけれど、それにはほど遠い現実が象徴的に現れているのがコンペ部門で、映画祭のステータスのためにプレミア作品に固執した結果、物足りない作品が並ぶことになる、という状況は今年も変わりませんでした。

 数年前に最低まで落ち込んだ予算は、去年あたりから戻ってきていて、日本映画を中心に部門も増え、イベントも増えているし、会場も六本木のメイン会場、お台場のマーケット会場に、昨年は日本橋1館、今年は新宿3館が加わりました。けれども、増えた予算が現場まで下りてきているのかといえば、それはまた別の問題。新国立競技場問題で露呈された、公的な資金で運営される日本の公共事業すべてに見られる構造的な欠陥をここでも見る思いがします。東京国際映画祭をよりよい映画祭にするには、政権・官僚・業界が一体になって税金を浪費し、誰も責任をとらない日本の公共事業のあり方を考え直すことから始めなければならないのかもしれません。

【アジアの未来部門受賞結果】

作品賞:『孤島の葬列』監督ピンパカー・トーウィラ(タイ)
国際交流基金アジアセンター特別賞:テグナー監督『告別』(中国・内モンゴル)

日本映画スプラッシュ部門
作品賞:『ケンとカズ』監督 小路紘史

WOWOW賞:『カランダールの雪』監督ムスタファ・カラ

(齋藤敦子)

(3)グランプリはブラジル精神科医師を描いた「ニーゼ」/コンペティション部門

2015/11/02

tokyo2015_p_03.jpg 10月31日に閉会式が行われ、以下のような受賞作が決定しました。

 東京グランプリと最優秀女優賞の「ニーゼ」は、保守的で旧態依然としたブラジルの精神療養界に革新をもたらした実在の精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラの半生を映画化したもの。監督のホベルト・ベリネールはドキュメンタリー出身で、劇映画は2作目。審査員特別賞の「スリー・オブ・アス」は、フランスのスタンダップ・コメディアンのケイロンが、王制時代から反体制運動に身を投じ、宗教革命後のイランからフランスへ亡命し、今度はパリ郊外で住民のために闘った父の半生を自身の主演でコメディタッチに映画化したもの。

 監督賞の「カランダールの雪」は、トルコの寒村を舞台に、地道に働いて借金を返すよう望む妻を尻目に、一攫千金を狙い、鉱脈を当てようとするも失敗し、雄牛を闘牛に出して賞金を稼ごうとする夫を描いたもの。監督のムスタファ・カラもドキュメンタリー出身で劇映画は2作目。男優賞の「地雷と少年兵」は、第二次大戦直後、デンマークの海岸線に埋められた200万個の地雷を除去するという過酷な任務を命じられた戦争捕虜のドイツ軍少年兵と、彼らを監督するデンマーク人軍曹のふれあいを描いたもので、軍曹役のローランド・モラーと少年兵役のルイス・ホフマンが受賞。観客賞の「神様の思し召し」は有能だが傲慢な外科医が、息子が心酔する神父と出会って改心するというコメディ。芸術貢献賞の「家族の映画」、日本公開が決定しているイーサン・ホーク主演の「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」、小栗康平の「FOUJITA」などは未見です。

 今年の審査員はブライアン・シンガーを長として、監督のベント・ハーメル、スサンネ・ビア、トラン・アン・ユン、大森一樹、プロデューサーの施南生(シー・ナンサン)の6人。私が一番好きだったのは、ハオ・ジエが自身の青春を映画化した「ぼくの桃色の夢」でしたが、映画祭の常として、社会的なテーマを持つ作品に賞が集中する結果になり、残念ながら受賞には至りませんでした。また、今年もなぜコンペに選ばれたのか疑問を持つような作品も数本あり、コンペ部門の質の向上に課題を残しました。

 写真は東京グランプリ「ニーゼ」のホベルト・ベリネール監督

【コンペティション部門受賞結果】
東京グランプリ:「ニーゼ」監督ホベルト・ベリネール(ブラジル)
審査員特別賞:「スリー・オブ・アス」監督ケイロン(フランス)
最優秀監督賞:ムスタファ・カラ「カランダールの雪」(トルコ)
最優秀女優賞:グロリア・ピレス「ニーゼ」
最優秀男優賞:ローラン・モラー、ルイス・ホフマン「地雷と少年兵」
       監督マーチン・ピータ・サンフリト(デンマーク)
芸術貢献賞:「家族の映画」監督オルモ・オメルズ(スロベニア)
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観客賞:「神様の思し召し」監督エドアルド・ファルコーネ(イタリア)

(齋藤敦子)

(2)元気な東アジア/アジアの未来部門プログラミング・ディレクター石坂建治氏に聞く

2015/10/30

tokyo2015_p_02.jpg -去年から今年にかけてのアジア映画の成果というか、動きはどうですか。

 石坂:結果として、今回のアジアの未来も11月の東京フィルメックスも、東アジアの映画がすごく増えています。特に中国の勢力が非常に厚くなっている感じがしました。特に若い力というか。それで、今年は私としては珍しく、中国語圏の映画が多いです。

 -これまで避けてましたよね(笑)

 石坂:避けてたということはないですが、バランスを重視していたことは間違いない。それが、クオリティ重視で選んでいくと、当然多くなった。


 -少し前まではイランとかトルコとか西が強い感じでしたが、それが東に来たというのは何か理由があるんでしょうか。

 石坂:相変わらずトルコは元気で、今年は3本入ってますし、ヌリ・ビルゲ・ジェイランがいたりと、個別の例はあるけれど、群れとして出て来ているのは中国語圏ですね。

 -資本とかが、うまく回っているということですか。

 石坂:もあるけど、コンペの「ぼくの桃色の夢」の監督ハオ・ジエはインディーズで2、3本撮って、東京フィルメックスで受賞した人ですが、こういう人がスケールアップして普通の映画というとおかしいけど、予算もそれなりのものを撮っている。

●アングラからスケールアップ

 -成長してきている?

 石坂:それなりに政府と闘ったり、アングラというか、無許可映画を作っていた若者たちが、こういう一般映画を撮るようになっているわけです。ハオ・ジエの「ぼくの桃色の夢」は、ちゃんとした青春映画です。それから、地方、といっても広いんだけど、内モンゴルやチベットの映画もある。「河」の監督のソンタルジャはペマ・ツェテンのところのカメラマンだった人で、これもある意味でチベット・インディーズ発だけど、ちゃんと上海映画祭に出ている。やっぱりスケールアップしてきている。ペマ・ツェテンの新作は11月の東京フィルメックスで上映されるから、ペマ・ツェテン組が2人出ています。その「河」は、たぶんいろんなメッセージが込められてるんだろけど、見た目はものすごく雄大な高原の幼い娘の話で、非常にうまく出来てる。内モンゴルの「告別」も非常に変わった映画で、監督のデグナーはロンドンと北京電影に留学した女性で、自伝的な話を自分が主役で演じる、相当頭のいい人です。

 -他に香港映画の「レイジー・ヘイジー・クレイジー」が。

 石坂:監督のジョディ・ロックはパン・ホーチョンの弟子、それから「The Kids」のサニー・ユイはチャン・ツォーチの弟子。

 -弟子の世代なんですね。

 石坂:世代交代を非常に感じますね。

 -台湾、香港、内モンゴルと中国、たしかに中国系多いですね。

 石坂:それに10本中5本が女性監督、日本の横浜聡子、中国、台湾、香港、内モンゴルです。

 -アジアの女性は優秀ですね。
 
 石坂:特に意識はしてなかったんです。女性映画祭じゃないから。もう違う土俵で女性特集という時代じゃないですね。

 -女性特集というもの自体が差別だと私は思います。

 石坂:去年の特別賞を獲ったカンボジアのソト・クォーリカーも女性監督でした。今度、TIFFでアジア三面鏡というオムニバス映画を作るんだけど、彼女はその1人です。

 -知りませんでした。
 
 石坂:この間の記者会見で発表したんですが、彼女と、今年フィリピンで特集するメンドーサ、日本からは行定勲。

 -3本とも長編?

 石坂:いや、30分×3本です。40分くらいになるかもしれないですが。それぞれの監督が自国以外の国で撮るというのが条件で、メンドーサとクォーリカーは日本でロケしたいと言っていて、行定さんは未定です。行定さんは韓国で「カメリア」という作品を撮り、中国で「真夜中の五分前」を撮っていて、いろいろアイデアはあるようです。

 -どこだったか、韓国の映画祭で最初にやりだした企画と似てますね。

 石坂:チョンジュです。チョンジュはもうやめちゃいましたが。一応、つなぎ目も作って3話で1つの物語にはしようと思っています。来年のTIFFでお披露目というお尻が決まっているんで、今、みんなシナリオを書いているところです。

●80、90年代の回想目立つ中国
 -そういうステップアップが見えてないと、作品を出しにくいですしね。

 石坂:女性監督の作品が10本のうち5本、ワールドプレミアも5本で、残り5本も全部インターナショナルプレミアだから、TIFFまで来て見てくださいと、海外のプレスにはそういうPRの仕方をしています。プサン映画祭のニュー・カランツ部門は今年8本なんですが、8本ともワールドプレミアを揃えた。ところが中東だけなんです。理由はわからないですが。今年はプサンと1本も被ってなくて、新人というか新鋭のいい映画は、もっといっぱいある感じがしました。

 -そういう意味では選び甲斐がある?
 
 石坂:ありますね。というより、これはどうしようかと悩む映画が多い。アジアの新人コンペは映画祭の身の丈に合っていると思います。今年3回目ですが。

 中国語圏の映画は非常にノスタルジックな、ちょっと前の過去を回想するものが多いです。それは今、この5,6年の流行で、台湾の「あの頃、君を追いかけた」とかヴィッキー・チャオが監督した「So young 過ぎ去りし青春に捧ぐ」とか、どれもそんな感じです。80年代、90年代を振り返るのはなぜかと考えると、文革が終わり、自由になった時期、台湾だと戒厳令がなくなった時期、表現の自由を若者が謳歌するというか。日本だと戦後15年たって太陽族が出たり、日活アクションがあったり、そういうずれた感じが今来ているのではないかと。

 -私は逆じゃないかと思います。前の方ががんばってた気がする。規制があっても闘ってた。それを一番よく感じるのは韓国映画で、80年代、90年代の韓国映画はどれを見てもすごく触発されたけど、最近は技術は上手だけど、あんまり打たれない。韓国には韓国の事情があると思うけど、中国の若い監督は現状に窮屈な感じがあって、過去に行ってしまうのではないか。

 石坂:今ノスタルジックに思い出す余裕が出て来ているくらい豊かになっている。豊かになった時点で、あの頃は貧しかったけど、結構よかったんじゃないかという描き方は半分ありますね。
 東南アジアはタイとインドネシアですが、両方に共通するのは宗教的な紛争とか不寛容とか、そういう問題です。


 -タイもインドネシアもイスラム原理主義の問題が出て来ていますしね。

 石坂:タイの「孤島の葬列」は、おばさんを訪ねて南へ旅していく話ですが、タイの南はイスラム地域なんです。それで車のラジオをつけるとバンコックの政治的な争乱のニュースが入ってきたり、南へ行ったら行ったで、テロの恐怖があったり、という。インドネシアの「三日月」は、新月の後の最初の月を見るために父と息子が旅をしていく過程で、イスラム原理主義とキリスト教会のいざこざに巻き込まれたりという。この2本がアジアにおける宗教的な問題を扱っています。
 あと、インドの「If Only」のイシャーン・ナーイルはミーラー・ナーイルの甥なんだけど、これは何というか、おしゃれな映画です。

 -審査員は?

 石坂:ジェイコブ・ウォンは同じ。あとアルテ・フランスのオリヴィエ・ペール、大森立嗣監督。

 -ワールド・フォーカス部門のアジアの部分ですが。

 石坂:アジアの未来は新人、ワールド・フォーカスは巨匠という風に色分けしています。まさに今年は巨匠が揃いました。巨匠ばかりだけど、今の時点では配給がついてないんです。

 -私はホン・サンスの「今は正しくあの時は間違い」が楽しみなんですが。

 石坂:今年のロカルノ映画祭の金豹賞ですね。去年はラヴ・ディアスでしたが。

 -東アジア、強いですね。

●東アジアにネットワークを
 石坂:あと、マニラトナム、ガリン・ヌグロホ、懐かしいところで台湾のワン・トン。侯孝賢が美学の世界に行ったとすると、ワン・トンの「風の中の家族」は、逆に「悲情城市」みたいな世界。台湾は「九月に降る風」のトム・リンの「百日草」もいいです。
 今年の傾向は上海映画祭と提携したということ。それで「少年班」と「河」の2本を推薦してもらいました。ジェイコブ・ウォンは香港との提携だし、東アジア圏で横のネットワークを作っていくという目的です。

 -いいアイデアですね。それで、ブリヤンテ・メンドーサの特集ですが、ひとこと言わせてもらいたいのは、カンヌのコンペに初めて「キナタイ」が出たとき、記者会見で本人を前にして司会者が開口一番、「皆さん、この人の名前はブリランテでもブリリャンテでもなく、ブリヤンテです」と言ったんです。それで私はずっとブリヤンテと表記してきたんですけど、なぜブリランテにしたんですか?

 石坂:彼は商業公開された映画があるんで、その表記にならったんです。この特集は福岡のアジア・フォーカスで上映された3、4本と、DVDが出ている「キナタイ」を除く、ほぼ全作になります。

 -今年大変だったことは?
 石坂:アジアの風の時代はプレミアにこだわることもなく、何でもやりますというスタンスだった。だから自由だったけど、その代わり、海外プレスにしたら、東京まで行かなくてもどこかで見られるということだった。それを3年でチェンジし、コンペティティヴにプレミアを取りに行くということになると熾烈な争いがある。

 -矢田部さんの苦労がわかってきたわけですね(笑)

 石坂:アジアの未来はまだ助かっているところがありますが、それでも、いろんな映画祭の連中と会うと、昔は「ハーイ!」なんて言ってたのが、今はバチバチっと(笑)、表面はニコニコしてますけど。相当選び方、探し方が違ってきてますね。

 -アジアの未来という部門には、これから面白くなるかもしれない人を見るという楽しみもあるし、ようやくTIFFから新しい才能が出て来るというか、育てようという気配が出て来たなと思いますね。

 石坂:もともとTIFFはヤングシネマがメインだったわけですから。

(10月19日、新川の東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)印象的な今を生き抜く視点/コンペティション部門ディレクター矢田部吉彦氏に聞く

2015/10/26

tokyo2015_p_01.jpg -まず、今年の映画祭は去年とどのように違っているかを。
 矢田部:1つは会期が1日増え、今まで9日だったのが10日になり、会場が六本木を中心に新宿のシネコン3館も2スクリーンずつ使うことになって、横に広がっていっているということ。それに加えて日本映画をよりアピールするという意味での部門が増えています。会場も本数も日程も増えているというのが1つ大きな去年との違いだと思います。

 -随分予算が戻ってきているようですが、現場での感触は?
 矢田部:新しい経済産業省のスキームの中でお金がつく部分があるので、そこが新しい部門などを作るのが可能な理由です。たとえばジャパン・ナウといった部門は日本映画を海外に持っていくというコンセプトで経産省の新しいスキームが利用できるので、とても重宝しているんですけれども、いつまで続くかわからないので、サステナビリティ(持続可能性)については、ちょっと不安です。

 -東京映画祭の悪いところですね。1年1年落ち着きがない。見に行く側としても、これを続けてくれるのかなという不安があります。

 矢田部:日本で大きな映画祭をやろうとしたら、国の支援を受けなければできず、国の支援というのは単年度決算なので、どうしても長い目での絵が描きずらいでしょうね。

●コンペ部門、より多彩に
 -今年のコンペの特徴は?
 矢田部:今年は未来の巨匠を狙う直前くらいの、中堅の実力どころが揃ったな、と。あとは、監督の才能はもちろん重視するんですが、例年以上にジャンルがバラエティに富んでいる。国のバランスもうまくとれ、今、中南米がとても注目されていて、ヴェネツィア映画祭で賞をとり、カンヌでコロンビア映画が注目され、という流れの中で、ブラジル映画とメキシコ映画がコンペに入ったというのも、よかったなと思います。

 -コンペの本数も増えたんですか?
 矢田部:1本増えて、15本から16本になりました。それは(会期が)増えたことで可能になったことでもあり、日本映画を3本入れたので、15本中日本映画が3本だとちょっと多いと思ったので、16本に増やしたということもあります。

 -以前、日本映画の選択が難しい、映画会社がなかなか出してくれないという話をうかがっていたので、今年いきなり3本というのはどういう変化があったんでしょう?
 矢田部:去年は「紙の月」1作品で、ああいったメジャーな作品とコンペがお付き合いできるという機会があまりなかったので、その1本で勝負しようということだったんですが、その反動でもないですが、今年は2本以上やりたいと思っていている中で、小栗康平さんという巨匠と、中村義洋さんというヒットメーカーと、深田晃司さんという若手のホープの3タイプの作品がコンペの可能性として残ってきて、この3人だったらコンペの組み合わせとしてありだなあと思って交渉を進めたところ、うまくまとまったということです。最初から3本やろうと決めていたわけじゃないですが、この3人を並べてみたいと思ったというのが経緯です。

 -去年、宮沢りえさんが女優賞を穫って授賞式に出たり、あれはすごく日本映画界へのPRにもなったのでは?
 矢田部:なりましたね、おかげさまで。日本映画3本とも素晴らしい作品だと思ってますので、今年この3本が入ったことは満足してます。僕が満足してもしようがないですが。

●ワールド・プレミアどう揃える?
 -コンペ部門のプレミアに限るという縛りは?
 矢田部:相変わらず、そのジレンマがあります。最低アジアン・プレミアということなんですけど、結局ワールド・プレミアをとらないと海外プレスからの注目度が落ちてしまいますよね。つまらないワールド・プレミアを揃えてもしょうがないんで、面白いワールド・プレミアを揃える、あるいは有名監督のワールド・プレミアを揃えるというのはやはり、まだまだがんばらなければいけないなと毎年思っています。

 アジア映画に関しては少なくともワールド・プレミアにしないと恥ずかしいので、それは何とか叶えてはいるんですけど、やっぱり欧米作品を東京までとっておいてもらうというのは至難の業ですね。ヴェネツィア我慢して、トロント我慢して、東京にというのは。その分、彼らに何を与えられるのかっていうことを、これは本当に映画業界全体で考えないと。

●物足りない日本の若手
 -コンペの他に矢田部さんが手掛けているのは?
 矢田部:日本映画スプラッシュとワールド・フォーカスの欧米部分です。

 -私はいつも日本の新人監督が海外の映画祭に出てこないことに忸怩たる思いがあるんです。スプラッシュの作品を選んでいる矢田部さんも感じることでしょうけど、それは日本の映画作家の問題なのか、海外の映画祭が日本の新人に目を向けてくれないのか、どっちでしょう?
 矢田部:両方だとは思いますね。皆、海外の人に売り込む努力をしてるんでしょうけれども、もっとやりようがあるのではという部分と、僕は外国映画と日本映画と同時に見てるので、海外の映画祭で実力のある若手に比べて、日本の若手の作品が見劣りしてしまうということはあります。若い人があまり外国映画を見ないということもあるのかもしれない。国内の一定の身内にある程度受けて、なんとなく公開も限定的ながら出来てしまい、というようなところで留まっていて、もう少し外国映画の水準みたいなものに気づいた方がいいんじゃないかなとは思います。国内のある層には受けるだろうなという作品は沢山あるんですが、たとえばロッテルダムに行って、この映画がこの部門に入るだろうかと考えると、いや、入らないなっていう作品が多いです。

●海外からの注目度を高めたい
 -群青いろとか空族とか、ユニークな映画作りをしている人がいるので、期待はしているんですが。
 矢田部:海外のプログラマーに聞くと、日本映画に対して少し諦めているところがあって、日本をあまり注目してくれてないような、全部の映画祭ではないですが、ちらりとそんな本音が聞こえてきたことがあって、これはまずいなと。河瀨直美、黒沢清で終わっていて、次が全然出て来ないというところで、海外のプログラマーが探す努力をやめてしまっているとしたら、これは危機感なので。

 -映画祭で沢山映画を見てほしいけれど、なかなか日本の若い監督は他の監督の映画を見ないですね。
 矢田部:そうなんです。中には30本見ました、なんてことを言ってくれた監督もいたんですが、見ない人は全然見ないです。

●不穏な空気を打ち破る
 -今年のコンペティションのお薦めは?
 矢田部:今年は"今を生きのびるために必要なものは何か"を求める作品というか。やはり現代を描いていて、不穏な現代の空気を作品に盛り込んだもの、今を生き抜くためにはどうすればいいのかを最終的には描いている作品が多い気がします。たとえば、ブラジルの「ニーゼ」という作品は、40年代を舞台にした、実在した精神科医の話です。今年は実話の映画化というのが多く、これはその中の1本ですが、なぜ今40年代のお医者さんの話を映画化するのかということなんですが、見終わると、なるほどなと思うわけです。彼女は男性社会と保守的な治療法という2つの壁を打ち破ろうと闘った人で、精神医療に革命をもたらし、そのタフネスに感動するんですが、これは今求められているメンタリティだなとすごく思います。

●移民の視点で描いた「スリー・オブ・アス」
 コンペの敷居が高いと思っている人にお薦めしたいのは「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」です。これは映画を年に1、2本しか見ない人にも薦めやすい作品で、チェット・ベイカーのどん底時代をイーサン・ホークが演じるという、音楽に痺れて、イーサン・ホークのカッコよさに痺れるという作品です。

 フランスの「スリー・オブ・アス」は、スタンダップ・コメディアンのケイロンがお父さんの話を自分で映画化し、自分で主演もしたという映画で、ストレートなコメディです。イラン人のお父さんがイランで投獄され、革命後にパリに亡命し、パリで力強く生き抜いていくという物語で、現在を生き抜く不屈の闘志という話でもあり、移民問題で揺れる現在のヨーロッパで、移民の物語を移民側の視点から描くということでは、シャルリー・エブド事件があった年にこの映画が作られたという意味で、エポックメイキングな作品になりうるのではないかと。

 注目のトルコ映画の「カランダールの雪」は、しかもワールド・プレミアなので、今年はこれもとても押したいですね。


 -セレクションした側の意志が審査する側に伝わるかというと、それはまた別の問題ですね。
 矢田部:全然別です。あまり伝わらないですね。ここ数年、伝わったためしがないです。

 -今年の審査委員長は?
 矢田部:ブライアン・シンガーです。彼も「ユージュアル・サスペクツ」から「Xメン」まで、いろいろありますが、周りがベント・ハメルとか、スサンネ・ビアなど曲者達がいますので。

 -映画監督が多いときは、ろくな結果にならないですよ(笑)。
 矢田部:揉めますね。だから、本当はヘッドはプロデューサーがいいと思ってるんですけど、なかなか難しいです。(10月18日、六本木ヒルズの映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)

(4完)全編NYロケで若者描く/グランプリ「神様なんかくそくらえ」

2014/11/01

tokyo2014_p_04_01.jpg 10月31日の夜、授賞式が行われ、以下のような受賞作が決定しました。

 最高賞の東京グランプリ(今年から名称変更)を受賞した『神様なんかくそくらえ』は、主演のアリエル・ホームズの実体験を元にした作品。全編ニューヨーク・ロケで、ドラッグを買うために物乞いと万引きを繰り返しながら、刹那的に生きる若者達の生態が、非常にリアルに、痛々しく描かれています。監督のサフディ兄弟は30歳と28歳で、対象となったストリートで生きる青少年たちとさほど年齢の差がなく、彼らの心情に寄り添うように撮っているところが映画の魅力になっていました。

写真は10月28日に行われた記者会見。左からジョシュア、ベニー・サフディ兄弟監督、原作・主演のアリエル・ホームズ、共演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。

 審査員特別賞の『ザ・レッスン/授業の代償』は、小学校の英語教師が、夫の作った借金のために抜き差しならない状況に追い込まれていく姿を描いたもの。『紙の月』は河北新報にも連載された角田光代の同名小説を原作に、夫がありながら、年下の恋人に貢ぐために顧客の預金を横領し、次第に深みにはまっていく銀行員を宮沢りえが演じています。男優賞の『マイティ・エンジェル』は、重度のアルコール依存症で、リハビリ施設を出たり入ったりする作家の刹那的な生き方を描いたもの。『草原の実験』は、カザフスタンの広々とした草原にぽつんと建つ一軒家を舞台に、父親と美しい娘、娘を好きな2人の青年とのおだやかな暮らしが、唐突におわりを迎えるまでを描いたものです。

 今年のコンペティションのテーマは"追いつめられる人々"だと言われていました。たしかに受賞作を見ると、『草原の実験』を除けば、ドラッグ、アルコール、金のせいで深みにはまり、追い詰められていく人々を主人公にしたものばかり。加えて、私見ですが、インディーズ系で、まとまりのいい映画が評価されたように思います。これは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン、『キューティ・ブロンド』のロバート・ルケティックという2人のアメリカ人監督が審査員にいたことが影響したように思いました。

 残念だったのは、マレーシアのエドモンド・ヨウの長編デビュー作『破裂するドリアンの河の記憶』が無冠に終わったことです。一人の高校生を主人公に、歴史の女教師に率いられた工場反対運動が次第に先鋭化する姿をマレーシアの歴史と現状を交えた、野心的な作品で、多くの要素が含まれ、多様な見方が出来るのを私は面白いと思ったのですが、まとまりを重視する今年の審査員には評価されなかったようです。また、『1001グラム』、『マルセイユ・コネクション』といった、出来はよくても商業的な作品や、すでに名のある人の作品は賞から外されたようで、この辺は映画祭というものをよく知る、クレバーな選択だったと思います。

tokyo2014_p04_00.jpg●受賞結果

*写真(左)は記念撮影する受賞者たち

<コンペティション>
東京グランプリ:『神様なんかくそくらえ』
        監督ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ(アメリカ)
審査員特別賞:『ザ・レッスン/授業の代償』
       監督クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ(ブルガリア)
監督賞:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ『神様なんかくそくらえ』
女優賞:宮沢りえ『紙の月』監督 吉田大八(日本)
男優賞:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ『マイティ・エンジェル』
    監督ヴォイティ・スマルゾフスキ(ハンガリー)
芸術貢献賞:『草原の実験』監督アレクサンドル・コット(ロシア)
観客賞:『紙の月』
WOWOW賞:『草原の実験』

<アジアの未来>
作品賞:『ゼロ地帯の子供たち』監督アミールフセイン・アシュガリ(イラン)
国際交流基金特別賞:『遺されたフィルム』監督ソト・クォーリーカー(カンボジア)

<日本映画スプラッシュ>
作品賞:『百円の恋』監督 武正晴
スペシャル・メンション:『滝を見に行く』監督 沖田修一

(齋藤敦子)

(3)新たな才能の発掘が国際化への道

2014/10/29

p2014_tokyo_03_01.jpg 10月23日から第27回東京国際映画祭が開幕しました。当日は朝から小雨模様のあいにくの天気でしたが、オープニングの頃にはあがって、嵐を始めとする人気スターがレッドカーペットを歩き、開幕を盛り上げました。

【写真】小雨模様の開幕日

 昨年トップが変わったことで様々な変化があったなかで、エコロジーをテーマにした<natural TIFF>部門がなくなったことはお伝えしましたが、今年は、かろうじて残っていたグリーンカーペットも消え、エコロジーが映画祭のコンセプトから完全に消滅したのは、フクシマ後わずか3年で早くも原発の再稼働を進める現政権の意向を反映したものなのかと、うがった見方をしてみたくなりました。

 矢田部・石坂両プログラミング・ディレクターのインタビューの中でも触れていますが、今年は主会場である六本木ヒルズのTOHOシネマズの他に、TOHOシネマズ日本橋に上映会場が増えたり、『新世紀エヴァンゲリオン』などで有名な監督・アニメーターの庵野秀明の特集、また、"比類のない創造性を持ち、新しい映像表演を切り開いてきた映画人の功績をたたえる"SAMURAI(サムライ)賞が新設され、第1回の受賞者に北野武監督とティム・バートン監督が選ばれたり、歌舞伎座スペシャルナイトと題されたイベントで市川染五郎の舞踊とチャップリンの「街の灯」の上映があったり、特別提携企画としてニューヨーク近代美術館映画コレクション特集が京橋のフィルム・センターで開催されたりと、寂しかった昨年に比べ、バブルの頃を思わせる賑やかな映画祭になりました。

 とはいえ、映画祭の華はレッドカーペットやイベントではなく、上映される映画にあるのはもちろんで、<コンペティション>と<アジアの未来>の2つのコンペ部門の内容をいかに充実させていくかが、今後も東京国際映画祭の課題であることは言うまでもありません。

p2014_tokyo_03_02.jpg 【写真】復活した関係者用のラウンジ

 今年2年目に入った<アジアの未来>は、昨年の8本から2本増えて10本になりました。まだ2回目なので、目的である新人発掘の成果があがるのは、これからですが、石坂ディレクターのインタビューにもあるように、昨年の受賞作2本が海外の多くの映画祭でピックアップされたことで、東京の名前を知らせる役を果たしてくれたように思います。今年は審査員にトロント映画祭のキャメロン・ベイリーが加わったことで、<アジアの未来>で上映される映画に国際的な注目が集まりやすくなった気がします。たとえば、ナント三大陸映画祭が侯孝賢やジャ・ジャンクー、是枝裕和らにいち早くグランプリを授与したことで有名になったように、映画祭がどんな才能を発見したかでなく、発見された才能が映画祭の名を上げ、クオリティを保証してくれるのです。<アジアの未来>がどんな才能を発掘できるか。東京映画祭の真の国際化は、案外この辺りから始まるような気がしています。

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【写真】朝の会場風景。主会場のTOHOシネマズは奥の階段を上がるのだが、

来たことのない人には非常にわかりにくい。

(齋藤敦子)

(2)「東京」への注目度を高めたい/「コンペティション」部門PD矢田部吉彦氏に聞く

2014/10/24

2014tokyo_cinema_02.jpg-去年は予算減でタイトな映画祭でしたが、今年は本数も増えたし、楽しそうな感じが戻ってきた気がします。今年の抱負は?

矢田部:映画祭は映画を上映してなんぼ、なんで、本数を増やすことができたのはとてもよかったと思っています。<コンペティション>の15本は変わりませんが、タイ特集ができたり、<ワールド・フォーカス>もアジアと合わせてですが、今年は23本と去年より増えていますし、<アジアの未来>も8本から10本に増えている。このくらい整わないと、映画祭の体裁にならない部分もありますので、それが達成できてよかったと思います。

-<ワールド・フォーカス>に他の映画祭で賞をとった映画がたくさん入ってますね。ヴェネチアの受賞作はもちろんその前に 選定したわけでしょうが、どういう風に決めていったんですか。

矢田部:ヴェネチアには行けないので、ラインアップを見て、間に合う限り取り寄せて見ました。コンチャロフスキーの『白夜 と配達人』がそうで、ボクダノヴィッチの『シーズ・ザット・ファニー』は、ちょっと前から話があったんですが、ヴェネチアで特別上映が決まったと聞いて、あわてて取り寄せたり、『ハングリー・ハーツ』という男女優賞をW受賞した作品は、もともと監督が好きだったので、結構早い段階でローマで見せてもらったり。ロイ・アンダーソンの『実存を省みる枝の上の鳩』もフランスの製作会社から早めに見せてもらって、<ワールド・フォーカス>にと決めていました。金獅子賞をとるとは思わなかったですが。

-カルロヴィ・ヴァリ映画祭のグランプリ『コーン・アイランド』も入ってますね。

矢田部:あれは賞をとったものを取り寄せて見てみたら、これはさすがにグランプリだなと思って、もう文句なく。

-目玉である<コンペティション>のセレクションは?

矢田部:今年も有名監督のワールドプレミアを少しずつ増やしたいなという抱負は持ちつつやっているんですが、まだまだ道途上だと思います。カンヌ後くらいから本格的に、こっちから追っかけているのと応募してもらっているのと合わせて見ていって、最終的には、やはり面白いと思えたものというところに落ち着いちゃうんです。たとえば今年は南米で3本くらい面白い映画が重なってしまい、3本同時に入れるわけにもいかないし、とか。そういったところを1つ1つクリアしながら決めていくって感じでしょうか。

●<アジアの未来>と棲み分け?

-去年<アジアの未来>という新人発掘の部門が出来たので、コンペは有名監督の作品という棲み分けで、という風にシフトしてきたんでしょうか。

矢田部:実はそうでもないんです。そう言った方がわかりやすいんですけれど。現に新人監督が入ってますし、こちらの部門もアジア限定だったら必然的にそういうことになるでしょうが、もうちょっと規模の大きいという言い方は語弊がありますが、もう1ステップ上のレベルの作品という漠としたイメージです。『紙の月』をコンペに入れたというのも、少しずつそういう方向に行きたい意志の現れではありますね。

-今年は歌舞伎座スペシャルナイトがあったり、庵野秀明の特集があってアニメの方に寄ってみたり、派手めな企画があります。私は映画祭の核は2つのコンペ部門だと思うんですが、派手な方がどうしても目をひいてしまい、注意が削がれるというか、映画祭がぼやけるんじゃないかとも感じたんですが。

矢田部:もうそういう風に思っている時期では僕はないです。日本でコンペやアジアをやって行くには、こちらがどんなに頑張っても限界がある。こちらの努力不足もあるでしょうが、日本のアート系映画のパイが一定の量しかなく、ほっとくとどんどん小さくなってしまう。そこを僕と石坂さんが何とか引き留めようとしている。どんなに頑張っても東京映画祭が注目してもらえる範囲って限界があると思うんです。それをアニメなどが注目されることによって、東京映画祭を知ってくれる人が増えるとしたら、それは長い目で見て映画全体のためになると思うし、我々が頑張ってもできないところにリーチしていくかもしれない。裾野を広げるという意味では必要なことだと思います。

-矢田部さんは、アート系で、しかも配給可能な、ちょっと微妙な作品を選んできているわけですが、日本公開につながる、つながらないというところでは、以前と比べて変化を感じますか?

矢田部:一番どん底だったのが4、5年前だと思うんです。僕がプログラミングをやり始めて今年で8年目なんですが、スタートした頃からどんどん悪くなっていって、それが3年くらい前からあれっていう感じになって、去年今年と凄く売れているようです。コンペの作品に関して言えば、時間はかかりますが、たとえば1年くらいのタイムラグが出てしまいましたが、去年の『レッド・ファミリー』が明日公開(10月4日)とか、『馬々と人間たち』がもうすぐ公開とか、2年前の『NO』が最近公開されたり、そういった動きが前より多いような気がします。それは心強いですが、では本当にパイが広がっているかというと、そんなに広がっている実感はないですね。配給会社の方々とかが必死で頑張っているというのが現状だと思います。

●これは新しいお客だ!

-観客に変化は?

矢田部:去年の映画祭では変化をとても感じましたね。学生500円というのが功を奏したのかもしれない。変な話ですけど、Q&Aの司会で壇上に立っていて、質問のレベルがすごく下がったんです。こんな質問、前は出なかったよなと。映画祭馴れしている人には、"こんな当たり前なこと聞くなよ"みたいなことを聞く人がいて、最初は戸惑ったんですけど、"これは新しいお客だ!"と思って、すごく嬉しくなったんです。それは去年すごく思ったことでした。

-阻んでいるのはチケット代でしょうか?

矢田部:それはあるかな。大学にレクチャーに行って、映画は高いって言われることは正直あります。

-観客数的には?去年は作品数が少なかったから比較にはならないかもしれないですが。

矢田部:1作品あたりの動員数は上がっていると思いますし、壇上にいても、お客さんが沢山いるなと思うことが多いですね。

-映画祭というのは映画のお客さんを広げる先兵というか、映画のショーケースとして接点になって欲しいので、学生500円は嬉しい試みでした。今年もやるんですか?

矢田部:当日券限りですが、今年もやります。問題はそこかもしれない。配給がつくかもしれないアート映画の牙城を守りたいという思いと、でもお客さんを増やしたいという思い。コア層にそっぽを向かれると映画祭として成り立たないし、コア層だけを相手にしていると閉じてしまう、

-映画祭が痩せちゃいますね。

矢田部:その中間を狙うと中途半端だと言われる(笑)これは答えの出ない悩みです。

-今年の見どころは?えこひいきするわけにいかないので言いにくいとは思いますが、コア層と、一般の人が見て楽しめる映画を選んでいただくと。

●客層広げる?「1001グラム」

矢田部:一般層というか、観客を広げる意味でいいなと思っているのは、まず『1001グラム』ですね。ベント・ハーメルは名前もあるし、一定量のクオリティを維持する監督です。今回、とてもシンプルで暖かい物語になったので。この作品はつい先日、日本配給が決まりました。フランスの『マルセイユ・コネクション』は、『最強のふたり』的なポジションというか、見たら面白かったんで、困ったなと。でも、もう面白いから入れようと思いました。

-こういう映画が入ってくるのが東京映画祭ですね。

矢田部:プレミア度も高いんです。フランス公開は12月で、トロントの次がうちくらいかな。他の映画祭にはコンペ部門にアウト・オブ・コンペという、配給のついてない、プレミア度の高い作品があるじゃないですか。それがうちにない。映画祭を知ってる人ならアウト・オブ・コンペと言えば"ああ"となりますけど、アウト・オブ・コンペとはなんぞやということを日本のプレスとお客さんに一から説明するのもどうかなと思って、そういう映画もコンペに入れてしまおうと。で、一気にマニアックになるんですけど、フランス映画がもう1本入ってまして、このロマン・グーピルの『来るべき日々』は、かなりコアなファン向けですね。彼の『ハンズアップ』という作品が5年くらい前に、当時の<ワールド・シネマ>で上映されて、一部に熱狂的に支持されて、でも配給は決まらなかったんですけど。『来るべき日々』は絶品のセルフ・ドキュメンタリーです。
 個人的に薦めているのはイランの『メルボルン』ですね。室内劇なんですけど、若い夫婦が留学に出かける日に起きてしまっ た事件に振り回されるという映画で、すごくシンプルな設定ですが、脚本がうまくて、シンプルでもここまで映画は面白くなれるという。日本の若い監督に見てもらいたいですね。ブルガリアの『ザ・レッスン/授業の代償』もそうです。新人監督なんですが、ドラマの構築の仕方が非常に巧みで、後半ちょっとハラハラする。『メルボルン』と『ザ・レッスン』は、お金も特殊効果もなく、面白い映画が作れるという見本になると思います。

●秋の勝負作をまず東京で

-日本映画は『紙の月』1本ですが、ホスト国なので、2本くらいあってもいいんじゃないかと。

矢田部:その意見はとてもわかります。ただ、松竹さんの秋の勝負作がコンペに入ることが実はかなり画期的で、そうあって欲しいなと思っていることの1つでした。東宝、東映、松竹の秋の勝負作は普通に東京映画祭に出すんだと映画業界の人達にも意識してもらいたい、と。モントリオール出します、バンクーバー出します、大変結構なんですけど、まず東京のコンペ考えてみてよ、ということを常々思ってまして。受賞を逃すとみっともないということもあり、かつ、コンペに出したらどんなメリットがあるのか、ということに映画祭が応えきれてなかった。『紙の月』は、まず監督の吉田大八さんをずっと追いかけていたことと、こういう作品がちゃんとコンペに入るようにしていかなきゃいけないと思ったので、トップに動いてもらったりしたんです。それに、おしなべて今年の日本映画は絶不調だと思いますね。なので『紙の月』以外に入れたいと思う作品がなかった。

-私も日本の映画業界にもっと東京映画祭をサポートして欲しいなとは思っているんです。モントリオールに出せば賞を貰えるかもしれないけど。

矢田部:映画祭の知名度が業界ではどうであれ、海外で賞をとったとなれば一般の方には非常に大きなアピールになるというのは、よく理解できます。

-マスコミのせいもあると思いますね。海外の映画祭のことをよく知らないから。『紙の月』がコンペに入ったことはちょっと驚きで、大手映画会社の映画がちゃんとコンペに出てきたということは努力の成果だなと思います。来年はこういう作品が2本くらい入ってくるといいですね。

矢田部:こういう作品が2本か、『紙の月』と『フラッシュバック・メモリーズ3D』のようなインディーズの画期的な作品が並ぶのもいいかなと思いますよね。

-去年の最低限の映画祭から今年の映画祭へ線を引くとすると、来年はその延長上にあると考えていいんでしょうか。

矢田部:作品選定に関しては、僕と石坂さんが続けている限り、線上にあると思います。1年1年でいろんなことがあるけれども、プログラマーがまっすぐやっていくことが僕は重要だと思います。
(10月3日、東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)
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