シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4完)全編NYロケで若者描く/グランプリ「神様なんかくそくらえ」

2014/11/01

tokyo2014_p_04_01.jpg 10月31日の夜、授賞式が行われ、以下のような受賞作が決定しました。

 最高賞の東京グランプリ(今年から名称変更)を受賞した『神様なんかくそくらえ』は、主演のアリエル・ホームズの実体験を元にした作品。全編ニューヨーク・ロケで、ドラッグを買うために物乞いと万引きを繰り返しながら、刹那的に生きる若者達の生態が、非常にリアルに、痛々しく描かれています。監督のサフディ兄弟は30歳と28歳で、対象となったストリートで生きる青少年たちとさほど年齢の差がなく、彼らの心情に寄り添うように撮っているところが映画の魅力になっていました。

写真は10月28日に行われた記者会見。左からジョシュア、ベニー・サフディ兄弟監督、原作・主演のアリエル・ホームズ、共演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。

 審査員特別賞の『ザ・レッスン/授業の代償』は、小学校の英語教師が、夫の作った借金のために抜き差しならない状況に追い込まれていく姿を描いたもの。『紙の月』は河北新報にも連載された角田光代の同名小説を原作に、夫がありながら、年下の恋人に貢ぐために顧客の預金を横領し、次第に深みにはまっていく銀行員を宮沢りえが演じています。男優賞の『マイティ・エンジェル』は、重度のアルコール依存症で、リハビリ施設を出たり入ったりする作家の刹那的な生き方を描いたもの。『草原の実験』は、カザフスタンの広々とした草原にぽつんと建つ一軒家を舞台に、父親と美しい娘、娘を好きな2人の青年とのおだやかな暮らしが、唐突におわりを迎えるまでを描いたものです。

 今年のコンペティションのテーマは"追いつめられる人々"だと言われていました。たしかに受賞作を見ると、『草原の実験』を除けば、ドラッグ、アルコール、金のせいで深みにはまり、追い詰められていく人々を主人公にしたものばかり。加えて、私見ですが、インディーズ系で、まとまりのいい映画が評価されたように思います。これは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン、『キューティ・ブロンド』のロバート・ルケティックという2人のアメリカ人監督が審査員にいたことが影響したように思いました。

 残念だったのは、マレーシアのエドモンド・ヨウの長編デビュー作『破裂するドリアンの河の記憶』が無冠に終わったことです。一人の高校生を主人公に、歴史の女教師に率いられた工場反対運動が次第に先鋭化する姿をマレーシアの歴史と現状を交えた、野心的な作品で、多くの要素が含まれ、多様な見方が出来るのを私は面白いと思ったのですが、まとまりを重視する今年の審査員には評価されなかったようです。また、『1001グラム』、『マルセイユ・コネクション』といった、出来はよくても商業的な作品や、すでに名のある人の作品は賞から外されたようで、この辺は映画祭というものをよく知る、クレバーな選択だったと思います。

tokyo2014_p04_00.jpg●受賞結果

*写真(左)は記念撮影する受賞者たち

<コンペティション>
東京グランプリ:『神様なんかくそくらえ』
        監督ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ(アメリカ)
審査員特別賞:『ザ・レッスン/授業の代償』
       監督クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ(ブルガリア)
監督賞:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ『神様なんかくそくらえ』
女優賞:宮沢りえ『紙の月』監督 吉田大八(日本)
男優賞:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ『マイティ・エンジェル』
    監督ヴォイティ・スマルゾフスキ(ハンガリー)
芸術貢献賞:『草原の実験』監督アレクサンドル・コット(ロシア)
観客賞:『紙の月』
WOWOW賞:『草原の実験』

<アジアの未来>
作品賞:『ゼロ地帯の子供たち』監督アミールフセイン・アシュガリ(イラン)
国際交流基金特別賞:『遺されたフィルム』監督ソト・クォーリーカー(カンボジア)

<日本映画スプラッシュ>
作品賞:『百円の恋』監督 武正晴
スペシャル・メンション:『滝を見に行く』監督 沖田修一

(齋藤敦子)

(3)新たな才能の発掘が国際化への道

2014/10/29

p2014_tokyo_03_01.jpg 10月23日から第27回東京国際映画祭が開幕しました。当日は朝から小雨模様のあいにくの天気でしたが、オープニングの頃にはあがって、嵐を始めとする人気スターがレッドカーペットを歩き、開幕を盛り上げました。

【写真】小雨模様の開幕日

 昨年トップが変わったことで様々な変化があったなかで、エコロジーをテーマにした<natural TIFF>部門がなくなったことはお伝えしましたが、今年は、かろうじて残っていたグリーンカーペットも消え、エコロジーが映画祭のコンセプトから完全に消滅したのは、フクシマ後わずか3年で早くも原発の再稼働を進める現政権の意向を反映したものなのかと、うがった見方をしてみたくなりました。

 矢田部・石坂両プログラミング・ディレクターのインタビューの中でも触れていますが、今年は主会場である六本木ヒルズのTOHOシネマズの他に、TOHOシネマズ日本橋に上映会場が増えたり、『新世紀エヴァンゲリオン』などで有名な監督・アニメーターの庵野秀明の特集、また、"比類のない創造性を持ち、新しい映像表演を切り開いてきた映画人の功績をたたえる"SAMURAI(サムライ)賞が新設され、第1回の受賞者に北野武監督とティム・バートン監督が選ばれたり、歌舞伎座スペシャルナイトと題されたイベントで市川染五郎の舞踊とチャップリンの「街の灯」の上映があったり、特別提携企画としてニューヨーク近代美術館映画コレクション特集が京橋のフィルム・センターで開催されたりと、寂しかった昨年に比べ、バブルの頃を思わせる賑やかな映画祭になりました。

 とはいえ、映画祭の華はレッドカーペットやイベントではなく、上映される映画にあるのはもちろんで、<コンペティション>と<アジアの未来>の2つのコンペ部門の内容をいかに充実させていくかが、今後も東京国際映画祭の課題であることは言うまでもありません。

p2014_tokyo_03_02.jpg 【写真】復活した関係者用のラウンジ

 今年2年目に入った<アジアの未来>は、昨年の8本から2本増えて10本になりました。まだ2回目なので、目的である新人発掘の成果があがるのは、これからですが、石坂ディレクターのインタビューにもあるように、昨年の受賞作2本が海外の多くの映画祭でピックアップされたことで、東京の名前を知らせる役を果たしてくれたように思います。今年は審査員にトロント映画祭のキャメロン・ベイリーが加わったことで、<アジアの未来>で上映される映画に国際的な注目が集まりやすくなった気がします。たとえば、ナント三大陸映画祭が侯孝賢やジャ・ジャンクー、是枝裕和らにいち早くグランプリを授与したことで有名になったように、映画祭がどんな才能を発見したかでなく、発見された才能が映画祭の名を上げ、クオリティを保証してくれるのです。<アジアの未来>がどんな才能を発掘できるか。東京映画祭の真の国際化は、案外この辺りから始まるような気がしています。

p2014_tokyo_03_03.jpg

【写真】朝の会場風景。主会場のTOHOシネマズは奥の階段を上がるのだが、

来たことのない人には非常にわかりにくい。

(齋藤敦子)

(2)「東京」への注目度を高めたい/「コンペティション」部門PD矢田部吉彦氏に聞く

2014/10/24

2014tokyo_cinema_02.jpg-去年は予算減でタイトな映画祭でしたが、今年は本数も増えたし、楽しそうな感じが戻ってきた気がします。今年の抱負は?

矢田部:映画祭は映画を上映してなんぼ、なんで、本数を増やすことができたのはとてもよかったと思っています。<コンペティション>の15本は変わりませんが、タイ特集ができたり、<ワールド・フォーカス>もアジアと合わせてですが、今年は23本と去年より増えていますし、<アジアの未来>も8本から10本に増えている。このくらい整わないと、映画祭の体裁にならない部分もありますので、それが達成できてよかったと思います。

-<ワールド・フォーカス>に他の映画祭で賞をとった映画がたくさん入ってますね。ヴェネチアの受賞作はもちろんその前に 選定したわけでしょうが、どういう風に決めていったんですか。

矢田部:ヴェネチアには行けないので、ラインアップを見て、間に合う限り取り寄せて見ました。コンチャロフスキーの『白夜 と配達人』がそうで、ボクダノヴィッチの『シーズ・ザット・ファニー』は、ちょっと前から話があったんですが、ヴェネチアで特別上映が決まったと聞いて、あわてて取り寄せたり、『ハングリー・ハーツ』という男女優賞をW受賞した作品は、もともと監督が好きだったので、結構早い段階でローマで見せてもらったり。ロイ・アンダーソンの『実存を省みる枝の上の鳩』もフランスの製作会社から早めに見せてもらって、<ワールド・フォーカス>にと決めていました。金獅子賞をとるとは思わなかったですが。

-カルロヴィ・ヴァリ映画祭のグランプリ『コーン・アイランド』も入ってますね。

矢田部:あれは賞をとったものを取り寄せて見てみたら、これはさすがにグランプリだなと思って、もう文句なく。

-目玉である<コンペティション>のセレクションは?

矢田部:今年も有名監督のワールドプレミアを少しずつ増やしたいなという抱負は持ちつつやっているんですが、まだまだ道途上だと思います。カンヌ後くらいから本格的に、こっちから追っかけているのと応募してもらっているのと合わせて見ていって、最終的には、やはり面白いと思えたものというところに落ち着いちゃうんです。たとえば今年は南米で3本くらい面白い映画が重なってしまい、3本同時に入れるわけにもいかないし、とか。そういったところを1つ1つクリアしながら決めていくって感じでしょうか。

●<アジアの未来>と棲み分け?

-去年<アジアの未来>という新人発掘の部門が出来たので、コンペは有名監督の作品という棲み分けで、という風にシフトしてきたんでしょうか。

矢田部:実はそうでもないんです。そう言った方がわかりやすいんですけれど。現に新人監督が入ってますし、こちらの部門もアジア限定だったら必然的にそういうことになるでしょうが、もうちょっと規模の大きいという言い方は語弊がありますが、もう1ステップ上のレベルの作品という漠としたイメージです。『紙の月』をコンペに入れたというのも、少しずつそういう方向に行きたい意志の現れではありますね。

-今年は歌舞伎座スペシャルナイトがあったり、庵野秀明の特集があってアニメの方に寄ってみたり、派手めな企画があります。私は映画祭の核は2つのコンペ部門だと思うんですが、派手な方がどうしても目をひいてしまい、注意が削がれるというか、映画祭がぼやけるんじゃないかとも感じたんですが。

矢田部:もうそういう風に思っている時期では僕はないです。日本でコンペやアジアをやって行くには、こちらがどんなに頑張っても限界がある。こちらの努力不足もあるでしょうが、日本のアート系映画のパイが一定の量しかなく、ほっとくとどんどん小さくなってしまう。そこを僕と石坂さんが何とか引き留めようとしている。どんなに頑張っても東京映画祭が注目してもらえる範囲って限界があると思うんです。それをアニメなどが注目されることによって、東京映画祭を知ってくれる人が増えるとしたら、それは長い目で見て映画全体のためになると思うし、我々が頑張ってもできないところにリーチしていくかもしれない。裾野を広げるという意味では必要なことだと思います。

-矢田部さんは、アート系で、しかも配給可能な、ちょっと微妙な作品を選んできているわけですが、日本公開につながる、つながらないというところでは、以前と比べて変化を感じますか?

矢田部:一番どん底だったのが4、5年前だと思うんです。僕がプログラミングをやり始めて今年で8年目なんですが、スタートした頃からどんどん悪くなっていって、それが3年くらい前からあれっていう感じになって、去年今年と凄く売れているようです。コンペの作品に関して言えば、時間はかかりますが、たとえば1年くらいのタイムラグが出てしまいましたが、去年の『レッド・ファミリー』が明日公開(10月4日)とか、『馬々と人間たち』がもうすぐ公開とか、2年前の『NO』が最近公開されたり、そういった動きが前より多いような気がします。それは心強いですが、では本当にパイが広がっているかというと、そんなに広がっている実感はないですね。配給会社の方々とかが必死で頑張っているというのが現状だと思います。

●これは新しいお客だ!

-観客に変化は?

矢田部:去年の映画祭では変化をとても感じましたね。学生500円というのが功を奏したのかもしれない。変な話ですけど、Q&Aの司会で壇上に立っていて、質問のレベルがすごく下がったんです。こんな質問、前は出なかったよなと。映画祭馴れしている人には、"こんな当たり前なこと聞くなよ"みたいなことを聞く人がいて、最初は戸惑ったんですけど、"これは新しいお客だ!"と思って、すごく嬉しくなったんです。それは去年すごく思ったことでした。

-阻んでいるのはチケット代でしょうか?

矢田部:それはあるかな。大学にレクチャーに行って、映画は高いって言われることは正直あります。

-観客数的には?去年は作品数が少なかったから比較にはならないかもしれないですが。

矢田部:1作品あたりの動員数は上がっていると思いますし、壇上にいても、お客さんが沢山いるなと思うことが多いですね。

-映画祭というのは映画のお客さんを広げる先兵というか、映画のショーケースとして接点になって欲しいので、学生500円は嬉しい試みでした。今年もやるんですか?

矢田部:当日券限りですが、今年もやります。問題はそこかもしれない。配給がつくかもしれないアート映画の牙城を守りたいという思いと、でもお客さんを増やしたいという思い。コア層にそっぽを向かれると映画祭として成り立たないし、コア層だけを相手にしていると閉じてしまう、

-映画祭が痩せちゃいますね。

矢田部:その中間を狙うと中途半端だと言われる(笑)これは答えの出ない悩みです。

-今年の見どころは?えこひいきするわけにいかないので言いにくいとは思いますが、コア層と、一般の人が見て楽しめる映画を選んでいただくと。

●客層広げる?「1001グラム」

矢田部:一般層というか、観客を広げる意味でいいなと思っているのは、まず『1001グラム』ですね。ベント・ハーメルは名前もあるし、一定量のクオリティを維持する監督です。今回、とてもシンプルで暖かい物語になったので。この作品はつい先日、日本配給が決まりました。フランスの『マルセイユ・コネクション』は、『最強のふたり』的なポジションというか、見たら面白かったんで、困ったなと。でも、もう面白いから入れようと思いました。

-こういう映画が入ってくるのが東京映画祭ですね。

矢田部:プレミア度も高いんです。フランス公開は12月で、トロントの次がうちくらいかな。他の映画祭にはコンペ部門にアウト・オブ・コンペという、配給のついてない、プレミア度の高い作品があるじゃないですか。それがうちにない。映画祭を知ってる人ならアウト・オブ・コンペと言えば"ああ"となりますけど、アウト・オブ・コンペとはなんぞやということを日本のプレスとお客さんに一から説明するのもどうかなと思って、そういう映画もコンペに入れてしまおうと。で、一気にマニアックになるんですけど、フランス映画がもう1本入ってまして、このロマン・グーピルの『来るべき日々』は、かなりコアなファン向けですね。彼の『ハンズアップ』という作品が5年くらい前に、当時の<ワールド・シネマ>で上映されて、一部に熱狂的に支持されて、でも配給は決まらなかったんですけど。『来るべき日々』は絶品のセルフ・ドキュメンタリーです。
 個人的に薦めているのはイランの『メルボルン』ですね。室内劇なんですけど、若い夫婦が留学に出かける日に起きてしまっ た事件に振り回されるという映画で、すごくシンプルな設定ですが、脚本がうまくて、シンプルでもここまで映画は面白くなれるという。日本の若い監督に見てもらいたいですね。ブルガリアの『ザ・レッスン/授業の代償』もそうです。新人監督なんですが、ドラマの構築の仕方が非常に巧みで、後半ちょっとハラハラする。『メルボルン』と『ザ・レッスン』は、お金も特殊効果もなく、面白い映画が作れるという見本になると思います。

●秋の勝負作をまず東京で

-日本映画は『紙の月』1本ですが、ホスト国なので、2本くらいあってもいいんじゃないかと。

矢田部:その意見はとてもわかります。ただ、松竹さんの秋の勝負作がコンペに入ることが実はかなり画期的で、そうあって欲しいなと思っていることの1つでした。東宝、東映、松竹の秋の勝負作は普通に東京映画祭に出すんだと映画業界の人達にも意識してもらいたい、と。モントリオール出します、バンクーバー出します、大変結構なんですけど、まず東京のコンペ考えてみてよ、ということを常々思ってまして。受賞を逃すとみっともないということもあり、かつ、コンペに出したらどんなメリットがあるのか、ということに映画祭が応えきれてなかった。『紙の月』は、まず監督の吉田大八さんをずっと追いかけていたことと、こういう作品がちゃんとコンペに入るようにしていかなきゃいけないと思ったので、トップに動いてもらったりしたんです。それに、おしなべて今年の日本映画は絶不調だと思いますね。なので『紙の月』以外に入れたいと思う作品がなかった。

-私も日本の映画業界にもっと東京映画祭をサポートして欲しいなとは思っているんです。モントリオールに出せば賞を貰えるかもしれないけど。

矢田部:映画祭の知名度が業界ではどうであれ、海外で賞をとったとなれば一般の方には非常に大きなアピールになるというのは、よく理解できます。

-マスコミのせいもあると思いますね。海外の映画祭のことをよく知らないから。『紙の月』がコンペに入ったことはちょっと驚きで、大手映画会社の映画がちゃんとコンペに出てきたということは努力の成果だなと思います。来年はこういう作品が2本くらい入ってくるといいですね。

矢田部:こういう作品が2本か、『紙の月』と『フラッシュバック・メモリーズ3D』のようなインディーズの画期的な作品が並ぶのもいいかなと思いますよね。

-去年の最低限の映画祭から今年の映画祭へ線を引くとすると、来年はその延長上にあると考えていいんでしょうか。

矢田部:作品選定に関しては、僕と石坂さんが続けている限り、線上にあると思います。1年1年でいろんなことがあるけれども、プログラマーがまっすぐやっていくことが僕は重要だと思います。
(10月3日、東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)さらなる実りに期待/「アジアの未来」部門PD石坂健治氏に聞く

2014/10/22

tokyo_cinema_photo01.jpg-去年初めて<アジアの未来>というコンペ部門を作ってみて、その感想は?

石坂:反省点としては、監督作の1本目とか2本目が対象なので、当然、まだ広く知れ渡ってない人達で、それをどうPRするかということです。

-作品的にはバラエティに富んでいて、インドの映画などは新人とは思えない、商業的な作品でしたが、賞はインディーズ系の青春映画みたいな方に行きました。

石坂:やっぱり青春ものは多いです。作品的には幅広く集めていて、青春ものであっても社会問題が見えてきたり、環境問題や近代化によるひずみとか、今年も結果としてはそういうものが集まっています。賞は審査員が何を選ぶかですから。

-今年は対象作品の数が増えましたね。

石坂:今年は2本増えて全部で10本、東アジアから東南アジア、中東まで10カ国各1本ずつです。

-タイトルと内容をざっと見た感じですが、今年の方が<アジアの未来>の色が見えてきたような気がします。

石坂:そう言っていただけると(笑)。去年1回やったことで、ああ、こういうものが始まったんだ、じゃあ出してみようかなという反応は確実に増えています。それから、去年の作品賞の中国映画『今日から明日へ』、スペシャル・メンションの日本映画『祖谷物語―おくのひと―』が、あの後かなり世界を回っていて、それはよかったなと。結果として今年10本のうち9本がワールドプレミアで、TIFFでお披露目をして欲しいという作品が集まりました。

-<アジアの未来>自体の知名度も上がってきたということですか?

石坂:2年前までの<アジアの風>はプレミア関係なく、直前にプサンで上映してもウェルカムで、何でもアリ、ということでやってましたけど、<アジアの未来>が認知されて、来年再来年になって、みのりがいろいろ出て来るんじゃないかなと思います。

●国際交流基金のサポートで作品増

-仮想敵であるプサンが視野に入ってくる?

石坂:プサンの<ニュー・カランツ(新しい潮流)>は12本ですが、今年はワールドプレミアの数でプサンに勝ったんです。

-もう射程に入ったわけですね(笑)

石坂:ワールドプレミアと言っても映画がつまんなきゃしょうがないんで、それは勝ち負けじゃないんですけど。もちろん、ノンコンペのパノラマの数はプサンの方が凄いですよ、40~50本あるんで。そこは予算次第ですけど、TIFFも去年からするとアジア映画全体で10本増えていて、これは国際交流基金のサポートが大きいんです。

-どんなサポートを?

 今年、国際交流基金がアジアセンターというのを作って、そこと共催になったんです。これが2020年まで7年一緒にやるという長期的な見通しが立ったので、作品の増加とゲストの増加が可能になりました。

-具体的には?

石坂:東京映画祭で上映するアジア映画に関して包括的にサポートしてもらい、それに加えて、タイの特集<クロスカットアジア>は冠スポンサーにということです。

 日本はアジア映画ファンが多いんで、本数が減って、いろいろとご意見もいただいていたんで、やっと一昨年並に戻ったというところです。

-去年は台湾の特集でしたが、今年はタイですね?

石坂:台湾の前がインドネシアで、その前がフィリピン・シネマラヤというのをやって、気づいたらタイは非常にご無沙汰で、TIFFでも、暉峻くんの時代にもやってないんじゃいかな。私が交流基金にいた時代に2回くらい映画祭をやりましたが、それからでも、もう10年くらい経つんで、まずはタイの現状報告をと。

●インディーズ、メジャーともに面白いタイ

-タイの映画産業は、今はどんな感じですか?

石坂:今年はクーデタがありましたね。それから、アピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』から4年経って、アピチャッポンにあこがれて、インディーズ的に作り始めたという世代が出てきています。アピチャッポン自身はアートの方へ行っていて、長編映画はちょっとご無沙汰ですが。ポスト・アピチャッポンのインディーズ勢と、今度『愛しのゴースト』が公開になりますが、相変わらずホラーを中心としたメジャー作品と、両方面白いです。

-日本にはタイの商業映画はなかなか入ってきませんが。

石坂:10年前には『アタック・ナンバーハーフ』とか『ナンナーク』とか、結構入っていたんです。『マッハ:』や『チョコレート・ファイター』とか。あの頃、タイ映画ルネッサンスという言い方をしましたが、あの時代を引っ張ったルネッサンスの人達のその後が、今回の特集でわかるんじゃないかと思います。

-アピチャッポン系インディーズ映画と、ルネッサンスその後系の2本立て?

石坂:8本あるんで、ちょうど半々くらい。これも、かなりバラエティに富んでいます。

-では、今年の<アジアの未来>の見どころを。

石坂:韓国の『メイド・イン・チャイナ』とイランの『ゼロ地帯の子供達』は、巨匠がサポートしている作品。韓国の『メイド・イン・チャイナ』は去年の『レッド・ファミリー』と同じキム・ギドク・フィルムの製作。キム・ギドク脚本で、新人が監督しています。中国の養殖うなぎが韓国の検査にひっかかり、中国人の養殖業者が密入国して、韓国で一旗あげる。韓国映画では脱北は多いけど、中国からっていうのは、なかなか新しい視点で、しかもそこに食の安全というタイムリーな話題が入ってくるという、キム・ギドクの脚本が冴えている。

 イランの『ゼロ地帯の子供達』はアボルファズル・ジャリリがアドバイザーで、師匠が控えているので、やっぱりしっかりしてます。でも新人ならではの個性も入ってくるので、どっかで見たような感じもするかもしれないけど、新しい動きも見てもらえると思います。子供が主人公なんですが、ほのぼの系じゃなく、『少年と砂漠のカフェ』のあの感じというか、まさにジャリリ的な、見事にひとりで生きてる子供という映画です。

●ホラー復活のカンボジア

-中国はどうですか?

石坂:『北北東』って、ヒッチコックみたいなタイトルですが、これも新しい動きで、警察ものなんです。文革終わった直後の警察の冴えない署長さんと漢方医のおばあちゃんが組んで事件を解決するという、よく出来たエンタメです。『シャーロック・ホームズ』とは言わないけど、『相棒』みたいな映画かな。

-カンボジアの『遺されたフィルム』は女性監督ですね。

石坂:彼女はかなり歳がいっていて、もう40歳に近いです。リティ・パニュの映画とか、ドキュメンタリーでポルポト時代を描くのはありましたが、これは劇映画で、自分の父母、祖父母がどういう時代を生きたかを孫娘が調べるという、その過程で、残っていたフィルムに映っているのが元女優だった母親だったことがわかり、なくなってしまったラストシーンを今の若者たちでシナリオをみながら再現する。そういう意味では、リティ・パニュあたりの問題意識と重なっていて、これは映画祭でやるべきだなと思った。

-カンボジアの映画産業はどんな感じですか?

石坂:産業というにはまだあれですけど、リティさんなどが非常に尽力して、いろんな施設を作っています。ビデオなんかだと、早くもホラー映画が復活し始めているから、昔みたいになっていくんじゃないですか。タイ以前のホラー王国はカンボジアだったんで。

-『怪奇ヘビ男』とか。

石坂:『ヘビ男』の断片もちらっと出てきますよ。『ヘビ男』のヒロインを演じた当時の大女優ディ・サヴェットが、お母さん役をやっています。

-インドネシアの『太陽を失って』は?

石坂:ラッキー・スクワンディはインドネシアでは珍しく、同性愛とか、ジェンダー的なテーマを撮っている人で、これは2本目なんだけど、ニューヨーク帰りの女性がジャカルタの変貌ぶりに驚いて、アイデンティティの危機に陥るのと、かつての恋人の女性が戻ってきて、よりを戻すか戻さないかみたいな話で、インドネシア映画では一番新しいなと思いました。

●景色が美しい「ツバメの喉が渇くとき」

-今年はトルコ映画がカンヌでも受賞しましたね。

石坂:トルコはいいですね。この『ツバメの喉が渇くとき』という映画も本当に景色がきれいな映画で、小川プロみたいな映画ですけど、途中からダム建設反対運動が入ってくる。

-まるで小川プロですね。

石坂:だから好きだったのかな(笑)

-日本は杉野希妃さんが監督した『マンガ肉と僕』が入っていますが。

石坂:この作品は京都が舞台で、杉野さんの自作自演ですが、編集にタイのアピチャッポンの編集者だったリー・チャータメーティクンさんが入っていたりするんです。リーさんはタイの特集に監督作の『コンクリートの雲』が入っていますし、コンペのエドモンド・ヨウの『破裂するドリアンの河の記憶』も編集していて、アジア全域に貢献しています。

-撮影監督のユー・リクウァイとか、あんな感じですね。アジアはだんだん面白くなってきましたね、いい意味でスクランブルがあって。

石坂:国境を越える人達。杉野さんもそういう意味では国境関係ない人なので。

-審査員は?

石坂:トロント映画祭のディレクターのキャメロン・ベイリー、香港のジェイコブ・ウォン、それとヤン・イクチュンです。

-ジェイコブ・ウォンは去年もやりましたよね?

石坂:実はこの部門の1つの目的というのが、ここがゴールじゃなく、ここから世界へ行ってもらいたいということなので、欧米への窓としてトロントのキャメロン・ベイリーに見てもらい、ちょうど半年後が香港映画祭なので、ジェイコブ・ウォンに見てもらい、それから同世代のヤン・イクチュンに忌憚のない意見を言ってもらう。

-去年の青山真治監督のポジションですね。この3人が何を選ぶか楽しみですね。

石坂:全然わかりません。特にトロントのキャメロン・ベイリーが何を選ぶかは。

-去年のインタビューは寂しい話ばかりで、東京映画祭ってこれからどうなるんだろうとすごく思ったけど、今年こうやって、ちょっとよくなったように見えると、かえってよくないんじゃないかという気はしますね。この先、東京映画祭がどうなっていくのか、映画産業とどうつながっていくのかみたいな問題が放り投げられたままになっている。石坂さんや矢田部さんが一所懸命、頭を使ってプログラミングしても、結局何だったんだみたいな結果になる。そこが外から見ていてイラつくところです。

石坂:日本の産業構造というか、どの産業も同じなんじゃないかと、ときどき思うんですけど。

-根本のところは手つかずで、見栄えだけよくするというか。そういうところが韓国みたいに官民一体になって映画産業を建て直したところに負けるんだよなって思うんです。
(10月1日、東京映画祭事務局にて)

(齋藤敦子)
1