シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(6完)最優秀作品賞に「ふゆの獣」

2010/11/29

 最終日の28日に受賞結果が発表になり、最優秀作品賞は、内田伸輝監督の『ふゆの獣』に、審査員特別賞は、ハオ・ジェ監督の『独身男』に決定しました。審査員長のウルリッヒ・グレゴールさんによれば、コンペ作品はスタイルやテーマが様々で、それぞれよく出来ていたが、審査員の視点の差から審査は難航し、全員一致の結果を出すことができなかった。惜しくも受賞に至らなかったが、賞に値する作品が多くあった、とのことでした。また、受賞作は"映画の未来のために"というフィルメックスのモットーにのっとって、最もオリジナルで将来性のある作品に与えた、とのことです。

 最優秀作品賞の『ふゆの獣』は、1つの部屋で2組のカップルの恋愛感情がぶつかりあう様子を描いたもの。ノーギャラで出演してくれる俳優をネットで募集し、わずか110万円の製作費で撮ったというミニマルなインディーズ映画ですが、卓越したカメラワークと即興演技を取り入れた演出で、限られた予算の中で高い表現力を発揮していることが高く評価されました。

 ハオ・ジェ監督の『独身男』は、中国東北部の顧家溝という村を舞台に、結婚できずに年老いたラオヤンと仲間の独身男達の生態をユーモラスに描いたもの。ラオヤンは四川省から売られてきた若い娘を買って嫁にしようとしたところ、娘に逃げられて大騒ぎになり、仕方なく旅順に女を買いに出かけたりするのですが、この娼婦との場面が検閲にひっかかり、中国では劇場公開ができないのだそうです。四川省の娘を演じたイェランさん以外の出演者はすべてハオ・ジェ監督の故郷、顧家溝の村人達で監督の知り合い、演技の自然さもさることながら、フィクションとドキュメンタリーが混じった、嘘のような本当の物語です。この作品を強く推したアピチャッポン・ウィーラセタクン監督は、対象に愛情を持ち、共に協力して作り上げた映画で、完全ではないが、不完全なところに魅力のある作品と評していました。

20101129.jpg 写真は午後に行われた記者会見の後の記念写真で、左からニン・イン監督、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督、ウルリッヒ・グレゴールさん、内田伸輝監督、ハオ・ジェ監督、白鳥あかねさん、リー・チョクトーさんです。


【受賞結果】
最優秀作品賞:『ふゆの獣』内田伸輝監督(日本)
審査員特別賞:『独身男』ハオ・ジェ監督(中国)
観客賞:『Peace』想田和宏監督(日本/アメリカ)

【ネクスト・マスターズ】
最優秀企画賞:『Ilo Ilo』アンソニー・チェン(シンガポール)
スペシャルメンション:『It must be a camel』シャーロット・リム・レイ・クエン(マレーシア) 

(齋藤敦子)

(5)文化の発信地東京へ試金石

2010/11/29

 今年から新しく始まったネクスト・マスターズを取材してきました。市山尚三プロデューサーとのインタビューにもありますが、文化の消費地から文化の発信地への方向転換を目指す東京都が、アーティストの育成プロジェクトの一環として映像の人材育成プロジェクトとして企画したもの。
 ベルリン国際映画祭のタレント・キャンパスやプサン映画祭のプロジェクトを参考に、映画祭期間中にアジアから若手映像作家を東京に招き、講師のワークショップに参加し、映画祭ゲストの講演を聞き、企画のプレゼンテーションを行うというもの。ベルリンのタレント・キャンパスは3000人の応募者から350人を選ぶという大規模なものですが、フィルメックスでは、今回は各国の有識者に候補者を推薦してもらい、提出された作品を見て20人を選んだとのこと。レベルは高く、既に短編が三大映画祭に出品されていたり、長編を撮っていたりといった優秀な若手揃いだそうです。

 あらかじめ選考されていた8名が企画のプレゼンテーションを行い、27日午後に、優秀な企画の発表と授賞式が行われました。第1回ネクスト・マスターズ最優秀企画賞を受賞し賞金30万円を手にしたのはシンガポールのアンソニー・チェンさん。1984年生まれの26歳で、既に6本の短編を撮り、3年前に短編第2作がカンヌ映画祭の短編部門に出品され、次点に入ったという俊英です。また、スペシャル・メンションにはマレーシアのシャーロット・リム・レイ・クエンさんが選ばれました。リムさんは29歳ですが、蔡明亮の『黒い眼のオペラ』や、アン・リーの『ラスト、コーション』で助監督を務めた経験を持つ、プロの映画人といってもいい人で、昨年、長編デビュー作がマラケシュ映画祭で審査員賞を受賞しています。

 2人とも既に才能が認められている人材ですから、6日間のネクスト・マスターズが彼らの将来にどれほど大きな影響を与えられるかどうかは、はっきり言って未知数だと思います。けれども、ロビーにふらりと現れた侯孝賢監督を参加者たちが囲んで話を聞いたりしている様子を見ていると、どこでもゲストに会え、気軽に立ち話が出来るフィルメックスの規模の小ささと気安さが、映画人と若手との親密な交流を生みのに役立っていることを強く感じました。

 人材育成ですから成果はわかるのはこれからずっと先のこと。東京フィルメックスから、いったいどんな才能が生まれていくのか、この先長い目で見守りたいと同時に、東京都には長い目の支援をお願いしたいと思います。

 写真上は、授賞式の後の記念写真で、前列左から、講師のサイモン・フィールドさん、マティース・ヴァウター・クノルさん、エミリー・ジョルジュさん、侯孝賢監督、後列のノールさんの後ろがシャーロット・リムさん、エミリー・ジョルジュさんの後ろがアンソニー・チェンさんです。

20101128_05_2.jpg 写真下は、26日に行われた侯孝賢監督によるマスタークラスの模様で、『憂鬱な楽園』や『フラワーズ・オブ・シャンハイ』のプロデューサーでもある市山尚三さんを聞き手に、長編デビュー作の『ステキな彼女』や、『珈琲時光』、『レッド・バルーン』の一部を見ながら、製作当時の裏話や、俳優を演出する際の秘訣などを気さくに話してくれました。

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(齋藤敦子)

(4)フィルメックスらしいクラシックな味わい

2010/11/29

 今年はコンペ部門に、韓国からは若手の作品が並びましたが、台湾と香港からはベテランが作品をエントリーしました。

 台湾のチャン・ツォーチ監督の『愛が訪れる時』の主人公は、17歳の娘ライチュン。台北で料理店を経営している一家の実権は、父親ではなく妻が握っています。というのは彼女との間に子供ができなかったため、ライチュンの母を家に入れたという経緯があるから。複雑な家庭環境で育ち、父親や母親に反発していたライチュンが、望まない妊娠をしたことで、次第に親の立場が理解できるようになり、成長していく姿を描いています。

 市山プロデューサーとのインタビューにもあるように、家族の絆と愛情をテーマにした昔ながらの台湾映画ですが、人間関係が複雑な上に、父親が病に倒れたり、自閉症の叔父がいたりといった様々な事件が絡まっているのに、すべてをさらりと見せてしまうチャン・ツォーチ監督の演出力が光っていました。11月20日に発表になった台湾のアカデミー賞、第47回金馬奨の作品賞、撮影賞、美術賞の3賞を受賞したそうです。写真は上映前の挨拶の模様で、左からチャン・ツォーチ監督、手のひらに書いたメモを盗み見ながら日本語で挨拶するライチュン役のリー・イージェさん、ライチュンの妹役のリー・ピンインさん、自閉症の叔父役のガオ・モンジェさんです。イージェさんは現在18歳、ピンインさんは17歳で、二人とも映画初出演だそうです。

20101128_4.jpg 香港のダンテ・ラム監督の『密告者』は、凶悪犯罪の摘発に密告者を使いながら非情に徹しきれない刑事(ニック・チョン)と、妹を組織から救うために密告者役を引き受ける男(ニコラス・ツェー)の葛藤を描いた香港フィルム・ノワール。香港の街を縦横に使ってロケした昔ながらの香港アクションで、刑事と密告者それぞれの事情に加えて、派手な襲撃場面やカーチェース、恋愛ドラマと盛りだくさんな娯楽映画でした。大陸からの資本もちゃんと入っていますし、刑事の妻役で中国のミャオ・プーが、強盗団の首相の女役で台湾のグイ・ルンメイが出演していて、3中国合作となっていたのが今風でした。

 両方とも、どちらかといえば商業映画に分類され、国際映画祭のコンペには登場しにくいタイプの作品ですが、こんな風にベテランにも目配りし、クラシックな映画の味わいを大切にするところが、いかにもフィルメックスらしいと思いました。


(齋藤敦子)

(3)羨ましい韓国映画界の潜在的パワー

2010/11/25

 市山尚三ディレクターによれば、日本で起こった韓流ブームは大量の日本マネーを韓国映画界に流入させたものの、それが必ずしもいい結果を生まなかったとのことでした。結局、韓流ブームはテレビで有名になったスターやアイドルに一部の熱狂的なファンを生み出したけれども、本来の意味での韓国映画ファンを作るところまで行かずに終わってしまったと言えるかもしれません。一時の勢いはないと言われる韓国映画界ですが、フィルメックスで見た2本のコンペ作品からは、若い韓国映画の侮れない底力が感じられました。

221125_01.jpg キム・ゴク&キム・ソン共同監督の『アンチ・ガス・スキン』はヴェネチア映画祭のオリゾンティ部門でも上映された作品。ガスマスクをつけた顔の見えない連続殺人鬼が横行するソウルで、自殺志願者の集団を率いる女子高生、自分をスーパーヒーローと信じてトレーニングに励む警官、当選したら殺害するという脅迫に怯える保守党の市長候補者、恋人を殺害された米軍兵士の4人を主人公に、現代の韓国が抱える病理を描いたものです。上の写真は22日夜に行われた上映後の質疑応答の模様。キム兄弟は双子で、キム・ゴク監督が新作を編集中のため、キム・ソン監督だけが来日し、質問に答えていました。

 キム監督によれば、初めはガスマスクをつけた連続殺人鬼を主人公に考えていたのが、次第に殺人鬼に怯える人々にテーマが変わってきたのだとか。題名に"スキン(肌)"という言葉を入れたのは、不安や殺気といったものが、肌にある無数の穴(毛穴)を通して体内に取り入れられたり、排出されたりしているというイメージから。ラストシーンで、どこからか発生した毒ガスで街が包まれ、人々が次々に倒れていくのですが、その毒ガスも人々が生み出したものかもしれない、という強烈な風刺精神にみなぎっていました。

 キム・ギドク監督の助監督だったチャン・チョルス監督の長編デビュー作『ビー・デビル』は今年のカンヌ映画祭批評家週間で上映され、プチョン国際ファンタスティック映画祭でグランプリ他3賞を受賞しました。発端は、ソウルで銀行員をしている30代の女性ヘウォンが、若い後輩と問題を起こして休暇をとらされたこと。幼なじみのボクシクに会いに、久しぶりに故郷の離島に帰ってみると、ボクシクは夫からは虐待され、年配の女性達からも奴隷のように扱われるという悲惨な有様。ソウルに連れてってくれというボクシクの願いを断り、傍観者を決め込むヘウォン。虐待に耐えきれなくなったボクシクが娘を連れて逃げようとしたところを夫に見つかり、ついに彼女の怒りが爆発する事件が起こってしまいます。

 スプラッターホラーのスタイルを借りて、何事にも関わりを持とうとしない現代人の傍観主義を告発した作品で、チャン・チョルス監督によれば、実際に韓国で起こったいくつかの事件を合わせて構想したのだとか。その一つが、十数人の高校生に性的暴行を受けていた女子高生が、次第に加害者のように扱われ、本当の加害者である高校生達が無罪放免された事件だそうで、これはイ・チャンドン監督の『詩』の中に出てくる事件とも似通っているように思いました(もしかしたら同じ事件かもしれません)。若手のチャン監督とベテランのイ監督が同じ社会の病理に切り込み、それぞれの手法で作品に昇華させていく、その創造力と問題意識の高さ、それを可能にする韓国映画界の潜在的なパワーを羨ましく思いました。下の写真は23日夜の上映前に挨拶するチャン・チョルス監督です。

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(齋藤敦子)

(2)市山ディレクターに聞く『10年変わらぬ基本的方向性』

2010/11/22

221122.jpg フィルメックスは去年10周年を迎え、映画祭的には一区切り。新たな10年が始まる今年、市山尚三ディレクターに、フィルメックスと映画をめぐる10年間の環境の変化について、うかがいました。

―フィルメックスは今年11年目ですが、10年経って方向性が変わってきたところはありますか?

 市山「特集上映などがいくつか増えて、細かい部分で変わったところはありますが、原則的にコンペで10本、特集で10本という基本の線は変わっていませんし、作品の方向性や監督のテイストなども変わっていないと思います。特に変えなくてもいいというところもありますが、ただアジア以外の無名の監督の作品で、たまたま見て面白かったりしたときに、コンペではできないし、特別招待枠では、著名監督の作品を並べていくと、若手の作品は落ちてしまうことになり、それを逃しているなと思う部分もあるんです。」

―ジャコ・ヴァン・ドルマルの『ミスター・ノーバディ』や、監督はキアロスタミだけどイタリアで撮った『贋作』が並ぶと、フィルメックスはヨーロッパに向いていく気があるのかなという感じを受けましたが。

 市山「意識したことじゃありません。アモス・ギタイの『幻の薔薇』もイスラエルの資本も入ってないし、内容的にもユダヤ人の話でも何でもない、純粋なフランス映画なので、そういう意味では監督の国籍は別として、特別招待作品に完全なヨーロッパ映画が3本もあるというのは、少しヨーロッパに向いているといえないこともないとは思いますね。見た人達の反応も含めて、来年どうするかも考えなきゃいけないんだけど、なるべくやっていった方がいいなとは思います。」

―去年グランプリだったヤン・イクチュンの『息もできない』が大ヒットしたり、『マクナイーマ』が公開されることになったりして、フィルメックス的に配給への道がついてきた感がありますが、10年前と今とで変わったなと思うところは?

 市山「3年前くらいに、日本映画は別として、外国映画全作品に配給会社が決まってない年があって、その辺がたぶん底の状態だったと思うんですね。これは相当厳しいなと思っていたら、去年くらいからちょっと復活し始め、今年はカンヌで配給が決まっていなかったアピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』にしても、イ・チャンドンの『詩』にしても、後から配給が決まっていった。チャン・チョルスの『ビーデビルド』もそうです。それは、たとえばシネマライズが買ったり、シグロが買ったり、今までの既存の配給会社ではないところが買っているということがあるかもしれないですけど、ひと頃のアート作品には誰も手を出さないという状態は脱出しつつあると思うんです。数年前はますます大変なことになってきたと思っていたところが、ちょっと上向いてきている気はします。」

―市山さんはジャ・ジャンクーのプロデューサーでもありますが、彼を含めて中国映画のこの10年をどう見ていますか?

 市山「中国はものすごく大きな変化がありましたね。それも両極で変化してきているんです。まずマクロな方で言うと、2000年の半ばくらいから景気がバブルの状態になって、シネコンがどんどん出来て、毎年映画の興行記録の塗り替えがあったり、大きな変化があるんです。10年前と今とでは北京に行くと映画事情とかも全然違うんですよ。1階建ての映画館はほとんどなくなり、全部シネコンになっています。話を聞くと1日1スクリーンの割合で増えているというんです。これは明らかにバブルなんで、どこかで弾けるだろうと中国の人は怖れていますが。不思議なことに料金も安くないんです。入場料が90元くらいで1300円くらいするので、一般庶民にしたら随分高いんです。少し待てばDVDが20元、つまりは300円くらいで出るわけですから。しかも、シネコンの中で現在上映中の映画がDVDで売られていたりする。それも海賊版じゃない、正規版を。要するに海賊版が出てしまうので、公開と同時に正規版を出してしまうんです。お金のことだけなら、その正規版を買って見ればいいのに、それでも映画館に行くとちゃんとお客が入っている。
 他方で、ミクロというか、製作の方では、デジタルビデオが相当変えてるんです。日本は昔から8ミリ映画の伝統があったので、デジタルは手段が変わっただけだけど、中国の場合は自主映画の伝統というのがほとんどなかった。ジャ・ジャンクーの第六世代が16ミリで撮った、いわゆるアンダーグラウンド映画が自主映画の始まりなんですが、それが90年代からようやく始まった。それがデジタルビデオになって一気に爆発したというか。いくら16ミリでもフィルムで撮るとなると、普通の人にはなかなか考えられない状況だったのが、今はもうデジタルですぐに撮れるという風になってきて、映画とは関係ない、美術家や写真家などで映画に若干興味があるという人が突然撮った映画が面白かったりするんです。
 今回コンペで上映される『トーマス、マオ』のチュウ・ウェンは、元は作家で、脚本を書いたのがきっかけで映画界に入り、自分でデジタルで撮った作品で監督デビューしたという人です。そういう風に気軽にいろんな人達が撮れるようになってきました。今まで北京電影学院を出て、撮影所に配属されて、オフィシャルにデビューというのが映画監督になる普通のコースだったのに、北京電影学院のステータスというと変ですが、あそこへ行かなくてもいい、という感じになっている。私立の映画学校もどんどん出来ているし、北京電影学院だけでなく、重慶の大学に映画を教える科があったり、地方に映画学校が出来たり、学校に行かずに撮り始める人もいる。」

―中国は底辺が広いですから、広まれば早いでしょうね。映画祭とか、そういう作品をまとめて見られるチャンスはあるんですか?

 市山「中国にはもちろん上海映画祭というオフィシャルな映画祭はありますが、当然アンダーグラウンドのドキュメンタリーとかは出来ないんです。それで北京に映画祭が出来たんですね。宋荘という、中心部から車で1時間くらいの北京市のはずれに、土地が安いというので数年前からアーティスト村が出来ているんですが、そこにインディペンデントの映画人が何人か住み着いて、小さい映画館を作って映画祭を始めているんです。年に2回、5月にドキュメンタリー、10月にドキュメンタリーと劇映画を含めた北京インディペンデント映画祭というのをやっていて、ハオ・ジェの『独身男』は10月の映画祭でやっていた作品です。そこに住んでいるアーティストの人達の寄付金で運営されているような映画祭なんで、地下映画でも何でもOKだし、当局からも別に取り締まりもないようです。」

―検閲は有名無実になっているんですか?

 市山「検閲は劇場公開の映画に対する検閲になるんです。ジャ・ジャンクーの『プラットホーム』などはホール上映で公開しています。昔はホール上映だと、警察が来て電源を切られたり、いろいろ妨害を受けたことがあったようですが、最近は国の恥をさらすだけと思ったのか、そういう意地悪なやり方はやめたみたいですね。映画局の管理しているのはあくまでも一般興行の映画館なんで、興行外でやる分には目をつぶっていると。」

―ロウ・イエなどは、5年間の活動禁止になりましたね。

 市山「彼は活動禁止中に『スプリング・フィーバー』を撮っていますよ。あの活動禁止というのは公式の場に出入りしてはいけないということで、たとえば北京撮影所などでは撮影が出来ないだけで、勝手に町中で撮影する分にはおとがめなし。妨害されたという話は今まで聞いたことがないんですよ。」

―直接反発されるよりは目をつぶっていた方がいいということなんですね。
それではもう一方の中国ということで、まず香港ですけど、近年香港は大陸に吸収されてきて、香港映画っぽくなくなっているという感じがするんですが。

 市山「今回の『密告者』はまさに昔ながらの香港映画なんですよ。香港で全部撮っているし、香港の街を使ったアクションという香港ニューウェーブの頃からの伝統にのっとった作品です。ダンテ・ラムというのは面白い監督で、ここ3、4本くらいは在りし日の香港映画という感じのものをずっと撮ってて、これも資本を見ると中国資本が入っているんです。お金の面では香港映画は完全に救われましたね。返還の前にはジョン・ウー始め、いろんな人々がハリウッドに行ってしまい、残ったのはフルーツ・チャンとか、そういうインディペンデントの人達で、商売としては大きくならなくて、低予算で撮るしかなくなるみたいな、小さくなった感じがあったんです。もちろん中国で公開しようと思ったら検閲がかかるんだけど、香港だけで公開して中国の公開を考えなければ検閲がかからないし。」

―続いて台湾ですけど、『海角7号』の大ヒットをきっかけによくなってきたそうで、TIFFのアジアの風でも台湾特集をやりましたけど、市山さん的にはどんな感じですか?

 市山「確かに大復興で、僕はそれに水を差すつもりは全然ないんですけど、ヒットしてる映画というのはつまらないんですよ。フィルメックスにも台湾の若手監督が応募してきてて、悪くはないけど、日本のテレビドラマのよく出来たやつみたいな感じのものがすごく多いんです。産業としては復活していて、それはいいことなんですけど、結局チャン・ツォーチみたいに、流れから乗り遅れている人の映画をやってしまう。今は、土着的なセンスのものより、テレビドラマ的に洗練されたものの方が当たるという流れがあり、確かに産業的な要請は圧倒的にそっちの方があると思うけど、映画祭の映画として見た場合に面白くないとは正直思いますね。」

―台湾は韓国を見習って、コミッションを作って映画産業にてこ入れしていこうということですが、本家の韓国はどうでしょう?

 市山「韓国は基本的には状態がよくないです。最大の理由は日本バブルが終わったことです。今まで国内でそれほど成績があがらなくても、日本の会社が億単位で金を出してくれて回収できたというのがある。逆にそれが弊害になってきてて、それによって役者やスタッフのギャラがすごく上がったんです。今、日本からのお金が一気になくなったにもかかわらず、ギャラがなかなか下がってこないんで、各プロデューサーが苦慮しているという状況が続いていて、今年は『アジョシ』というウォン・ビン主演のアクション映画が大ヒットしたり、何本かヒット作は出ているんだけど、ひと頃の勢いはなくなっています。」

―アート系の新人はコンスタントに出ているんですか?

 市山「結構いますよ。今年の韓国映画界は決して悪くないんです。カンヌのコンペに『下女』と『詩』の2本を入れてきているし、ホン・サンスなんかは、ものすごい低予算にすることで作り続けていますね。1500万くらいで作っているという話です。全体的には不調といいながら、個別に見ると、今回の『ビーデビルド』なんか、キム・ギドクの助監督のデビュー作なんですが、むちゃくちゃ上手いです。」

―では最後に日本ですけど、この10年で日本のインディーズ系の若手監督の地平が変わってきた感じはします?

 市山「日本映画全体で見ると、非常に大きな飛躍があったとは思うんです。興行成績という点では、洋画と比べて50%以上を維持したりとか、なかなかありえない状況になってきていて、ただそれを支えているのがアニメーションとテレビ局主導の『海猿』みたいな感じの映画で、若い観客が映画に戻ってきたのは90年代との大きな違いだとは思うんだけど、そういう人達が新人監督の映画まで見ているかというと、たぶん見ていないと思うんです。映画祭のコンペに出るのがいいとは限らないけど、目安として考えたときに、カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの3大映画祭のコンペに出た日本映画では、河瀬直美がたぶん最年少だと思うんです。河瀬直美の上は誰かというと青山真治くらい、それ以下の人がいないんです。他の国だと30代の監督が出たりしているけど。」

―園子温さんは?

 市山「園さんは、まださすがにコンペまで行ってないですし、実は園さんは僕より年が上ですから。ブレイクしたのが遅かったんですね。実験映画とVシネが一緒になったような『自殺サークル』を撮って、それがレイトショーでロングランしたところからですから。本当はもっと園さんのようなことをやる若手がもう少し出てこないときついかなと思いますね。若手は、どちらかというとおとなしい感じがするんです。悪い意味ではないですけど。熊切和嘉とか山下敦弘とか潜在的な人はいるんだけど、本当はあの世代の人間がそろそろ檜舞台に出てこなきゃおかしいんです。」

―今年の2本のコンペ作品は?

 市山「想田和宏はもう実績があるというか、今まで2本作って、ドキュメンタリー界ではかなりの地位を築きつつあるというか、順調に来ている人で、新しいというより、出てきた人をやるという感じ。内田伸輝は、可能性を非常に持っている人で、『かざあな』という作品をバンクーバーで見たんですが、どろどろした4、5人の男女の関係を、カサベテス・スタイルというか、ああいう感じの役者をどんどん追い込んでいくスタイルで撮っている。今回もそのスタイルで、男女のどろどろの関係を撮っているんですが、力はすごくあるし、話自体は小さいけれども大きな感じがするんです。台湾映画のように小さくまとまる気配がないんで、いつか化けそうな気がする。」

―自分の国の映画だと誰の何を押すかというのは難しい問題ではありますね。

 市山「今年の新しい展開として<ネクスト・マスターズ>というのをやります。これは東京都の人材育成プロジェクトの一環で、都では今までアートの人材育成はやっているんですが、映画はやっていなくて、去年の年末に申し出を受けて、では今年やりましょうということになったんです。一般のお客さんは参加できないんですが、侯孝賢の講演とかもあります。事前に作品を応募してもらってアジアの若手監督を20人選びました。日本人も入ってて、日本、韓国、中国、香港、台湾、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアかな。今年はインドから西はなく、東アジアだけですが、20人は全員招待で、フィルメックスの期間中いてもらって、最後の4日間に20人を対象とした講義と企画の発表会をやります。講師は侯孝賢、元ロッテルダムのディレクターで、アピチャッポンのプロデューサーのサイモン・フィールド、メメント・フィルムズのエミリー・ジョルジュ、メメントは『長江哀歌』の海外セールスなどをやっていた会社で、彼女には海外セールスの状況とかを話してもらうつもりです。あと、ベルリンのタレント・キャンパスのマティス・クノールで、その4人がメイン講師、あとはキアロスタミやギタイなど、映画祭に来てる人達に講義をしてもらう。そして何人かにプレゼンしてもらい、講師陣が審査して、優秀なものには若干の賞金を出して、企画のデベロップに使ってもらう、というようなことです。」

―来年以降も続く企画なんでしょうか?

 市山「来年都知事選があるので、新知事がやめたと言ったらどうなる、という不安はあるんですが、現場の人達は5年間くらいのスパンでやらなきゃ意味がないと言ってくれています。」

―今年は監督でも、来年はぜひプロデューサーでやって欲しいですね。というのは、日本に今一番足りないのはプロデューサーの育成だと思うし、<ネクスト・マスターズ>というのはどっちに転んでもいい名前なので。

 市山「監督だけでなく各職種やろうかという話もあったんですが、さすがに初年度からそこまで手を広げられないので、監督に絞るということになったんですけど。」

―今はプロデューサーを兼ねている監督も多いですし。

 市山「今回は企画の応募だったので、ある程度そういう動きをしてきている人達なんです。僕は監督だけ、あなたはお金集め、ということだと、アジアの監督はなかなか成り立たないですね。今回の参加者は英語のしゃべれる人というのが必須条件なので、たぶんお金集めも自分でやってるんじゃないでしょうか。」

―TIFFがグランプリをとった映画の配給を援助するということですし、それに続くいいニュースで、日本映画界の将来に希望を持ちたい気持ちになりました。

(11月10日、赤坂のフィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)50年代日本映画の特集も

2010/11/21

 第11回東京フィルメックスが11月20日から始まりました。今年のオープニング作品は、5月のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の「ブンミおじさんの森」で、来春日本公開が決定しました。

 ここ数年、日本では独立系の配給会社が倒産したり、規模が縮小されたりして、外国映画がなかなか配給されないという現状がありました。それには世界的な不況の影響に加えて、ネットの登場で映像をめぐる環境が劇的に変化しているという社会情勢の影響が大きいと思います。けれども、TIFFの矢田部プログラミング・ディレクターとのインタビューにもあるように、今年になって外国映画配給の低迷が底を打った感が出てきました。このことについては、次回掲載する市山ディレクターとのインタビューでも、フィルメックスの10年を振り返る形で面白いお話を沢山うかがいました。

firume123.jpg  さて、今年のアジア映画の収穫10本を審査するのは、ベルリン映画祭フォーラム部門の創設者ウルリッヒ・グレゴールさんを長とし、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、中国のニン・イン監督、香港映画祭のアーティスティック・ディレクター、リー・チョクトーさんに日本からスクリプト・ディレクターの白鳥あかねさんが加わった5人の審査員です。写真はオープニングの模様で、左からリー・チョクトー、ニン・イン、ウルリッヒ・グレゴール、白鳥あかね、アピチャッポン・ウィーラセタクンの各氏です。 

 これから28日の授賞式までに、10本のコンペティション作品と10本の特別招待作品の上映に加えて、アモス・ギタイ監督特集と、1950年代の日本映画に焦点を当てたゴールデン・クラシック1950特集第1部として松竹の三巨匠、渋谷実、木下恵介、小津安二郎の作品が上映されます。

 また、今年から東京都の援助で、アジアから若手映画監督20人を招いて、大先輩の映画監督やプロデューサーが企画の立て方や発展のさせ方をレクチャーするネクスト・マスターズという試みも始まります。詳細については次回からのレポートをご覧ください。

(齋藤敦子)
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