シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(4完)右傾化に絶望する老夫婦/最優秀賞にイスラエルの「エピローグ」

2012/12/02

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今年の審査員と受賞者。左からヴァレリ=アンヌ・クリステンセンさん、ファテメ・モタメダリアさん、秦早穂子さん、ソン・ファン監督、アミール・マノール監督、ダン・ファイナウさん、SABUさん。

 12月1日の夜、有楽町の朝日ホールで授賞式が行われました。今年の受賞作は、最優秀作品賞がイスラエルのアミール・マノール監督の「エピローグ」、審査員特別賞が中国のソン・ファン監督の「記憶が私を見る」、観客賞は特別招待作品のキム・ギドク監督「ピエタ」、学生審査員賞は高橋泉監督の「あたしは世界なんかじゃないから」に決定しました。

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学生審査員と高橋泉監督(左から2人目)

 「エピローグ」は、建国の理想を忘れ、右傾化したイスラエルの現実に絶望した老夫婦の最後の日々を描いたもの。「記憶が私を見る」は、里帰りした"私"が年老いた両親や友人たちと交わす会話を通じて、失われた過去の時間を蘇らせていくもの。両作品ともこれが長編デビューという若い監督の作品でありながら、老人を主人公に、時間と記憶、悔恨という共通のテーマを持った作品でした。

 イスラエルと日本の外交関係樹立60周年を記念してイスラエル特集が組まれた今年のフィルメックスは、奇しくも開催直前にパレスチナとの間で戦闘が起こったり(11月21日停戦)、会期中の11月30日には国連でパレスチナを「国家」に格上げする議決がなされるなど、現在の激動する中東情勢を如実に反映する年になりました。とはいえ、上映された映画には、力で中東を圧倒しようとする強権国家イスラエルの姿はどこにもなく、むしろ、ニュースの下に隠れた普通の人々の苦悩を垣間見せてくれたように思います。これは今年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した「もうひとりの息子」にも言えることでしょう。

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タレント・キャンパス・トーキョーの参加者と講師陣。前列右で盾を持っているのが今年の受賞企画、「The Road」のプロデューサー、中国のリー・シャンシャンさんです。

 「エピローグ」のマノール監督は、上映後のQ&Aで"映画を作ろうと思い立ったきっかけは2008年の経済危機のときに年金を失い、絶望して160人もの老人たちが自殺した事件だった。無私の精神でイスラエルの建国に尽くした老人たちが今は忘れられている。かつてのイスラエルには理想があったことを知らない若い人たちに、ルーツの探求とそれを繋ぐという意味で、この映画を作った"と語っていました。

 今年は抜きんでた映画がなく、2賞とも審査員の全員一致で決定したというわけではなかったようですが、「エピローグ」も「記憶が私を見る」も、老夫婦、家族という身近な人々を真摯に見つめることによって、社会への批判と人生の尊さを描き出した佳作だと思います。


(齋藤敦子)

(3)日本映画の質を高める補助制度を/市山尚三ディレクターに聞く

2012/11/27

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-今年はカンヌもヴェネチアも中国映画がコンペにない年でしたが。

市山 有名監督の大作でヴェネチア映画祭のコンペに入りそうなものもありましたが、結局入りませんでした。一方、フィルメックスには中国映画がコンペに3本あります。若手の方が面白い。エミリー・タンの「愛の身替わり」はサン・セバスチャンのコンペ、ハオ・ジェの「ティエダンのラブソング」はサン・セバスチャンの若手の部門、「記憶が私を見る」はロカルノの若手のコンペ部門に出ていた作品です。ロカルノのコンペ部門は今、1、2本目の若手監督と、メインと2つあるんで。

-昔は新人に特化した映画祭でしたよね?

市山 マルコ・ミュラーがディレクターをやめた後に、国際映連のAカテゴリーにしたんです。なぜかというと、話がずれますけど、ラテン・アメリカやアジアの国だと、国際映連のAカテゴリーの映画祭だと監督の渡航費が出る。ところが、ロカルノのように特殊なコンペティションの映画祭だと渡航費が出ない。それで、ロカルノのコンペに選ばれたと最初は喜んでいても、ヴェネチアのサブのセクションに入ってしまうと、渡航費が出るのはそっちの方なので、それを理由に断られることが続いたらしい。それで、バカバカしいとは思うがAカテゴリーの映画祭にした、ということです。フィルメックスで、チョンジュ・プロジェクトとして上映するイン・リャンの映画は、単独でロカルノのメインのコンペに出て監督賞を獲りました。イン・リャンはもう4本か5本撮っていますから。さらに、1、2本目の若手監督の作品が入るサブのコンペの方でソン・ファンの「記憶が私を見る」が最優秀新人監督賞を獲っています。ソン・ファンは侯孝賢の「レッド・バルーン」に出ていた女性で、本来監督志望で、カンヌのシネフォンダシオンにも作品が選ばれたりしている人で、彼女の長編デビュー作です。

-マルコ・ミュラーがローマのディレクターになったせいか、ローマは中国映画が多かったし、フィルメックスにも3本ある、ということは中国映画の世代代わりでしょうか?

市山 それもありますね。あと、重要な作品はカンヌのある視点に出ていたロウ・イエの「ミステリー」という映画ですね。

-フィルメックス的な流れで言えば、今年やるべき作品ですが。

市山 日本の配給会社の都合で出来なかったんです。あの映画は実は検閲を通っているんだけど、いろいろとヤバイところがある。最初の金持ちの息子がひき逃げする事件などは今中国で頻繁に起こっていて、中国のお客さんが見たら、"ああ、あの事件か"と腑に落ちるらしいです。

-男に妻と愛人がいて、みたいなメインのストーリーは?

市山 ロウ・イエは野村芳太郎を研究していると言っていました。「0の焦点」など、夫に別の女がいたという話でしたからね。ロウ・イエの1つ前の映画は神代辰巳を研究したそうです。ラブストーリーで、室内のセックスシーンが多いんで、日本の日活ロマンポルノを研究しようとしたら、"1人、格の違う、すごい監督がいたんだ、名前が思い出せない"というんで、僕が"神代辰巳"と書いたら"これだ!"と(笑)。

-今年はイスラエルが大クローズアップされていますが。

市山 コンペにたまたま2本入りましたが、これはイスラエル特集があるからではなく、シャロン・バルズィヴの「514号室」は結構早めに決めたんです。これは低予算でも撮れるという映画で、1つの部屋の中でほとんどすべてのドラマが起こる。ものすごい緊張感を持っているし、デビュー作でここまでやるのは大したものだという映画です。もう1本のアミール・マノールの「エピローグ」はヴェネチアのベニス・デイズに出ていた映画で、かなりスタイリッシュで、イスラエルの建国のときに理想に燃えてイスラエルにやってきたのに、今はもう全然だめだと絶望した老夫婦の話なんです。

-コンペの2本の他に特集がありますね。

市山 今年はイスラエルと日本の外交関係が始まって60周年の記念の年で、2年前に僕と林さんでエルサレム映画祭に行ったんです。それで新作を見るのと同時にアーカイブで旧作を見たら、面白いものが沢山あったので、新作の特集をするよりも今までやったことがない旧作の特集をやろうということで、この4本になりました。「エルドラド」と「サラー・シャバティ氏」は完全な娯楽映画で、「子どもとの3日間」はカンヌのコンペに出ていたアート系の作品、「アバンチ・ポポロ」は戦争映画で、日活が80年代の終わりぐらいに公開していますが、見ている人がほとんどいない。僕も実は見てなかったんです。すごい低予算映画で、2人のエジプト兵がシナイ半島を敗走するうちにイスラエル兵と遭遇し、という話で、イスラエル映画として画期的なのは、アラブ人の側から戦争を描いていること。もちろん反戦映画ですが、そういうところが当時は画期的だった。他の3本は完全に日本初上映で、特にメナヘム・ゴーランの「エルドラド」がめちゃくちゃ面白いです。

-ゴーランはプロデューサーになってからしか知りません。

市山 この人は監督としてかなり優秀です。ミュージカルから何から、いろんなものを撮っていて、ゴーラン特集をやってもいいくらい。彼がロンドンに留学している頃、ロジャー・コーマンがロンドンで撮ってた映画に助監督でついているので、実はロジャー・コーマンの弟子なんです。

-コンペに戻って、イラク映画の「111人の少女」は?

市山 監督はバフマン・ゴバディのお姉さんなんですが、ゴバディの活動拠点が今はイラクというか、イランとイラクにまたがったクルディスタンで、イラク側にお金を出してくれた人がいるらしい。なので、この映画もゴバディの映画も国籍はイラク映画になっています。どこで撮っているかは定かではなく、イラン側かイラク側かわからないクルディスタンのどこかですが、話としてはイランです。

-イランの大統領に手紙を書くという話だから、間違いなくイラン映画ですよね。

市山 "大統領に手紙を書こうキャンペーン"て、知ってます? チェコの監督が撮ったそのドキュメンタリーをベルリンで見たんですが、地方の人達に向けた"大統領に手紙を書こう"というキャンペーンがあって、たぶん大統領本人は読んでないだろうけど、係の人が読んで、ときどき返事が来るらしいんです。どこかの女の子がメッカに巡礼に行きたいんだけど、お金がなくて行けませんとかいう手紙を書くと、その女の子のところに交通費が支給されたりする。そのドキュメンタリーでは、その後、実際に陳情に行く人がいて、たらい回しにされて、みたいな様子を追っています。

-今年は、韓国映画は1本だけですね。

市山 今年はあんまりなかったですね。もちろん特別招待にホン・サンス、キム・ギドクという二大巨頭の映画がありますが。候補の作品は沢山見ましたけど、新しいものがなかった。キム・ヒジョンの「グレープ・キャンディ」は特に新しいものではなかったけど、非常にかっちりとよく出来ているんで。それこそ、野村芳太郎じゃないけど、サスペンス・タッチなんです。

-野村芳太郎特集をやらなきゃいけないですね。

市山 いつかやろうとは思ってるんです。ユー・リクウァイも"すごく面白い"と言ってました。なぜかというと、戦後すぐの日本の混乱した状況、社会不安な部分が今の中国にすごく似ているからでしょうね。

-それで、日本映画2本ですが。

市山 これは2人ともPFFのOBです。インディペンデントの映画ですが、2本ともなかなかすごい作品です。興行とかそういうことは考えずに作りましたという映画で、本当はこういうのがちゃんと当たってくれればいいんですが。

-市山さんは最近の日本映画をどう見ていますか。

市山 最近の日本映画は面白いです。国際映画祭で活躍しないからどうこう、と言われているようですが、見ていくと結構レベルは高いです。ただ、三大映画祭のコンペクラスの映画がないというのは正直なところです。

-製作規模が小さく、大きいものが撮れないから、アイデアが小さくなっているところがあるように思います。

市山 それはありますね。ただ大きく作ろうと思ってもお金が集まらない。内田伸輝の「おだやかな日常」は、おそらく1千万円くらいの規模で作ったんだと思います。高橋泉の「あたしは世界なんかじゃないから」はもっと低予算のように思いますが、そこは極まっていて、すごいものがあるんで。本当はこういう作品に助成金を出すべきなのに、文化庁の助成金制度では製作費5千万というのが申請できる最低のレベルなんです。

-今はデジタル化して、フィルム代と現像代がかからないから、製作費が圧縮されて、1千万でも映画が出来てしまいますよね。

市山 東京単館、全国20館くらいで上映という規模を逆算していくと、1千万以上かけるとリスクが大きくなる。単館で観客が1万人で製作費1千万だと赤字、2万人なら、ようやく何とかという感じです。

-単館で2万人は相当大変ですね。今、劇場自体があまりないし、長くかけてくれません。

市山 ロングランというのがない。観客2万人でも、DVDが売れてプラスマイナス0、テレビセールスで一生懸命がんばって売って、ようやく回収できました、くらいな感じなんです。

-儲けがない?

市山 ないです。本当はそういう映画が5百万補助金をもらったら、すごく大きいわけですが。僕がプロデュースした映画の場合、仕方がないんでプサン映画祭に申請して、プサンのファンドをもらって、ソウルで仕上げをやったことがあります。

-それも恥ずかしい話ですね。

市山 インディペンデントは大変です。DVDが売れそうなバイオレンスものとか、エロチックものだったら、製作費5千万はありえますが、今一番必要なのは、5千万以下の映画に対する助成です。フィルメックスでやるような映画こそ、助成金を必要としている。なのに申請できない。審査すらしてもらえないんです。

-上限を5千万にすればいいのに。

市山 あるいは5千万以下の枠を作ればいい。助成金の総額は今と同じでも、大きな映画に沢山渡しているものを少し削って-

-5千万以下の映画に小分けする。

市山 助成金のシステムはたぶん10年前くらいに出来ているんだと思います。10年前には1千万の映画など自主映画に限られていて、それでは商売にならないし、助成を出す意味がない、ということだった。今や1千万がプロの映画になっている時代ですから。

-この10年で激変した?

市山 格差社会ですね。製作費をかけられる映画はどんどんかけられ、シネコンの大きなチェーンで上映できる。以前はDVDがその辺を調整していたのに、一気に売れなくなったので、劇場で大当たりする映画と単館で終わる映画の差がすごく出て来ました。

-せっかく作った映画が、単館でもなんでも劇場にかけられて、製作費が回収できる形にならないと、映画界はよくならないのでは?

市山 そうなんです。

(11月14日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(2)作家の指向性とらえる機会を/林加奈子ディレクターに聞く

2012/11/25

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-今年は特に映画祭とはどんな発展をしていくべきなのか、フィルメックスはどういう方向を目指していくのかを伺いたいと思います。林さんは、ベルリン、カンヌ、そして今回はサンパウロ映画祭にも行かれたそうですが。

 ベルリンとカンヌは必ず毎年行きます。今年は8月末にサハリン映画祭に審査員として行きました。サハリンは去年が第1回で、2回目の今年からインターナショナルのコンペティション部門が出来るというので。あとは、私がコリアン・シネマ・アワードという賞を頂戴することになり、その授賞式で10月にプサン映画祭に行きました。それに先日のサンパウロ。今年はそういう感じです。

-それぞれの国の事情もあって、映画祭には様々な特徴があるわけですが、これからの映画祭はどういう方向へ行くんでしょう?

 ここ10年、15年でいろんなことが激変しています。まずデジタル化の問題。今まではカンヌのマーケットでビデオカセットを集めて、20本も30本も持って帰るのは大変だったけど、今はDVDだから何十枚も持って帰れるし、パスワードをもらってネット配信で見られるし、見ることだけなら簡単に、映画祭に行かなくてもできるようになってきました。では、映画祭の醍醐味とはどこにあるのか、何を捻出できるのか、それがより意味のある課題になってきています。
 ほんの5年前には、カンヌのコンペ作品でもほとんど配給が決まらない、というような状態でしたが、ここ2、3年はがんがん買い付けられています。そんなときに、映画祭は公開が決まった作品のジャパンプレミアのお披露目の場として機能すればいいのか。いや、それ以上のことを映画祭は求められるのではないか。もちろん配給が決まった映画はやらないというスタンスではなく、タイミングがあえば、監督の生の声をお客様に伝えるチャンスになるので、やりたいのだけれど、もしも配給されるのがわかっているんだったら、私達はその先を追い求めていくべきではないのか。数年前までは、"この映画が日本で配給されないのは犯罪だ"みたいな気持ちで、公開が決まってない作品を一生懸命紹介してきたんですが、今はむしろ次のこと。無名の人の1作目でも見ておいて欲しいもの、あと5年、10年たったときに、その人がどういう形で新たな挑戦を始めるか。映画作家の指向が動くラインをお客さんが見続けてもらえるチャンスを作りたい。それを映画祭が繋いでいくことができるんだったらやっていきたというのが1つあります。

-観客の側は? フィルメックスの観客は固定化しているように見えますが、ここから若い世代に観客を広げていくには、どういう働きかけをすればいいんでしょうか。今年は木下恵介の特集がありますが、若い人は日本映画のクラシックを意外に見ていないし、見せようとしても見てくれなかったりしますよね。

 本当にどうしたものかと思います。若い人は、監督やりたい人というと手をあげるけど、その人がどんなにびっくりするような新しいものを作ろうと思っても、古いものを知らないと何が新しいかわからないはずなのに、見てないし、見ない。今はテレビでもBSもあればCSもあるし、DVDでも何でも昔の映画が見られる状況にあるが、いつでも見られると思って見てない若い人があまりにも多い。小津安二郎でさえ知らないんです。その反面、去年、私が多摩美にレクチャーに行ったら、それをきっかけに、ハンガリー映画もタル・ベーラも知らない若い学生が「ニーチェの馬」を見に来てくれ、"何だかわからないけど凄い、びっくりした。また来ます"、みたいな人がいたり。私達の世代はミニシアター全盛で、ラッキーだったけど、今はどれをいつ見たらいいのか。いつでも見られるというのはいつでも見ないということなんですよね。

-率先してフィルムセンターに行って昔の映画を見てくれればいいけど、そこまで能動的な若い人はあまりいないような気がします。

 うるさいと思われてもいいから、若い人達に"これは面白い"と伝えたい。上から"難しい映画を見ろ"と言うんじゃなく、"一緒に見ようよ"というような働きかけをしなくては。そういう意味で、去年から学生審査員というのを始めました。"あの人が審査員をやってるなら、一緒に見てみよう"と思ってもらえればと。それに今年からHPで<ワタシの推しメン>という欄を始め、ツイッターよりは長めの映画の感想文のようなものを書いて投稿してもらって、いいものには記念品を差し上げましょう、みたいな。そういうムーブメントを出してみようと。

-日本映画に対する若い人の反応はすごくいいと思います。ただ、東京映画祭の前にユニジャパンの西村事務局長にインタビューしたとき、全世界的に内向きになっているというお話を聞きましたし、もう少し外側に興味を持ってもらわないと日本映画もつまらなくなると思うんです。

 内向きというのは昔からで、私が川喜多映画財団に入った80年代半ば頃でも、"この作品はすばらしいから海外の映画祭にどうですか"というと、"いや、国内でペイしているから"とメジャーの国際部が断ってくる。ガラパゴス現象というのは日本映画に元々あると思います。ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン天使の詩」なんかは、おしゃれ感覚でうまくプロモーションできて、ムーブメントになりましたが。

-今はあのときほど外に向かってない気がします。

 外国に駐在するのも"行きたくない"、"面倒臭い"というらしいですね。

-映画館に行く人口が減っているというのは"映画館に行くのが面倒臭い"、映画祭も"行けば楽しいだろうけど行くのが面倒臭い"、みたいなことかもしれませんね。そのきっかけをどうやって作るかにご苦労があると思うんですが。

 その通りです。ボランティア・スタッフは若い人が中心ですが、何年も継続的に助けてくれる人がいたり、就職して仕事をしているけど、土日祭日だけ来てくださる方がいたり、ボランティアでは手伝えないけど観客として見に来てくれる人が毎年いて、それがバカにならない人数なんです。ボランティアは一番多い年で百人越えていたこともあり、今は絞って7、80人くらい。審査員のケアから空港の送迎、ゲストのアテンドやチケットの取り扱いが仕事ですが、スタッフにはボランティア・レクチャーというのを必ずやっています。映画祭の仕組みがどうなっているかを知ってもらう。少人数で映写室見学もする。映画祭が終わったら、ボランティアは映画祭のプロになっている、ということを組織化して作っていくんです。それを1回体感してくれると、必ず気にして見に来てくれたり、差し入れを持ってきてくれたりする。映画祭を通して人と繋がっていくことを面白いと思ってくれる。それに若い人達は優秀です。その後、配給会社の宣伝部にスカウトされて入ったりする人もいるし、新聞社に入って活躍している人もいるし、いろんな人がいて、若い人達は全然ダメじゃないんです。
 今はシニア層が映画を見てくれているから、平日昼間も劇場に人が入っているけど、20年後、30年後を考えたとき、新しい観客がいないと映画館はとてもきつくなってくる。今のようにシニアの観客でよしとしている現状だと次がないですよね。観客がいなくなると映画製作自体も深い作品を作っていけなくなります。

-せっかく映画祭が観客の掘り起こしをがんばっても、大手の映画会社が何も考えずにただ当たる映画を作っている現状がある。このままでは映画はなくなるかもしれないという危機感が私にはあるんです。西村さんとのインタビューでも、"私達が死んだ後に映画がなくなるかと思っていたら、案外生きているうちになくなるかもしれない"というのが結論だったんですよ。

 デジタル化の問題は大きいですね。私はフィルムの信奉者ではないですが、フィルムの場合は100年保ってることは間違いない。でもデジタルは、今使っているハードとソフトが合わなくなったら、あるいは富士山が大噴火して微粒子が入りこんでフリーズしたら、ここ10年間の作品が一切存在しなくなるかもしれない。家庭用視聴でもDVD、ブルーレイといろいろあるし、昔のレーザーディスクじゃないけど、新しいものがどんどん出来てきたら、延々と追いかけて、いたちごっこになる。

-変換するシステムが出来たとしても、その間に作られた膨大な作品を1本1本どうやって変換していくのかの問題が出て来る。カラーフィルムの褪色問題が起きたときと同じ問題が、デジタル技術の進歩によってまた起こるかもしれないですね。
 一方で、芸術の形態としての映画が痩せていって、"映画がなくなる"危機もあると思う。若い人の作品を見たり、タレントキャンパスで若い人の企画を見たりして、どういう感じを受けますか。

 "誰かみたいなやつ"はいつでもありますね。"あなたは新しいと思っているかもしれないけど、私はとっくに見ています"、みたいなものはある。かと思えば、思いもよらない凄い才能に出会うこともあります。いつの時代も才能のある人はいるんだけど、その才能がどう出てきたらいいのか、どうしたらうまく進んでいくのか。

-作品を選択した後、観客とどう繋ぐかという問題もある。林さんはいつも壇上から配給会社の人に呼びかけていますが、反応は?

 動く場合もあります。「ふゆの獣」は、映画祭の後で配給の人達を呼んで試写もやりました。監督の内田さんは"ご縁があれば"とか言っているんで、"ご縁は作らないと"と(笑)。それでテアトルが手を挙げてくれて公開が決まったんです。全部が全部うまくいくわけではないですが、うるさいと思われても、やっていかないと。ありがたいことに、配給会社の若い人達がたまたま見に来ていて、カンヌで上司がスルーだった映画を考え直してくれたりしたことも何本かはあるんです。諦めたら終わりです。

-そういうことがあると励みになりますね。

 去年は私達が上映したことで配給につながった作品が多い年でした。今年はどういう風になっていくか。

-"90年代のミニシアターブームよ、もう1度"と思っても、今はミニシアター自体がない。フィルメックスの観客はコアな映画ファンだと思うので、そこからもう一回り大きな観客層を動かさないと日本の映画環境はじり貧だなと思っているんですが。

 アート系の映画を見る人口がどれだけいるのか。1万人か、5千人か、いやもっと少ないかもと、いくつかの試算があるみたいです。今は一口にアートといってもいろんなジャンルがあります。昔のぴあは、映画の情報でほぼいっぱいで、あとは演劇とかアートがちょっとずつ何ページだったけど、今は新聞の紙面でも美術展とかギャラリーとかの紹介の方が多いくらいですから。

-フェルメール展とか、すごい数の人が見に行きますよね。

 テレビでもすぐ特番が組まれたり。だからこそ、アートでもオペラでも演劇でも、いいものをやっていたら見に行きたいと思っている人達に、"フィルメックスにこの映画を見に来てください"という思いを届けなきゃいけないという意識は常にあるんです。何年か前から、チラシを美術館やイベント案内に起きやすい形状にしたし、木場の現代美術館にも相互交換という形でチケットを置いてもらえるようにしました。

-効果は?

 アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画上映後のQ&Aのときにインスタレーションを見たという質問があったので、重なったんだなと。

-アピチャッポンは現代美術家でもありますからね。そんなアピチャッポンのファンが、他の映画を見てくれるといいんですが。

 私の希望は、「ニーチェの馬」を見にきて、"何だかわからないけど、凄かった"と言ったあの学生が、今年また「サイの季節」を見に来て、"なんじゃこりゃ"と思ってくれたら、ということです。

-「ニーチェの馬」を見た人は現代美術を見に行く気はするけど、その逆は少ないような気がする。その辺が課題ですね。

(11月12日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)木下恵介生誕百年特集も/東京フィルメックスが開幕

2012/11/25

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 第13回東京フィルメックスが23日から有楽町の朝日ホールで開催されています。今年のオープニング作品は、韓国のホン・サンス監督の「3人のアンヌ」。5月のカンヌ映画祭のコンペ作品で、日本公開が決まって改題されました。

 今年はコンペティション部門、特別招待作品の他に、イスラエル映画傑作選と木下恵介生誕100年祭の特集が組まれています。

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 審査員の顔ぶれは、映画監督のSABUさんを審査員長に、イスラエルの映画評論家ダン・フェイナウ氏、イランの女優ファテメ・モタメダリアさん、ユニフランス・フィルムズ東京支局長ヴァレリ=アンヌ・クリステンさん、映画評論家の秦早穂子さんの5人。

 写真上は、開会宣言をする林加奈子ディレクター、写真中は、「3人のアンヌ」の上映前に挨拶するホン・サンス監督。写真下は、審査員の舞台挨拶の模様で、モタメダリアさんはフライトの都合で開会式には間に合いませんでした。




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(齋藤敦子)
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