シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5・完)最優秀作品賞にグルジアの「花咲くころ」/タレント・キャンパス成果続々

2013/12/01

2013filmex_p_05_03.jpg 11月30日の午後、有楽町・朝日ホールで受賞結果の発表と記者会見がありました。

 本賞に先だって、今年のタレント・キャンパス・トーキョー・アワードの発表があり、フィリピンのジャヌス・ヴィクトリアさんの『孤独死―夏への逃亡』、次点のスペシャル・メンションには中国のヴィンセント・ハイ・ドゥさんの『中国の音楽の夢』が選ばれました。

2013filmex_p_05_02.jpg ヴィクトリアさんの企画は、長年勤めた会社をクビになった日本人男性が母親の孤独死を知り、自分も同じ運命をたどるのではないかと悟って東京からマニラに逃亡し、そこでエンジェルという名の救世主に出会う、というもの。ハイ・ドゥさんの企画は、ドイツの音楽大学へ留学することを夢見てドラムを学ぶ16歳の少年を追ったドキュメンタリーで、すでに撮影を始めている進行中のプロジェクトです。

2013filmex_p_05_01.jpg 28日の昼に映画関係者やプレスを交え、一人の持ち時間10分で企画を説明するオープン・プレゼンテーションが行われましたが、多数の応募の中から選ばれただけあって、どれも面白く拝聴しました。26日には、2010年のタレント・キャンパス(当時はネクスト・マスターズ)参加者で、今年のカンヌ映画祭でカメラ・ドールを獲得した他、先の台湾・金馬奨で4冠を達成した『ILOILO』のアンソニー・チェン監督と、昨年のタレント・キャンパス参加者で、今年『トランジット』を監督して戻ってきたハンナ・エスピア監督の"ハッピー・リターン"トークショーも行われました。

 市山プロデューサーはたった3年でアンソニー・チェン監督のような成果が出たことを驚いていましたが、選りすぐった企画をさらにブラッシュアップし、資金集めの方法や共同製作者、配給会社の見つけ方を教えるタレント・キャンパスは、いわば即戦力を育てる場。これからも参加者の中から、続々と成果が誕生していくことでしょう。

 今年の最優秀作品賞に選ばれたグルジアの『花咲くころ』は、90年代前半、ソ連崩壊後、内戦で混乱したトビリシで成長する14歳の少女を描いた作品で、ベルリン映画祭フォーラム部門で上映された作品。審査員特別賞は学校でいじめにあう13歳の少年を描いたカザフスタンの『ハーモニー・レッスン』で、これは今年のベルリン映画祭のコンペティション部門に出品され、芸術貢献賞を受賞しています。

 スペシャル・メンションの『カラオケ・ガール』はカラオケ・ガールと呼ばれるナイトクラブのホステスの日常生活をドキュメンタリーとフィクションを交えて描いた作品。『トーキョービッチ、アイラブユー』は、近松門左衛門の<曽根崎心中>を現代の東京に翻案した舞台劇の映画化という面白い作品でした。

 アンソニー・チェン監督の『ILO ILO』は観客賞、ハンナ・エスピア監督の『トランジット』は学生審査員賞と、まんべんなく行き渡った感のある受賞結果でした。

写真上は今年のタレント・キャンパス・トーキョー参加者の記念写真。
写真中は"ハッピー・リターン"トークショーの模様。
写真下は、受賞者を交えた今年の審査員との記念写真です。

(齋藤敦子)

(4)アート系に逆風。日本の80年代に似ている中国/市山尚三プログラム・ディレクターに聞く

2013/11/30

2013filmex_p_04_01.jpg Q:市山さんには、今年のフィルメックスの内容と、去年から今年にかけてご覧になった各国の映画の状況についてうかがいたいと思っています。その最初は、今年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、今回のオープニング作品であるジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』ですが、カンヌ上映後の評判はいかがでしたか?

 市山:すごくいいです。アメリカではニューヨーク映画祭で上映し、その直後に劇場公開したんで、世界初の商業公開がニューヨークだったんですが、市内2館とはいえ、1館あたりの収入がその週のトップだったらしいです。

 Q:それはおめでとうございます。 

 市山:批評も各紙絶賛で、とにかく今までのジャ・ジャンクーの映画にはない好スタートでした。フランスでは12月10日からの公開で、海外受けはすごくいいんですが、中国に関してはまだ決まってないんです。初めは11月公開といってたのに、今は未定になっています。

 Q:それは扱っている事件などの内容的な問題で?

 市山:いや、事件自体は凄く有名なものです。ウェイボーという中国版ツイッターで話題になり、一般紙なども報道しているんで、中国人が見たら誰でも分かる有名な事件らしいです。どうせ皆が知っている話だからということで検閲を通ったんだと思いますが。

 Q:ジャ・ジャンクー作品としては珍しい、商業テイストというか、武侠映画のような面白い映画なんですが。日本公開は?

 市山:来春、渋谷のBunkamuraル・シネマです。

 Q:今年の中国映画の動向は?

 市山:去年は中国映画が3本入っていたんですが、今年はこれしかなかった、というのが『見知らぬあなた』です。これはベルリンで見て、かなり早い時期に内定を出していました。ジャ・ジャンクー・プロデュースの若手監督シリーズの1本で、新人の女性監督ですけど、役者もプロの俳優をちゃんと使っているので、普通にかっちり出来ている作品です。カメラもユー・リクウァイがやっていますが、撮り方もジャ・ジャンクー作品とは違っているので、普通の人たちが見てもわかりやすい映画です。中国は、この映画以外にもいろいろ見たんですが、今ひとつでした。去年に比べると中国映画の若手の作品に凄いと思うものがなかったですね。

 Q:それは波があって、今年はたまたまダメだったということ?

 市山:去年撮った人たちがまた2年後に撮って出てくるかもしれないですが、中国でも今、アート系の映画が厳しく、作りにくくなっているのは間違いないです。お金はあるので、商業映画はすごく沢山できるし、TIFFの<ワールド・フォーカス>でやったビッキー・チャオという女優のデビュー作の『So Young』というロマンチック・コメディなどは大ヒットして、そういうのを撮るのは簡単なんだけど、映画祭のコンペに出るようなアート系の映画は作っても上映するところがない。たとえば去年フィルメックスでやった『ティエダンのラブソング』など、公開はしているんですが、すごく限定された公開でした。しかも公開できればいい方で、年間800本くらい作られているうち300本くらいしか公開されていないという説もあるんです。

 Q:どうやって製作費を回収するんですか?

 市山:してないんです。80年代の日本と同じで、いろんな業界で儲けた人がたくさんいて、とりあえず投資して、ほったらかしになっているものが結構ある。

 Q:もったいないですね。

 市山:監督として撮った作品が公開されないというのは非常に辛い話ですよね。そういう状況が中国で結構起こっている。というのは映画館が総シネコン状態で、いわゆるアートシアターがほとんどない。ジャ・ジャンクーのプロデュース作品は何本かまとめて主要都市を回したり、そういうことを試みてはいるようです。今年、日本のシネマシンジケートのようなものを立ち上げた人たちが出てきて、お蔵入りになっているインディペンデント作品を何本かまとめて北京や上海などの主要都市に回して、というのがようやく始まったということです。今までそういうことをやる配給会社もいなかったような状況です。

 Q:以前、ジャ・ジャンクーの映画などはすぐ海賊版が出て、それを皆が見ているという話をうかがったことがありましたが、そういう状況は今も続いているわけですか?

 市山:海賊版という"版"ではなく、ネットでダウンロードして見られるようになっています。ただ、昔ほど海賊版で皆が見るというような感じではなくなっていますね。

 Q:ネット社会が進んできた感じがしますね。

 市山:もしかしたらアート系の作品は、今後は劇場でやらないでダウンロードして見るような形になるかもしれませんね。

 Q:でもダウンロードの会社に権利を売るといっても、そんなに高く売れないでしょう。製作費は回収できないですよね?

 市山:と思いますね。出資者に理解があって、映画祭に出れば満足です、みたいな人だったらいいんですが、投資で考えている人は、公開されないんなら無駄だから商業映画に出した方がマシということになって、どんどん商業映画はできるけど、アート系の映画はできなくなる。今なら、たとえば美術で儲けた人がアートをサポートするというような形でなんとか続いているらしいですけど、それが果たしていつまで続くか。今年は実際、国際映画祭を見ても中国映画は出てないんです、ジャ・ジャンクーの映画が一番回っているだけで。その一方で娯楽映画なんかはたくさんあるんです。インターネット作家が初めて監督した映画も上海映画祭で上映されて、僕は見なかったんだけど、場内は満杯で、その後公開して大ヒットしたそうです。

 Q:そういうのがトレンドなんですね。

 市山:映画界自体で考えると盛り上がっているかもしれないですけど、国際映画祭というフィールドから考えると中国映画は今年は厳しかったし、いわゆるアンダーグラウンドでも今年はそんなになかったです。逆にアンダーグラウンドの方は、ほとんどインスタレーションに近い、とんがった作品が極端に増えている感じがします。フィルメックスにアートと映画の中間みたいなサブセクションがあれば、そういうところでできるなと思うようなものは幾つかありましたが。

 Q:さすがに中国は多様ですね。でも、お話を聞くと、作品的な成熟が難しくなってきている気がするんですが。

 市山:これは世界的に言えることかもしれませんが、すごく格差社会というか、娯楽映画はどんどんお金をかけて作る一方で、インディペンデントは極端な方に走っていて、中間くらいで、普通のお客さんも楽しめてクオリティが保たれているというものが少なくなってきている感じはあります。

 Q:台湾からはチャン・ツォーチの『夏休みの宿題』がありますね。

 市山:これはチャン・ツォーチで初めてやくざが出て来ない映画です(笑)。侯孝賢の『冬冬の夏休み』みたいな話で、一応、師匠の世界を継承しているんですが、今の台湾映画のトレンドとは全然違う映画です。今の台湾はトレンディドラマが主流で、80年代と全然違うんですが、昔の伝統をかたくなにチャン・ツォーチが守っている感じがある。今の台湾映画界では浮いた存在だと思います。

 Q:台湾はトレンディドラマで成り立っているわけですか?

 市山:国産映画が凄いです。完全に外国映画と逆転している。特に『海角七号』という映画がヒットしたのがきっかけで、それまで台湾映画を見なかった若い人たちが完全に台湾映画に向いてきてて、外国映画より当たるんです。

 Q:日本と似てますね。

 市山:ただ、当たっているのはラブロマンスだったり、テレビの若手スターが出ている映画だったりします。TIFFでチェン・ユーシュンが復活してたというのは、たぶんそんな流れだと思います。チェン・ユーシュンは『熱帯魚』の監督ですが、『総舗師―メインシェフへの道』という新作が<ワールド・フォーカス>部門に出ていた。しばらく撮れなかった人たちが復活してきているという感じはありますね。

 Q:中国系はその辺にして。

 市山:今年はタイ、フィリピン、シンガポールと東南アジアがいっぱいあるんです。東南アジアはみんなレベルが高かったですね。うちでやらなかったのでも面白かった映画はいっぱいありました。TIFFの<ワールド・フォーカス>でやった『メアリー・イズ・ハッピー』というタイ映画はフィルメックスでやってもおかしくなかった。

 Q:今年はネクスト・マスターズ卒業生のアンソニー・チェンが大成功して、フィルメックス的にもとてもよかったですね。

 市山:2010年にネクスト・マスターズとして始めたタレント・キャンパスから、3年後にカンヌのカメラ・ドールが出るとは誰も想像していなかったです。カンヌの監督週間に選ばれたと喜んでいたら、カメラ・ドールまで獲って驚いたんです。タイの『カラオケ・ガール』もタレント・キャンパスのプロデューサーの新作、『トランジット』の監督も去年のタレント・キャンパスに参加してた人です。

 Q:日本映画が2本ありますね。日本の若手は作れている感じですか?

 市山:応募作品も極端なんです。一方で商業映画の小型みたいなものがあって、一方で本当に予算がないなかで作っていて、予算がないのはいいんだけど、じゃあ、対抗できるすごいものがあるかというと、なかなかない。日本映画の場合は新人というより、もうちょっと上の人じゃないと海外のラインナップに対抗できないなという感じはあります。

 Q:個々の作品は面白いし、自分をとりまく世界をうまく描いているとは思うけれど、海外の作品と比べるとチマチマしているというか。製作費が少なくてもいいし、チマチマしててもいいんだけど、もっと思想的に突き抜けてくれないと困る。それは世代的な問題なのか、何なのか。市山さんはプロデューサーもされていますが、どのように見ています?

 市山:1つは世代的な問題と、ある時期、日本映画で政治とか社会問題を語るのがカッコ悪いみたいな雰囲気があった。僕らもそうなんですが、なんとなくそういう雰囲気が80年代くらいからあって、政治的だからいい映画ができるというわけではないですが、政治意識というか歴史意識というか、そういうものが、他のアジアの国にくらべて圧倒的に不足している。そういう映画が、たとえば中国映画からポンと出てくると強烈だし、韓国はちょっと前まで戒厳令があったりして、ポン・ジュノなど僕らより若い世代の人でも歴史的な意識のある人が多いです。日本の場合はそこが欠落していて、それが今になって差が出ているんじゃないかなとは思いますね。なかで『サウダーヂ』みたいな映画があると、またちょっと新しい人たちがいるのかもしれないという気もします。社会問題というと変ですけど。

 Q:ある種の社会問題ですよね。

 市山:『サウダーヂ』は、ロカルノに選ばれてナントで賞を獲ったり、他のアジアの映画と対等に張り合っていますけど、ああいう映画が今までちょっとなかった。

 Q:今年の応募作品を俯瞰して、この国がよくなってきたと思えるところは?

 市山:1つの国というよりも、東南アジア全体で応募作が増えたような気がするし、結構面白いものがあったと思います。

 Q:なぜでしょう?
市山:1つはデジタルが出て来てから東南アジアが変わってきて、それまで映画を撮ってなかったマレーシアなどの国からどんどん出て来た。それが自信になってきてるんじゃないですか。自信というか、皆が撮る方向に向いてるというか。タイのアピチャッポン、フィリピンのメンドーサなんかがカンヌとかで大きな賞を獲って、すごく予算をかけたわけじゃない映画が賞を獲っているということが勇気づけているという感じはあると思います。撮ってもだめだろうと思っていたところが、そういう人たちの活躍に刺激を受けている。国がサポートしているとか、そういうのはあんまりないはずなんです。韓国みたいに国がサポートしてどんどん作らせているという話はあまり聞かない。もちろんシンガポールには助成金が多少ありますが、シンガポールだけが突出しているわけではないので。国のサポートというより、国際映画祭で活躍していることに刺激を受けて、どんどん若手が出て来ているような気がします。

 Q:タイやフィリピン、インドはもともと商業映画の歴史がありますが、ちょっと途絶えていた感じだった。でも商業的なところからではなく、アート系から出てきたのが面白いと思うんです。

 市山:フィリピンなんかは、『トランジット』が賞をとったシネマラヤ映画祭がサポートしたりしていると聞きました。政府というより民間の財団だと思うんですけど。

 Q:今年は石坂健治さんからインド映画のことをいろいろ聞いたんですが、フィルメックスはインド映画が1本もないですね。

 市山:インドはいろいろ見て議論にのぼったものはあったんですが、結局やりませんでした。何か1つ足りないですね。もともと土壌は整っているし、最近は経済発展してきているんで、今までなかったようなアート系のものが出て来たり、商業映画で成功した監督が若手に機会を与えるために新作をプロデュースしたりとか、いろんな意味で土壌は整っている。あとは凄い人がいるかどうかなんですけど、そこはまだ、という感じです。以前、シャー・ルク・カーンの映画をやったらお客さんが随分入ったんで、やれば入るとは分かっているんですけど。

 Q:特別招待作品にモフセン・マフマルバフとジャファール・パナヒが並ぶところがフィルメックスらしいですね。

 市山:マフマルバフはフィルメックスが始まってから何度も作品は上映しているんですが、本人が来るのは初めてで、今年の審査員長です。

 Q:この間、ある人から「なぜ今グレミヨンなんですか?」と聞かれて答えに窮したんですが。

 市山:2年くらい前に日仏(アンスティチュ・フランセ日本)の坂本安美さんから、ジャン・グレミヨン特集をいずれやりませんかという話があって、僕はグレミヨンがすごく好きなんですが、てんでんバラバラに見ていて、全体像というのを見る機会がなかったんで、良い機会だと思ったのが始まりです。

 Q:私がフランスにいた頃はシネマテークでよく上映されていました。

 市山:僕は蓮實重彦さんの本からです。蓮實さんが誉めているからいいというわけじゃなく、ちょうど10年くらい前にシネカノンが『この空は私のもの』と『白い足』の2本を配給したんです。"シネマオタンチック"というタイトルでグレミヨン、アンドレ・カイヤット、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーとか、その辺のドイツ占領下の時代の作家たち、とは銘打ってないんだけど。そのときにグレミヨンを初めて見て、これは凄い、さすが蓮實さんだと思った(笑)。その後、朝日ホールの"フランス映画の秘宝"という特集で『曳き船』をやったり。僕は『愛慾』を日仏で見たんですが、特集としての形では全然やっていなかった。まったく何の周年でもないですが。グレミヨンは日本でDVDが全然出てないんです。『この空は私のもの』と『白い足』も昔VHSは出たんだけど当然廃盤になってて、見れない映画作家になっている。フランス映画の特集としてはメルヴィル以来で、あのあとメルヴィルのDVDが何本か出たりしたんで、こういう特集がきっかけになってどこかでDVD・BOXを出してくれればいいなと思っています。

 Q:この特集は日仏に続くんですね?

 市山:『曳き船』とか、フィルムセンターにプリントがある作品は日仏でやるんと思うんですが、フィルメックスではしばらく上映されてなかった3本をやる。ちょうど戦時中の作品ですね。フランス映画というと、おしゃれな感じという印象があるけど、グレミヨンを見ると結構とんでもないことがおきて、いったいこの映画はどこに向かうんだろうというようなスリルを味わうことが多い。なかなかあの時代の映画にはないと思いますね。マルセル・カルネとかジュリアン・デュヴィヴィエと同じ頃の作家ですが、彼らとは全然違うものを作っている。

 Q:カルネやデュヴィヴィエは映画が始まったときに着地点が見える感じがしますね。

 市山:グレミヨンは見えない。

 Q:見えないスリルを楽しむ?
 市山:そうです。
(11月12日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(3)巨匠を新発見!注目してほしい中村登特集/林加奈子ディレクターに聞く

2013/11/27

2013filmex_p_03_01.jpg Q:フィルメックスは今年で14回目を迎えます。今年はTIFFに大変革があり、映画祭を続けることについて考えさせられました。そこで今回は特に、映画祭を続けていく意義や情熱といった根本的なものをうかがいたいんですが。

 林加奈子:フィルメックスの一番いいところは、ここにいる岡崎匡さんなど、スタッフを含めて同じ人がやっているところです。なので、映画祭のヴィジョンが動いてない。私たちは一番最初に"新しい流れを提案します"というモットーを掲げました。この一言に、いろんなことが集約されています。映画祭というのが何のためにあるのか、何を目指しているのかということです。ここ数年は、それに"映画の未来へ"というのをプラスアルファとして打ち出しています。"映画の未来へ"というのは文字通り、若手のコンペティションを映画祭の核にして、本当に有名でなくても、これからの映画を切り開いていく人たち、まだ誰にも支援されていない人たちを私たちがサポートしていく、いきたいということです。もう少し発展的に言えば、タレント・キャンパス・トーキョーで、これからの若手の人たちに、少し上のお兄さんお姉さん世代がやっていることを見てもらう。なので、マスター・クラスは巨匠たちにレクチャーしてもらうんですが、逆にタレント・キャンパスはコンペティションに出ている監督にレクチャーしてもらうという企画もあるんです。

 Q:"新しい流れ"といっても14年前と今とでは変わってきていると思いますが、映画祭のあり方が変わってきていると思いますか?

 林:変わっていることと変わっていないことと、おそらく両方あると思うんです。まず、観客を含めて映画界全体が変わってきている。たとえば80年代だったら、これは去年も話したことですが、ミニシアターで映画を見ることがおしゃれだったり、『去年マリエンバートで』など難解な映画でも、何だかわからないけど面白いという風潮があった。

 Q:フィルメックスが出来た2000年は、映画業界的にはどんな年でした?

 岡崎匡:アジア映画は盛り上がっていたけど、韓流が始まる前ですね。ヨン様、冬ソナは2001、2年くらいです。

 林:テレビ局が映画に進出し、物量作戦で映画を公開していた頃です。私が川喜多映画財団にいた90年代の終わりは是枝和裕さんや『おかえり』の篠崎誠さんが出て来た頃で、配給会社の国際部が動かなくなっていて、柳町光男監督や大島渚監督の作品は川喜多和子さん(フランス映画社副社長、川喜多映画財団代表、故人)が外国配給をやってくださっていたけど、もっと若手の人たちが"劇場公開には結びつかないかもしれないが、とりあえず長編1本を"というとき、まず海外の国際映画祭で認めてもらおうという、インディペンデントが動き始めたときでした。黒沢清さんが『地獄の警備員』を作っている頃で、伊丹十三さんがご健在の頃です。

 Q:隔世の感ですね。では14年後の今という時代を俯瞰すると? フィルメックスが紹介したアピチャッポン・ウィーラセタクンもキム・ギドクも巨匠になりましたが。

 林:日本も国際映画祭的には是枝裕和さん、黒沢清さん、青山真二さん、三池崇史さん。もちろん北野さんは別格ですが。

 Q:その下がまだ出て来てない?

 林:もっと若い人たちが映画を作って出ていかなきゃいけないところですが、テレビ局製作・東宝配給の映画を中村義洋さんのような監督が注文を受けて作るようになっている。それはそれでいいことだとは思うんですが、実はあんまり出てきていない。そこはすごく忸怩たる思いがあります。私は大森立嗣さんの『さよなら渓谷』はとてもよかったと思います。うちでは『ぼっちゃん』を上映させてもらっていますが、大森さんも自分で作りたいものを作れるようになってきている。ただ一番の問題は、吉田喜重さんや大島渚さんみたいな、若い人のアンチで置きたい人が今いない。相米慎二さんや森田芳光さんは亡くなってしまったし、王道のようなものがなくなっている。若い人というのは"そうじゃないだろう"と、自分たちで王道を叩き壊して出てくるものだから、ある位置ががっちりしていてくれないと困る。

 Q:今年は中村登特集がありますし、フィルメックスはクラシックな映画も紹介していますね。ただ、アンチになるのは直接上の世代で、中村登はそのまた上の世代ですが。

 林:去年は木下惠介の特集をやりましたが、あれも私たちにとっては新しい流れを提案することの1つなんです。木下惠介といえば、それまではロカルノでもどこでも、『喜びも悲しみも幾年月』や『二十四の瞳』など、涙のたっぷり流れる、エモーショナルな、家族の愛を描いた大巨匠みたいな切り口でやっていて、『お嬢さん乾杯』などは外国では誰も見てなかった。でも『お嬢さん乾杯』や『死闘の伝説』を知らざるして木下惠介を語って欲しくない、というのがある。今回の中村登も同じで、王道からしたら、『紀ノ川』であり『古都』であり、それはそれでいいんですが、私たちが選ぶとしたら海外の人に新たに発見してもらえる、驚くような作品を選びたい。今年は時代順にいえば、『我が家は楽し』『土砂降り』『夜の片鱗』の3本に英語字幕を付けました。予算的には木下と変わってないんですけど、素材の問題があって1本作るのにすごくお金がかかっているんです。なので今回は3本ですが、これは一昨日ベルリン映画祭で上映することが決まりました。中村登特集としては世界初です。

 Q:木下の次の大発見シリーズですね。3本とはいえ、十分びっくりすると思いますよ。

 林:フィルメックスでも十分驚いてもらえると思っています。そういう意味で、巨匠のクラシックというのも私たちにとっては新しい流れで、提案だし、ぜひ見ていただきたいです。

 新しい流れといえば、配給でもヴィジョンがある方たちは作家を育てる意識があり、同じ作家の作品をコンスタントに配給し続けたりするけれど、メジャーで作ったり、インディペンデントで作ったりする人は、配給会社も毎回必ず同じとは限らないし、宣伝の仕方によっては、本当はこういう映画なんだけれども、こういう風に宣伝しますとか、ビジネスのためにすごく工夫をされる。公開するタイミングも、すぐ公開するものもあれば再来年になってしまうものもある。カンヌの映画だと、だいたい翌年公開になるものが多い。でも、映画祭は、新しい旬の映画をその年に、色眼鏡というか、お金をかけた宣伝プロモーションがない形で見てもらえるチャンスなんです。

 Q:配給側に何か変化はありますか?フィルメックスで映画を見て決めるという例もありますよね?

 林:カンヌやベルリンは、部長、社長クラスが現地に行ってなかったりすると、スルーになってしまうものもあるようです。うちは業界の若い人でパスを出してなくても切符を買って見に来てくれる人がいたりするんで、そういう若い配給会社の人がフィルメックスで観客の熱い反応を見て、これ絶対にやるべきだと社長を説得してくれて配給に結びついた、というものもあります。

 Q:大きな映画祭で配給が付かなかったものでフィルメックスが選ぶと、いい映画の確率が高い?

 林:大きな映画祭に出てればいい映画かというと、ピンと来ないものもあるし、出てなくてもすごいなと思うものはありますよ。映画祭の意義という意味では、カンヌやベルリンでやったからいいというのではなく、私たちが東京の視点で、日本人として、"この映画が今の映画の未来に向かっている映画です"、"これこそ新しい映画です"と思うものを選んでいるんです。

 Q:セレクターの問題もありますね。"なぜ、こんな映画を選んだんだろう"と思うときもあるし、"断れなかったんだな"と思うときもある。

 林:私たちは数をやってもしょうがないと思っているんで、厳選して限られた映画しかやらないんです。その代わり"お客さんは裏切りませんよ"と。カンヌとベルリンの一番の違いは、カンヌはマーケットを別としてオフィシャルな作品が限られているから、同じ1本の映画の話ができる。マーケットで見たとしても、あれはいい、これはダメだという話ができますが、ベルリンだと400本もやっているので映画の話ができない。プサン映画祭も300本ですから、"今年プサンはどう?"とか、"今年はすごい"、"あんまりよくない"と言っても印象でしかなく、何をもって良い悪いと言っているのか噛み合わなくなっちゃっている。それに、規模を大きくすると"これはどうかな?"と思うものも、やらざるをえなくなるし、どうしても妥協が入ってくると思う。でも、フィルメックスは、この国に流れがありそうだといっても、見に行ってダメだとしたらやらない。期待して見に行って、ダメだったらやらないという選択肢は勇気がいるけど、それは大事なことだと思います。本当にどうしようと悩むことって、いっぱいある。尋常じゃないプレッシャーです。作る人たちも大変だと思うけど選ぶ方も大変で、これで決めちゃえば楽になると思う瞬間がある、魔が差しそうなときが。そこで正気を保つというのは私にとっては毎年すごく大事なことで、それは特に日本映画の場合ですが、早く決めないとどこかにとられちゃうとか、本当に苦しい時期があるんです。だいたい8月終わりから9月の初め頃ですが、この映画をお客さまに届ける必要があるのか、私たちがずっと応援しつづける意味があるのか、本当に新しい流れの映画なのか、それを常に考えないといけない。ちょっと話が脱線しますが、グレゴールさん(ウルリッヒ・グレゴール氏、ベルリン映画祭フォーラム部門の前ディレクターで現アドバイザー)は自宅のキッチンにフォーラムのその年のセレクションを次の年まで1年間貼り続けているんです。次の年の初日まで。選んだ映画に対しての責任と、これを選んだために選べなかった映画の責任を考えながら、ずっと1年間過ごす。

 Q:まさに忍ですね。私にはとても無理(笑)。

 林:私たちは見ているだけだから、それが作った人に対しての、選んだことの自負もあるけど責任なんだろうなと。

 Q:その忍の一字で毎年セレクションしてきて、林さんご自身は変わってないと思いますが、映画祭の側から見て、応募してくる側、作られる映画が変わったなという印象はありますか?

 林:私はフィルメックスの前に川喜多映画財団で映画祭のディレクターをサポートする立場にいたので、フィルメックスの14年だけの問題じゃないと思うんですが、映画祭に選ばれやすいというか、選ばれそうなタイプの映画を狙って作ってる人たちが絶対にいるんです。こういう映画を作ると映画祭の人が喜んで選ぶだろう、これが好かれそうな感じだよね、みたいな。技術的にもそうだし、スタイルもそうだし、そういう映画が結構あって、そこに絶対に引っかかってなるものかという意識は逆にあります。真似ることは悪いことじゃないんです。他の人のいい部分を取り込むことは悪いことじゃないけど、それに加えてプラスアルファがないと。すごく臭わせるというか、雰囲気がいい感じで、"俺ってうまいでしょ"みたいな映画はすごくある。それは新人の監督のみならず、2本目3本目でも、はまっている人たちというのは結構いる。私は作家主義というより作品主義というのを貫きたいと思っています。逆に言うと、映画祭がサポートすべきなのはそういう映画じゃない。私たちはもっと原石が欲しいんです。上手くなくていいから、ごつごつしているものが。もちろんエンターテインメントで全然問題ないんですが、媚びているような感じのものは他のところでどうぞ、ということです。

 Q:フィルメックスのセレクションに関しては全面的に信頼しているし、ぶれてないということにも確信があるんですが、今年TIFFが<アジアの未来>という似た部門を作りましたよね。

 林:でも、今年はまったくコンフリクトがなかった。もっと危機感というか、エクサイティングなことがあるのかなと思ったら、なかったですね。

 Q:プサンの<アジアの窓>とTIFFの<アジアの未来>とフィルメックスという、同じようなアジア映画のコンペティションが10月上旬から11月にかけて連なるわけですから、外から見ていると同じようなものが並ぶなという感じがするし、応募する側も考えるのではないでしょうか。
 
 林:それぐらいアジア映画に活気があって、いっぱいいい映画があれば問題ないんですけど。ただ、うちはプサンとは、ものすごく密に連絡はとっているんです。実は2回目のときに審査員長の侯孝賢がかぶったんで、それで懲りて、すごく密に連絡をとっている。プサンからは日本人の審査員の相談を受けるし、私たちも韓国の人に審査員をお願いするときは相談しています。今年、TIFFのコンペで審査員をやったクリスチャン・ジュンヌやムン・ソリ、<アジアの未来>のジェイコブ・ウォンも、みんなフィルメックスで審査員をした人たちばかりでした。だから、私たちが新しい流れを提案しますといってやってきたことが、ちゃんと他の映画祭も認めて、彼らに審査員を依頼していることってすごく嬉しいというか、新しい流れが定着して、当たり前の流れになってきているんだな、と思いましたね。

 Q:だから、フィルメックスはその先を行かなきゃいけない?

 林:その通りです。川喜多和子さんと話したことですが、最初はユニジャパンもフィルムセンターもなかった。だから、川喜多財団では組織ができないことをやってきた。フィルムセンターができ、ユニジャパンができたら、今度は彼らがまだできないことをやる。さらに新しいことをやらなきゃいけない。新しい流れって常にそういうことだと思うんです。プサン映画祭でも、最初の頃はまだ日本映画は解禁されていなかったから、各社に話に行っても"公開できないんだから映画祭に出してもしょうがない"みたいな、そこからのスタートでした。『ゆきゆきて、神軍』などは財団で海外の映画祭に出品するサポートをしたんです。新しいこととは、そういうことじゃないでしょうか。海外からのアテンションもそうだし、日本のお客様もそうだし、外から必要とされること。加えて、これがこれからのヴィジョンであり、新しい映画であり、これが驚きだっていうプログラムをちゃんと見せていくこと。それが映画祭の一番の使命じゃないでしょうか。
(11月11日、赤坂のフィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(2)原発事故。放射能を浴びて・・/松林要樹監督の「祭の馬」

2013/11/26

2013filmex_p_02_01.jpg 開催3日目の25日夜、コンペティション部門にエントリーした2本の日本映画のうちの1本、松林要樹監督の『祭の馬』が上映されました。

 『祭の馬』は『相馬看花』という福島をテーマにした連作の第二部で、第一部の『奪われた土地の記憶』に続く作品。津波を生きのびながらも原発事故で放射能を浴びてしまった1頭の元競走馬の運命を淡々と綴ったドキュメンタリーです。

 上映後のQ&Aでのお話によると、震災直後、南相馬に救援物資を届けにいった松林監督が、偶然見かけた厩舎に取り残された馬たちがその後餓死したと知ったことが映画作りのきっかけだったそうです。初めは馬の扱いがまったく分からなかったという監督が、元競走馬のミラーズクエストという馬に出会い、どんどんのめりこんでいくにつれ、映画から状況を説明するところや人間の映像が消えていき、最後は馬の視線だけになってしまうところが秀逸でした。

 天災と人災に翻弄される馬たちは、放射能によって畜殺される運命はのがれたものの、一生、警戒区域内を出られなくなります。まさに"禍福はあざなえる縄のごとし"という諺そのもの。この哀れな馬たちの姿には福島の人々の運命が投影されているはずです。

 この作品の最後に、ウィグルの民族音楽の"山水"という曲が流れるのですが、監督によれば、十数年前にウィグルを旅したときにずっと聞いていた曲で、ウィグルといえば中国が核実験場に使っているところで、核というと連想するのだそうです。相馬もまた民謡のふるさととして知られていますが、歌に歌われた美しい自然が今どうなったかを考えると、核のために故郷を失ったウィグルの人々と福島の人々の運命の皮肉に胸が痛くなる思いがしました。

 写真は上映後のQ&Aの様子で、左から市山尚三ディレクター、松林要樹監督、通訳を務めた山形ドキュメンタリー映画祭の藤岡朝子ディレクター。松林監督と藤岡さんはアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭から帰国したばかりだそうです。

 『祭の馬』は12月14日から東京・シアター・イメージフォーラムでロードショーされる他、全国で順次公開されます。

(齋藤敦子)

(1)アジアの台風の目。チェン監督の「ILO ILO」/東京フィルメックス始まる。

2013/11/25

2013filmex_p_01_01.jpg 第14回東京フィルメックスが23日、有楽町の朝日ホールで開会式を迎え、オープニング作品のジャ・ジャンクー監督『罪の手ざわり』から12月1日まで9日間の上映が始まりました。『罪の手ざわり』は今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『タッチ・オブ・シン(天注定)』の日本語題名で、来春、日本公開が決定しています。

 今年はコンペティション部門、特別招待作品の他に、フランスの名匠ジャン・グレミヨン特集と中村登生誕100年祭の特集が組まれています。開会式で、ディレクターの林加奈子さんが宣言したところによれば、"映画人生をかけて選んだ、ただならぬフィルメックス"だそうです。

 審査員はイラン映画の巨匠モフセン・マフマルバフを長に、フランス人プロデューサーでユニフランス中国代表のイザベル・グラシャンさん、日本から女優の渡辺真起子さん、プロデューサーの松田広子さんの4名。実は昨年のフィルメックスで『私には言いたいことがある』が上映された中国の映画監督イン・リャンさんも審査員に決まっていたのですが、ビザの関係で来日できず、今年はいつもより少ない4名で審査が行われることになりました。

2013filmex_p_01_02.jpg 今年一番の話題作は、何といってもフィルメックスのタレント・キャンパス出身、アンソニー・チェン監督の『ILO ILO
』でしょう。5月のカンヌでカメラ・ドール(新人賞)を受賞したのを皮切りに、アカデミー賞外国語映画賞のシンガポール代表に決定した他、23日夜に行われた台湾金馬奨で、作品賞、新人監督賞、脚本賞、助演女優賞の4冠を達成したばかり。今年のアジア映画の台風の目といってもいい作品です。

 写真上は、開会宣言をする林加奈子ディレクター、写真下は、今年の審査員の顔ぶれで、左からイザベル・グラシャンさん、松田広子さん、マフマルバフ監督、渡辺真起子さん。映画製作を続けるために国外へ出ざるをえなかったマフマルバフ監督は、観客への挨拶で、"中国やイランなど、検閲の問題がある国のことを忘れないでください"と呼びかけました。

(齋藤敦子)
1