シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(3・完)最優秀作品賞に「よみがえりの樹」

2016/11/30

2016tokyo_filmexp_03_01.jpg 11月26日の夜、有楽町の朝日ホールで授賞式が行われ、以下の賞が発表になりました。実は、今年は仕事が押したために、数日しか参加することが出来ず、受賞作のいずれも未見でした。授賞式に先立って行われた審査員の記者会見での話では、審査員それぞれの好みが違い、全員一致の結果ではなかったとのことでした。審査員長のトニー・レインズ氏によると、『マンダレーへの道』のミディ・ジーはすでに監督としての経験も豊かで、同時期に開催中の台北金馬奬での受賞(最優秀台湾映画人賞)や、アカデミー外国語映画賞の台湾代表に決まっているので、新人で、困難を乗り越えて製作した作品を選んだ。また、個人的には庭月野議啓の『仁光の受難』を押したのだが、他の審査員の賛同を得られなかったとのことでした。

 コンペティションで私が見たのは、ミディ・ジー監督の『マンダレーへの道』と、ワン・シュエボー監督の『神水の中のナイフ』という2本です。

 『マンダレーへの道』は、ミャンマーからタイへ密出国して出稼ぎに来る途中で知り合った若い男女が主人公。ミャンマー人の繋がりを利用して闇の仕事を探し出し、助け合って働いているうちに、次第に親密になっていくが、お金を貯めて台湾へ出て行こうとする娘と、故郷へ帰ろうとする青年の価値観の違いが悲劇を生む、というストーリー。実際にあった事件を元に、ジー監督自身の兄姉の体験を組み入れたもので、監督4作目にして初めて脚本を書いた作品だそうです。主人公の2人だけがプロの俳優で、ミャンマーでの農作業や工場での労働体験、雲南省訛りの中国語などをトレーニング、撮影は2ヶ月ですが、準備には1年半をかけた、見た目はフレッシュですが、よく練り込まれた作品でした。

2016tokyo_filmexp_03_02.jpg 『神水の中のナイフ』は、第2回魯迅文学賞を受賞した<清水の中のナイフ>という中国では非常に有名な小説を原作に、中国の少数民族、回族の村を舞台に、妻を亡くした老人の心象風景を映像化したもの。『タルロ』のプロデューサーだったワン・シュエボーの初監督作品で、まるで絵画のように美しく撮られているものの、ワン監督の若さのせいか、主人公の老人の内面になかなか迫っていけない、もどかしさを感じました。

 今年は受賞作品を始め、多くの作品を見逃してしまったのが残念でした。『私たち』は日本公開が決まったようですが、それに続いて、他の作品も配給が決まるよう願ってやみません。


<2016年度東京フィルメックス受賞結果>

最優秀作品賞:『よみがえりの樹』監督チャン・ハンイ(中国)
審査員特別賞:『バーニング・バード』監督サンジーワ・プシュパクマーラ(スリランカ)
スペシャル・メンション:『私たち』監督

観客賞:『私たち』監督ユン・ガウン(韓国)

学生審査員賞:『普通の家族』監督エドゥアルド・ロイ・Jr(フィリピン)


写真(上は)審査員と受賞者。記者会見後の記念撮影で。前列左から、プシュパクマーラ、『よみがえりの樹』のプロデューサー、ジャスティン・オー、ロイ・Jr、後列左から審査員の松岡環、トニー・レインズ、アンジェリ・バヤニ、パク・ジョンボム、カトリーヌ・デュサールの各氏。チャン・ハンイ監督はナント三大陸映画祭のため、ユン・ガウン監督は青龍映画祭新人監督賞受賞のため、欠席。ユン監督は夜の授賞式には登壇。


写真(下)は「マンダレーへの道」のミディ・ジー監督。上映後のQ&Aで。

(齋藤敦子)

(2)若い世代の掘り起こし目指すU-25割/林加奈子ディレクターに聞く

2016/11/21

2016tokyo_filmex_p_02_01.jpg●巨大化したプサン

 -個々の映画については市山さんにうかがったので、 林さんには、映画祭の運営や動向、映画祭というものについての考え方をうかがいたいと思っています。今年プサンには行かれました?
 林:ちょっとだけ。

 -どうでした?
 林:がんばってるなと。規模は大きいままだし、にぎやかだし、全然しょぼくれてなかった。そういう意味ではすごいなと思いました。ただ、フィルメックスと全然違うのは、とにかく大きいこと。1つのパーティでも1000人とかいて、同じパーティにいるのに会えない。ボランティアもそうで、1000人超えていると思うんで、何かを聞いたら誰からも同じ答えが返ってくるというのじゃなく、"ちょっと待ってください"と言われて、誰かに聞きに行ってと、返事に時間がかかる。組織化が大変な規模になっちゃってる。たとえば空港にカウンターがあって、ちゃんと人がいて、トランスポーテーションのチケットを渡してくれるけど、私は何度も行ってるからいいけど、初めての外国のゲストで韓国語も漢字も分からなかったら、同じゲートでもいろんな路線バスが5台くらいとっかえひっかえ来るので、プサンの映画祭のホテルに停まるバスはどれか、バスの運転手さんは英語がペラペラなわけじゃないので、カウンターに3人いるなら、バス乗り場に1人ついていればいい、というようなことが、あんなに巨大化してしまったら無理なんです。

  -細かいケアができてない?
 林:ただ、カンヌとかは、あれだけ大きな映画祭だけれども裏の手というのがある。ある人には、あそこに行けばすべてが解決する場所とか窓口がある。カンヌの運営は実はものすごく行き届いている。ほったらかしで、知らん顔しているように見せかけているけど、実は全部分かってコントロールしてるってことが、すごいなと思う。

●迎えの車にゲストキット
 -プサンはまだそこまで行ってない?
 林:急に大きくなっちゃったから。ゲスト以外でヨーロッパなどから、かなりな人がプサンに来ています。ゲストが泊まっているホテルの前の大きなホテルに個人で自費で来ている人たちが泊まっているんです。 それくらい大きくなっちゃった。
 逆転の発想で、うちの小ささというもの、小回りがきくことをどこまで最大限に生かせるかを、ものすごく意識しています。たとえばプサンはホテルに着いて、映画の殿堂というフェスティバル・オフィスに行かないとパスとカタログが手に入らない。私たちは規模が小さいから、迎えの車にゲスト・キットを乗せてしまうとか、それぞれのホテルにキットを置いておく。着いた日の夜に薬を飲む人がいるかもしれないので、ミネラルウォーター1本とウェルカム・レターとスケジュールを一緒にして、到着のときにホテルで見られるようにしたい。それって、そんなに難しいことじゃないと思うんだけど、わりとされてないんです。

 -フィルメックスは、この17年間でスペースや予算の増減があったと思いますが、比較すると今年は小さい方それとも大きい方?
 林:作品本数的には小さい方ですね。というのは去年はスバル座で蔡明亮の特集がやれたし、松竹がやってる日本映画のクラシックをコラボ企画にインクルードさせてもらって東劇でやったこともありました。今年の22本は少ない方だと思うんですけど、イベント企画としてはタレンツ・トーキョーはもう7回目だし、学生審査員も6回目で続いているし、イスラエルのトークイベントをやったり、初日に国際シンポジウムとかもやろうとしてるので、大きな年ではないけれど、中身の濃い年だと思います。

 -予算は比較的少ない?
 林:どん底じゃないです。去年よりはまし。去年はもっとひどかったです。

 -フィルメックスの予算は主にどこから?
 林: いろいろです。文化庁とか、政府の予算ももちろんあるし、タレンツ・トーキョーなら東京都とアーツ・カウンシル東京とか。

 -チラシに出ている企業の援助も。
 林:そうです。あとオフィス北野の森社長が北野武さんのコマーシャルの話が来たときにフィルメックスに協賛してやってくださいという話をつないでくださるんです。なので、チラシなどの広告が北野さんだらけになってます。あとは個人のサポーターの寄付とか、エールフランスなど私たちからお願いする企業もあるし、いろいろです。

●学生の評価を喜ぶ監督たち
 -安定してます?
 林:1回やってくださると、継続的にやってくださる。それはとてもありがたいことで、ある企業の偉い人は、お礼に行って継続のお願いをすると、私の目の黒いうちは、うちの会社が続けられるだけ続けるから、林さんは映画を見ててください、と言ってくださる。そういう風に理解してくださる方は継続してくれる。ただ、野球なら東京ドームで1試合5万人とか、サッカーなら味の素スタジアムで1試合で6万人とか、すごい数でしょ。そういうものに比べて映画は映画が好きな人が映画を見るだけで、いきなり購買意欲が高まるわけじゃないから、なかなか厳しい。新しいところを増やしていくのはすごく大変です。


 運営的に今年一番の違いは、若い人向けのU-25割(平成3年1月1日以降生まれ対象)を始めたこと。それは絶滅危惧種として心配な若いお客さんを増やそうとしてのことで、どんなにいい映画をやっても、それを見るお客さんがいないと困ってしまうからです。今年6年目になりますが、学生審査員をやってて思ったのは、監督たちが学生に選ばれたことをすごく喜ぶこと。これからの若いお客さんが自分の映画を評価してくれ、好きだと言ってくれることを毎年毎年喜んでくれる。逆に、学生さんて自分で映画を見ることはあっても他人と映画の話をあまりしないけど、学生審査員になると、映画の話をとことんする、しかも会議のような形で。学生審査員の人たちも、大変だったし、悩んだし、苦しかったけど、すごくいい経験だったと言ってくれる。審査員にとっても刺激になり、監督にとっても喜ばしいことであれば、これはとことん続けなければと。

 -学生審査員のその後はトレースしてます?
 林:してます。山戸結希は監督として活躍しているし、映画を作り続けている人もいれば、映画の業界に就職した人もいて、わりとそれぞれなんだけど、すごくがんばって活躍しています。まあ、審査員をやろうという人たちは本当に真面目な人たちなんだけど。
 今年新しいのはFilmarks賞で、Filmarksという映画レビューサービスのサイトで投票できることです。フィルメックスの観客賞は授賞式のときに発表しています。なぜなら監督がまだいらっしゃるときに賞をあげたいから。そうすると、授賞式の前の作品までしか対象にならない。昔ベルナール・エイゼンシッツさんが審査員長で来てくださったときに、クラシックが観客賞をとったことがあって、昔の映画も今の映画も平等に扱うなんてフィルメックスって何て素敵な映画祭だろうと言ってくれて、本当はクラシックも新作も全部を対象にしたいんだけどなかなか出来なくて、忸怩たる思いがあった。それが、私たちとは違うところがサイトを作ってくれて、映画を見た後にスマホで評価を投票すればいい、と。難点は見てなくても投票できるところなんだけど、性善説に基づいて、やってみようということになりました。

 -お友達の多い監督が勝つかもしれない?
 林:かもしれない。ただ、フィルメックスのお客さんは真面目なので。

 -すべての作品が対象になるわけですか?
 林:そうです。『侠女』も『ざ・鬼太鼓座』も。

●ネット活用も若者対策
 -得点はこのサイトで見られる?
 林:もう出てるはずです。前に見たことのある『侠女』を評価してる人がいるので。最終日で締め切るので、授賞式では発表できないけど、終わった後で発表します。お祭りの要素としてはちょっと面白いかなと。フィルメックスの公式サイトも若い人が見やすいようにスマホ対応のレイアウトに変えてみたり、今年インスタグラムも始めたんです。思ったより大変なんだけど、ボランティアスタッフがやってみたいと手をあげてくれて。

 -インスタグラムでハッシュタグを付けて?
 林:まだまだ始めたばっかりなんだけど、若い人を増やすために何ができるだろう、と考えて。

 -フィルメックス的規模の映画祭って、世界的に増えている感じ?
 林:映画祭の宿命ってどんどん大きくなってしまうことです。残念ながら。そうすると、たとえば作品選定にしても妥協しなければいけなくなってくる。この規模って珍しいかもしれません。。そういえばニューヨーク映画祭が、ずーっと同じ規模なので似てるかもしれません。あそこも30本くらいに絞って、内部で変化はあるけれど、ずっと同じ感じでやっている。あとはアジアンとかレズビアン・ゲイ、キンダーとか、何かに特化している映画祭はあると思う。日本でも広島国際映画祭が出来たり、動きはあるけれど。

 -この規模のという言い方は変だけど、この規模の映画祭が増えるということは、この種の映画がなかなか配給されないということで、映画的には不幸なことじゃないかと思うんですが。
 林:フィルメックスで上映されている映画って、普通に公開されておかしくないんです。私が学生の頃にはシネ・ヴィヴァンでもシネマライズでも普通に見られた映画です。マニアに向けた映画でも何でもなく、作り手が本当に伝えたいものを、商売のためじゃなく、命をかけて作ってる映画なんです。それが普通に公開されておかしくないのに、今や配給が決まっているものが極端に少ない。去年、蔡明亮の特集で『青春神話』を初めてごらんになる人?と聞いたら、ほとんどの手が挙がった。私にとっては当然知ってる映画でも、デジタルリマスター版という新しく見るチャンスが出来て、初めて見る人がどれだけ多いか。

●コンペは新人発掘を重視
 -去年はエテックスの特集がありましたが、今年は?
 林:コンペは10本なんだけど、6本はデビュー作なんです。特別招待でアミール・ナデリやキム・ギドク、モフセン・マフマルバフとか、おなじみの人たちが。

 -ゲストが固定化されてきましたね。
 林:でもコンペが6本新人で、フレッシュで、初めましての人たちが多い。巨匠クラスの特別招待作品に入れるには若手だけど、コンペには入れない枠で、ナイスと思う映画は結構あるんです。アイスランドの若手の映画とか、たまたま見たらすごいと思う。よっぽどすごければ、『ハンモック』みたいにやってしまうんだけど。特集でもルーマニアをとことん調べて、ムンギウの1作目からどうやって見せたらお客さんに喜んでもらえるかとか考えたり。去年の蔡明亮で分かったのは、何かの興味でつないでいくこと。『タイペイ・ストーリー』なら侯さんが出ているエドワードの作品という風に、何かで引っ張れないかなと。

 -去年、蔡明亮の特集で『楽日』を見た人は絶対にキン・フーの『竜門の宿』を見なくちゃいけない、とか。
 林:そういうつながりが出来ないものかなと思ってるんです。映画ってクラシックでも今の映画でも幾つか見ていると考えざるをえないことが出てくる。それが映画のお祭りなんだよね、と。

 -今年のフィルメックス・クラシックという特集は?
 林:たまたまです。春ぐらいにモフセンにタレンツ・トーキョーの講師をお願いして、そしたら6月くらいに実はこういう作品があると送ってきてくれて、それが『ザーヤンデルードの夜』でヴェネチアで上映されることがわかり、やらしてもらう話になったり、『タイペイ・ストーリー』の話が来たり、松竹さんから『侠女』と『竜門の宿』が両方できるという話が来たり、どんどん増えていって。それもある意味、若い人に対して昔の映画をみんなで一緒に見るチャンスになると。

 -クラシックは来年あるかどうか分からない?
 林:分かりません。映画がなければやらない。

 -今回はたまたま特集としてやれる映画が揃った?
 林:映画至上主義なので。枠から決めるのは嫌なんです。フィルメックスのビジョンはやりたいものがあったら作る。

 -ルーマニアも来年何かがあったらやるかもしれない?
 林:そうです。ルーマニアだけじゃなく、リサーチしている国が幾つかあって、うまくタイミングがあえば。前にブラジルをやったときも、何年もリサーチしてやっと遺族まで連絡がとれたら、今ちょっとスポンサーがついたんで、再来年になったらオール字幕入りのきれいな素材を作るんでって言われたら2年待つでしょう?そういうタイミングは常に待ってます。

 -映画祭という枠中心じゃなく、映画中心に映画祭を作っていくというポリシー?
 林:理想、ビジョンはね。

 -それを来年も続ける、と。
 林:いつまで続けるかというのがまた問題なんですが。

 -当面、来年はやるでしょ?
 林:開催決定って、カタログに入っちゃってるんで(笑)

 写真は林加奈子ディレクター(11月15日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)

(1)アートに逆風 中国/市山尚三プログラム・ディレクターに聞く

2016/11/19

2016tokyo_filmex_p_01_01.jpg 第17回東京フィルメックスが有楽町の朝日ホールで11月19日から開催されます。今年も 市山尚三プログラム・ディレクターに今回の見どころやアジア映画全般のお話をうかがってきました。


 -去年のフィルメックスは2本の中国映画が受賞しましたが。

 市山:今年も中国映画は2本入っています。1本はベルリンのフォーラム、1本はプサンに入っていて、そういう意味では中国映画は相変わらずレベルは高いと思いますね。ただ、多くはないです。去年も言ったかもしれないですが、商業映画を作るのは簡単だけど、アート映画を作るのはすごく難しい。政府の助成金というものがないんで、商売としてお金を集めなきゃいけない。そうすると、さすがに中国も最近は様子が分かってきて、商売にならないものにお金を出してもしょうがない、となる。それに、中国ですら公開できないものが結構多いんです。 それは検閲の問題とは関係なく、シネコンが上映してくれない。 日本みたいにアートシアターがほとんどないんで、大変厳しい状況になっている。アート映画を作って、結果、当たりませんでした、ならいいんだけど、端から公開もできないんじゃないか、というものに誰もお金を出さなくなっているんです。

 -前に行かれていた、北京のインディペンデント映画祭は全然やらなくなったんですか?
 
 市山:そういえばここ2年、聞かないですね。やってないかもしれないです。あれはビジネスとは関係ない世界ではあったんですけど。ただ、地方ではインディペンデント映画祭をやっています。北京は、ある時期から突然取り締まりが厳しくなったんですが、たとえば南京とか、杭州とか、そういったところのインディペンデント映画祭はやってるはずです。僕が2年前に行った西寧の映画祭もちゃんと開催されてて、なかなか映画館に掛かりそうもない、インディペンデント系の映画をやっています。そういう映画祭は地方に多いです。

 -どこからお金を持ってくるんですか?
 
 市山:地方の公共団体とか、あるいは地方の企業とかで、意外にちゃんとお金があったりする。皆が手弁当でやっているという感じではないです。少なくとも西寧は、やっている映画はインディペンデントだし、明らかに許可をとってないものも上映している。見ていて、「これ大丈夫?」と言うと、「まだ許可とってない」とか、そういう映画も上映しているんだけど、ちゃんと市民ホールみたいなところでオープニングセレモニーをやっています。

 -出資者が企業だったら見返りを求めそうな気がしますが。

 市山:ポスターとかカタログとかに広告を出しています。どの程度広告として意味があるのかは分かりませんけど、それ以上はそんなに求めていない。2年前に行ったときの話ですが、審査員長がチアン・ウェンで、審査員にチャン・チェンが来たりして、えらく豪華メンバーなんだけど、若手の作ったインディーズの短編映画を見て賞を出している(笑)

●若手育成に協力
 -賞をもらった人はすごく嬉しいでしょうね。

 市山:スターから賞をもらうわけですから。最初カタログを見たときは、どうせチアン・ウェンとかは顔見せで、セレモニーだけだろうと思ったら、ちゃんと全期間いる。

 -映画人にインディーズを応援しようという気分があるんでしょうか?

 市山:商業映画をやっている人がインディーズ映画の審査員をやったりとか、映画人の中には若手を育てなきゃいけないみたいな気持ちはすごく大きいと思います。今、どこまで進行しているか分からないですが、ジャ・ジャンクーがMK2と協力して、中国でもアート映画のチェーンを作るというのをやっているんです。

 -MK2がフランスでやっているような、アート系のチェーンですか?

 市山:MK2がどの程度協力的か分からないですが、公式にはMK2と提携して、中国にアート系のチェーンを作ろうということです。


 -今回コンペで上映される『よみがえりの樹』というのがジャ・ジャンクーのプロデュース作品ですね。

 市山:過去にも『記憶が私を見る』など、5,6本プロデュースをやっていますけど、作っても劇場に掛けるのに困るらしいんですよ。それで香港のブロードウェイという映画館のチェーンが北京に2館だけアートシアターみたいなのを作ってて、今、北京で恒常的にアートシアター系の映画を上映しているのはそこくらいしかないんです。

●外国映画の配給にクォーター制
 -そごが中国初のインディーズのチェーン?

 市山:初めてかどうかは分かりませんが、ワン・シャオシュアイやロウ・イエの映画とかはそこでしかやってない。シネコンに掛からないので。


 -お客さんは来るんですか?
 市山:厳しいと言ってました。カフェや本屋があったりする、日本のアートシアターを意識した感じのおしゃれな映画館で、ちょっとイベントスペースみたいなのがあって、監督を呼んでトークとかそういうのもやったりしてるんですけど、作品が続かないと言ってましたね。中国の場合、可哀想なのは、外国映画の配給にクォーター制度があって、本数が年間で決められていて、ほとんどハリウッド映画に占められてしまい、ヨーロッパのアート映画が配給されないんです。

 -MK2と提携したら、MK2配給の映画が上映できる、ということではないんですか?

 市山:このところ毎年毎年"数年後に"と言われて、なかなか実現しないんですが、"数年後にクォーター制度が撤廃される"という説があるんで、もしかしたらMK2もその辺を狙って、あわよくばと思っているかもしれないです。ハリウッドからの自由化の圧力が強いんで、数年後には撤廃されるとは言われています。

 -でもまだ撤廃されていない。

 市山:今のところは、ほとんどの配給本数がハリウッド映画に占められていて、そこに入り込む余地がない。そうするとアートシアターを建設しても、やるものが中国のインディペンデント映画しかないんです。

 -それは厳しいですね。

 市山:もともと見に行く需要のないところでやっているから、番組編成が厳しいという話は聞きました。

 -若い観客がインディペンデントの中国映画に関心を持って見に行くという感じではない?

 市山:関心持ってないんじゃないですかね。

 -昔の日本のミニシアターのブームみたいになるといいけど。

 市山:そうなんです。クォーター制度が撤廃されて、ヨーロッパのアート映画がどんと入ってきて、物珍しさもあって大当たりする、というようになれば。

●昔に戻ったプサン映画祭
 -続いて韓国ですが、プサン映画祭は行かれました?

 市山:行きました。派手な韓流スターが来なくなった分だけ昔に戻った、というと変なんですが、初期の精神に戻った感じがちょっとありましたね。外国映画はそのまま普通にやってるし、海外から来てるゲストたちというのは相変わらず来てるんで、いろんな人には会えるし、表面的にはほとんど変わった感じはないです。
 キム・ドンホさんが実行委員長に就任して、映画祭としては独立してやっているという感じにはなったんだけど、ただ決着はついてないんですよ。市長が謝罪したわけでもないし、そこがすごく不明瞭になっていて、何人か振りあげた拳を下ろしそこねた人たちがいる。今年の2月か3月くらい、ちょうどベルリンの後くらいに、いろんな業界団体がこのままでは映画祭に不参加だという時期があって、4月に市長が実行委員長を降りて、"キム・ドンホさんが実行委員長になります、映画祭は正常に開催されます"ということが発表されたんだけど、別に市長はそれまでのことを謝罪したわけでもないし、その辺がまったく不明瞭なまま再スタートしてしまったんで、結局、業界団体の人たちも自主参加みたいな形になって、人によっては参加してるし、人によっては、いやまだ俺は不参加だ、と。

 -キム・ドンホさんと言えば、まだプサンを立ち上げる前に、ナントによく来ていたのを思い出すんですが、プサンもあっという間に大きくなったのに、あんなことが起こり、まだ韓国は政治的に揺れているので、この先どうなるか分からないですね。

 市山:朴槿恵政権がひっくり返るのは目に見えているんで、逆に言うと、映画祭が期待している部分もあると思う。さすがにここまでひどいことはないだろうと。

 -プサン市長は朴政権寄りの人でしたよね。

 市山:そうです。大統領が李明博から朴槿恵になってからというもの、映画界が大荒れで、いろんな助成金カットだとか、要するに、それまでの助成金は共産主義的であると、商業映画から徴収した映画税を若手とかに支援するというのは共産主義的なやり方だからやめろというような、そういう暗黒の時代がしばらく続いていたのが、これでひょっとしたらちょっといい方になるかなと。KAFA(韓国国立映画アカデミー)とかも毎年の予算を削減されて大変だったんで、なんとなく、みんな期待している風はありました。

 -まだ分かりませんよ、世界全体が嫌な風潮なので。

 市山:この『恋物語』がKAFAの製作なんです。レズビアンの映画なんで、別に国立映画大学だから国の意向を受けてということはないと思うんですけど、堂々とこういう作品を終了制作として作っているというところは、ある意味すばらしいな、と。映画のレベルも高いというか、普通の大学の修了制作のレベルを遙かに超えてる感じがあるんで、そこもなかなか。体制さえ整えば韓国はまた持ち上がってくるだろうという感じですね。

●若手が出ない韓国

 -韓国はもう1本、『私たち』という作品がありますね。

 市山:これはベルリンのジェネレーションに出ていた映画で、ある種、児童映画なんですが、子供の演出が素晴らしい。結果的に2本とも女性の新人監督になりました。
 韓国も、今、ものすごい作家が出てきているかというと疑問ではあるんです。前の世代のパク・チャヌクとかキム・ギドクとか、あの世代が強すぎて、それを突破する若手がなかなか出てきてない。日本と若干似た感じというか。

 -フィリピンも、TIFFの<アジアの未来>で受賞した『バードショット』は面白かったけど、上にはラヴ・ディアス、メンドーサという二大巨匠がいますから。

 市山:フィリピンは1本あります。シネマラヤ映画祭というインディペンデント映画祭で受賞した『普通の家族』という作品で、これも手持ちカメラで撮ってるんで、メンドーサ的な感じではあるんですけど、これもなかなかたいしたものだと思います。この人の映画は3本目だと思うんですけど、毎回見ててもうひとつだなと思ってたんですが、今度のは大きく脱皮した感じがあります。

 -『神水の中のナイフ』というのは『タルロ』のプロデューサーの監督デビュー作なんですね。

 市山:ペマ・ツェテンとイー・トンシンがプロデューサーなんです。ペマ・ツェテンは『タルロ』でプロデューサーをやってもらったから分かるんですけど、なぜイー・トンシンがプロデューサーなのかは謎なんです。

 -これもチベットの?

 市山:これは回族の映画で、寧夏回族自治区というところ。イスラム圏なのでチベットではないです。

●ミディ・ジー監督の「マンダレーへの道」

 -ペマ・ツェテンは<アジアの未来>の『八月』という内モンゴルの映画もプロデュースしていて、あちこちに進出してますね。

 市山:辺境で映画を撮る人たちがみんな頼りにしてる(笑)。監督本人が回族かどうかはまだちょっと分かりません。1回プサンで会ったんですが、何系かは聞かなかったんです。名前は中国風ですが、回族の人たちは名前を中国風にしてる人が多いんで。どうも、もともとこの原作を監督したくて、いろいろやってもお金が全然集まらなくて、そのうちにペマ・ツェテンのプロデューサーをやるようになって、というようなところから出来てきた映画です。

 -このミャンマーの『マンダレーへの道』というのは?

 市山:暉峻さん(暉峻創三、大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター)が大阪アジアンで紹介したミディ・ジーという監督の映画なんですけど、この人はミャンマー華僑なんです。ミャンマー人なんだけど中国人で、中国系の名前を持っていて、今、基本的には台湾に住んでいる。見た目も完全に中国人で、教育も台湾の映画大学で受けて、台湾のプロデューサーと知り合って、でも、映画は全部ミャンマーで撮っている。『マンダレーへの道』もミャンマーからタイに移民した男女のラブストーリーです。

 -スリランカの『バーニング・バード』は?

 市山:これは以前フィルメックスでやった『フライング・フィッシュ』の監督で、スリランカの内戦の話です。内戦中にお父さんが密告で殺されてしまって、子供を抱えた母親が酷い目にどんどん遭っていくという。

 -スリランカの内戦は本当に後を引きますね。

 市山:監督本人の少年時代が内戦のまっただ中だったんで、1作2作とも内戦の話を映画にしています。

●政府の関与強まる?イスラエル
 -今年は<イスラエルの現在>という特集があって、コンペに『オリーブの山』というイスラエル映画があって、イスラエルが3本ということですね。

 市山:本当はもっと余裕があれば、いろんなものが見せられたんですが、特集といいながら結局2本で、コンペの映画入れても3本しかないというのがあるんですけど。ここ最近、たしかに国際映画祭でイスラエル映画多いんで、しかも、ギタイみたいな大作感のあるものではなく、むしろ小さい話なんだけど、社会問題や政治問題に突っ込んだものが増えているという感じがする。

 -<アジアの未来>にも1本イスラエル映画がありましたが、イスラエルは今、ルネッサンスみたいな感じになっているんでしょうか。

 市山:若手の助成金とか、映画大学とかがあったりするんで、どんどんいろんな人が出てきているのは間違いないですね。ただ、今年、記事を読むと、今までノーコントロールだったのが、政府がいろいろと言ってきそうだみたいな、不穏な感じになってるということは書かれていました。

 -政治的な問題があるから、この勢いがどっちに転ぶか分からないですね。

 市山:今まで見てると、本当によくこんなものに国がお金を出したなというような、明らかにシオニズムの引き起こした問題、今回の『山のかなたに』もそうですけど、よくこれで政府の団体がお金を出すよねと感心することが多いんですけど、最近やっぱりうるさくなってきたようです。

 -外国に出るイスラエル映画って、リベラルな監督たちのものが多いから、イスラエルの現実を、うまくオブラートにくるみつつも、批判的に描いているじゃないですか。 でも、彼らがその後、昔のメナハム・ゴーランのように、大きな商業映画に進出していく、みたいな感じにはならないですよね。

 市山:産業的に、こういう人たちがその後娯楽映画を撮ったりという風にはなってないですね。

 -アート系のまま?

 市山:アート系でずっとやっていくんじゃないですか。

 -そうすると、助成とか必要ですよね。

 市山:そうです。その点、今の助成金がないと行き詰まりますね。

 -イスラエル政府が口出ししてきたりすると、今の風潮は長く続かないかもしれないですね。

 市山:ちょくちょくそういうことを言う政治家が出てくる感じです。

●人間味が魅力「タイペイ・ストーリー」
 -今年のクラシック特集ですが。

 市山:今年はデジタル・リマスター版がたまたま沢山集まったんで、別に特集しようと思って特集したわけじゃないんです(笑)

 -バラエティに富んでますね。エドワード・ヤンはTIFFで『グーリンチェ』をやって、フィルメックスで『タイペイ・ストーリー』をやる。

 市山:これはボローニャの修復した映画を集めてやっている映画祭でプレミア上映されたものです。

 -侯さんが若くてびっくりです。

 市山:この辺のエドワード・ヤンは人間像が一番ナチュラルな感じ。彼の映画は、いい意味でも悪い意味でも人間像が作ったような感じがするけど、この映画はすごくリアルな感じのする人間達が出ている映画なんで、個人的にはすごく好きな映画なんです。

 -エドワード・ヤンは頭のいい人だから、作ってしまう。

 市山:それはそれで面白いんですが、この映画の場合、侯孝賢が出ているせいかもしれないけど、一番人間味がある。

 -侯さんが出たらそうならざるをえない(笑)。あと、キン・フーが2本。

 市山:これはたまたま松竹が配給権を買ったんで、『侠女』は数年前にカンヌ映画祭で上映されたもので最新のデジタルリマスターではなく、数年前なんですが。

 -『竜門の宿』をやるんなら、蔡明亮の『楽日』もやればいいのに。

 市山:あれは去年の蔡明亮特集でやったので。

●幻の「ザーヤンデルードの夜」
 -マフマルバフの『ザーヤンデルードの夜』はまったく知らない作品なんですが。

 市山:これは90年の作品で、すごく前でもないんですが、ネガが没収されて本当に幻の映画だったんです。ファジル映画祭で上映して、その時点で禁止になって、外国での上映もできませんというんで、ネガを没収されてたらしいんです。

 -それが出てきたんですか? さすがイラン、魔法のように出てきますね。

 市山:マフマルバフは"詳細は言えないが"と。

 -言ったら迷惑の掛かる人がいる?

 市山:結構いると思うんです。で、ネガが持ち出されて、今ロンドンに住んでいるんで、ロンドンで修復作業をやって。残念ながら一部音声がなかったりとか、欠けてる部分があるし、完全版にはほど遠いらしんですけど、ストーリーはちゃんとつながって見れるんで。

 -マフマルバフは今ロンドンですか。本当にノマドのようになっちゃいましたね。

 市山:パリにしばらくいて、今はロンドンです。

 -映画が撮れるところに行く、みたいな感じなんですか?

 市山:本当かどうか、本人が言ってるんですが、パリにいたら秘密警察につきまとわれたんで、危ないと思ってロンドンに行ったということでした。

 -パリでつきまとわれて、ロンドンでつきまとわれないという理屈もよく分からないですけど。

 市山:まあ、ロンドンは英語が通じるし、住みやすいと思いますね。

 -あと加藤泰さんの『ざ・鬼太鼓座』があって、特別招待作品が5本。

 市山:今年は去年の蔡明亮特集のような大きな特集が出来なかったんで、本数的には少ないんです。

 -そういえばそうですね。同じ日数?

 市山:日数的には同じなんだけど、去年の蔡明亮特集は終わってからもやってたし、エテックスの特集もアンスティテュ・フランセでリピートをしましたから。今回はそういう点で、期間中に純粋に終わるんで。

 -予算的にも同じ?

 市山:特集上映をやるには別予算というか、去年のように台湾文化センターが出してくれるとか、アンスティテュ・フランセが出してくれるとか、そういうことがない限りは、会場を広げるのがまず難しいですし。

 -去年から1年、いろんな映画祭に行かれて、映画を見て回られて、変わったこととか、突出してよくなっているところとか、ありました?

 市山:それはなかったですね。国によって面白かった映画はあったりするんですけど、特別新しいものが起こってるということはなかったです。

 -ニューウェーヴみたいなものはない?

 市山:今回はミャンマー映画といっていいかわからないけど、ミディ・ジーの映画をやるんですが、東南アジアからは、ぽつぽつといろんなところから出てきている感じはあります。タレンツ・トーキョーの応募者を見てみると、毎回毎回東南アジアの今までやってなかったところが増えていたりする。ここ数年ミャンマーから応募者が来たり、カンボジアから来たりとかしてきてるんで、そういうところから数年後くらいに、どんどん出てくるんじゃないかなという気はします。可能性はあると思うんです。
 カンボジアはリッティー・パンが映画センターを作って、そこで映画教育とか始めてから、突然応募者が増えてきたりしているし、ミャンマーは今、いろんな企業が進出しようとしていて若干経済発展の途上みたいな感じがあるんで、もしかしたらそこに才能ある人が出てくるかもしれない。そういうきざしは感じるんですけど、具体的に凄い人が出てきたということにはまだ至っていないですね。

 -これから?

 市山:でしょうね。全体的に言うと、さっきのフィリピンの話じゃないんですけど、フィリピン映画って今新しいんで、いろんな映画祭でやってるけど、結局ラヴ・ディアスとメンドーサの二大巨頭がいて、なかなかそれを突破する人が出てきてない。あの二人は今撮り始めたわけじゃないですから。海外は最近発見したかもしれないけど。

 -アジア的にはラヴ・ディアスとメンドーサはすでに巨匠ですから。

 市山:それに続く人たちというのが意外に出てきてないような気がするんです。


 写真は市山尚三プログラム・ディレクター(11月7日、赤坂の東京フィルメックス事務局にて)

(齋藤敦子)
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