シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5・完)金熊賞に「息子の態度」/ルーマニアの腐敗描く

2013/02/18

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 今回は授賞式を待たずにベルリンを後にし、帰国してからニュースで受賞結果を知ったのですが、改めて映画祭の不思議さを思いました。

 金熊賞の『息子の態度』は、猛スピードで前の車を追い越そうとして飛び出してきた子供を轢き殺してしまった息子を救おうと奔走する過保護な母親の姿を描いたもの。建築家として成功し、ブルジョア階級に属する母親は、成人した息子に嫌われながらも、コネを活用して警察に圧力をかけ、証人を買収して証言を変えさせ、被害者の家族に見舞金を支払って示談で済ませようとします。

 監督のカリン・ペーター・ネッツァーが描こうとしたのは、民主化後の現代ルーマニア社会の腐敗でしょうが、子供を殺されて悲嘆にくれる被害者の親に「あなたには息子がもう1人いるが、私にはこの子しかいない」と言い放つ場面には本当に胸が悪くなりました。いわゆるルーマニア・ニューウェーヴに属する1本ですが、クリスティアン・ムンジウなどに比べると、ちょっと劣る気がします。

 審査員大賞と男優賞の『クズ鉄拾いの人生の1エピソード』は、ボスニア=エルツェゴビナの寒村に住むロマ人(ジプシー)の家族が主人公。クズ鉄拾いで貧しい家計を支えている夫が、妊娠中の妻のお腹の子供が死んでしまい、保険もなく、手術の費用を捻出するために奔走する姿を描いています。出演しているのは俳優ではなく、本物のロマ人の家族で、まるでイタリアのネオリアリズムを思わせる作品ですが、エミール・クストリッツァの映画に登場する猥雑でバイタリティーに溢れるロマ人とは別人のように清廉な家族に違和感を覚えたのも事実です。

 監督賞の『プリンス・アヴァランチ』は、山火事で燃え尽きた地帯で道路を補修する仕事を引き受けた男(ポール・ラッド)が、別れた恋人の弟(エミール・ハーシュ)と一緒に過ごす夏を描いた作品。よく出来たインディーズ映画ですが、ベルリンのコンペというより、サンダンス映画祭あたりの方が向いている気がしました。

 今年の拾いものだったカザフスタンのエミール・バイガジン監督『ハーモニー・レッスン』は、いじめにあった少年が、いじめっ子の少年を殺してしまうまでをミニマルなスタイルで描いた寓話的な作品で、撮影監督が芸術貢献賞を受けました。

 次点になった『レイラ・フォーリー』は、嘘発見器の講習を受け、人材採用の試験官になったシングルマザーのレイラ・フォーリーが、最初の任地に向かう途中、交通事故で人を殺してしまい、自分自身が嘘をつく立場になって起こるドラマを描いたもの。女性監督のピア・マライスはドイツ人ですが、生まれ故郷の南アに戻って撮った作品で、テーマはとても面白かったものの、演出に物足りなさを感じました。

 コンペ部門で私が最も好きだったのは、ホン・サンス監督の『誰の娘でもないヘウォン』でした。主人公はヘウォンという女子大生で、不倫中の映画監督との関係を清算し、米国で教授をしている男との結婚を考えるものの、やっぱり元の鞘に戻ってしまう、というお馴染みのストーリー。ホン・サンス映画の面白さはストーリーにあるのではなく、その語り方にあり、立場や状況の差で生じる違いを楽しむような作りになっています。今回も主人公がソウル郊外にある南韓山城に2度ハイキングに行くのですが、1度目と2度目では登場人物たちの関係がまったく違ってみえるのが、さすがホン・サンスだと感心しました。

 写真は「息子の態度」の1シーンです。
●コンペ部門受賞結果

金熊賞:『子供の態度』

    監督カリン・ペーター・ネッツァー(ルーマニア)

審査員大賞:『クズ鉄拾いの人生の1エピソード』

    監督ダニス・タノヴィッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

アフルレッド・バウアー賞:『ヴィク+フロは熊を見た』

    監督ドゥニ・コテ(カナダ)

監督賞:デヴィッド・ゴードン・グリーン

    『プリンス・アヴァランチ』(アメリカ)

女優賞:パウリーナ・ガルシア

   『グロリア』監督セバスチャン・レリオ(チリ)

男優賞:ナジフ・ムジッチ

   『クズ鉄拾い―』監督ダニス・タノヴィッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

脚本賞:ジャファル・パナヒ

  『閉じたカーテン』監督ジャファル・パナヒ&カンボズィヤ・パルトヴィ(イラン)

芸術貢献賞:アジズ・ザンバキエフ

 『ハーモニー・レッスン』監督エミール・バイガジン(カザフスタン)の撮影に対して

次点:『約束の土地』監督ガス・ヴァン・サント(アメリカ)

次点:『レイラ・フォーリー』監督ピア・マライス(南アフリカ&ドイツ)

(齋藤敦子)

(4)女優賞に最も近いパウリーナ・ガルシア

2013/02/14

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 11年ぶり2度目のベルリンなので例年のレベルがわからないのですが、友人の話によればコンペ部門は昨年より若干低調だということです


 映画祭前半で批評家の評価が最も高いのは、チリのセバスチャン・レリオの『グロリア』です。主人公は、夫と離婚し、子供も成人して手を離れ、独りで生活している58歳のグロリア。夜な夜なシングルバーで男を漁るグロリアの前に、7歳年上のロドルフォが現れます。

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 グロリアは彼との交際を次第に真剣に考えるようになるのですが、ロドルフォは離婚した妻と娘たちといまだに同居しており、肝心なときに決まって携帯で呼び戻されるのです。豪を煮やしたグロリアは、ついに...、というストーリー。監督によれば、チリの現実を反映したものだそうです。迫りくる老いを意識しながら、人生にもう一花咲かせようと必死なグロリアを見事に体現したパウリーナ・ガルシアの演技が素晴らしく、女優賞候補の最右翼でしょう。

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 映画祭が後半に入った2月12日に、今年の期待の2本、ジャファル・パナヒ&カンボズィア・パルトヴィの『閉じたカーテン』と、スティーヴン・ソダーバーグの『副作用』の上映が行われました。


 『閉じたカーテン』の主人公は、秘かに犬を飼うために、海辺の別荘にやってきた男(カンボズィア・パルトヴィ)。カーテンを閉め切って隠遁生活を始めたものの、犬のトイレの砂を変えに外に出た隙に警察に追われた兄妹が逃げ込んできて...、という風に進んでいきます。


 別荘に隠れ住む男とは、もちろんパナヒの現状を反映した設定で、彼がどうしても手放せない犬とは、パナヒにとっての創作活動のことでしょう。中盤になって映像が(文字通り)反転すると、パナヒ自身が画面に登場し、そこからフィクションと現実の境界がさらに複雑に入り乱れていきます。


 『副作用』は、新進気鋭の精神科医(ジュード・ロウ)が、自分の処方した薬の副作用で、精神不安定な若妻(ルーニー・マーラ)が夫を殺すという事件が起き、社会的な信用を失ってしまうのですが、やがて事件の裏に隠された真相に気づいて...、というクライム・サスペンス。ソダーバーグのテンポのよい演出で面白く見せるのですが、完全な商業映画なので、コンペ作品としては、ちょっと食い足りない気がしました。

 

 写真(上)は、会場のテレビで『閉じたカーテン』の記者会見の中継を見入るプレス関係者。

 写真(中)は「グロリア」の1シーン。

 写真(下)は、主会場ベルリナーレ・パラストの外で、パナヒの出国が認められなかったことに対して支援者が抗議活動を行っているところです。

(齋藤敦子)

(3)フォーラム部門に「先祖になる」/日本に縁深いベルリン

2013/02/13

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 ベルリンは日本映画と関係の深い映画祭で、特にパノラマ、フォーラムの部門で若手の作品が数多く紹介されてきました。


 今年エントリーした日本映画は、残念ながらコンペ部門にはゼロでしたが、コンペの短編部門に、津谷昌弘の『定常と非定常の狭間』、仲本拡史の『無言の乗客』、川本直人の『ウズシオ ―セト・カレント―』の3本、フォーラム部門に池谷薫の『先祖になる』、舩橋淳の『桜並木の満開の下に』、鶴岡慧子の『くじらのまち』の3本と、木下惠介作品が5本、ジェネレーション部門の長編に中野量太の『チチを撮りに』、短編に平林勇の『NINJA & SOLDIER』の2本。他に、特別招待作品として山田洋次の『東京家族』、ベルリン・クラシック部門で、山田作品の元となった小津安二郎の『東京物語』が上映されます。

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 写真上は、マーケット会場マルティン・グロピウス・バウにある日本のブースの模様。

 写真中は、短編コンペの津谷昌弘監督。『定常と非定常の狭間』は、映像付きのパフォーマンスのために作った作品とのこと。今年45歳、遅咲きの津谷さんの初監督作です。

 写真下は、2月10日夜、『くじらのまち』の上映前に満席の観客に挨拶する監督の鶴岡慧子さん。『くじらのまち』は立教大学の卒業制作で、昨年のぴあフィルム・フェスティバルでグランプリを獲り、プサン映画祭のコンペティション部門に選ばれた作品。鶴岡さんは、現在も東京芸大大学院に在学中です。

(齋藤敦子)

(2)経済の壁が世界を支配する

2013/02/13

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 コンペ出品されたガス・ヴァン・サントの『約束の土地』は、主演のマット・デイモンが共演のジョン・クラシンスキーと脚本を書き、自分で監督する予定だったのを、準備に割く時間が足りず、急遽ガス・ヴァン・サントに監督を依頼したもので、『グッドウィル・ハンティング』と同じ方式で作られた新作です。

 物語は、天然ガス会社に雇われ、土地を買い上げる仕事を引き受けたスティーヴ(マット・デイモン)が、掘削作業で注入される化学薬品の危険性を隠して村人の合意を得ようとするが、彼の前に環境保護活動家の男(ジョン・クラシンスキー)が現れて反対キャンペーンを展開し、農場育ちのスティーヴのモラルを揺さぶる、というもの。熱血漢のデイモンらしい社会派映画ですが、主人公の男と環境保護活動家が小学校の女性教師を挟んで恋のライバルになるというエピソードなどは、さすがにハリウッドで経験を積んだデイモンらしいと思いました。

 一方、ロシアからコンペにエントリーしたボリス・フレブニコフの『長く幸せな人生』は、土地を売って借金を返済し、実りの少ない農業に見切りをつけて町で新たな生活を始めようとする集団農場のリーダーの青年が、仲間の反対に遭ってジレンマに陥る姿を描いた作品でした。

 東西の壁が消え、政治的な対立がなくなった今、世界を支配している壁は、政治ではなく経済にある。それが持てるものと持たざるものの間にある壁であり、その壁はどんどん高くなっている。『約束の土地』も『長く幸せな人生』も、アメリカとロシアという国の違いこそあれ、本来なら最も大切にされるべき人間の生命の根幹を握る農場に従事している人たちが、実は階級格差の一番の犠牲になっていることを示しているように思いました。

 写真は「約束の土地」の1シーンです。
(齋藤敦子)

(1)仙台での上映もあるジェネレーション部門/ベルリン開幕

2013/02/11

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 第63回ベルリン国際映画祭が、2月7日の夜、今年の審査員長ウォン・カーウァイ監督の最新作で、トニー・レオン、チャン・ツィイー主演のアクション映画『グランドマスター』の上映で開幕しました。私にとってのベルリンは11年前に1度来ただけの縁遠い映画祭だったのですが、今回は早くからお誘いを受けたので、思い切って2度目の体験をしてみることにしました。

 最初に驚いたのは上映作品が格段に増えていること。16日の授賞式まで実質8日間の会期で(映画は17日まで上映)、コンペ作品が18本もあり、これは1日3本ずつ見ないと消化できない数です。そのうえ、パノラマ、フォーラムという有名なサブ部門が2つあり、それぞれ50本あまりの作品が上映されますし、3月に第1回ベルリン映画祭 in仙台として、仙台の2か所の会場で一部の作品が上映されることになったジェネレーション部門や、レトロスペクティヴ部門、少数民族の映画や食に関する映画を集めた部門などもあり、見る映画をよほどしっかり選択しないと"映画の森"で迷子になってしまいそうです。

 今年、金熊賞を競うコンペ作品は、ガス・ヴァン・サントの『約束の土地』、スティーヴン・ソダーバーグの『副作用』、3部作の最後を飾る、ウルリヒ・ザイドルの『パラダイス:希望』など。中でも一番の話題作は、テヘランで軟禁状態にあるジャファル・パナヒが、カンボズィヤ・パルトヴィと共同監督した『閉じたカーテン』です。

 パナヒが突然イラン当局に拘束され、長期の拘留の末にやっと解放されたものの、創作活動を禁止された事件とその経過については、この欄でも何度か触れました。『これは映画ではない』という"映画"を撮って抵抗したパナヒですが、今回の作品は、真正面から当局に逆らって作った映画なので、当然のことながらパナヒの出国が認められず、映画祭に出席できないことが大きなニュースになっています。

 写真、コンペ作品の上映が行われるメイン会場のベルリナーレ・パラストです。

(齋藤敦子)
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