シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5・完)12年かけて成長を追う/監督賞に「少年期」のリチャード・リンクレイター

2014/02/18

2014berlin_p_05_01.jpg 15日の夜、授賞式が行われ、既報の通り、黒木華さんが女優賞を獲得、審査員のクリストフ・ヴァルツからトロフィーを授与されました。2010年に若松孝二監督の『キャタピラー』で同賞を受けた寺島しのぶさん以来4年ぶり、日本の俳優としては4人目の受賞です。

 今年の審査員はアン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』などのプロデューサー、ジェームズ・シェイマスを長として、監督のミッシェル・ゴンドリー、俳優のトニー・レオン、クリストフ・ヴァルツら8名。気になったのは主催国のドイツ人が一人もいないことで(ヴァルツはオーストリア人)、4本をコンペにエントリーしたドイツに多少不利だったのではないかと思いました。

 金熊賞の『白日焔火』は、炭坑の町で起こったバラバラ殺人事件を捜査する刑事と、事件の鍵を握る女との関係を描いたもの。映画は普通の謎解きミステリーのようには進んでいかず、中国の地方都市の閉塞感を描くことが監督の意図だったように思いました。中国映画はもう1本、南京のマッサージ院で働く盲人たちを描いたロウ・イエ監督の『推拿』で、"盲人のヴィジョン"を映像で表そうとした撮影監督のツォン・ジエンに芸術貢献賞が贈られました。

2014berlin_p_05_02.jpg 今年6月で92歳になる名匠アラン・レネ監督の『愛し、飲み、歌い』は、93年の『スモーキング/ノースモーキング』、06年の『六つの心』に次ぐアラン・エイクボーンの戯曲の3度目の映画化(戯曲のタイトルは『ライリーの人生』で、フランス語のタイトルはシュトラウスのワルツから)。"ジョージ・ライリー"という共通の友人をめぐって、3組のカップルの過去の恋愛関係や、それぞれの思惑が明らかになっていくという喜劇です。レネは、書き割りのようなセットを使って、芝居のようでもあり、現実のようでもある摩訶不思議な世界を生み出していました。

 監督賞のリチャード・リンクレイター『少年期』は、一人の少年の5歳から18歳までを、実際の少年の成長に合わせて12年かけて撮影した作品。主人公の少年をイラー・コルトレーン、父をイーサン・ホーク、母をパトリシア・アークェット、姉をリンクレイターの実娘ローレライが演じています。物語は完全なフィクションですが、実時間の持つドキュメンタリー的な要素が加わって、とても面白い映画になっていました。こんな仰天のアイデアを思いつくだけでなく、実際に映画に撮ってしまうリンクレイターには本当に脱帽です。

 今年のコンペ部門は本数が多かったわりにレベルが低かったように思います。リンクレイターの『少年期』を始め、ドイツ映画の『ジャック』、オーストリア映画の『マコンド』、アルゼンチン映画の『第三の川岸』(ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督の『第三の岸辺』とは無関係)など、思春期の少年を主人公にした作品が目立ったなかで、最年長のアラン・レネが最も若々しく、最も大人の映画を見せてくれたことに感動しました。

 写真上は、芸術貢献賞を受賞したロウ・イエ監督『推拿』の記者会見のときの模様。
 写真下は、監督賞のリチャード・リンクレイター監督です。


【受賞結果】
●コンペティション部門
金熊賞(作品賞):『白日焔火』ディアオ・イーナン監督(中国)
銀熊賞 審査員大賞:『グランド・ブタペスト・ホテル』ウェス・アンダーソン監督(米国)
アルフレッド・バウワー賞:『愛し、飲み、歌い』アラン・レネ監督(フランス)
監督賞:リチャード・リンクレイター『少年期』(米国)
女優賞:黒木華 『小さいおうち』山田洋次監督(日本)
男優賞:リャオ・ファン『白日焔火』(中国)
脚本賞:ディートリヒ・ブリュッゲマン、アンナ・ブリュッゲマン
『十字架の位置』ディートリヒ・ブリュッゲマン監督(ドイツ)
芸術貢献賞:ツォン・ジエン ロウ・イエ監督『推拿』の撮影に対して

●ジェネレーション部門(子供審査員による)
クリスタル・ベア賞:『砦』アビナシュ・アルン監督(インド)
次点:『人の望みの喜びよ』杉田真一監督(日本)

●国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)
コンペティション部門:『愛し、飲み、歌い』アラン・レネ監督(フランス)
パノラマ部門:『彼の見方』ダニエル・リベイロ監督(ブラジル)
フォーラム部門:『FORMA』坂本あゆみ監督(日本)

(齋藤敦子)

(4)即興演技、流れる時間そのままに/「FORMA」が国際映画批評家連盟賞

2014/02/17

2014berlin_p_04_01.jpg 14日夕、コンペ部門以外の賞から発表が始まり、坂本あゆみ監督の『FORMA』が国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI)を受賞しました。坂本監督にとっては昨年の東京国際映画祭日本映画スプラッシュ賞に続く受賞です。

 フォーラム部門で上映された『FORMA』は、街角で再会した高校時代の友人2人の関係が思いがけない方向へ発展していく、というストーリーは一応あるのですが、俳優には場面の設定と鍵となる言葉を与えただけで、ほぼ即興で演技をさせ、カメラの前に展開する生々しい時間を記録した、非常に先鋭的な作品でした。2時間25分という長さを、「観客に媚びずに作ろうと思った結果、1フレームも切るつもりはない」と言い切る坂本監督は、頑固で頼もしい新人です。

2014berlin_p_04_02.jpg 同14日夜にはコンペ部門の最後を飾って、山田洋次監督の『小さいおうち』の正式上映がありました。この作品は現在公開中なので、ご覧になった方も多いと思います。原作は中島京子氏の直木賞受賞作で、戦前、山形から東京の玩具会社の重役の家に奉公に来た女中(過去が黒木華、現在が倍賞千恵子)の目を通して、若奥様(松たか子)の不倫を描いた作品。山田洋次監督が"書店で本を買い、読んですぐ映画化しようと思った"ほど、惚れ込んだ小説です。記者会見で監督は映画化の意図を「自分は戦争中の生活を知っている最後の世代で、それを今の人に伝えたいと思った」と言い、「現代の日本には世代間のギャップがある。今の日本の指導者は戦争を知らない世代で、悲劇的な戦争の教訓を学んで生きているのか、不安でならない」と語っていました。

 15日夜の授賞式でコンペ部門の賞が発表になり、主演の黒木華さんが女優賞を受賞しました。この賞は山田洋次監督の演出を含めた作品全体が評価された結果だと思います。

 写真上は12日夜、『FORMA』上映後のQ&Aの模様で、右から坂本あゆみ監督、主演の梅野渚さん、松岡恵望子さん。
 写真下は14日夕、『小さいおうち』のプレス上映後に開かれた記者会見での山田洋次監督と黒木華さんです。

(齋藤敦子)

(3)若い世代と「震災」/杉田監督の「人の望みの喜びよ」

2014/02/14

2014berlin_p_03_01.jpg 映画祭の中日にあたる11日に、震災をテーマにした日本映画が2本上映されました。ジェネレーション部門の『人の望みの喜びよ』と、パノラマ部門の『家路』です。

 ジェネレーション部門というのは、青少年向けの作品を集めたセクションで、上映会場には学校参観の小学生が大勢詰めかけ、上映後のQ&Aにも積極的に参加しているのが微笑ましかったです。

 杉田真一監督の『人の望みの喜びよ』は、震災で両親を失った少女が、両親を救えなかった罪悪感と、何も知らない弟への責任感で悩む姿を描いた作品。主人公が観客と同年代であり、主人公の視点でシンプルに描かれていることがこの部門向きと評価されたようです。ただし、撮影は被災地ではなく雲仙で行われており、具体的な地域を特定するのを避けています。

2014berlin_p_03_02.jpg パノラマはコンペを補完する、カンヌのある視点にあたる部門です。久保田直監督の『家路』は、長い間失踪していた弟が、原発事故で立入禁止区域に指定された故郷の家に舞い戻り、見捨てられた田を耕し始めたことがきっかけで、バラバラになっていた家族が再生していくというストーリー。兄を内野聖陽、弟を松山ケンイチが演じています。上映後のQ&Aでの印象では、フクシマへの関心ももちろんですが、日本映画好きな観客が多く来ていたようで、昔から日本映画を数長く紹介してきたベルリンらしいと思いました。

 写真上は『人の望みの喜びよ』の上映後のQ&Aで観客の質問に答える杉田真一監督。
 写真下は『家路』の上映後に行われた取材の模様で、記者からの質問に答える久保田直監督と内野聖陽さんです。

(齋藤敦子)

(2)女性の性の遍歴描く/ラース・フォン・トリアーの「ニンフォマニアック」

2014/02/12

 ベルリンの出品作の多さについては去年のレポートでお伝えしましたが、今年はコンペの本数がさらに増え、ウェス・アンダーソンのオープニング作品を含めて21本もあります。その内訳は、既報の山田洋次監督『小さいおうち』を始め、今年92歳の名匠アラン・レネ監督の『ライフ・オブ・ライリー』、ジョージ・クルーニー監督の『ミケランジェロ・プロジェクト』、リチャード・リンクレイター監督『少年時代』など。国別では、主催国のドイツが4本で最多ですが、中国がロウ・イエ監督の『推拿』を含めて3本をエントリーして続いています。

 どの映画祭も最初の週末に一番の目玉を上映することになっていますが、ベルリンでも8日と9日に今年最大の話題作が2本登場しました。1本はジョージ・クルーニーの監督作『ミケランジェロ・プロジェクト』、そしてもう1本がラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック』です。

 『ミケランジェロ・プロジェクト』(原題は『モニュメンツ・メン』)は、第二次大戦末期、ナチスが略奪した美術品を戦争の破壊から救うために結成された"モニュメンツ・メン"と呼ばれる特殊部隊の活躍を描いた作品で、ロバート・M・エドゼルのベストセラー<ナチ略奪美術品を救え>の映画化。リーダー役にクルーニー自身が扮し、仲間に加わる美術の専門家をマット・デイモン、ビル・マーレー、ジョン・グッドマン、ジャン・デュジャルダンら豪華キャストが演じ、映画祭の期待通り、クルーニーを始め、マット・デイモン、ビル・マーレーらがレッドカーペットに登場し、集まったファンを喜ばせてくれました。

 ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』は、ある女性の性の遍歴を描いた作品で、『アンチクライスト』、『メランコリア』に次ぐ"不安の3部作"の最終章。1部2部合わせて5時間を超える大作で、すでにヨーロッパで公開済なのでコンペにエントリーせず、第1部のディレクターズ・カット版(2時間25分)が特別上映されました。

 セックスに取り憑かれた娘という内容もスキャンダラスですが、トリアーがカンヌの棕櫚のマークの下に"ペルソナ・ノングラータ"と書いたTシャツを着てフォトコールに現れたのにもびっくりでした。2011年のカンヌで、『メランコリア』の記者会見での発言(ヒトラーに親近感を感じる)をめぐって騒動になり、カンヌ映画祭が彼を"ペルソナ・ノングラータ"として処分した経緯については、この欄でも紹介しました。いまだに本気でカンヌを恨んでいるのか、スキャンダルを提供してベルリン映画祭を盛り上げてやろうというサービス精神なのかは判断に苦しむところですが、これ以上の舌禍事件を予防するためか、トリアー本人は記者会見に現れませんでした。

ベルリン国際映画祭公式サイト

(齋藤敦子)

(1)小津、衣笠、山田・・。/日本映画を多様に楽しめる年に

2014/02/10


2014berlin_p_01_01.jpg 2月6日から第64回ベルリン国際映画祭が開催されています。今年のオープニングはウェス・アンダーソンの新作『グランド・ブタペスト・ホテル』。第二次大戦前の由緒ある豪華ホテルを舞台にした作品で、主演のレイフ・ファインズ始め、ティルダ・スウィントン、ジェフ・ゴールドブルムら豪華なキャストがレッドカーペットに登場し、会場を盛り上げたようです。

 今年はコンペティション部門に山田洋次監督の『小さいおうち』がエントリーし、話題になっていますが、他にも、短編コンペ部門で水江未来監督の『WONDER』と水尻自子監督の『かまくら』の2本のアニメ作品、パノラマ部門で久保田直監督の『家路』、フォーラム部門で坂本あゆみ監督の『FORMA』、ジェネレーションKplus部門で杉田真一監督の『人の望みの喜びよ』、ジェネレーション14plus短編部門で2014berlin_p_01_02.jpg平林勇監督の『SOLITON』と大須賀政裕監督の『リゾーム』が上映されます。

 今年は最新作ばかりでなく、日本映画の古典的名作も数多く紹介され、日本映画を幅広く楽しめる年になりました。まず、クラシック部門ではデジタル修復によって蘇った小津安二郎監督の『秋日和』がプレミア上映されますし、宮尾大輔氏がアメリカで出版した<Aesthetics of Shadow(陰の美学)>という日本映画に関する著作にヒントを得た回顧特集では衣笠貞之助監督の『十字路』や田坂具隆監督の『五人の斥候兵』といった歴史的名作が上映されます。また、フォーラム部門では、昨年11月に東京フィルメックスで上映された英語字幕付きの35ミリニュープリントで、『我が家は楽し』、『土砂降り』、『夜の片鱗』の3本が上映されます。

 写真上は主会場のベルリナーレ・パラスト。いつもはミュージカルを専門に上映する劇場ですが、映画祭期間中は会場に入るスターを見ようと、多くのファンが詰めかけます。
 写真下は8日夜、『土砂降り』の上映前に挨拶されるご子息の中村好夫氏。日本以外の国で中村登作品が3本同時に上映されるのは初めてとのことです。

ベルリン国際映画祭公式サイト

(齋藤敦子)
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