シネマに包まれて-映画祭報告

presented by 河北新報

(5・完)反骨の人、パナヒ監督の「タクシー」に金熊賞

2015/02/16

2015berlin_p_05_01.jpg 14日の夜、授賞式が行われ、ジャファル・パナヒ監督の『タクシー』が金熊賞を受賞しました。パナヒ監督としては2013年に『閉ざされたカーテン』で脚本賞を受賞したのに続く受賞です。2010年にイラン当局に反政府活動を支持したという理由で逮捕拘束され、現在も映画製作や国外への移動に制限を受けている監督は今回もベルリンに来られず、代わって監督の姪がトロフィーを受けました。映画製作を禁じられたら『これは映画ではない』という映画を撮る、援助が受けられなければ低予算での映画作りを模索する、権力に屈しない反骨の人、パナヒ監督の受賞を心から喜びたいと思います。

 また『タクシー』と並んで評価の高かったアンドリュー・ヘイ監督の『45年』の両ベテラン俳優が男女優賞を分け合いました。

 私が好きだった中南米の3作品がそれぞれ賞に絡んだのは嬉しかったものの、監督賞と芸術貢献賞がそれぞれダブル受賞となったり、受賞作が多い印象があるのは、今年のコンペ部門に飛び抜けて強い作品がなく、審査が割れたことを表しているように思います。

2015berlin_p_05_02.jpg SABU監督の『天の茶助』は"望めば運命は変えられる"という映画のメッセージは好意的に受け入れられたものの、コンペの力作と並ぶと少し見劣りがしました。SABU監督はまだコンペ初挑戦ですし、次回に期待したいと思います。

 『天の茶助』と同じ最終日に上映されたベトナムのファン・ダン・ディ監督『大きい父さん、小さい父さんとその他の物語』を面白く見ました。90年代末のサイゴンを舞台に、写真を学ぶ学生がルームシェアする美青年を好きになってしまうという物語。ファン監督は『ノルウェイの森』のトラン・アン・ユン監督より14歳若く、フランスに移住し映画を学んだトラン監督と違って、ハノイで映画を学んだ方ですが、映像が非常に洗練されているのに驚きました。ベトナム・ニューウェーブを代表する監督だそうで(ベトナムにニューウェーブがあるのも初耳でした)、男男女の三角関係がリリカルに描かれ、ちょっとアピチャッポン・ウィーラセタクン監督を連想しました。賞は逸しましたが、次の作品をぜひ見てみたいと思わせる新しい才能の発見でした。

 写真上は『天の茶助』の記者会見の模様で、左から市山尚三プロデューサー、茶助の運命の人を演じた大野いとさん、SABU監督、主演の松山ケンイチさん。

 写真下は『大きい父さん、小さい父さんとその他の物語』の記者会見で、左から監督の分身である主人公の学生を演じたレ・コン・ホアンさん、ファン・ダン・ディ監督、1か月で7キロ減量してバレリーナを演じたド・ティ・ハイ・エンさん。

【受賞結果】

金熊賞(最優秀作品賞):『タクシー』監督ジャファル・パナヒ(イラン)
銀熊賞 審査員大賞:『ザ・クラブ』監督パブロ・ラライン(チリ)
    アルフレッド・バウワー賞:『イクスカヌル火山』
                 監督ハイロ・ブスタマンテ(グアテマラ)
    監督賞:ラドゥ・ジュデ監督『アフェリム!』(ルーマニア)
        マルゴジャータ・シュモウスカ監督『体』(ポーランド)
    女優賞:シャーロット・ランプリング『45年』
               監督アンドリュー・ヘイ(イギリス)
    男優賞:トム・コートニー『45年』
    脚本賞:パトリシオ・グスマン『真珠貝のボタン』(チリ)
    芸術貢献賞:ストゥーラ・ブラント・グローヴレン
      『ヴィクトリア』監督セバスチャン・スキッパー(ドイツ)の撮影に対して
       エフゲニー・プリヴィン&セルゲイ・ミハルチュク
      『電気雲の下で』監督アレクセイ・ゲルマンJr(ロシア)の撮影に対して

(齋藤敦子)

(4)デジタル上映された「正義の記憶」/オフュルス監督にカメラ賞

2015/02/14

2015berlin_p_04_01.jpg 今年のベルリンで絶対に外せないと思ったのは、マルセル・オフュルス監督の『正義の記憶』というドキュメンタリーでした。ニュルンベルク裁判から30年後の1976年に製作されたこの作品は、裁判の被告となった戦争犯罪人、強制収容所に入れられた被害者、歴史学者、ジャーナリストなどに監督自らがインタビューし、さまざまな角度からの証言を集めて構成した276分に及ぶ大作です。1976年といえばベトナム戦争終結直後で、長くアメリカを苦しめたこの戦争についての証言も含まれており、ヒトラーとナチが起こした犯罪だけでなく、もっと広い意味での戦争犯罪をテーマにした作品と言えるでしょう。

 監督のマルセル・オフュルスは1927年生まれの現在88歳。父はドイツからフランスを経てハリウッドに亡命し、数々のメロドラマの名作を撮った名匠マックス・オフュルスです。マルセルは父と同じ劇映画には向かわず、ドキュメンタリーに才能を発揮。ヴィシー政権下のフランスで様々な理由からナチに協力した人々にインタビューした1969年の『悲しみと哀れみ』で有名になりました。

 私が初めて彼の作品を見たのは"リヨンの畜殺人"と呼ばれ、レジスタンスに関わった1000人以上のフランス人を強制収容所に送った責任者クラウス・バルビーを描いた『ホテル・テルミニュス』からで、知的でユーモアにあふれた彼の語り口にすっかり魅了されました。彼ほど知性と人間性と語学力を兼ね備えたドキュメンタリー作家は滅多にいないでしょう。2年前の2013年にはカンヌの監督週間で自身の自伝的ドキュメンタリー『ある旅人』が上映されており、それが今のところの最新作です。

 写真はデジタル修復された『正義の記憶』上映前に、映画祭ディレクターのディーター・コスリックからベルリナーレ・カメラ賞を受けるマルセル・オフュルス監督です。

(齋藤敦子)

(3)原発の矛盾、さらに深刻に/舩橋監督の「フタバから遠く離れて 第二部」

2015/02/13

2015berlin_p_03_01.jpg  映画祭の中日にあたる10日は、フォーラム部門で高橋泉監督の『ダリー・マルサン』のプレス上映、午後は動物公園駅に近いデルフィという古い映画館で舩橋淳監督の『フタバから遠く離れて 第二部』の上映とQ&A、夜はキュリナリー・シネマ部門で森淳一監督の『リトル・フォレスト』の上映と映画にちなんだ夕食会があり、ちょっとした日本映画デーになりました。

 『フタバから遠く離れて 第二部』は、原発事故で町が全面立入禁止の警戒区域になり、埼玉県の高校に避難した双葉町町民を追ったドキュメンタリーで、第一部の後から現在にいたるまでの3年間を追ったもの。第一部で原発推進派から原発反対派に変わっていった井戸川町長は、第二部では町議会と対立して辞任に追い込まれ、ささいな補償金の違いで、高校に避難した町民と仮設住宅に入居した町民との間で激しい対立が起こるなど、原発行政の矛盾と補償政策の矛盾に翻弄され、問題がさらに大きく、深刻になっていく様子が克明に描かれています。上映後のQ&Aでは、今の福島の現状や今の避難所生活から抜け出せない町民がいることに質問や疑問が出て、監督が熱心に答えていました。

2015berlin_p_03_02.jpg キュリナリー・シネマとは料理をテーマにした映画の部門で、上映後に映画からインスパイアされたディナーが楽しめる人気のイベントです。『リトル・フォレスト』は五十嵐大介の漫画の映画化で、東北にある架空の村"小森"を舞台に、都会から村に戻って自給自足の生活をしながら人生を立て直していく主人公いち子の春夏秋冬を、そのときどきの食べ物と共に描いた作品。後半の『冬/春』編が2月14日から公開されていますが、ベルリンでは夏と冬の2編が上映されました。撮影は岩手県奥州市で1年かけて行われ、東北の美しい自然と伝統的な和食がドイツの観客の目と胃を大いに刺激したことでしょう。 

 写真上は『フタバから遠く離れて 第二部』の上映前に挨拶する舩橋淳監督。

 写真下は『リトル・フォレスト』の上映前にドイツ語で用意した挨拶を読み上げる橋下愛さんと森淳一監督です。

(齋藤敦子)

(2)教会の暗部に迫る/ラライン監督の「ザ・クラブ」

2015/02/12

2015berlin_p_02_01.jpg 映画祭が中盤に入り、ここまでで評判のよい作品は、監督自身が運転手に扮し、タクシーに乗り込んでくる人々の悲喜こもごもを描いたジャファール・パナヒの『タクシー』、結婚45周年を前に、元恋人の遺体が氷河の中から発見され、心が揺れ動く夫を見て、人生の意味を考え直す妻を描いたアンドリュー・ヘイの『45年』ですが、加えて中南米の映画3本もそれぞれ面白く見ました。

 グアテマラの『イクスカヌル火山』は、火山の下でコーヒー豆を栽培して暮らしているマヤ族の娘が主人公。両親は財産のある男と結婚させようとするのですが、外の世界を知りたい娘は、村を出るという青年と付き合って妊娠してしまい、思いがけない形で願望が実現する、という物語。監督のハイロ・ブスタマンテはグアテマラ生まれの38歳。パリとローマで映画を学び、故郷を舞台にした映画で長編デビューを飾りました。

 チリのパトリシオ・グスマン監督の『真珠貝のボタン』は、白人の入植者に住む場所を奪われ、絶滅に追い込まれた先住民と、ピノチェト政権によって逮捕、拷問され、海に捨てられた1200人から1400人(正確な人数は不明)の犠牲者を、生命の源である水を切り口にして描いたドキュメンタリー。題名は、文明国イギリスへ連れていかれた先住民の少年の代償に使われたボタンと、海底から発見された軍事政権の犠牲者が身につけていたボタンから取られています。アタカマ砂漠に散ったピノチェト政権の犠牲者の骨を探す人々を描いた前作『光、ノスタルジア』の言わば続編的な作品でした。

 同じくチリの『ザ・クラブ』は、同性愛や子供の性的虐待で追放された司祭たちが暮らす施設を舞台に、新たな入居者が起こした波紋を描いた作品で、教会の暗部に切り込んだ問題作です。監督はピノチェト政権が崩壊するきっかけを作った国民投票キャンペーンを描いた『NO』でアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたパブロ・ラライン。題材が題材だけに好き嫌いの別れる作品でしたが、私は画面から発散される異様な迫力に圧倒されました。写真は記者会見の模様で、右から2人目がラライン監督です。

(齋藤敦子)

(1)巨匠、実力派の新作そろう/コンペにSABU監督の「天の茶助」

2015/02/10

2015berlin_p_01_01.jpg 第65回ベルリン国際映画祭が2月5日から開幕しました。今年の話題は何と言ってもヴィム・ヴェンダース、ウェルナー・ヘルツォークというドイツを代表する二大巨匠の作品が揃ったことでしょう。加えてテレンス・マリック、ジャファール・パナヒといったベルリンやカンヌで最高賞の受賞歴のある監督の新作が話題を呼びそうです。

 日本からはSABU監督の『天の茶助』がコンペにエントリー。ベルリンは日本との関係が深く、毎年、様々な日本映画が上映されています。SABU監督の作品もこれまで7本が紹介されていますが、すべてフォーラム部門が中心で、コンペには満を持しての登場になりました。昨年は山田洋次監督の『小さいおうち』で黒木華さんが女優賞を獲得しています。地元にファンの多いSABU監督の一風変わったファンタジーが、ダレン・アロノフスキー監督を長とする審査員にどのように評価されるか楽しみです。

2015berlin_p_01_02.jpg 今年のオープニング作品はスペインのイザベル・コイシェ監督の『誰も夜を望まない』。今は国際派女優と言っていい菊地凛子さんが、探検家の夫を捜しに北極にやって来たジュリエット・ビノシュを助けるイヌイット役で出演していましたが、土曜夜にコンペ外特別招待作品として上映されたビル・コンドン監督の『ミスター・ホームズ』にも、最近はハリウッドでの活躍が中心となった真田広之さんが出演していました。『ミスター・ホームズ』は、コナン・ドイルが創作した名探偵シャーロック・ホームズを主人公に、90才を越えた老ホームズが、遺恨を残した事件の真相を解き明かすというもの。真田さんは終戦直後の日本を訪れたホームズを原爆の傷跡の生々しい広島に案内する男を演じています。

写真上は、毎日公式上映が行われる主会場のベルリナーレ・パラスト。
写真下は、『ミスター・ホームズ』の記者会見の模様で、右から真田広之、ローラ・リニー、監督のビル・コンドン、子役のマイロ・パーカー、イアン・マッケランの各氏です。

(齋藤敦子)
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