第165話について

『第165話 政宗と氏郷』

前半部の輝宗―基信(プラス龍宝寺)―梵天丸の話はgaku-165-02-2.jpg『木村宇右衛門覚書』(小井川百合子編 新人物往来社 1997)が出典です。
お読みになりたい人は94頁の「轡から指が抜けなくなったこと龍宝寺日慶上人の祈祷」をどうぞ。

たった今まで私は龍宝寺と書くべきところを良覚院と誤っていたことに気が付かず、そのまま新聞に掲載してしまっていました。
今回の電子版で直しています。
仙台市博にも行って手で直してこないと。

馬の轡は見たところはちょっと知恵の輪に似ています。
この話に出てくる轡は名工の作だったそうです。
美しい細工の鉄が色んな形に動くので、gaku-165-04.jpg小さな梵天丸は遊んでいて楽しかったでしょう。
でも梵天丸は親指を挟んで抜けなくなり、輝宗が「仕方ない、親指を斬ろう」です。
最後に助かったので笑い話になっていますが、私が気になったのは輝宗の、もし梵天丸が右手の親指を失って左太刀になっても、采配さえできれば大将たり得るという発言。
輝宗の考える大将の仕事は刀を振るうことより「采配」なのですね。

これについては 第2話『その名』 で梵天丸に対する片倉小十郎のセリフにも反映させています。
うう、絵が今と雰囲気が違いますねえ。

資料から見える政宗は戦場であまり前線に立ちません。
戦を決するとまず前線に近い交通の要衝に本部を構えます。
摺上原の時には何事があっても無くても定時連絡の馬を飛ばさせていましたし、窪田合戦の時には「そちらの手紙は何日の何時に受け取った、今何時でこれを書いている」、といった、ほぼ回線つなぎっぱなしのような状態に入ります。
また、こういった連絡が可能なように、前もって街道の掌握に努めています。
総本部で情報を集めながら刻々と作戦を積み上げていくのが政宗のしごとで、自分で刀を振るうのは最後の最後。
じゃあ「うちの大将は前線に出てこないよなあ」とならないのは、政宗が矢継ぎ早に飛ばす手紙の力でしょう。
政宗は手紙の名手です。肉声が聞こえるかのような手紙です。


一方氏郷は、急激な出世で会津を拝領するにあたり、秀吉の許可を得て全国から癖のある優秀な浪人者を召し抱えます。
代々の恩顧も無い新参の家臣たちは、氏郷個人の実力でまとめ上げるしかありません。
これが氏郷亡き後の蒲生の命運にかかわってくるのですが...。
後の九戸出兵の時の布陣には、『真田丸』でよく知られるようになった叔父上の真田信尹や『のぼうの城』ののぼう様こと成田などの名があるのですが、福島県博物館蔵の「九戸出陣陣立書」をみると、与力の欄に書いてあります。完全な家臣というわけでもないのでしょうか。

マンガの左中の文字が小さいのでここにgaku-165-03.jpgも書いておきます。
蒲生氏郷というと向鶴の家紋を連想する人も多いでしょう。
小田原参陣の頃から三巴に変えています。
ここは『蒲生氏郷』(藤田達生 ミネルヴァ書房 2012)114頁最終行から図番頁をまたいで116ページ、「この時期、小田原遅参を理由とする下野小野市の改易により、蒲生氏は同氏に変わり藤原秀郷の嫡流となり、家紋を立鶴から三頭の左巴に変更した。」とあります。
紋が鶴か巴かは、氏郷の時代を示すうえでの大きなサインです。
小田原以降、政宗と出会い、会津を領している頃の氏郷は巴紋の氏郷です。

巴も太い細い、いろいろあります。
・細い方は、会津若松城出土の金箔瓦。
これをもとにした復元金箔瓦の大きな画像が『築城者 蒲生氏郷 鶴ヶ城天守閣再建五十周年記念』(平成27年度若松城天守閣郷土博物館企画課)の52頁にあります。
・太い巴は恵倫寺所蔵の蒲生賢秀座像。氏郷が父・賢秀の菩提を弔うために、京で作らせ、若松城下に建立した恵倫寺に奉納したもの。
この画像も説明も『築城者蒲生氏郷...』の、こっちは20頁にあります。
座像の胸に三巴が金泥で大きく描かれています。賢秀の時代はむしろ鶴だったと思われますが、氏郷の考える会津の蒲生は巴だったのでしょう。

ただし、この時代、紋などにはかなり細い太い、部品の数や位置など、かなり揺らぎがあります。今みたいに「このデータ使ってください」ではないのです。
それに、前の紋の入っている道具類を全部捨てたりしませんよね。

調べたうえで、納得したら、マンガの都合に合わせて使っています。
今回はこの坐像の、太い方の巴を描き起こして背景に入れました。
細い方では文字と被ったときに判別しにくいと思ったからです。

もひとつ書いておこう。
蒲生氏郷についてはミネルヴァ書房の『蒲生氏郷』と同名の『蒲生氏郷』(今村義孝 読み直す日本史シリーズ 吉川弘文館2015)を頼りにしました。
どちらも2010年以降の出版で、こういう一般書と研究書の中間の、読みやすくて2000円台の本があることは本当に助かります。