第179話について

『第179話 大航海・大征服時代』

文字と地図の回です。
時々こういうのが入るのですが、私は自分が読むときにはこういうのがあったほうが楽なのです。
コロンブスのアメリカ到達から日本の「鉄砲伝来」までほぼ50年とか、なんか時代のイメージがわきませんか。

「朝鮮出兵」と言われますが、当初秀吉が侵略しようとしていたのは明で、その経路として朝鮮に「協力」を要求したものの、拒否したので武力で押し通ろうとした、という流れです。


オルテリウス、メルカトル、マテオ・リッチ

上の3つは人の名前です。
丸い地球を平たい地図としてどういう風に表現すべきか、地図表現の歴史について私は地理の時間に習った記憶がありますが、今のカリキュラムではどうなのかな。
有名なのはメルカトル図法のメルカトルでしょう。でもその前にオルテリウスがいます。メルカトルはオルテリウスの技法をもとにメルカトル図法を作ります。

秀吉が明やインドを征服しようとするにあたり、gaku-179-01.jpgどんな世界地理をイメージしていたのかを考えてみました。
だって遠いか近いか、広いか狭いかもわからないでは戦の計画も立てられないでしょう。
手がかりは、天正少年使節が世界地図をお土産に持ってきたということです。
とすると、当時の最新世界地図はこれだな、と、1570年発行のオルテリウスのアジア図を出してみました。
原図はもっと川や山が入っているのですが、上にト書きを入れると読みにくくなるので省いています。
注目すべきは、朝鮮が半島として認識されていないことです(同じくオルテリウス、1595年発行の地図では、半島でなく島として表されます)。

地図作成は現地に行った証人や宣教師...だいたい行動エリアが一緒です...からの情報に基づきますので、キリスト教の進出が進んでいない地域の形は精度が低くなってしまいます。

こういうイメージで海を渡った日本の武将たちは、朝鮮半島が大きいという決定的な誤算の中で戦いを始めます。

なお朝鮮の地図は文禄・慶長の役の後にはぐっと詳しくなります。
日本の将兵には宣教師たちが同行しているのです。地図に拠って戦い、戦場での情報が地図にフィードバックされます。

もう少し後の1602年、マテオ・リッチの『坤輿万国全図』になると、今のものとほぼ変わらない世界地図ができてきます。マテオ・リッチはイタリア生まれのイエズス会の宣教師で、現地の文化に溶け込みつつ布教と教育をつづけ、明の宮廷に入って中国名も持っています。

世界地図が目覚ましく発達してゆく背景には、それを必要とする人たちがいます。
地図を頼りに人々が世界に出てゆく時代に、秀吉がいて、政宗がいます。


名護屋での大名配置

この図は「諸大名陣屋の分布状況」 戦争の日本史16gaku-179-02.jpg『文禄・慶長の役』(中野等 2008 吉川弘文館)をトレスしたものです。
専門書ですが、興味がある人はぜひ原典をお読みください。
陸地の形はJAXAの衛星写真をもとにして、明らかな人工物と人口地形を、なるべく原型を想像しながら海岸線を作っています。それで上記の原図からずれが生じています。

スマホではとても読めないでしょうから、図版の中の名前を挙げます。
東北勢では政宗の他に佐竹義宣、相馬義胤、南部信直、津軽為信が見えます。最上義光もいるはずですが、場所がわかりません。
前足利将軍の足利義昭、旧主織田信長の息子である信雄の名も見えます。

この大きさではとても名をあげきれませんでした。それもふくめ、原書をおすすめします。

なお、政宗と成実の後ろにちらっと見えているのは、『肥前名護屋城図』に出てくる安宅船です。これは特別展伊達政宗ー生誕450年ーで展示されていました。

マンガの流れでは、このあと安宅船VS亀甲船の艦隊大海戦シーンを書くつもり満々だったのですが、太田秀治さんにいくつか本を紹介していただき、ご教示頂いたことをいろいろ考えて断念しました。
わかったうえで、描かないことを選択できるというのは、ありがたいことです。
太田さん、ありがとうございます。御礼申し上げます。
なおマンガに直接は出てきませんが、太田さんの『朝鮮の役と日本城郭史の研究』(2008 清文堂)、シリーズ東北の歴史『東北近世の胎動』(2016 高橋充編 吉川弘文館)の中の「朝鮮出兵と奥羽の城郭」も、次代を思い描く手がかりになりました。

『東北近世の胎動』は値段も2400円と手ごろ。おすすめおすすめ。



亀甲船は日本軍を敗退に導いたスーパー戦艦隊、というイメージがあったのですが、最近の研究では随分、特に数が、違うようです。
ちなみに、私が想像していた亀甲船は、大空魔竜ガイキングのようなものでした。
えーとガイキングは通じますでしょうか?