短歌(4/21掲載)

【佐藤 成晃 選】

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言ったとか聞かないとかの諍(いさか)いを重ね老いゆく笑点二人  (石巻市渡波町・小林照子) 

【評】「老い」の具体的な表現で読者を引き付けておいて、最後を人気テレビ番組「笑点」の語でしめくくる面白さに一読者として感動した。老いて記憶力が衰えたことから始まる家庭内喜劇は、どこにでもあること。それを「老い」の当然として受けいれながら、しかもその「老い」をもう一人の自分が見て「笑点」と結びつけたその力はみごとです。原作は3句目が「争い」でしたが「諍い」に直してみました。

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平成とう劇の緞帳(どんちょう)を下ろすごと弥生の雪のまだ降り止まぬ  (石巻市桃生町・米谷智恵子)

【評】「平成最後の~」という言い方には飽きたと言えば大げさか。新鮮味は感じなくなっている昨今だ。でも、ここでは違う。「平成」という脚本の劇がいま終わろうとして緞帳が下がり出した。緞帳が下りてしまえばステージは見えなくなってしまう。そんな春の雪のすさまじさを一時代の終焉(しゅうえん)と重ねて詠んだ佳作。「平成」という時代を「劇」としてとらえ、その劇が終わろうとする時の異常な雪の降り方。一時代が終わろうとすることと、それへの自然現象の重ね方に感動した。

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ひ孫は七日生まれ我は三日誕生祝いのような雛壇(ひなだん)  (石巻市丸井戸・松川友子)

【評】誕生日が近い曾孫との関連から生まれた一首。年中行事として飾られる雛人形だが、誕生日がお雛祭りに近いことから、雛壇があたかも二人のお誕生祝いのようにも感じられてならない。しかも曾孫と一緒のお祝いだから、なんとも嬉しくてならないという作者の喜びが伝わってくる一首。身の回りには、まだ誰にも詠まれていない材料が転がっています。歌の材料を漁るセンサーを全開にして作歌に努めてください。

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天も地も幸いとなし桜咲く鉄の門扉(もんぴ)の町の桜路(さくらみち)  (石巻市開北・星ゆき)

合羽(かっぱ)着て春の干潟にアサリ掻く気は少年のごとく躍(おど)りて  (石巻市駅前北通り・津田調作)

何よりも健康長寿を旨(むね)として現代万葉の我が歌を詠(よ)む  (石巻市恵み野・木村譲)

詠(よ)みかけたままになりいし春の短歌時節(うたとき)巡りきて又掘り起こす  (東松島市大曲・阿部一直)

人生の付録と思いし八十路(やそじ)坂妻と出湯(いでゆ)の今が充実  (石巻市蛇田・菅野勇)

旅立ちや巣立ちの春の別れには笑顔の裏に名残(なご)り雪舞う  (女川町・木村くに子)

戦争と震災二つ生き抜きて又新元号を迎えんとする  (石巻市中央・千葉とみ子)

二十余年ともに学び来し友の通夜風雪しきり弥生というに  (石巻市南中里・中山くに子)

ゆえもなくさくらの蕾を手に取りて今日ありし日の師の声を聴く  (石巻市蛇田・千葉冨士枝)

畦道(あぜみち)に咲く淡青のイヌフグリ誰が付けしやいとしき名まえ  (石巻市八幡町・松川とも子)

土手に咲くパープルブルーのいぬのふぐり花びら寄せ合いささやくように  (石巻市丸井戸・高橋栄子)

古書店に求めし歌集の見返しに「謹呈」とありサインを添えて  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

もっさりと蓬餅(よもぎもち)食む清明に花は咲かねど味は春なり  (石巻市門脇・佐々木一夫)

牡丹(ぼうたん)の赤き花芽の冴え冴えと春の嵐に震えておりぬ  (仙台市青葉区・岩渕節子)

しんしんと町を包める名残雪(なごりゆき)花の蕾(つぼみ)も耐えしのぶらん  (石巻市中里・鈴木きえ)

幾重にもオイルパステル塗り込めばやがて静かに心がそよぐ  (石巻市流留・大槻洋子)

老衰の我にやさしや介護士に感謝の言葉伝えるすべなし  (石巻市鹿又・高山照雄)