俳句(3/1掲載)

【石母田星人 選】

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雁去りて広くなりたる風の沼  (石巻市蛇田・石の森市朗)

【評】秋にやって来る渡り鳥の雁は、冬場の日本で避寒して、暖かくなった春にシベリアへ戻って行く。2月中旬、宮城県の伊豆沼・内沼周辺に行ってみた。雁は相当数いなくなっていた。今シーズンは、暖冬の影響なのだろうか北の大地への戻りが驚くほど早い。掲句の沼にいた雁たちも早々に帰った。残されたのは沼の水面とそこを渡る風だけ。そんな景を前に作者の心には一抹の寂しさと春の明るさが刻み込まれた。

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消化器に春の灯ともす男かな  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】胃や腸など消化器官の内視鏡検査の一コマ。体内に灯をともされたのは作者、下五の男はともした医師をさす。中七「春の灯ともす」の表現がうまい。検査で寝ている間に生まれた詩的なひらめきだ。

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口開けて鯉何か言ふ浅き春  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】寒の間、水底にいて全く動かなかった鯉が、水面に浮かび上がって語りかけたように感じたのだ。冬の気配が色濃く残る辺りの空気感をうまく捉えた。

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凧揚げる五歳の男児(おのこ)武者の顔  (東松島市赤井・茄子川保弘)

【評】現在の子は違うだろうが、昔は正月が来ると凧揚げやこま回しに夢中になったものだ。この男児は凧の面白さに気づいたのだろう。とてもいい表情だ。

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雪解川合流点の二色刷  (東松島市矢本・雫石昭一)

手がかりを芥に探す春の浜  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

山頂の風車に冬の大夕焼  (石巻市桃生町・西條弘子)

冬霧の中方舟となる小島  (石巻市相野谷・山崎正子)

牡蠣鍋の鍋の厚さや海香る  (仙台市青葉区・狩野好子)

春の風太極拳の上をゆく  (東松島市新東名・板垣美樹)

産声のひかり走れる福寿草  (石巻市開北・星ゆき)

良寛忌紙風船を膨らまし  (石巻市丸井戸・水上孝子)

咲きました破顔一笑福寿草  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

煙突の機嫌よろしき冬の凪  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

侘助の花秘めやかに茶の湯かな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

夕映えやしずくポトリと春庇  (石巻市南中里・中山文)

水がめの底に動かぬ寒の月  (東松島市矢本・菅原れい子)

避難所であの日見上げた朧月  (東松島市あおい・大江和子)

風花や姉の遺せし割烹着  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

一周忌兄妹つどいて水温む  (東松島市矢本・遠藤恵子)