短歌(3/22掲載)

【佐藤 成晃 選】

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恵み野やのぞみ野あゆみ野復興街に鳴いた雲雀(ひばり)の降りる野ありや  (石巻市恵み野・木村譲)

【評】この作品を読んで思い出すのは「雲雀野(ひばりの)」という海辺の町の名前。いかにも雲雀が上空にさえずっていそうな町だった。震災の復興過程で、新しい町名が生まれた。いずれも未来の平穏と発展を願っての命名だ。けれども、どれも人間中心の発想から生まれた町名ではないか、と作者は立ち止まる。仮にひばりが上空でさえずったとき、私たちの街は雲雀の着地をも予想しての町づくりであったか、と。

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少年のなぜに生くるを問いし日々遥けくなりて喜寿としなりぬ  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

【評】小学校の教師だった作者。少年たちから「人間は何のために生きるのか」と問われたことがあったのだろうか。その忘れられない日々のことが今も作者の胸の内にあるのだろう。あれから何年が過ぎ去ったことか。気がついたら喜寿の自分。あの哲学的な問いを発した少年たちのその後のことも気になっての作歌だろう。

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文面は「お元気ですか」のみなれど雛(ひな)の切手に雛のスタンプ  (石巻市中里・上野空)

【評】葉書の文面は非常に簡便な「お元気ですか」の記述だけで、いわば味も素っ気もないものだが、その文面を飾る差出人の「切手」と郵便局の「スタンプ」の気遣いがうれしくてならない作者。季節の「お雛さま」の雰囲気あふれんばかりの応対に感謝したいという心が見える。ちょっとした心遣いによって、一日が明るい気分になった。心豊かにしてくれる知恵はどこにでもあるものである。

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星々がこぼれ落ちたるイヌノフグリ青空の色身に纏(まと)いつつ  (石巻市蛇田・古沢美祢子)

夫あての郵便日に日に減ってきぬ一人ですよとだめ押すごとく  (石巻市羽黒町・松村千枝子)

亡き夫の形見となりし腕時計我が腕にありて時に重たし  (東松島市赤井・大槻千代子)

曇天(どんてん)の空に想いを語るごと遠くなりたりアリューシャンの海  (石巻市駅前北通り・津田調作)

降る雪を透かせば見えくるあの校舎冷えた木椅子の避難の一夜  (石巻市南中里・中山くに子)

鮪(まぐろ)獲る船に眺めた彗星(すいせい)が今も鮮やか記憶のなかに  (石巻市水押・阿部磨)

怒りつつの拳(こぶし)の跡の壁覆ふ大きな暦の笑点メンバー  (石巻市開北・星ゆき)

三陸の小高い公園造りたる重機が並ぶ放牧のごと  (東松島市矢本・川崎淑子)

キャンセルの電話受け取る宿主の悲痛思いつつ受話器を置きぬ  (東松島市赤井・佐々木スヅ子)

七五三の記念の写真ににっこりと笑みたる曾孫(ひまご)の前歯抜けいて  (石巻市中央・千葉とみ子)

夫と行く県内制覇<道の駅>今日は遠出のふたつ掛け持ち  (東松島市矢本・菅原京子)

階段を昇れば膝(ひざ)の痛むなり雨傘杖に冷や汗ぬぐう  (石巻市桃生・西條和江)

日暮れどき流行(はやり)の病い来ぬことを友と願いて家路を急ぐ  (石巻市桃生・千葉小夜子)

今朝もまた納豆ご飯に味噌汁と野菜の酢もので健康家族  (東松島市矢本・奥田和衛)

震災を思い出させるレジの列終息見えぬコロナウイルス  (石巻市水押・佐藤洋子)

新刊のインクの匂ひ吸ひたくて仰向けになり本かむりたり  (石巻市門脇・佐々木一夫)

土寄せに思いをよせる足元で汗のしずくがキラキラ光る  (石巻市桃生・佐藤俊幸)