AI

 「天気予報はよく当たる」...最近つくづく思います。テレビやインターネットの1、2時間おきの予報はかなり正確です。それは人工知能(AI)の導入によるものだと知りました。気圧や温度などは関係なく、過去3年分の雨雲の画像を学習。そして、雨雲が時間とともにどう変化するのかパターンを導き出すのです。90%の確率で降水予測が可能と言われています。

 今や社会生活のさまざまな場面で導入されているAIですが、これは英語の Artificial Intelligence の頭文字をとったものです。artificial(アーティフィッシャル)は「人工の」という形容詞、Intelligence(インテリジェンス)は「知能」を意味します。

 artificial は art と関係がありそうに思われるでしょう。art という英語は通常「芸術・アート」と訳されていますが、「技(わざ)」という意味も含む言葉です。たとえば、art of speaking「話す技術」など。つまり art は「自然」に対して、「人為・人工」という色彩を帯びているのです。

 一方、Intelligence は「インテリ」というカタカナ語でお馴染みですが、これは「知識階級」を意味するロシア語「インテリゲンチャ」に由来します。いずれにせよ、「知」を表すラテン語から派生した言葉です。

 昨年12月のデビュー戦から無敗を続け、ついに公式戦最多連勝記録を達成した将棋の最年少棋士・藤井聡太七段。その強さの背景にはAIの活用があるとみられ、「AI時代の申し子」と評されています。

 <人間の「知」 vs. AI>がこれからどう展開してゆくのでしょうか?

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

俳句(4/14掲載)

【石母田星人 選】

===

金星の光吸ひたる黄水仙  (東松島市新東名・板垣美樹)

【評】金星はいつも太陽のそばにいる。朝方見える時は明けの明星、夕方に見える時は宵の明星と呼ぶ。この句は朝の景。太陽を先導するように明るく昇ってきた金星。圧倒的な存在感だが、日の出とともに見えなくなる。中七「光吸ひたる」は黄水仙にかかるが、太陽光の中に消えてしまう金星の姿をも表している。

===

裏木戸は銀河鉄道春の駅  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】家の裏木戸に立つとどこからか「銀河ステーション、銀河ステーション」と聞こえてきた。「どこまででもいける切符」を手に「ほんとのさいわい」を探しに乗り込んだ列車は春の駅を静かに滑りだした。この句では裏木戸が「天気輪の柱」。下五「春の駅」には「出発の春」の意味合いが込められている。

===

旋回といふ別れあり鳥帰る  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】遠い北国に帰って行く鳥たち。これから挑む長旅には多くの試練が待ち受けることだろう。方向を定めるためか名残惜しいのか、大きな旋回を見せた。

===

球春の聞こえて午後の春炬燵  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】プロ野球東北楽天の本拠地開幕戦。途中雪が舞って中断になった。現地で防寒着をまとった応援もあれば、春炬燵に陣取った少々気楽な応援もある。

===

借景の銀嶺はるか花吹雪  (石巻市南中里・中山文)

桜咲くここから始まる九年目  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

山ざくら横穴古墳に降りしきる  (東松島市矢本・紺野透光)

田の神の遅きお出まし春夕べ  (石巻市大森・横山つよし)

畔塗られ田んぼ姿勢を正したる  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

菜の花や黙す眼裏怒濤来る  (石巻市飯野・高橋芳子)

陽溜まりをわが物顔の蕗の薹  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

彼岸入り人生少し前のめり  (東松島市矢本・雫石昭一)

ゆらゆらと空を揺らして春の水  (東松島市矢本・菅原れい子)

草藁をそっと押し上げ蓬摘む  (東松島市あおい・大江和子)

歳月や匂ひ深める春の宵  (石巻市門脇・佐々木一夫)

茎立ちの抱く土塊や活断層  (石巻市開北・星ゆき)

ひらひらとめまひのやうな蝶の昼  (石巻市駅前北通り・小野正雄)

若者の門出の朝春の海  (仙台市青葉区・狩野好子)

黄水仙八とせ帰らぬ母の家  (石巻市蛇田・石の森市朗)

うららかやカルボナーラの香りして  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

川柳(4/14掲載)

【水戸一志 選/評】

◎新元号「令和」が発表されたが、実際に使われるのは5月1日から。10連休の真っただ中であり、青空には鯉のぼりが泳いでいることだろう。川柳が見事に視覚化され、新元号の「初陣」という解釈も光っている。

===

◎ 元号の初陣式だ鯉のぼり  (東松島市矢本・遠藤俊彦)

  新時代令和の花を咲かせよう  (石巻市北上町・那須野六男)

  風小僧行ったり来たりやっと春  (石巻市渡波町・小林照子)

  春あらしワイパーきかぬ花並木  (石巻市水押・阿部磨)

  スーパーの値引きシールをしばし待つ  (東松島市矢本・畑山講也)

  5割増し核の傘から請求書  (石巻市築山・飯田駄骨)

  建造の熱意をのこすサンファン号  (石巻市大街道・岩出幹夫)

  原子炉につまようじ刺すもどかしさ  (石巻市向陽町・佐藤功)

元号

 4月1日の発表以来、新元号「令和」をめぐって、国民はもちろん各種メディアで意見・感想が論じられ「令和フィーバー」が続いています。

 「元号」を英語でどう表すか... 新元号発表後の海外の報道を調べたところ、おおよそ"era name"、"name of an era"、"imperial era name"の三つであることが分かりました。

 era(「イーラ」のように発音)は、あまり聞き慣れない言葉ですが「時代」「時期」を表す英語です。たとえば「冷戦時代」は the cold war era、また、a fish market in Japan's Edo era と言えば、「(江戸時代の)魚市場」を表します。

 このたびは三つ目の"imperial era name"と英訳するのが適切でしょう。imperial(インペリアル)は「皇帝の」「帝国の」という意味。来る5月1日、即位の礼によって現皇太子殿下が天皇の位につき、それとともに「平成」から「令和」という新元号になるのですから。

 ちなみに、imperial は emperor(エンペラー=天皇)の形容詞形です。ご存知のとおり、「一世一元」となったのは明治の改元からで、それまでは必ずしも元号と天皇の在位の期間は同一ではありませんでした。

 さて、新元号「令和」ですが、海外メディアでどう英訳されているかを2、3ご紹介しましょう。

 イギリスBBC放送は"order and harmony"(秩序と調和)、米紙ニューヨーク・タイムズは"auspicious harmony"(縁起のよい調和)、米AP通信は"pursuing harmony"(平和を希求する)などとなっています。

 外務省は「令和」を外国政府に英語で説明する際、"Beautiful Harmony"(美しい調和)と伝えると発表しました。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

短歌(4/7掲載)

【佐藤 成晃 選】

===

名ばかりの温みの庭に切りすぎの木瓜(ぼけ)は一輪くれない咲(ひら)く (石巻市開北・星ゆき)

【評】温かい感じの名前をつけられた庭があるのだが、それは名前だけらしい。庭木の剪定(せんてい)も「切りすぎ」たと思われるほどぞんざいだ。そんなひどい扱いをうけた植物でも、季節がくると花を咲かす自然の摂理に作者は感動したのだろう。ぞんざいな扱いをものともしない植物の生命力への感動でありながら、ぞんざいな扱いをする人間へのかすかな批判ともなっているのかもしれない。「一輪のくれない」がみごとである。

===

それぞれの位置から出直す震災後ゼロから白い花辛夷(こぶし)咲く (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】人それぞれに差のあった震災。家屋全壊・流失もあれば半壊もあった。死者や行方不明者の数もさまざまだった。それぞれの置かれた境遇を再出発の起点として復興に励んできたのである。庭や街の街路樹とて同じであろう。いま、作者の前に白い辛夷の花が咲いている。この花は以前はなかった花なのだろうか。ゼロから咲いたという表記は他にも解釈の余地がありそうだが、眼前の新しい復興の現象を逃さずに詠んだ佳作である。

===

そくそくと沈む夕日に独りごつ生者必滅会者定離(しょうじゃひつめつえしゃじょうり※) (東松島市大曲・阿部一直)

【評】「そくそくと」は「ゆっくりと」くらいの意味で読むことばであろうか。下の句が全部「引用」で作られている一首。思い切った作り方だ。仏教語であるが「平家物語」などで親しんだ記憶のある言葉だ。人間の一生をこのように短く言い切った忘れがたい言葉だ。若いときに何かで読んで忘れがたかった一句を作品の下の句に忍ばせて、それほどの違和感もなく読ませる力量はなみなみではない。
※「生きている者は必ず滅び(=死ぬ)、出会った者は必ず別れる」という意味。

===

秋まつりに神楽師(かぐらし)の吹く笛の音はさやるものなし野に空に行く (石巻市桃生町・三浦多喜夫)

うぐいすに方言ありと知りし朝我が方言の短歌(うた)立ちあがる (石巻市恵み野・木村譲)

牡丹(ぼたん)雪春雷と共にやってきて吹雪のごとし舞いては降りる (東松島市矢本・川崎淑子)

オホーツク日日に織りなす流氷の朝日に映える知床の春 (石巻市わかば・千葉広弥)

揚げひばり囀(さえず)るかたを見上げしがひかりにまぎれその影みえず (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

見渡せば真っ青の海に白き船遠い思い出運びくるごと (石巻市駅前北通り・津田調作)

今年また冬を凌(しの)ぎし畑を打つもんぺの裾(すそ)に土をまぶして (石巻市羽黒町・松村千枝子)

卒寿(そつじゅ)なる師にたまわりし励ましに自分磨きのペンを持ちたり (石巻市水押・佐藤洋子)

百歳まで生きよとばかり体操のパンフいただく「生きがいディ」に (石巻市丸井戸・松川友子)

妻の留守に美味なるものを食べんかと作りし料理卵かけ飯 (石巻市門脇・佐々木一夫)

日の暮れて道遠けれど胸熱くビバークして待つ還暦の朝 (石巻市駅前北通り・工藤久之)

強風の止みたる夕べの湾内にさざ波のごとく群れる海猫 (女川町・阿部重夫)

去年より三日早しと書きながらウグイスを聴く今年の初鳴き (石巻市桃生町・千葉小夜子)

手作りの豆をもらいて構えたる鬼の面撃(う)つ童(わらわ)にかえりて (石巻市蛇田・千葉冨士枝)

土温み陽気が続く春彼岸鍬(くわ)持つこの手八十九歳 (石巻市鹿又・高山照雄)

朝な朝なラジオ体操欠かさずに励むも齢に足腰きしむ (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

川柳(4/7掲載)

【水戸一志 選/評】

◎人の移動が最も活発になる年度の替わり目に、運送業界は人手不足で、引っ越しの注文に応じきれないという。句のように、進学、就職、栄転の人たちが足止めを食うことになる。春に一斉という日本のリズムが危うい。

===

◎ 引っ越せず予定の内示まだ出ない  (石巻市蛇田・鈴木醉蝶)

  花だより石巻まで遅すぎる  (石巻市南光町・白出修)

  大阪もモンゴル勢に押し出され  (石巻市水押・小山信吾)

  投攻守ことしの楽天やりそうだ  (石巻市蛇田・菅野勇)

  陽光が手抜き掃除を暴露する  (石巻市蛇田・佐藤久子)

  メカブ来た今年の春は早いよう  (石巻市湊・小野寺徳寿)

  海鞘(ホヤ)悔し風評被害解けぬ国  (石巻市不動町・新沼勝夫)

  尺八のドレミファ吹けばスーと鳴る  (東松島市矢本・川崎淑子)

梅一輪

 梅の花が咲き、花びらが散る頃に桜が花開く...これが石巻地方の例年の風情ですが、今年は開花が遅れています。3月の初め、市図書館の庭にある旧宮城県石巻女子高跡地の梅の木々には、冷たい雨に打たれながらたった一輪、白梅が健気に咲いていました。もう咲きそろってもいい時期でしたが。

 先日、熱海市のMOA美術館を訪れました。お目当ては、国宝に指定されている尾形光琳の珠玉「紅白梅図屏風」。実物を目の当たりにして、その華麗な様式美には圧倒されました。

 説明文には「紅白梅」は"Red and White Plum Blossoms"と英訳されています。「梅」は英語で plum(プラム)とよく言いますが、調べてみるとそう単純ではないようです。

 Japanese apricot が梅の正しい英訳です。plum は「(西洋の)スモモ」ですから、Japanese plum と言っても「梅」の意味にはなりません。さらに、apricot(アプリコット=アンズ)は植物学的には同じバラ科に属しながら、がく片が反り返らない点などがウメと異なります。

 また、英語の語彙として認められつつあることから ume と言うこともできますが、理解できない人のためには ume(Japanese apricot)とするのが親切でしょう。

 梅を詠んだ俳句の中で私たちに最もおなじみなのは「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」でしょうか。この句の作者・服部嵐雪は芭蕉の弟子。これは一般に次のように英訳されています。

"One plum blossom  One blossom's worth of warmth."

 簡潔にするためでしょうか、ここでは「梅」を plum と訳しています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

俳句(3/31掲載)

【石母田星人 選】

===

残る鴨湖の夕日をこなごなに  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】晩春になっても北へ帰らず居残っているのが「残る鴨」。傷ついたり、病気になったりして群れに加わることのできなかった鴨だ。仲間の鳥たちがいた水面にポツンと浮かぶ姿には寂しさが募る。とはいえ掲句の鴨は寂しさよりも開放感に浸っているようだ。夕日を映す水面を伸び伸びと独り占め。着水の揺れを固体に使われる「こなごな」とした見立てが効いた。

===

野遊びに子の直球を受けにけり  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】「子の直球」と球種を絞ったことが効果的。直球は球種のうち球速が最も速いものをさす。ただのキャッチボールではなく真剣勝負の趣。その球を受け止めたグラブが小気味いい音を立てた。子どもの力を感じるのは親の最高の喜び。春の日差しが心地いい。

===

大堰を煌めき跳ねる春の水  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】ただの堰ではなくて大堰。大の文字から勢いよく豊かな水量が見えてくる。水は光り輝き、水音も高い。万物の命を育む躍動だ。臨場感あふれる一句。

===

ものの芽をほぐし十一日の雨  (石巻市桃生町・西條弘子)

【評】あの日の強い雨は、被災地の固い草木の芽をほぐしてくれる優しい雨だったのだ。夕空に出現した虹もきっとあの雨が手配してくれたものに違いない。

===

清明の空見あげたる鹿アート  (東松島市矢本・雫石昭一)

啓蟄やエスカレーター地の底へ  (石巻市小船越・加藤康子)

麦踏やメソポタミアのくさび文字  (東松島市新東名・板垣美樹)

八年の春を経て来し星あかり  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

春愁やペットボトルの蓋固く  (石巻市中里・川下光子)

参道の箒目清し春なかば  (仙台市青葉区・狩野好子)

遠洋に深き祈りの弥生かな  (石巻市開北・星ゆき)

灼熱の野火は命のこやしかな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

托鉢の顎紐なおす春一番  (東松島市矢本・菅原れい子)

旅終へて眠りあづける春炬燵  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

地下足袋を履けば田畑耕せり  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

梅一輪たしかその頃大震災  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

固まらぬ茶碗蒸しかな鳥雲に  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

還暦の子の退職や三月尽  (石巻市南中里・中山文)

濁流の汚水に浮かぶ椿かな  (東松島市赤井・茄子川保弘)

百歳の義母の祝ひや春ショール  (角田市角田・佐藤ひろ子)

川柳(3/31掲載)

【水戸一志 選/評】

◎五七五はもちろん川柳の意。日常生活や国内外の動きを注意深く観察し、五七五の17音字で世の中の今を表現する。簡単なようで難しい。作者は、「見ているぞ」の五文字で、川柳の本質を自分に言い聞かせている。

===

◎ 見ているぞ五七五で世の中を  (石巻市向陽町・佐藤功)

  歳かさね年号三つ渡り初め  (石巻市駅前北通り・津田調作)

  耕運機エンジン音がスキップし  (東松島市赤井・片岡シュウジー)

  春いいね!花粉なければもっといい  (石巻市大街道・岩出幹夫)

  出不精に春の息吹が手招きし  (石巻市蛇田・梅村正司)

  待ってねとレンジに話すわれ独り  (角田市角田・佐藤ひろ子)

  乗りません詐欺の揺さぶる口車  (石巻市桃生町・忖度放恣)

  十一万超えた署名もゴム風船  (石巻市蛇田・菅野勇)

短歌(3/24掲載)

【佐藤 成晃 選】

===

次々と波まじわりて輪唱のように寄せては返す春の海  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】純粋な「自然詠」。作者が作品の中で行動するものに魅力を感じてきたが、この作品の「輪唱のように」の比喩を発見した作者の手柄にも大きな感動を覚える。与謝蕪村の春の海を詠んだ一句なども連想されるが、時期が時期だけに、3.11と重ねて読んでしまう。あのすさまじく荒れた海の八年後の浜に立って、元の生活を取り戻しつつある現在のかすかな安穏を喜んでいる作者像をも思わせる一首である。

===

生かされて生きてしまった八十四年その八年の悲喜のこもごも  (石巻市中央・千葉とみ子)

【評】これまでの八十四年の生涯を「生きる」と言い「生かされる」とも言う両面からの見方が、この作品に厚みをもたらしたと思う。あえて欠点を言えば下の句の「その八年」か。これは「末尾の方の八年」ということだろう。この八年の中に3.11があり、夫との死別があり、孫・曾孫(ひまご)との喜びがあった。それを「悲喜のこもごも」とまとめたのだ。「悲喜のこもごも」からそのような内容を想像するのは読者には難しいのではないか。時間が経過してから推敲を試みてほしい。

===

今日の日も無事平穏に暮れたると長押(なげし)の上の妻にささやく  (東松島市大曲・阿部一直)

【評】亡くなった奥様の写真が、長押の上に掲げられている。やや前のめりの角度をもって家族の生活を眺め下ろすかのようだ。古い家にはご先祖さまの写真が幾枚も並んでいたものだ。亡くなった人に今日一日の報告をしなければ今日は終われない、そんな心情をもって実践している生活態度に見習いたいものだ。ゆっくりと小さな声で話しかけるさまが見えるようだ。

===

ひと日ずつ歳の欠片(かけら)を拾い積み短歌(うた)に残さん老いの埋もれ火  (石巻市駅前北通り・津田調作)

短歌(うた)メモに良き裏白と切りてゆく葬儀の済みし日程表も  (石巻市開北・星ゆき)

八年目の冷たい雨によみがえる助け求めて叫ぶわが声  (石巻市丸井戸・高橋栄子)

北帰行為せざりし白鳥護岸にて3.11悼(いた)むがごとし  (東松島市矢本・川崎淑子)

風の色知らずに今日も新しき朝を降り来る宙(そら)からの陽よ  (石巻市大門町・三條順子)

祭の夜アセチレン灯の薄暗き夜店に引きし籤(とすけ)はずれき  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

しあわせは何かとふっと考えるそこそこ食べてそこそこ健康  (石巻市向陽町・中沢みつゑ

黄泉(よみ)で待つ地獄極楽の別れ道 目覚めし今朝は母の命日  (女川町・阿部重夫)

詐欺される他人(ひと)のお金の豊かさよ生きるに余るおかねなら良し  (石巻市恵み野・木村譲)

窯(かま)だしの茶碗を取れば温かし外は粉雪春まだ遠し  (石巻市門脇・佐々木一夫)

薪(まき)割りの音がこだます啓蟄(けいちつ)の炉端(ろばた)の燠(おき)は赤々と燃ゆ(石巻市北村・中塩勝市)

愛犬のおらぬ散歩はつまらない口笛吹いてもハミングしても  (石巻市高木・鶴岡敏子)

煮魚(にざかな)の匂いが嫌いと言う恩師四十三年経(た)ち思い出す  (東松島市野蒜・山崎清美)

黙々と勉強する子の足元のかばんの端の赤いお守り  (石巻市桃生町・米谷智恵子)

朝夕に歩く境内 石段を見上げるそばに梅花が匂う  (角田市天神・佐藤ひろ子)

今日もまた「生きがいディ」に交ざらんと送迎バスにいそいそと乗る  (石巻市丸井戸・松川友子)

北上の川面に写る飛行雲童(わらわ)のごとく心が弾む  (石巻市桃生町・千葉小夜子)