俳句(10/13掲載)

【石母田星人 選】

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ツールドの影どこまでも稲穂波  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】被災地を自転車で巡ったツール・ド・東北。ライダーの影と稲穂波。「どこまでも」がその両方にかかるように読めて面白い。ライダーたちの心意気も頼もしいが、それを迎える稲穂波の輝きも頼もしい。

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海へ向き海の声聞く十三夜  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】ことしの十三夜は10月11日。十三夜の月は、ひと月前の十五夜の月から見て、後の月や名残の月と呼ばれる。満月目前のやや欠けた月を楽しむ十三夜の月見。日本人の美意識が凝縮された風習とも言える。十五夜の月を見て十三夜の月を見逃すと縁起が悪いとされている。この句の投函は十五夜のすぐあと。月の昇る海に今度は栗や豆をお供えして、十三夜の月見もたっぷり楽しもうという決意がこもる。

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西陣の黒に色有り秋彼岸  (石巻市流留・大槻洋子)

【評】墓参の景と読んだ。西陣は帯だろうか。中七「黒に色有り」の発見が句を輝かせる。日が差したのかもしれないが、内面の表白のようでもあり深い。

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集魚灯サンマ泡立つ海の果て  (石巻市門脇・佐々木一夫)

【評】夜の海を舞台に大光量の集魚灯で網中に誘い込むサンマ漁。中七「サンマ泡立つ」の措辞は、従事者にしか表現できないものだ。臨場感が伝わる。

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括られて乾く鬼灯宵がくる  (石巻市桃生町・西條弘子)

ビートルズ静かに流る蕎麦の花  (仙台市青葉区・狩野好子)

車椅子ぽつねんとあり秋日濃し  (東松島市矢本・紺野透光)

琴の音の止みて野点や萩の風  (石巻市中里・川下光子)

津波ここまで波の果て霧の果て  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

やせ細るさんまもわれも震災後  (石巻市恵み野・木村譲)

親の無き少年無口吾亦紅  (石巻市蛇田・石の森市朗)

暗渠なる川の叫びか秋出水  (石巻市開北・星ゆき)

虫時雨手足のばして仕舞風呂  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

一ピース欠けるパズルや鰯雲  (東松島市新東名・板垣美樹)

谷紅葉熊出没の御触れ札  (石巻市南中里・中山文)

税上がる前の賑ひ秋の街  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

酔漢に声かけらるる案山子かな  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

大輪の花火に譲る天の川  (東松島市赤井・茄子川保弘)

眼光の鋭き医師や雁渡る  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

独眼竜のこころに似たり秋の風  (仙台市青葉区・浮津文好)

川柳(10/13掲載)

【水戸一志 選/評】

◎人生百年の時代が訪れた。2千万円足りないという警告はお蔵入りとなったが、不安が解消したわけでは全くない。むしろ逆。「それなら年金で百まで生きてやる」。これはもう「殺せるものなら殺してみろ」という、やけっぱちの居直りに近い。

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◎ 年金を頼りに百寿まで生きる  (石巻市築山・飯田駄骨)

  習いたて夢で数える五七五  (東松島市矢本・遠藤恵子)

  山野地にどや顔パネル灯をともす  (石巻市不動町・新沼勝夫)

  楽天にドキリCS3連戦  (石巻市不動町・青沼敬次郎)

  復興へパスとスクラム後を押す  (石巻市開北・安住和利)

  原発の牙城が金でメルトダウン  (東松島市赤井・片岡シュウジー)

  あっゴメンやはり食べます店内で  (仙台市青葉区・吉田真一)

  薬増え話題の間口広くなる  (石巻市蛇田・菅野勇)

 蔵王連峰の麓の大河原町。35年前、隣の白石市の高校に勤めていた私は、この町の禅寺の暁天坐禅に通うようになりました。その坐禅堂の入り口にそっと掛けてあったのが「相田みつを 日めくりカレンダー」です。

 「花は ただ咲く ただひたすらに ただになれない 人間のわたし」

 この思いがけない出合いがご縁となって、私はみつをさんの世界に誘われました。これまで、つまずいたり迷った時に、その言葉にどれほど救われたことか。

 東京の有楽町にある相田みつを美術館には海外からも多くのファンが訪れるようになり、展示の書のそばには英訳が添えられています。含蓄のあるみつをさんの言葉を英訳するのはまさに至難の技。

 たとえば代表的な「つまずいたっていいじゃないか にんげんだもの」をどう訳すか...未熟ながら大津訳を紹介します。

 「つまずく」は stumble、ただし「ミスをする」とも解釈できますから make mistakes。「いいじゃないか」は「人間だもの」とつなげて、「人間はつまずいたりミスをする可能性がある」とします。

 We are humans.(私たちは人間です)
 Humans can stumble or make mistakes.(人間というものはつまずいたり間違いをすることがある)
 そして、
 We are humans after all.(結局は人間だから)

 まとめて一つの文にすると、以下のようになります。
 We are humans. Humans can stumble or make mistakes. We are humans after all.

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

短歌(10/6掲載)

【佐藤 成晃 選】

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自己流の短歌(うた)に我が世を残さんと生き来し海に跡をたずねる  (石巻市駅前北通り・津田調作)

【評】「自己流の短歌」だけれども、その短歌を創ることで自分の生きた証しとしたいという作者。その内容は船上で働いた若き日の過酷な体験だろうか。「我が世を」を残したいために思い出す船上での生活のあれこれ。あんなにつらかったことが、今の作歌の支えともなっているのだ。中身はかなり重いことを詠みながら「すらすら」と読めるのは57577の型に収まっているからだろう。型と内容のバランスがとれている佳作だ。

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銀色にたなびくススキを掻き分けてガマズミ採りしも現在(いま)はうたかた  (石巻市高木・鶴岡敏子)

【評】「銀色」と「ガマズミ」との色彩が対照的で美しい。ガマズミは「そぞみ」や「そぞめ」などとも呼ばれているが、甘味の少なかった往時の少年少女にとっては心惹かれる物であったに違いない。銀色の中の朱色という魅力的な存在でもあったガマズミは思い出の塊(かたまり)でもあるが、老いてしまった今の私にとっては「うたかた」(泡)になってしまったと。上の句の鮮烈な色彩感がしぼんでいく寂しさは寂しさとしても、表現が持っている寂寥感に惹かれた。

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朝刊に慕はしき人の歌探す調べを作るといふ名の吾が師  (石巻市駅前北通り・工藤久之)

【評】この新聞の「短歌」欄を読んでいるうちに、いつの間にか「作歌」に踏み込んでしまった作者。師匠はこの「短歌」欄に居るのだから感激だ。名前は下の句に書かれている人だ。クイズではないが、皆様にはお分かりでしょう。古今集の序文にも書かれていますが、短歌(うた)には人の生き方に影響を及ぼす力があるんですね。こうして仲間が増えていくことが何よりもうれしい。今までに気が付かなった別の自分を発見したたとき、自然に歌が湧いて来るものです。

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雨あがれば一心不乱に編み直す蜘蛛(くも)の働きをそっと見守る  (東松島市赤井・佐々木スヅ子)

たぐい稀(まれ)な台風ニュースにひと日暮る相撲番付進みゆく中  (石巻市南中里・中山くに子)

高齢化紙面をひらけば高齢化下段にたっぷり長生き広告  (石巻市恵み野・木村譲)

夏終(なつじま)い知らせねばとの蝉の声令和酷暑のかん高き声  (石巻市大門町・三條順子)

今年また網戸にすがり啼く蝉に夫の来しやと思われてならぬ  (石巻市中央・千葉とみ子)

朝まだき中天高く輝ける下弦の月は空にとけこむ  (仙台市青葉区・浮津文好)

夏草の青さに負けずこれ見よと言わんばかりに彼岸花咲く  (石巻市桃生・大友雄一郎)

二学期が始まりたりし子らの声弾み行く背のランドセル踊る  (石巻市丸井戸・松川友子)

まだ残暑の厳しき中の停電にいのちを落とす人もいたとか  (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

久しぶりに妻弾く大正琴(こと)の音の聞こゆ痛みし傷のやや癒えるらし  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

朝露を一杯背負いかがやくもあと数日の黄金三月草  (石巻市桃生・三浦多喜夫)

夏越しの更地の叢(やぶ)にすっと立つマリーゴールドの金環二輪  (石巻市開北・星ゆき)

一匹の蝿がうるさく邪魔をする酒のツマなる新鮮ホヤに  (東松島市矢本・奥田和衛)

彼岸より招く真紅(しんく)の登り花迷ひもせずに咲き誇るなり  (石巻市門脇・佐々木一夫)

今日もまた赤旗立てて岬道にひびく発破のようやく終わる  (女川町・阿部重夫)

子が巣立ち祭り広場は遠のけば今宵は花火の音を楽しむ  (石巻市桃生・米谷智恵子)

受話器からかわいい子どもの声がして我も急いでかわいいバアバに  (角田市・佐藤ひろ子)

川柳(10/6掲載)

【水戸一志 選/評】

◎サンマ不漁に象徴される海の異変は、沿岸部の秋を重苦しい空気で覆っている。浮かない気分でふと見つけたクモの巣まで、無傷のまま空しく揺れている。「お前も不漁かい」と、思わずクモに同情したくなる作者の気持ちが、痛いほど伝わってくる。

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◎ くもの巣も不漁なのかい傷まずに  (東松島市赤井・佐々木スヅ子)

  サンマ不漁大根おろし出番待ち  (石巻市水押・佐藤洋子)

  増税に急かされ要らぬ物を買う  (石巻市桃生町・米谷智恵子)

  女房のタックルかわし冷蔵庫  (石巻市湊・小野寺徳寿)

  台風もマイナンバーを持たされる  (石巻市蛇田・鈴木醉蝶)

  温暖化少女の叫び拡散し  (石巻市不動町・新沼勝夫)

  キャッシュレス得する財布分からない  (石巻市大街道・岩出幹夫)

  饒舌も毒舌も無い手話うごく  (東松島市矢本・菅原れい子)

 「今、内外のメディアを最もにぎわしている言葉は何だと思う?」
 先日、友人からこのように問われ、一瞬答えに窮しました。
 「『地球温暖化』ではなかろうか」と友。

 9月23日にニューヨークで国連の「気候行動サミット」( UÑ Climate Summit in New York )が開かれ、77カ国が温室効果ガスを2050年に実質排出ゼロにすると誓いました。メディアが大きく報じたのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)。壇上から涙ながらに訴える映像が世界を駆け巡りました。

 " We are in the beginning of a mass extinction and all you can talk about is money and fairytales of eternal economic growth. How dare you! "
 「私たちは大量絶滅の危機に瀕しています。なのに、あなた方が話すことはお金のことや永遠に続く経済成長のおとぎ話ばかり。よくもそんなことを!」(大津拙訳)

 " How dare you! "は「よくもそんなことを平気で言えるわね!」といった意味で、映画などでよく出てくるセリフです。この演説の後、米FOXテレビの番組で評論家マイケル・ノウルズ氏が「(彼女は)精神的に病んでいる」などと述べ、FOXは謝罪に追い込まれました。

 最後になりましたが、キーワードとなる英語を二つほど。

 「地球温暖化」は global warming 、「温室効果」は greenhouse effect 。「温室」を greenhouse(緑の館)と表すのには最初驚いた記憶があります。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

俳句(9/29掲載)

【石母田星人 選】

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空蝉の琥珀の傷や朝の雨  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】蝉(せみ)の幼虫は地中で数年から十数年を過ごす。やがて幼虫からさなぎになり木に登る。背中を割ってその皮を脱ぎ成虫となる。その抜け殻を空蝉(うつせみ)と呼ぶ。この句、「琥珀の傷」の表現に詩心がこもる。成虫の型を取ったような姿の空蝉。薄茶の透明な美しさなのだが、背中に開いた裂け目に目がいく。「傷」としか言えないのだ。その傷口を朝の雨が優しくぬらす。

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名月や五穀豊穣照らしをり  (石巻市門脇・佐々木一夫)

【評】今年の中秋の名月は曇りがちの天候だった。それでも時折、雲の間から顔を出してくれた。晴天の月の出よりも鮮烈な出現となった。あの月光が豊かに実った稲穂を静かに揺らしたのだ。震災をくぐりぬけ今年も立派に育ってくれた。感謝の気持ちが乗る。

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音が見え光が聞こゆ揚花火  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】間近で見た揚花火の臨場感を出すため感覚を駆使した句。揚花火の大いなる爆発で、動詞の役割も一緒に吹き飛んでしまったようで、何とも面白い。

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墨痕を鮮やかにして夏果てぬ  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

【評】まだ暑いには暑いが、秋が近づいているのを感じる。それを感じさせてくれたのが墨痕。昨日より文字が伸び伸びと見える。夏の果てを実感したのだ。

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荻の声筆の流れる散らし書き  (仙台市青葉区・狩野好子)

蜉蝣の水に触れんとして光る  (東松島市矢本・紺野透光)

虫の音や古賀メロディーにコップ酒  (東松島市矢本・雫石昭一)

友来ても友来なくても新走り  (石巻市小船越・芳賀正利)

新米の正夢という光かな  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

秋天やどこまでも空すっぱだか  (石巻市開北・星ゆき)

象の群れ月を率ゐて歩みけり  (東松島市新東名・板垣美樹)

川沿ひの教会白亜都鳥  (石巻市蛇田・石の森市朗)

捻り田へいざ出陣やコンバイン  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

被災地の稲田に広がる黄金波  (東松島市矢本・奥田和衛)

浜茄子の紅い実の数死者の数  (石巻市恵み野・木村譲)

山葡萄積る話は山ほどに  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

黒き蛾や飛び交う韮の花舞台  (石巻市南中里・中山文)

小鳥来る駅長一人だけの駅  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

育ててとひ孫持ち来る野菊かな  (石巻市三ツ股・志賀野みよ子)

「お月さまがついてくるね」って四歳児  (角田市角田・佐藤ひろ子)

川柳(9/29掲載)

【水戸一志 選/評】

◎プレオリンピック・パラリンピックのテレビ番組が熱い。ところが、世界のトップを目指すアスリートやチームの国がどこにあるのか、よく知らない。手元に世界地図を置いて、リアルに来年の本番を予想するのは、とても素敵な楽しみ方だ。

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◎ 世界地図見ながらメダル予想する  (東松島市矢本・阿部房枝)

  3機編隊あっぱれな技ありがとう  (東松島市矢本・鈴木はつへ)

  台風が秋のたよりを矢継ぎ早  (石巻市蛇田・鈴木醉蝶)

  増税にへそくり探す今一度  (石巻市開北・安住和利)

  食い違い店のうちそと食事法  (石巻市桃生町・忖度放恣)

  これ以上除草するなと虫の声  (石巻市井内・高橋健治)

  約款は読まないように小さな字  (石巻市蛇田・佐藤久子)

  失敗を遺影笑って許してる  (石巻市渡波町・小林照子)

敬老の日

 「敬老の日」だった16日、長寿を祝ってさまざまな会が催されました。「長幼の序」を重んじる日本社会ならでは行事と言えるでしょう。この言葉を生んだ儒教の国・中国ではどうか不明ですが。

 英語圏においてこの習わしはありませんが、目上の人に敬意を払うというのは洋の東西を問いません。" respect your elders "(目上の人を尊敬しなさい)という慣用表現もあるくらいです。この elder は「年上の」「年長者」という意味で、語源の上では old に近い言葉です。また、elderly も同じような意味を表します。

 さて、アメリカの文豪・ヘミングウェイの代表作" The Old Man and the Sea "は「老人と海」と和訳されています。old man はまさに日本語の「老人」に近い語感を持つ言葉です。

 日本語には「老人」に代わる表現として、「年寄り」「年配」「高齢者」などがあります。このうち、最近よく聞くのが「高齢者」そして「中高年」、さらには「シニア」。

 「中高年」を英語では middle-aged and elderly などと表します。「シニア」は「年上」「先輩」などを意味する英語 senior ですが、これを用いた senior citizen という言葉が実に魅力的です。直訳すると「年長の市民」。いくら年をとっても「一人の敬うべき市民」...何という素晴らしい発想でしょう。

 「敬老の日」の英訳例の一つは Respect-for-the-Aged Day です。

 そういう私も高齢者。尊敬される elder(ly) にならないと...。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)

短歌(9/22掲載)

【佐藤 成晃 選】

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みちのくに飢饉に泣いた碑のありてヤマセの風が耳鳴りのよう  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】かつてこの地に飢饉のあったことが目の前の石碑に刻まれているのです。悲惨な事件を石碑に刻んで後世に伝えてきたのです。津波に関する石碑も海沿いの集落には多いのではないでしょうか。さて、その石碑を読みながら無残な過去に思いをはせている上空を、「飢饉」の元凶であったヤマセが吹き下ろしてきたのでしょうか。耳鳴りのように頭の中を吹き荒れてよぎる思いに襲われたのでしょう。石碑の前に立ち尽くす作者像が見えるようです。

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他愛ない言葉を交わす妻の居てこの世の幸を胸にたたみぬ  (石巻市駅前北通り・津田調作)

【評】「他愛ない」と言い「胸にたたみぬ」と言う二つの否定的な内容を表記しながら、実は否定ではなくていつの間にか「妻の存在」の有用性をじわじわとにじませる「方法」を発見したのではないか。空気みたいな存在が最高と言われたりします。そんな関係の「幸せ」を大声で言うのではなく、ましてや奥様に向かって「ありがとう」と言上げをするのでもない作者の「生き方」にひかれました。

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夕暮れの蜩(ひぐらし)ゼミの声途絶え秋を半ばのそよ風沁みる  (石巻市桃生・大友雄一郎)

【評】一首から受ける印象はやわらかな感じです。「ひぐらし」は秋の象徴です。そこを吹いてくる風は「そよ風」です。気持ちのいい風として「そよ風」という言葉を私たちは使っているのですが、作者は「そよ風」が「沁みる」と言ってます。このちょっとした違和感に季節の変わり目を捕えようとする意識が読めるのです。気持ちのいい時に使う「そよ風」を「沁みる」と表現する素直な皮膚感覚がこの一首を佳作にしあげたのだと思います。

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食卓のチリ紙眼(まなこ)におしあてて朝のドラマを見るも齢(よわい)か  (石巻市恵み野・木村譲)

懸命に生きた証しを思い出す十年日記の泥をめくれば  (石巻市渡波町・小林照子)

眠る海起こさぬようにそろそろと仕掛ける網が碧(あお)く沈みゆく  (石巻市門脇・佐々木一夫)

本堂に妙鉢(みょうはち)の音響くなか遺族の席に曾孫(ひまご)はお絵描き  (石巻市中央・千葉とみ子)

軒下に七輪(しちりん)囲むバーベキューさんさしぐれか夏は過ぎゆく  (石巻市北村・中塩勝市)

「氷」とう青地の旗に赤き文字幼き頃の夏日なつかし  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

柿の木の雨・風・日差しの八年目花も咲かずにまた葉を落とす  (石巻市水押・阿部磨)

猛暑過ぎ杜の都は蝉しぐれ我も一息木陰のベンチに  (仙台市青葉区・岩渕節子)

低空の飛行訓練始まりぬ航空祭の近づき来れば  (石巻市丸井戸・松川友子)

熊蝉の鳴きて尽きしや裏返りたくさんの蟻(あり)の列なす中に  (石巻市南中里・中山くに子)

ああここで全て投げ出し無になりてしばしの時を眠りていたし  (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

写真見て幼き頃を思い出すランニングシャツに下駄はきパンツ  (石巻市桃生・三浦多喜夫)

病院の庭に一輪紫陽花(あじさい)のうすむらさきが秋風に揺れ  (仙台市青葉区・浮津文好)

ふるさとの池に写りし秋の月まぶたに浮かぶ眠れぬ夜は  (仙台市泉区・米倉さくよ)

夏空に喚声(かんせい)あがる甲子園一投一打の青春ドラマ  (石巻市わかば・千葉広弥)

籠峰山に巨大風車が仁王立ち暮らし支える灯り送ると  (石巻市不動町・新沼勝夫)

喜右衛門は於節と駆け落ち逃避行北上町の女川事件  (東松島市矢本・奥田和衛)