(1)監視網/日本向く摘発の矛先
日本で消費されるマグロ類(カツオを含む)の8割が捕獲される太平洋赤道域で、日本漁船を締め出す動きが激しくなっている。豊かな漁場の価値に気付いた周辺の島しょ国がマグロ資源を経済発展に生かそうとしているためだ。リーダー格のパプアニューギニアは世界的に需要が急増するツナ缶産業の振興に傾斜し、自国の利益に結び付かない日本のマグロ漁業に冷ややかな視線を向ける。缶詰の原料を求める各国船団との競合でも日本は劣勢に立つ。迫り来る「漁場喪失」の危機をパプアニューギニアで見た。(マグロ危機取材班・沼田雅佳)=第8部は6回続き
首都・ポートモレスビー。14階建て高層ビルの11階に入居する国家漁業総局の一角で、職員がパソコンの画面に目を凝らしていた。
「船舶監視システム」。漁船に発信器の搭載を義務付け、その電波から操業状況をパソコンで確認できる。操業が認められない漁船などが排他的経済水域(EEZ)に進入した場合、即座に軍に通報する。
水産計画部長のオーガスティン・モビハさん(48)は「わが国の水産資源を枯渇させないためには、資源管理機関の規制では不十分。違法操業に立ち向かう『牙』が不可欠だ」と力説した。
三陸の船団はオーストラリアのシドニー沖、タスマン沖などでミナミマグロやメバチマグロを漁獲した後、島しょ国のEEZと周辺の公海でキハダマグロを捕り、魚艙(そう)を満たす。
島しょ国のEEZは効率的な航海に欠くことのできない海域だ。とりわけパプアニューギニア水域は312万平方キロとキリバスに次いで広い。世界のマグロ類(カツオを含む)供給量の約1割が漁獲される。
その好漁場に日本のはえ縄船は入れない。両国の漁業協定は1987年に失効した。パプアニューギニア側が水揚げ高の5%程度だった入漁料を10%に引き上げるよう求めるなどしたため、協定を継続できなくなった。
日本かつお・まぐろ漁業協同組合(日かつ漁協)は「200カイリ規制により、島しょ国でも資源ナショナリズムが高まった。近年、漁船の監視・取り締まり体制も急速に整えられ、島しょ国側が勢いづいている」とみる。
「クルクル作戦」。さまざまな権益確保の思惑から島しょ国を支援するオーストラリア、ニュージーランド、フランス、米国などが参加する大規模な海上警備行動だ。
先進国の援助で構築した情報システムを活用。各国がP3C哨戒機やフリゲート艦などを動員して、空と海から違反船に目を光らせる。
三陸のはえ縄船が摘発された例もある。ソロモン諸島のEEZで昨年9月、入漁の報告漏れなど4つの規制違反に問われた船がガダルカナル島に係留を命じられ、乗組員は2週間拘束された。
日かつ漁協も事態収拾に乗り出し、ソロモン側に罰金3000万円を支払うことで決着した。航海は大赤字となったが、船主は「関係機関に申し訳ない」と語るだけだ。
昨年5月からは資源管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の決定に基づき、登録した各国の監視船が公海上で臨検することが可能になった。「将来的にはほかの管理機関も追随し、世界中でマグロ漁業の『公海自由の原則』が消滅する」(日かつ漁協)との見方が強い。
国力の弱かった島しょ国は70年代の200カイリ規制から30年以上を経て、水産資源を守る「牙」を手にした。鋭い矛先は、日本をはじめ遠洋漁業国に向けられている。
写真:マグロを水揚げする台湾系漁業会社の船。日本のはえ縄船は20年以上、パプアニューギニアに入漁していない=4月29日、ポートモレスビー港
